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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-7-11.揺れ動く戦局

 地面に落下して痛みに呻く龍人。そこへサラマンダーの放った炎剣が降り注いだ。先程の岩を溶かした炎剣だ。つまり…無防備に受ければ死が訪れるのは必至。

 この光景をシルフと戦いながら見たスイは舌打ちをする。そして、助けるべく動こうとするが…突如風の壁が出現して阻まれてしまう。


「くっ。どけっ!」

「どかないわよ。私の主の為に戦うのが私の役目なんだもの。」


 ヴォルトと電光石火の激闘を繰り返すジェイドは、横目で龍人の状態を確認しながらも助けに行く余裕を持つ事が出来ない。


(これは厳しいな…龍人を助けに動いた瞬間にヴォルトの雷に貫かれてしまう。)



 セフと戦うラルフも同様だった。次元魔法をフルに繰り出すラルフと同等に渡り合うセフの攻撃は鋭く、油断をしたり意識を逸らした瞬間に致命傷を受けてしまう可能性が高い。

 後方陣営のララやヘヴィー、クラウンなどの南区陣営主力メンバーは半獣人の群れによる襲撃への対応で手一杯。


 つまり、この瞬間において龍人を救える者はいなかった。

 それは炎刃を食らって地面に落ちた龍人自身も把握し、理解していた事実であり現実。

 …悔やまれる。変に状況や天地の思惑を深読みして龍人化を使わなかったが故の結果だ。


(くそ…終わりなのか…?)


 死という終わりが近付く事で引き伸ばされた時間感覚の中で龍人はこれまでを反芻していた。思えば…前からそうだった。大事な場面で慎重になりすぎて、その結果大切なものを失う。それが大なり小なりはあるが…今回はその失うものが自分の命だったという事。

 悟る。自分が死ねば…何も守れないと。守れなくて足掻くことも出来ず、守りたいものがどうなったのかも分からない。

 …こんな大切な事にこのタイミングで気づく事自体が情けなかった。

 近付く炎剣から浴びせられる熱量が次第に強くなる。あと数秒。


 いや、そもそもこのまま死を受け入れて良いのだろうか?


 そんな疑問が一瞬頭を過るが…時既に遅し。


「なぁに諦めてるんだしっ!」

「ほんとだよねっ。にししっ。でも、私達が来たから安心なんだよっ!」


 殺伐とした戦場に削ぐわない、明るい声が龍人の耳に届く。

 ブワッと風が蠢き、キラキラと輝く光が周りに舞ったかと思うと、超圧縮された空気と光の奔流が降り注ぐ炎剣に激突して吹き飛ばす。

 タム優勢の流れを一気に変える人物の登場だった。

 金髪のフェザーウルフヘアを揺らすルフト=レーレ。

 とんがり帽子にタキシードみたいな服を着た、所謂魔法少女的な格好の幼児体型の女性。とんがり帽子から流れ出る茶髪が緩やかに揺れるのは、ミラージュ=スター。

 第7魔導師団のメンバー2人が合流した瞬間だった。


「これは…思ったより状況が悪いね。しかも、タムが敵っ!?」

「ニシシ…!面白い状況だねっ!私がバンバン活躍しちゃうよっ。」


 どう考えても緊張感に掛ける2人は、爽やかに笑顔を浮かべていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 中央区支部が強烈な光によって瓦礫と化した瞬間、建物の中にいたルフトとミラージュは咄嗟に展開した魔法障壁によって身を守っていた。

 何の前触れもなく発生した光は、確かに魔法である。…しかし、誰が放ったのかが全く分からない魔法だった。

 ルフトとミラージュは中央区支部内を探索する際に、設置型魔法陣が無いかの確認も行なっていたが、そあいうのは一切見つかっていなかった、

 つまり、誰かが一瞬で魔力を練り上げて発動したという事に他ならない。

 中央区支部という巨大な建物を一瞬で呑み込む規模の魔法…それは並みの魔法使いでは不可能な所業だった。

 となると、誰が何の目的で行ったのかが肝になるのだが、強力な魔法の中で魔法障壁によって身を守る2人にそこまでの余裕は無かった。

 やがて光が収束すると、視界に飛び込んできたのは瓦解した中央区支部のみ。ルフトとミラージュを苦しめたサラリーマン風男の姿はどこにも見当たらなかった。


「いやぁ…焦ったねっ!」

「今のは本当に危なかったんだよ。でも、これで私達が中央区支部に入った意味が全くなくなったね。」

「そうだね。でも、レイラが言ってた中央支部から感じる魔力の質が違うっていうのがやっぱり気になるよね。」

「そうだね…でも、もうそれを探すのも難しい気がするよっ?」

「だよねえ。」


 1週間以上中央区支部に潜入していたルフトとミラージュは、久々に浴びる陽の光に目を細めながら次にどう動くかを思案していた。

 建物が丸っと無くなったせいで、探すも何も無かったのだ。


「…あれ?」

「ルフトちゃんどうしたの?」

「いや、なんかさ、中央区全体に前より魔力が満ちてるっていうか…。」

「んー?」


 ルフトの言っている感覚が掴めないミラージュは首を傾げるばかりだ。


「あ…例えば戦争の陰で…?だから戦争を…?」


 顎に手を当てる探偵のようなポーズをとりながら、ブツブツと考え始めるルフト。

 そして、思案に耽って1分程経ったタイミングでルフトは指を鳴らした。


「へへっ。良いこと思いついちゃったもんね。」

「えー?なになにー?」

「それはねっ……。」


 ルフトの説明を聞いたミラージュはキラキラと顔を輝かせた。


「それ…面白そうなんだよっ!」

「でしょ?しかも状況把握もし易いし。」

「うんうん!ではいってみよー!」


 次の瞬間、ミラージュが発生させた星型の光魔法が、2人を乗せて上空へ打ち上げられたのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 場面は再びルフトとミラージュが龍人を助けた所へ戻る。

 南区の強力な戦力の2人が現れたのにもかかわらず、タムから余裕の表情が消えることはなかった。


「ルフトさんとミラージュさんじゃないっすか。」

「そうだよっ。タム…何で龍人と戦ってるんだい?」

「まぁ平たく言えば、俺が天地って事っす。」

「やっぱり…そういう事だよねっ。」

「俺の質問にも答えて欲しいっす。どこから現れたっす?周辺にルフトさんとミラージュさんの反応は無かった筈っす。」

「それはね…」

「それは私の魔法で中央区の境界ギリギリの上空で高みの見物をしていたからなんだよっ!」


 ルフトの言葉を遮って行ったミラージュは誇らしげに薄い胸を張る。


「ミラージュ…高みの見物って言い方はちょっと誤解を招くと思うよ?」

「え〜?だってみんなが必死に戦ってくれてる時にのんびりすわってながめてじゃんっ。あれを高みの見物と言わなかったら、何を高みの見物っていうのかが分からないんだよ。」

「む…そう言われるとそうだよね…。」

「ってな訳で!高みの見物コンビの私達がタムちゃんをぶっ飛ばして、他の天地メンバーをぶっ飛ばすんだよっ!」


 ハイテンションまっしぐらのミラージュにやや引き笑い気味のタムは、肩を竦めるといつも通りの飄々とした雰囲気を取り戻す。


「まぁそれはやってみてのお楽しみって所っすね。」

「勿論これからやるんだよっ。じゃぁルフトちゃんは龍人ちゃんの介抱ねっ!」

「えっ!?ミラージュ…1人で戦うつもり?」

「うんっ!それに、迷いがある戦いをする人が近くに倒れてて、その人が人質にでも取られたら厄介なんだよ。ルフトちゃんがしっかり守ることなんだよっ。」

「ん〜…分かった。じゃぁミラージュに頼もっか。ほら龍人、一旦引くよ。」

「ぐ…駄目だ…レイラが…。」

「まぁその気持ちは分かるけどね。変に頭を使いすぎて本来勝てる相手に負けるのは愚の骨頂って言うんだよね。かならずレイラは助けるから、俺とミラージュを信じて。…ね?」

「…分かった。」


 龍人の了承を確認したルフトは満足したように頷くと、龍人を抱えて戦線から離脱する。その背後ではミラージュの放つ光魔法と、タムの石飛礫が激しい激突を開始していた。



「よっと。」


 戦闘地点から離れた場所に着地して、龍人を下ろしたルフトは少しだけ声を顰める。


「で…詳しくはどうなってるのかな?」

「それは…。」


 ダメージが抜け切らない龍人は、痛みに顔を顰めながらもこれまでの経緯を話す。

 その中でルフトが1番興味を持ったのは、空間がループしている中央区支部についてだった。


「なんのために空間ループが作られたかが重要だね。…でもそうなると、俺とミラージュが上空に上がった後でループする空間が作られた事になるね。しかも、龍人が見つけた魔法陣の一部っていうのが嫌な予感しかしないよ。」

「あぁ…。その為にもレイラを助けて、天地を倒さないと。多分…もう…事は魔法街戦争って枠組みじゃ収まらない気がする。」

「そうだね。で、龍人は何を迷ってるんだい?」

「俺…?」

「うん。上から見てたけど、龍人化を使ってれば多分タムは倒せてるよね?」

「…それは、まあぁ…な。」


 恐るべきタムの観察力である。


「うんうん。で、その理由は?」


 爽やかながらも、話を逸らす事を許さない雰囲気が全身から漂っていた。

 龍人は一瞬悩んでしまう。もし、この場で龍人が全力を出すことを躊躇った理由を話すとなると、今まで隠し続けていた極属性【龍】の力について話す必要が出てくるのだ。更には里の因子と呼ばれる存在についても…。

 これらの事を話す事で何かが変わるわけではない。しかし、これらの事を知る事で、知った者の人生が大きく変わる可能性は秘めていた。

 そんな龍人の悩みを見抜いたのだろうか。ルフトは軽くため息をつくと、龍人のほっぺた左右に手を当て…強烈につねりあげた。


「い…!???いでででででっ!!!」

「そーやって1人で悩むのは良くないんだよっ?仲間っていうのは、力を合わせる為にいるわけじゃない。いざという時に頼れるように、互いに支え合う為にいるんだよ。」


 なんとも強引な説得方法だし、つねられたほっぺは赤く腫れ上がっているし、ヒリヒリと痛みが神経を刺激している。

 しかし、そんなやり方だとしても自分と真正面から向き合ってくれるルフトの言葉が龍人には嬉しかった。


「ルフト…。ありがとう。実はさ…。」


 その時である。ミラージュととタムが戦っていた筈の地点から激しい爆発が立ち上った。


「おい…今の…。」

「…うん。チラッと見えたのは多分セフだよね。」


 もし、見えた人物がセフで、この爆発の原因が彼によるものだとすると…最悪に近いケースが想定されてしまう。

 それは…南区の最高戦力と謳われる人物、ラルフの敗北というケース。そうなった場合、現実的にセフに対抗できるのはヘヴィーしかいなくなってしまう。


「ルフト…さっきの話は後でもいいか?」

「うんっ。のんびり話してる余裕がなくなったからね。ただし、後で話してもらうよ?」

「あぁ。そこは約束する。」

「おっけー!じゃぁ、助けに行こうか。仲間をね!」

「おう!」


 ルフトは体の周りに風を纏い、龍人は回復魔法を発動させながらつい先程まで自分がいた場所…爆心地点に向けて走り出した。


 そこに待つのが、運命の岐路だとも知らずに。

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