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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-7-9.精霊召喚士

 レイラを風の檻に入れて宙に浮かべたタムは、余裕感を湛えた笑みを浮かべながら悠然と立っていた。


「…レイラを離せ。」


 龍人は低い声でレイラの解放を呼びかけるが…。


「龍人さん、何を言ってるっすか。レイラさんを捕まえる事が俺達の目的のひとつっすよ?そんな言われて解放する訳無いっす。それに、シルフとヴォルトが動けないとしても…俺の力はそれだけじゃ無いっすよ?」


 期待はしていなかった。ここまでの事を行なっているのだ。そう簡単に今の状況を変える行動をタムが取るとは思えない。しかし、小さな希望に掛けてみたかったというのが本音でもある。

 だが、その小さな希望もやはり叶わない。

 ならば…龍人がする事は1つである。それは、レイラを助ける事。そこに元仲間という感情は必要ない。今この場において相手が敵か味方か。…それだけを基準に戦うしか無かった。


「何も言わないっすね?これ以上の会話は無いっすよ。」

「あぁ。」


 低い声で応じる龍人は警戒心を最大限にまで高めていた。

 たむの能力は精霊を使った戦い。これまで最大で3体までの召喚なら可能という話も聞いている。しかし、この場においてはそれ以上の実力を持っていると考えるべき。

 であるのなら、まずはそのタムが持つ実力を引き出す事が重要になる。

 気は抜けない。


「あれ?」


 まさに戦おう…という雰囲気が高まった時に、まさかのタムが素っ頓狂に近い声を出した。


「…なんだよ?」

「いや、龍人化を使わないんっすね。」

「あぁその事か。極力使わないようにしてるんだよ。理由は…分かるだろ?」

「…つまり、龍人化を使う相手に値しないと見られてるって事っすね。甘くみられたものっす。」

「まぁ好きに取ってもらって構わない。」

「そうっすか。…気が変わったっす。俺、本気出すっす。」


 パチン。とタムの雰囲気が変わる。


「精霊召喚【サラマンダー】【ウンディーネ】。」


 思わず耳を疑ってしまう。既に召喚したヴォルトとシルフに加えてウンディーネとサラマンダーで合計4体である。

 魔法陣が現れ、炎を纏う宙に浮かぶ蜥蜴と、水を周りに浮かべるナイスバディな女性がタムの両脇に控えた。


「サラマンダー、ウンディーネ…手加減はいらないっす。あの男を完膚なきまでに叩きのめすっす。」

「あぁ。やってやるよ。」

「そうですか…彼を。これも運命でしょう。」


 サラマンダーとウンディーネが動き出した。

 龍人は夢幻を構えて周りに魔法陣を展開する。なるべく多様な種類の魔法陣を展開して、不測の事態にも対応できるように。そして、血を蹴って2体の精霊に向かって走り出した。


「俺の炎は全てを燃やすよ?」


 サラマンダーは炎を周りに浮かべると龍人に向けて射出する。

 1個1個の熱量が高く、直撃を受ければ丸焦げ必須だ。龍人は無詠唱魔法での身体能力強化と魔法壁を使って炎を防ぎ、避けていく。

 5つの炎球が立て続けに襲い掛かり、バックステップとサイドステップで避けた龍人は近くの建物の壁に向かって飛んだ。着地と同時に足元に魔法陣を貼り付け、宙へ跳躍するタイミングで発動する。そこから石飛礫が発生してサラマンダーへ襲い掛かる。

 更に空中で魔法陣を3つ並列展開して後範囲へ雷撃を放った。

 雷撃は横から回り込もうとしていたウンディーネへの牽制として効果を発揮する。


(…けど、これじゃぁ大したダメージにはならない筈。そもそも精霊って倒せんのか?)


 実は…これまで龍人はガチで精霊と戦ったことが無かった。過去にあったとしてもタムと模擬戦闘をした時に軽くやり合った程度。

 正直参考にして良いのか分からない経験である。実際に、今戦っている状態で龍人の記憶以上の力を発揮しているのだから。

 

 …戦いは激化していく。


「あなたに攻撃するのは本音では躊躇われるのですが、タムがそう言う以上、手を抜くことはしません。これも運命です。大人しく倒されるのも手ですよ?」


 微笑を湛えたウンディーネが右手を振るうと数多の水矢が射出される。左手を振ると水渦が発生して龍人を飲み込まんと猛威を振るう。足の動きに合わせて水砲弾が放たれる。

 ウンディーネは舞踏会で華麗に踊るようにして、絶え間ない攻撃を繰り出してきていた。

 これらの攻撃に対して龍人は身を屈めて攻撃を掻い潜り、同じく水魔法で相殺を図り、冷気でもって凍らせて侵攻を防ぎ、本体へは雷を放って着実なダメージを狙っていた。

 一進一退を繰り返す戦いに、少しずつ疲弊が積み重なっていく。しかし、ウンディーネとサラマンダーにその気配を感じる事が出来なかった。まぁ、精霊なのだから当たり前かも知れないが、それでも…タムからも消耗している様子が見れない事の理由にはならない。

 4体の精霊を召喚しているということは、それなりの魔力を消費し続けている筈である。そうすると可能性として上がってくるのは…クリスタルを使った魔力補充。

 もし、タムに疲労感が見えない理由がこれであるのなら…打つ手がない。

 しかし、通常であればクリスタルによる魔力補充時に淡い発光がある筈。それが見えないということに何かしらの事実がありそうなものだが…。

 こんな推測をしながらも戦闘が途中で終わるわけもなく、ウンディーネとサラマンダーの攻撃に対処する龍人は、少しずつ押され始めていた。

 そんな優勢の状況にありながらも、2体の精霊を操るタムはイラついた表情を浮かべていた。


「龍人さん…本気出したらどうっすかねぇ?」

「本気出してるって!」


 サラマンダーが振り回した複数の炎刃を周囲に伴う尾をギリギリで躱し、ウンディーネの水砲に掠って横に飛ばされた龍人は…思わず叫びかえしてしまう。

 だが、その龍人を見てもタムは肩を竦めるばかり。


「いやいや、それで本気とかどの口が言うっすか?龍人化を使ってないっすよね?」

「…あぁその事か。それはあれだ。使うに値しないってだけだ。」

「………!?やっぱり本気を出してないじゃないっすか。」

「はは。まぁそういう事になんのかな。けどよ、タム…お前も本気出してないだろ。」

「…なんのことっすか?」

「いやいや。お前程の精霊の使い手がさ、精霊の召喚だけしか出来ないわけがないだろうって思ってさ。」

「それは…良い読みっすね。けど、言葉を返すようっすが、それこそ他の力を使うに値しないっす。今の龍人さんの実力ならこの程度で十分っすね。」

「言ってくれんな。……そろそろレイラを取り返さなきゃだし、いきますかね。」


 地面を大きくめくり上がらせてウンディーネとサラマンダーを後退させた龍人は、夢幻の切っ先を体の後ろに向けて疾走を開始した。

 自分で隆起させた地面を飛び越え…る事はせずに穴を開けて突っ切る。その先にいるウンディーネへ向けて雷撃を放ち、同時発動した風の流れに乗ってU字軌道で側面に回る。そして、刀身に発生させた凍気を纏う夢幻を閃かせる。


「この程度の陽動攻撃で私に届くと思ったのかしら?」

「この程度なら…な!」


 雷撃を簡単に防いだウンディーネが水の球を周りに複数浮かべて迎撃態勢を整えていたが、龍人は怯まない。

 夢幻の刃はウンディーネの水球に阻まれて届かないが、刃の軌道に合わせて魔力の刃が発生して飛翔していた。魔剣術【一閃凍】による凍属性を宿した魔力の刃である。


「そん…な…!?」


 魔力刃の直撃を受けたウンディーネは直撃部分から凍りついていく。


「今回は俺の勝ちだな。次会うときは…敵じゃないことを祈る。」


 半身を凍りつかせたウンディーネが、同じように表情を凍りつかせたのを見ながら、目の前に移動していた龍人は素早く立体型魔法陣を展開し、発動。極度の冷気が結界内に発現し、ウンディーネは被害を免れていた残りの部分まで全てを凍りつかせて動かなくなった。


「まず1体!って…マジか!」


 止まらない。止まれない。凍り付いたウンディーネを見届けた龍人は、上から熱量を感じて慌てて後方に飛び退いた。

 直後、ウンディーネのいた場所を業火が飲み込んだ。

 凍結解除のための攻撃か…と思われたが、どうやらそうでは無かったらしい。着弾の衝撃でウンディーネの凍り付いていた体は溶ける以前に砕け散ってしまう。


「ウンディーネをああやって倒すなんで、中々の実力だね。」

「そう言うお前は仲間を容赦無く倒しちまうんだな。」


 龍人の言葉を聞いたサラマンダーは、ふわふわと浮きながら馬鹿にしたように鼻を鳴らす。


「仲間?何を言ってるんだい?俺達は精霊だ。仲間とか仲間じゃないとか…そんなものに縛られない。精霊は召喚者の利益になるべく動くんだよ。それが契約。それが今ここにいる俺達の使命。だから、ウンディーネを砕いたのは、それと同時に君を倒せれば彼の利益になると踏んだからだよ。」


 合理的。だが…そういうものではない。例え精霊だとしても仲間を軽んじるというのは龍人には許せなかった。

 …なんだろうか。天地と関わると許せないと思うことが異常に多い気がするのは気のせいか。それは、龍人が色々なものを大事にしすぎているのか。それとも天地が様々なものを軽んじすぎているのか。


「いいかい?俺達を喚び出したタムにとっての利益は君達を倒すこと。その為ならどんな手段でも選ぶよ。」

「…お前たち精霊は全員がそうなのか?」

「ん?難しい質問だね。確かに全員がそうだとは言わない。俺は精霊の中でも合理的に動くほうだからね。」

「そうか。なら、お前は間違ってる。」

「…あぁ?俺の何が間違ってるって言うのかな?」

「それが分からないんだから救えないな。」

「……はぁ。もういいや。お前、さっさと俺に倒されろ。」


 サラマンダーの体から炎が噴き出る。ウンディーネとは違って熱量を肌で感じられる為かプレッシャー感がより強い。


「俺の炎は全てを燃やし尽くす。それは、お前も同じだよ?」


 サラマンダーから6つの長い炎が出現する。


(何だ…?)


 攻撃の系統がイマイチ読めずに警戒する龍人が見る中、6つの炎の先端が上下に割れた。そして、割れた部分から尖ったものが生まれ、割れた上部の中心部分に目のようなものが出現した。それはさながら蛇の様な姿で…。


「シャァァァァ!」


 いや、まさしく炎の蛇そのものだった。


「こりゃぁまた厄介な。」

「ふんっ。食いちぎられて消し炭になっちまいなよ。」


 6つの炎蛇が同時に動く。1体は真っ直ぐ、1体は曲線を描きながら、1体は地を這う様に、1体は蛇行しながら、1体は真上から、1体は迂回して後方から。其々が別の軌道で、別のタイミングで龍人を食い破らんと顎門を開けて襲いかかる。


(これは…マズイ!!)


 龍人は魔法陣で風を発生させて身に纏うと、炎蛇の攻撃を回避し始める。正面から向かってくる炎蛇を避け、そこに横から食らいついてくる蛇を風を纏った無限で吹き飛ばすようにして斬り飛ばし、上下から襲い来る炎蛇に対して魔法壁で一時的に侵攻を防いだ数秒の時間で生成した水のヤイバで首を斬り落とす。

 3体の炎蛇を斬り捨てて着地した龍人。を狙った残り3体の炎蛇が同時に前後右から食らいついてくる。…が、その顎門が閉じられた時にいるべき場所に龍人の姿は見えなくなっていた。


「…マジで危ねぇ!」


 転移魔法で離れた場所に転移した龍人は額から一筋の汗を垂らす。炎蛇の攻撃はスピードがあり、しかも軌道が読みにくいこともあって対処するのが難しい。

 5つの魔法陣を円状に並べて発動するのは水刃の嵐。水幕のように広がった刃は3体の炎蛇に殺到する羽虫のように食らいついていく。

 手応えは有り。水刃の直撃によって発生した水飛沫が晴れると、首から先を無くした炎の胴体が5つ地面に横たわっていた。


「へぇ。中々にやるじゃないか。一撃も受けないで全部倒すなんてね。」

「その余裕感がムカつくな。」

「勝手にムカつけばいいよ。なんと言ったって、君の攻撃程度では俺の炎蛇を倒せないんだからね。」

「……マジか。」


 サラマンダーの言葉に呼応するかのように炎蛇の胴体がビクンと跳ねたかと思うと、切断部分から炎が盛り上がり…再び頭が生まれる。

 これではいくら倒しても復活する事請け合いである。


「さぁて、どうやって俺を倒すのかな?」

「更に、俺も戦うっす。」


 そう言ってサラマンダーの横に並んだのは…タムだった。


「なーに意外そうな顔をしてるっすか?」

「いや…そもそも精霊を使うお前は、無詠唱魔法を使っての格闘がメインだろ?」

「まぁそうっすね。それだと、今の戦いのレベルには着いていけないって言いたいんすよね?」

「あぁ。」

「まぁ…本当にそれだけだったら、この場に参戦するのは無謀っすね。」


 つまり…龍人の知らない力をタムが有しているという事か。


「サラマンダー。ウンディーネとノーム…どっちが良いっすか?」

「それを俺に選ばせるのか?ならノームだろ。水と炎の共演もいいが、あいつを追い詰めるんならノームの地を操る力の方が都合がいい。」

「オッケーっす。」


 タムを中心に魔力が高まっていく。


(…マズイ気がする!)


 何をしようとしているのかが正確に掴めないが、それをやらせてしまうとかなり不利になると予想した龍人はタムに向けて風弾を放つ。…が、それはサラマンダーによる炎弾によって相殺されてしまう。

 しかし、今のはあくまでもブラフ。本命は転移魔法によって至近に移動して放つ水の散弾だ。


「これで…!」

「遅いっす。覚醒融合【ノーム】っす!」


 タムを中心に地のエネルギーが迸り、その直撃を受けた龍人は吹き飛ばされてしまう。


 ここに、精霊召喚士タム=スロットルの真価が発揮される。

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