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Colony  作者: Scherz
第七章 古代文明と世界の理
929/994

16-1-1.白金と紅葉の都

 トトトトトトッ…と軽快な足音が街路を駆け抜ける。


「はいはい〜!どいてどいて〜!」


 元気よく通行人達に声を掛けながら人混みの中を駆け抜けていくのは、金髪の女性だ。

 普通なら「何を偉そうに言ってるんだ。こんな人混みを走るな!」なんて野次が飛んできそうなものだが、むしろ逆だった。


「お、今日もやってるねぇ。」

「お姉ちゃん頑張って〜!」

「転ぶなよ〜?」


 …と、好意的な反応ばかりが女性へ向けられる。


「ありがとう!今日も絶好調だよ!」


 その女性が皆から好意的な反応をもらえるのには理由がある。それは、彼女が皆から頼られる仕事をしているからだ。

 この都に住む人は、何かあった時には彼女を頼る。


 ミリア=フェニー。それが彼女の名前だ。この白金と紅葉の都で何でも屋『ミューチュエル』を営む彼女は、老若男女を問わない皆の味方なのだ。

 更に、明るい性格と困っている人を放って置けない性格が相まって、皆から好かれる存在となっている。

 

 そして、今のミリアは両肩にダンボールを1つずつ抱えて疾走していた。もちろんお仕事中である。


「えっと…ここを右で3つ目の交差点を左だねっ!」


 ダンボールの上が少し開いていて中に本がぎっしり詰まっているのが見える。かなりの重量があり、ふつうの成人男性でも1人1つ持つのが限界そうなダンボールを軽々と担ぐミリアは、軽快に走る。

 道中で子供やらおばあちゃんやらに声をかけられ、その1人1人に足を止めずに返事をしながら走る様子はさながら人気アイドルのようである。

 実際に本人の容姿もそんなに悪くはない。…というか恵まれている方である。綺麗な金髪にぱっちり二重

そして目を惹く赤い瞳。残念なのは身長が平均的な155cm程度なのと、胸も平均値位しかない所。もし高身長でもう少しだけ胸があればトップモデルになっていたかも知れない。

 …さて、話が逸れてしまったが、3つ目の交差点を左に曲がったミリアは目的のマンションを見つけると、インターホンを軽快に押す。


 ピンポーン


 何ら変哲の無い音が鳴る。


「はいはい。どなた様ですかね?」

「ミューチュエルのミリアです。ご依頼のお荷物を運んできましたよっ!」

「あぁあぁ、ミリアちゃんね。ご苦労様。今鍵を開けるわね。」


 ガチャリ。と鍵が開錠され、ミリアはマンションの中に入り、エレベーターをスルーして階段へ向かった。


「よしっ!いっくよぉ。」


 普通ならエレベーターを使うだろう。このマンションは30階建で、依頼主は28階に住んでいるのだから。

 しかし、ミリアは敢えてエレベーターを使わない。何故なら…その方が早いからだ。


「ほっほっ…とほっほっほっほ…えいっと!」


 軽く助走をつけたミリアは壁を蹴り、床を蹴り、三角跳びを応用した挙動でどんどん上へと登っていく。

 ダンボールの重さはどこに行った?と言わんばかりの身軽さ。

 そして、ものの1分程度で28階に到着したミリアは依頼主の玄関前に立っていた。

 インターホンを押すとすぐにドアが開き、白髪のおばあちゃんが顔を覗かせる。


「あらあら。相変わらず早いわねぇ。今日もありがとう。お茶でも飲んでいくかい?」

「あ、今日は別の…。」


 別の仕事がある。と言いかけたミリアはおばあちゃんの顔を見てにっこり笑う。


「ううん。頂いていきます!」

「ふふっ。ミリアちゃんは本当に優しいねぇ。」

「いえ。じゃぁお邪魔しますねっ。」


 ダンボールを担いだまま家の中に入ったミリアは、ちょこんと小さくお辞儀をして家の中にお邪魔した。


「本は壁際で良いですか?」

「あぁそうねぇ。本当にいつもありがとうねぇ。私は腰が悪いから…助かってるわ。ミリアちゃんのお陰で読書がすごい捗っているのよ。」

「そう言って頂けるだけで良かったです!」


 ダンボールを置いたミリアはちょこんとダイニングテーブルの椅子に腰掛ける。この家に来た時の定位置である。

 月に1度は本を配達し、その度にお茶とお菓子を食べながら世間話をするのが決まった流れだった。

 この日も本当は後ろに別の仕事があるため、すぐに出たかったのを抑えてミリアはおばあちゃんとの話に興じるのだった。




「じゃ、おばあちゃんまたね!」

「はいはい。今日もお話ししてくれてありがとうねぇ。」

「うん!また来月だね!」

「そう…ねぇ。また来月ね。」

「ご依頼お待ちしてます!今日のお団子とても美味しかったです!」

「ふふ。ありがとうねぇ。」


 にっこりと微笑むおばあちゃんと手を振って別れると、ミリアは廊下をトトとっと駆け…手すりを乗り越えて飛び降りた。


「ひやぁあ〜!」


 間抜けな声を出しながら落下するミリア。

 彼女と無関係な人が見たら「飛び降り自殺だ!」と慌てふためく事だろう。

 だが、勿論…そんな事はない。

 落下するミリアは地面が近付くと「えいっ!」と掛け声を。すると…フワッと落下速度が減速し、静かに着地したのだった。


「うんうん!今日も絶好調!」


 そのまま音符マークでも浮かびそうなルンルン気分で駆け出すミリアだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 この星…白金と紅葉の都は、その特徴が名前になっている星である。

 まず白金。これは白金をイメージした建造物が多く立ち並ぶ白金の都に表される。円心状に建てられた建物が綺麗に並ぶ様子は、建築の評論家から絶大なる人気を誇っている。

 次に紅葉。これは、白金の都を囲うように、ドーナツ状に広がる紅葉林である。1年中綺麗な紅葉が彩るこの紅葉林は、鮮やかなオレンジと赤のグラデーションが他星のカメラマンを惹きつけていた。

 この白金と紅葉を代表にして、都圏内の観光地として1番の人気を誇るこの星は、様々な人種が住まう星としても有名なのである。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 その後も依頼の幾つかを無事に完了させ、白金の都を突っ走るミリアは、ある一軒家の前で急ブレーキをかける。

 キキキキ〜!っという往来の人気漫画のように足を止めたミリアは元気よく扉を開けて中に入っていった。


「たっだいま〜!」


 ドーン!という効果音がピッタリなミリアのご帰宅に反応したのは…誰もいなかった。、


「あれ?まだ誰も居ないんだ。」


 不満そうに口をとんがらせながら、ミリアはソファーに腰掛ける。そこでテーブルの上に置かれた煮干しを発見。食べようと手を伸ばすと…。


「ウヒョーい!それはワタシのお魚ちゃんだにゃー!」


 二階に続く階段から1人の少女がミリア目掛けて突っ込んできた。


「きゃっ!」


 煮干しに指が触れる直前でミリアはソファーに押し倒された。飛び込んできた人物に何故かガッチリホールドされたミリアは脱力しながら頭を起こす。

 ピクピクっと動く青みがかかったグレーの耳。フリフリと動く同色の尻尾。突然の襲撃のようになってはいるが、これが日常の1コマである事を明記しておこう。


「ちょっとブリティ…煮干しの1個くらい頂戴よぉ〜!」

「ダメにゃ!ダメダメダメにゃ!これは私の人生と等しい煮干しにゃ!これを奪う人は…例えミリアであっても敵にゃ〜〜!!」


 がっちりホールドをした指がモニョモニョと動き出す。


「やっ…!ちょ!ブリティ…やん!」

「にゃははは〜にゃ!ミリアは触り心地が良いにゃ〜。いい匂いだにゃ〜!」


 さて、この抱き着き騒動のきっかけだった煮干しの存在感は既に皆無である。

 イチャイチャする2人の女性(ミリアの見た目はギリギリ女子…ブリティは幼女といっても差し支えない)の姿は、もし以来客が入ってきたら即180度ターンで変えるか、目を皿のようにして観察するかのどちらかだろう。


 良い機会なのでミリアとブリティの特徴を明記する。

 まずミリア。金髪のロングヘアに赤い瞳というコントラストが目を引く美少女で、体系的にはスレンダー。ターコイズブルーのトップスにブルーのスカートを組み合わせ、腰には茶色の布が巻きつけてある。太ももの内側だけ露出したタイツを履いているので、基本的にパンツが見えないのが残念な点。

 次にブリティ。ゴーグル付きの帽子を被った猫娘だ。身長140cmに猫耳、猫尻尾という幼女猫キャラを体現した人物。煮干しが大好き。白いフリフリのシャツに、茶色いベストとスカートが一緒になった服を着込み…パンチラ万歳である。


 見る人が見たらよだれが止まらない2人のイチャイチャは次第に激しくなっていく。


「にゃははは…!ここをこうして、ここを触れば…にゃ!」

「あ…やめっ…ちょ…!そ、そこはだめ…!」

「へいへいほ〜!仕上げの技いくにゃ!」


 最早GLの世界に突入しそうである。周りにピンク強めの虹色のシャボン玉が浮かべば、雰囲気もバッチリ。


「あっ…!」


 ミリアが何度目かの恥じらいの声を上げる。更に禁断の世界へ道が開く…


 スコパーン!!!


 小気味の良い音が響き渡り、目をぐるぐる回したブリティはソファの下に落ちていった。


「あなた達…昼間から何を桃色の花園みたいな事をやっているのかしら?」


 ハリセンを肩にポンポン当ててブリティを見下ろすのは、黒スーツに白ワイシャツを着こなし、胸元をはだけれ豊満な谷間をチラ見させた…いかにも秘書といった出で立ちの女性。


「うにゃ〜。襲撃を受けたにゃー。」

「また訳のわからないことを言っているわね。」

「私の至福の時間が奪われたにゃ〜。」

「いいから起きなさい。」

「煮干しもミリアもいないのにゃ〜。人生詰んだにゃー。」

「………。」


 女性秘書の顔が笑顔(秘めたる怒り)に変わる。

 そして、空中でハリセンを一振り。


 スパァン!!!!!


 激しい音が再び響き渡り…。


「ブリティ?次は無いわよ?」

「……はにゃ!寝てたにゃー!……はっ。これはこれはクルルじゃないかにゃ!今日会うのは初めてだにゃ!」


 嘘がバレバレの嘘を必死に言うブリティを見て女性秘書…もといクルルがため息をつく。


「はぁ…。あのね、私達は薄利多売で何でも屋をやっているの。のんびり遊んだり、イチャイチャしている暇はないのよ。」

「え〜。いつも雑用系の仕事が多くていやにゃ!工事現場は飽きたにゃ!」

「はは…。」


 ソファーに座ってブリティとクルルのやりとりを眺めるミリアは苦笑いを浮かべる。

 2人のやり取りは1日に1回は繰り広げられるお決まりの光景だ。入り方は違うにしても結論はいつも同じ。ブリティがクルルに言いくるめられてすごすごと仕事に向かうのだ。

 現に今回も…。


「はい。わかったかしら?そういう事だからあなたは土木現場で働くのが適任なの。これはミリアには出来なくて、あなたにしか出来ないのよ?」

「うぅ…言いくるめられた気がするけど…分かったにゃ。仕事するにゃ。」

「はい。お願いします。因みに、朝サボったでしょ?今日は4件の仕事があるんだから…ここからしゃかりき働いてきなさい。」

「うにゃ!?4件にゃ!?鬼、鬼だにゃ!私を過労死させるつもりにゃ!最近過労死が問題になっているのをクルルが知らないはずがないにゃ!」


 スパコォン!!パンパンパン!!!


「うっっにゃぁぁぁぁ!!!!!」


 絶叫と共にブリティが飛び出していく。


「ふぅ。これで朝のひと仕事が終わりね。」

「お疲れ様。」

「ミリアも手伝ってくれても良いのよ?」

「いや、それはクルルの方が適任かなって。」

「まぁ…それもそうね。」


 微笑を浮かべたクルルは応接室の奥にあるコーヒマシンを稼働させた。室内にコーヒーの芳香な香りが漂い始める。

 その香りを楽しみながらミリアが煮干しを食べるか悩んでいると、クルルが思い出したかのように指を鳴らした。


「あ、ミリア。昨日の夜に今日の仕事が2つ増えてるから、あまりのんびりしてると帰ってくるのが深夜になるわよ?」

「へっ…!?」

「さっきも言ったの聞いてたでしょ?うちは薄利多売なの。ここの家賃も意外に高いんだから、出来る仕事はちゃんとやらないとね。」

「お、鬼だっ!」

「何とでも言いなさい。私が鬼にならないと、この何でも屋『ミューチュエル』が潰れるわよ?」

「う…。」

「はい。そういう訳だから今日もよろしくね。夜ご飯はすき焼きでも作って待ってるわ。」

「すき焼き…。分かった!じゃぁ、私も頑張ってくるんだよ!」


 くるんっと立ち上がったミリアは、クルルから依頼の書類を受け取ると次の仕事に行く準備を始めた。残りの依頼は5件。手際よく終わらせなければ、本当に帰ってくるのが夜中になってしまう。

 そうなると待っているのは冷たくなって固くなった肉…。

 それだけは避けなければならない。


「じゃ、行ってくるねっ!」

「はい。お願いします。」


 ミリアがドアを出ようとした時である。入口のドアがガチャっと開けられた。

 朝から依頼人の来店だろう。こんな風に飛び込みの依頼が入ってくる場合は、ギャラが大きい場合が多い。

 営業スマイルを作ったクルルが振り向きながら挨拶をする。


「いらっしゃいませ。ミューチュエルへようこそ…。」


 しかし、後半でその勢いはしぼんでいき。


「えへへ…仕事の場所を聞かないで飛び出しちゃったにゃ。」


 恥ずかしそうに戻ってきたブリティと目が合い…。


 スコパァン!スパァン!パン!パン!バッチィィィン!!!


 人様には見せられないハリセン芸がお披露目となったのだった。





 白金と紅葉の都。

 そこで何でも屋『ミューチュエル』を営むミリア、ブリティ、クルル。

 彼女達がちょっと大規模な陰謀が渦巻いているかもしれない事件に巻き込まれる物語。


古代文明と世界の理


 ここに開幕。

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