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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-7-8.人生を変えた出会い

 仲間の死。そして自身の無力。それらが招いたものは、絶望だった。

 迫り来るナイフの刃先を見ながら、タムは生きる事を諦めていた。生きる理由もないし、生きたいと思う理由も失われていた。

 今の事態を回避する為に、出来ることはいくらでもあった。もっと勉強していれば、もっと魔法を磨いていれば。全てが過去の後悔でやり直す事など出来ない。つまり、迫る刃は断罪の刃なのだ。

 喉元に向かって振り下ろされている刃。それを見ながらタムは己を恨みながらも死を受け入れる。

 そして…凶刃はタムの首筋を……掠めて地面に突き刺さった。薄皮が切り裂かれて首筋に細く鋭い痛みが走る。だが…生きている。

 目の前にいる男は驚愕とも言える表情で目を見開いていた。


「が…は……なん……で……。」


 男の目線は自身の腹部に向けられており、そこからは銀色の何かが突き出ていた。


「ふん。つまらん。用があるのはここの頭だ。何処にいる?」


 冷たく、だが凛とした声。

 スッと男の腹部から銀色が消えると、男はタムの横に倒れて悲鳴をあげる。


「ひ、ひ………ひぃぃぃいい!やめろ!やめてくれ!お、俺が何をしたってんだよぉ!?」

「それをお前が知る必要はない。先も言ったが、俺はここの頭に用がある。」

「……く、そ…。それなら…。」


 男と対峙する闖入者は長い銀髪を揺らす長身の男だった。鋭い目つきに、綺麗に輝く銀髪、そして凛とした雰囲気。…その存在自体が1つの刀をイメージさせる洗練された雰囲気を放っていた。

 腹部を刺された男が懐から何かのスイッチを取り出して押す。すると…ブザー音が鳴り響き、部屋にある3つのドアから男達が流れ込んできた。


「若!どうしました!?」

「……これは……お前は……お前は誰だ!?」


 男達はタムと仲間をいじめ抜いた男を若と呼び、続いて銀髪の男を見て得物を取り出した。全員の体から発せられる雰囲気から、全員が魔法を使えるであろう事が窺える。その総数50人は下らない。


「くく…。この俺を刺した事を後悔させてやる!この、この人数を相手に生き延びられる訳がねぇ!」


 男の1人に魔法をかけられて立ち上がった男…ここからは若と呼ぼう…は、ナイフを出現させてくるくると回す。腹をひと突きされて立ち上がるという事は、何かしらの回復系魔法を使ってもらったのだろう。

 そして、状況は若の言う通りだった。50人以上の魔法使いを相手に1人で立ち向かうなど…自殺に等しい行為だ。


「に…逃げるっす。」


 本来であれば自分が逃げたい。しかし、体を痛めつけられて満足に動く事ができないタムは、銀髪の男へ逃走を促した。

 これ以上自分が原因で犠牲者が出るのには耐えられなかった。

 だが、そんなタムの忠告は銀髪の男には届かない。


「そこのツンツン頭は黙ってろ。おい、若とやら。俺の目的はこの星で1番の力を持つ者を殺す事だ。それがお前の親父だろう?そいつだけ殺せば目的は達する。余計な犠牲を出したくなければさっさと親父を差し出せ。」

「はぁ…?俺の親父がお前みたいな阿呆の為にワザワザ出向くかよ。もし、本当に親父に会いたいのならよ…ここにいる俺達全員を倒していけよ。」

「そうか。なら、その通りにさせてもらおう。」


 ビキっという血管が切れるような音が若から聞こえた気がした。少なくともそれが聞こえてもおかしくない怒りの顔を浮かべていた。


「バカにするのも程々にしやがれ…。てめぇら!このいけすかねぇ男を叩きのめすぞ!」

「「おう!!」」

「氷像となりて砕け散れ。」


 一瞬だった。銀髪の男が長い刀を水平に構えたかと思うと、目に見えぬ速さで振り抜いていた。そして…その場にいる男達全員が言葉通りに氷像となって佇んでいた。

 何をしたのかが全く分からない。しかし、目に飛び込んでくる結果から何をしたのかが分かってしまう。

 それは、他の者を圧倒する強力な力。


「下らん。」


 そう言って銀髪の男は奥の部屋に向かって歩き出した。

 助かった命。ほっとする安堵感と共に、何か心の奥底で疼く感情を感じていた。それは、今ここでしか得られない何かを失いかけているような感覚。何を求めているのかが明確ではないが、ただここで静かに座っているだけでは駄目だという事は分かっていた。

 だからだろう。タムは目の前にいる銀髪の男にほぼ無意識に声を掛けていた。


「待って欲しいっす。」


 ピタリ。…と動きを止めた銀髪の男は、ゆっくり振り向くとタムへ鋭い視線を送る。背筋が凍てつく感覚に、声をかけたことを後悔しかけるが、それでもタムは勇気を振り絞って声を出す。


「俺を連れて行って欲しいっす。」

「…何をいっている。」

「そのまんまっすよ。俺はさっき死ぬはずだったっす。だから、救われたこの命をあんたの為に使いたいっす。」

「ふん。そんなもの偶然だ。それに、お前のような弱者に興味はない。」


 突き放す言葉。それもそうだろう。銀髪の男は何かの目的があってこの場に来たはず。ならば、その目的が優先であって、タムの相手をしている場合ではない。更に、男の言葉通りにタムみたいな弱い人間を連れて行くメリットも無いといえよう。


「…そうっすよね。でも、俺は…強くなりたいっす。あんたのその力に勝る力を手に入れたいっす。だから連れて行って欲しいっす。」

「お前のような弱者が俺を超えるわけがないだろう。」

「それは分からないっす。今は弱いっすが、俺は極属性【精霊】の力を持ってるっす。今までこの力を使おうと思ったことが無かったっすけど、今回の事で力が必要だと分かったす。この力を鍛えて使いこなせるようになって、いつか最強になってみせるっす。」

「……………。」


 銀髪の男は口を噤んだまま静かにタムの事を眺めていた。自分の言葉が全く響いていないと解釈したタムは、やや焦り気味に言葉を重ねようとする。今この場で人生を変えなければならないとタムの直感が言っていた。


「俺は…」

「黙れ。」


 だが、その言葉を言う前に銀髪の男に遮られてしまう。逆らう事を躊躇わせる力が込められていて、タムは続ける事が出来ない。

 銀髪の男は何かを思案した後にゆっくりと、静かに口を開いた。


「ひとつ問おう。」

「その問いに答えられれば連れて行ってくれるっすか?」

「お前は何故に力を望む?」


 タムの質問を華麗にスルーした銀髪の男が口にした問いかけは、簡単なようで難しいものだった。つまり、彼が考える力を求める理由と沿わなければ連れていってはくれないという事なのだろう。

 だが、タムは迷わなかった。この数時間の間に見た地獄が、タムの心から自然と答えを引き出していたのだ。


「そんなの決まってるっす。大切な人を守るためっす。」

「…ならば、その大切な人とは?」

「今はまだ…いや、もういないっす。でも、次に大切な人が出来た時、俺はその人を失わないためにも全力を尽くすっす。その為に、力が必要っす。」


 タムの回答を聞いて目を細めた銀髪の男は静かに佇む。


(…失敗した気がするっす。)


 自然と浮かんだ回答を口走るように言ってしまったが、そもそもアレだけの力を持つ者相手にはチープな答えだという感覚が後からやってくる。

 世界を変える為、理不尽という社会を正す為、悪を成敗する為…そんな理由が必要だったのではないか。だとすると、タムの出した答えでは到底合格ラインに届くわけもなく…。


「…いいだろう。」

「………そうっすよね。俺が悪かったっ……え?」


 断られたと思ったタムは、銀髪の男が言った言葉に耳を疑ってしまう。


「気に入った。俺がいる組織はお前が求めるものとは違うかもしれないが、俺はお前を連れていこう。存分に強くしてやる。」

「あ、あ、ありがとっす!」


 思わず顔を輝かせてしまう。タムは痛む体に鞭を打って立ち上がる。が、やはり無理があったようでふらついてしまう。

 …と、その体を誰かが支えてくれた。


「あ…ごめんっす。」

「いいのよ。もし、怪しい動きをしたら殺そうと思ってたから。セフ様に連れて行ってもらえることに感謝しなさい。」


 振り向いてみれば、全身を黒の衣装に包んだ女性がタムを支えながら立っていた。

 女性の起伏に富んだ体は…エロい。が、そんな事を言ったらひどい目に遭わされそうな予感がして、タムは自重するのだった。


「これを使いなさい。」


 そう言って受け取ったのは四角錐の底面を貼り合わせた形をした結晶だった。


「これは…なんすか?」

「クリスタル。魔力補充や魔法を記憶して発動させる魔道具の1つよ。これには治癒魔法が記憶されているから使いなさい。使い方はわかる?」


 使い方も何も初めて見たタムに分かる訳がなく、頭をブンブンと横に振る。


「クリスタルも知らないのね。…いいわ。魔力を注ぎ込むのよ。」

「魔力を…分かったっす。」


 クリスタルを握り締めて、自身の中にある魔力が流れ込んでいくイメージを持つ。

 すると…クリスタルが輝いてボウッと体が温かくなった。更に、タムの周りにキラキラと輝く何かが飛び回る。


「お、この飛び回るのもクリスタルの力っすか?凄いっすね。」


 生き物みたいなものも記憶できるのかとタムが感激していると、その横で複雑そうな顔をしたユウコが頭を横に振る。


「いいえ。普通はこんな事は起きない。あなた…本当に極属性【精霊】の持ち主なのね。あなたの周りを飛んでいるのは治癒の力を宿した精霊達。普段は姿の見えない彼らがあなたの力で顕現したのよ。」

「これが…精霊…。」

「くだらん会話は後だ。さっさと始末しに行く。」

「セフ様…失礼しました。ほら、行くわよ。あ…私はユウコ。よろしくね。」


 セフにせっつかれ、ユウコに促されてタムは歩き出す。いつの間にかに傷が癒えていて痛くない体に、不思議な感覚を覚えながら。


 その後にタムが見た光景はセフという男と、その手下?であるユウコの圧倒的な実力だった。

 扉の奥にある長い廊下を進んだ先にあったホール状の空間では100人超の魔法使い達と、いかにも悪者といった雰囲気を強面親父が待ち構えていた。

 何度かの悪者おきまり風のやり取りを交わした後に、セフの歯に布を着せない言葉に怒り狂った相手が攻撃を開始する。そして、影を使って姿を消したユウコが次々と背後から突き刺して葬り去っていき、刀をセフが振るたびに男達は斬り裂かれて絶命していく。

 本来であれば蹂躙される側であるはずの少数が多数を蹂躙するという異様な光景が繰り広げられたのだった。

 10分と経たずして終局を迎えたホールには、無傷のセフとユウコ、そして何もせずにぼけっと突っ立っていただけのタム…この3人だけが立っていた。他の100人を超える男達は残らず部位欠損状態で伏している。


「凄いっす…。」

「あら。この程度で凄いとは…まだまだね。仮にこの10倍の人間が居たとしても私達は負けない。」

「まじっすか…。」

「ふん。お前にはせめてユウコ位には強くなってもらう。そして、俺の為に働け。」

「分かったっす。俺、強くなるっすよ。」

「ふん。」


 こうして、タムはセフとユウコと共にこれまで住居としていた星を離れ、天地に所属することとなった。

 そして…血の滲むような特訓を経て1人前の工作員として地位を確立し、魔法街に忍び込むという任務を受けたのだ。

 そして、街立魔法学院で任務で出会わなければ本当の仲間と呼べたであろう人々に出会い、友情を育む。そして…第2次魔法街戦争の大事な場面で魔法街で培った全てを裏切りレイラを人質にとった。


 結果。タムは魔法街で出会った者の中で1番好感を持っていた人物…高嶺龍人と戦う道を選んだのだった。

 だが、タムに躊躇いはない。それは、自分が大切だと思える人を守れる力を得るために強者と戦うことは絶対的に必須な過程なのだから。


 かつて友と呼びあった2人の男による戦いが始まる。

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