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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-8-8.東区への襲撃、残酷な現実

 東区陣営の後方で待機する事になった火乃花とカイゼは完全に暇をしていた。前線ではかなり激しい戦いが繰り広げられているようであったが、それは他区との戦闘によるものである為…出番ではなかった。


「おい火乃花。」

「なによ。その偉そうな呼び方。」

「へへっ。亭主関白みたいな気分で行ってみたぜ!」

「いや、そういうのは要らないわ。」

「ちぇっ。つれねぇなぁ。まぁいいや。あのさ、天地が現れなかった俺達って待ち損じゃない?」

「そうね。」

「そうね。……って、火乃花は戦いたくないのかよ!?」

「戦いたいとか戦いたくないとかって問題じゃないわよね?」

「そうか?俺は強い奴らと戦えればそれでオッケーだかんな!」


 基本的に強者と戦う事を主軸において考えるカイゼは、時々…というか良く話が微妙に逸れる。

 こういう者と時々話すのは面白いかもしれないが、常日頃から一緒にいるのがここまで疲れるとは火乃花も思っていなかった。

 ある意味地獄のような時間がいつまで続くのか…。そんな想いが頭を過った火乃花は何と無しに空を見上げる。


「…あ。」


 見えたのは落下してくる光。…星?だった。

 それはみるみる大きくなり…。


「カイゼ君…何かが落ちてくるわ。」

「火乃花が何かなんて曖昧な事を言うのは珍しい……あぁ確かに…。……!?」


 カイゼが火乃花のコメントに対する感想を言おうとした時だった。ドォンという音と共に地が揺れる。

 今みた何かしらの物体が落下したであろう音と衝撃。


「…さぁてと、今のが天地の仕業なら遂に俺たちの出番だな!」

「カイゼ君、あなたって本当に戦うのが好きよね。」

「そりゃぁそうだ。その為に魔導師団に所属してんだからよ。むしろ第7魔導師団はララ以外全員戦うの好きだぜ?」

「…そうなのね。第8魔導師団とは正反対ね。」

「マジか!?そうなのに魔導師団やってるってすげぇな。」

「まぁ選ばれたのが偶然にも私達だったから。ってだけだと思うわ。」

「いやぁどうだろうな。魔導師団って結局は魔法街の都合良いように使われるんだぜ?ある程度の思惑があると思うぜ。」

「…思惑ねぇ。」


 普段は戦うことしか言わないカイゼだからこそ、そういう事を言われると何となく信憑性がある内容だった。確かに気になる所ではあるが、火乃花が考えこもうとした時…1人の女性が2人の控え場所に近づいてきた。

 細身の体に赤縁眼鏡が印象的で、茶色い髪をポニーテールにした…ある意味2次元世界ではこコアなファンがいそうな…ホーリー=ラブラドル。シャイン魔法学院教師の1人で、第1魔導師団に所属する魔導師だ。


「おうテメェら。今落ちてきたの…天地が2人だ。ぶっ倒すぜ。」


 遂に出番である。気を引き締め直した火乃花とカイゼは頷くと、前線に向けて歩き出した。

 それにしても…なぜシャイン魔法学院の教師はこうも言葉遣いが荒いのだろうか。…そんな疑問を浮かべられる程度には思考に余裕がある火乃花は、天地の誰が攻め込んできているのかを何と無しに予想していた。


(もし…クレジが居たらかなり厄介ね。あの魔法はかなり強力だったわ。それに…私を操ったフェラムがいたら…コテンパンにしてやるんだから。)


 …と、私怨も混じった怒りを渦巻かせながら前線に到着する。

 そこに居たのは…全身黒尽くめの女性と、スーツをビシッと着こなした金髪角刈りの強面筋肉ムキムキ巨大男だった。


(あの女は…確かユウコ=シャッテンだったかしら?男は…知らない奴ね。)


 ユウコと角刈り男の戦いは…中々に凄まじかった。

 まず、ユウコの周りには影が渦巻き…それが硬質化して周囲の魔法使いに容赦なく襲い掛かる。

 そして、角刈り男は両手から何かを…恐らくは空気砲のようなものを乱射して居た。その中に空気刃も混じっていて、面の攻撃と線の攻撃が混じり合って周囲の魔法使い達を蹂躙していく。

 どちらも高度な魔法であり、そうそう簡単に倒すのは難しそうだった。

 とは言え、戦わないという選択肢は無い。


「ほっほぅ!こりゃぁウズウズするぜ!火乃花!俺は…いっくぜぇぇぇ!!」


 テンション爆上がりのカイゼは取り出した短剣を右手は順手、左手は逆手にもって突っ込んでいってしまう。作戦も何もあったもんじゃなかった。

 このまま自分も突っ込むという選択肢は考えられなかった火乃花は、戦闘の巻き添えを食らわないように注意しつつマーガレットの近くへ移動して声を掛けた。


「マーガレット…あの2人、何が目的か分かってるかしら?」

「あら火乃花ですわね。今のところ…目的は分かりませんの。ただ、攻めの姿勢が強いですわ。狙いは私達の全滅か、それとも東区陣営の中にある何かか…といった所ですわね。」

「…曖昧ね。」

「ですわね。そう簡単に敵の狙いが分かったら苦労はしないのですわ。」

「それもそうね。まずはあの2人を倒す事に注力した方が良さそうね。」

「勿論ですわ。」


 簡単に状況確認を行うと、火乃花は焔鞭剣を生成して…角刈り男に向かって歩き始めた。ユウコを狙わなかった理由は単純。そっちはカイゼが絶賛攻撃中だったからだ。炎、冷気、雷…この3属性入り混じった超連撃を放つカイゼと共に戦うと、仲間同士で誤爆しそうな気がしたからである。

 やがて、近寄る火乃花の存在に気付いた角刈り男が、周りに魔法壁を張り巡らせながら目線を合わせてくる。…とは言ってもグラサンを掛けているので、顔が火乃花の方を向いただけなのではあるが。しかしながら、グラサン奥から突き刺さる鋭い視線を感じられるほどに殺気…いや、闘気が感じられていたので間違いはないだろう。


「あなた…名前は?」


 もし名前を聞ければ。全く期待をしないながらも問うた火乃花は、角刈り男の反応に驚いてしまう。


「おっとこれは失礼しました。すいません。私はキール=ビルド。天地に所属する者です。」

「…随分律儀なのね。」

「そうですね。私は別に誰も彼もと対立したい訳ではないんです。私の…いえ、私達の目的は東区陣営の奥にある中華料理店です。そこに到着するのを邪魔しないでくれるのなら、私達は貴方達に危害を加えるつもりはありません。」

「…中華料理店が狙いってどういう事よ?まさか中華料理を食べにきたわけじゃないわよね?」

「それは勿論です。しかし…何が狙いかとなると答えるのは難しいですねぇ。」

「つまり、聞きたかったら力尽くでって事で良いかしら?」

「そうですね。すいません。でも、私は簡単には負けませんので悪しからず。」

「いいわ。試してあげる。」


 謙遜的な態度ながらも自分の実力に絶対的な自信を持つ雰囲気を隠そうともしないキール。その態度にやる気を燃え上がらせた火乃花は、焔鞭剣の焔を燃え上がらせた。


「う〜ん、いい焔です。では…戦ってみますか。」

「望むところよ。」


 こうして…キールと火乃花の戦いが幕を開けた。


 両者の戦いは互角…に近かった。ややキールが押している感はあるものの、東区の魔法使いたちが火乃花が危ない場面で サポートをしてくれるため、結果的にはほぼ互角。しかし、裏を返せばキールを倒す決定打に欠けるのもまた事実だった。

 火乃花自身も全ての実力を出し切っている訳では無い。プロメテウスのエンチャントも使って居ないし、固有技もまだ使っていない。支援魔法や融合魔法も使わないでの結果なので、まだ倒す可能性はあるといえるだろう。

 しかし、それはキールとて同じ事。どのタイミングでどの能力を発動させていくか。その見極めが非常に重要になる予感がしていた。1つの選択ミスが負けへの坂道を転がるであろうギリギリの感覚。


「ふふっ。いいですねぇ。思ったよりも良い魔法の使い方です。」


 焔鞭剣の斬撃と爆炎を組み合わせた攻撃を、真空空間を作り出す事で焔の威力を最大限にまで抑えてやり過ごしたキールは笑みを溢す。…余裕である。ともすれば遊ばれているのでは無いか。そんな感覚すらも否めない態度。

 小さな危機感が火乃花の中に生まれ始めたタイミングで、小さな変化が火乃花の戦闘に集中する意識に割り込んでくる。

 それは、戦闘の衝撃で胸元から服の外に出たペンダント…六角柱の透明な宝石の中に魔法陣、銃、炎、光が輝いている…が偶然火乃花の目に入ったのだ。ただ視界に入っただけではない。魔法陣と光が明滅していたのだ。


(この反応って…龍人君とレイラに何かあったのかしら…?)


 戦闘中に別の事へ思考が割かれるというのは、致命的な隙を生み出す。それは相手が強敵であれば強敵であるほどその傾向は強くなる。そして、このキールも例に漏れなかった。


「おっと、隙が出来ましたよ!?」


 気付いた時には遅かった。キールの放った空気玉が火乃花の懐に潜り込み、爆発的なエネルギーを解き放っていた。


「ぐ…う…!?」


 腹を中心に広がる衝撃に身体中の空気を吐き出してしまった火乃花は高く宙を舞う。


「まだまだいきますよ!」


 当然、そこに向かってキールから追い討ちが放たれる。螺旋回転をした空気玉が飛翔し…火乃花の背中に着弾。…する寸前で横から飛来した光に阻まれて破壊エネルギーを空中に拡散させる。

 ダン!っと着地した火乃花は浅く息を繰り返しながらキールの動きに神経を集中させていた。…が、キールが火乃花へ追い討ちを掛ける前に別の人物がキールへ攻撃を仕掛けていた。光と爆発を連鎖させる格闘術を次々と叩き込む男…アクリスと、いちちの攻撃の度にナルシストみたいなポーズをとるミータだ。


(…助かった…わね。)


 命を奪われかねない状況を脱した事にホッと脱力する火乃花の横へマーガレットがやってくる。

 いつもの高飛車な態度で嫌味でも言われるのかと思ったが…彼女の表情には焦りが張り付いていた。


「火乃花…今、南区へ攻め込んで天地が出てくるのを誘っていたジェイドから報告があったのですわ。………。」


 しかし、それっきりマーガレットは瞳を揺らして黙りこくってしまう。

 この様子を見た火乃花の中で嫌な予感が渦巻く。

 ペンダントの魔法陣と光が明滅した現象…天地の襲撃。…それらを関連付けた時に予想される結果は…。

 マーガレットは少しの間俯いた後に…唇を震わせながら告げる。


「レイラと……龍人が命を奪われたらしいのですわ。」

「……!そんな……。」


 残酷な現実が火乃花の心を揺さぶる。

 胸元には魔法陣と光が輝きを失ったペンダントが静かに揺れていた。

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