表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
908/994

15-7-2.南区陣営に於ける戦闘

 繰り出される槍を紙一重で避け、煌く斬撃をいなし、降り注ぐ属性矢を薙ぎ払い、振り向きざまに展開した魔法陣から風刃を乱れ撃って牽制。相手の行動が防御に移行して停滞した隙を狙って魔剣術【一閃】を叩き込む。

 攻撃を放った直後の硬直を狙って後ろから複数人が躍りかかり、その彼らを援護するように炎球が飛翔する。直撃必至のタイミングだが、龍人は振り向く事もせずに左手の前に5つの魔法陣を直列展開していった。

 背後からの攻撃に何の対処もしないで次の攻撃準備動作に移る事自体が自殺行為だが、龍人は攻撃を受けない自信があった。それは後方から飛翔する魔弾が襲い掛かる者達を撃墜し、炎球を消し飛ばしたことで証明される。

 魔弾を放ったのは勿論…遼だ。龍人の動きを観察し、そこに生まれる隙を射撃でサポートしているのだ。この安心感があるからこそ、龍人は隙を作る事を気にせずに攻撃に専念した行動を取り続ける事が出来ていた。


「よし…これで!」


 相手の攻撃魔法を裂けた龍人は地面に手を付くと後方へ飛び退る。この後退を好機と判断したのか、東区の魔法使い達の動きが攻めに変わろうとしていた。…が、これも龍人の思惑通り。


「甘いな。」


 キザっぽい台詞を言いながら龍人が夢幻を振るうと、東区部隊の足元に魔法陣が浮かび上がった。


「な、何だと!?」

「これは!?」

「まずい!逃げろ!?」


 慌てふためく東区の魔法使い達。しかし、気付いたタイミングが魔法陣が浮かび上がった時という事は…その時点で時既に遅しである。

 光の線が立ち昇る。それは次第に太くなっていき、突然消失した。攻撃が来るかと構えていた者たちは突然の無という状態に戸惑いを隠せない。だが、それも束の間であった。次の瞬間には極太の光が地面から立ち昇り、東区部隊を呑み込んでいた。

 ゴオォォという音が響き渡り、そのあまりに強力な攻撃に戦場の動きが止まる。

 光が消えた時、戦闘不能なダメージを負った東区の魔法使い達が倒れていた。


「よし。あとは、ジェイドだけだな。」


 周りの者たちが龍人の強力な攻撃に絶句する中、当の本人はあっさりとした態度だった。確かにこれまで龍人と比べれば格段に強くなっているが、遼との仮想戦闘をいやという程に繰り返した龍人からすると実現するイメージや魔法の使い方は全てシミュレーション済みで、後は実践するだけという感覚の為…対して感動などは無かった。

 むしろ、思っていたよりも魔法陣の設置に手間取ってしまったという悔しい気持ちがあった位である。

 そんな周りの者たちと少し違った感覚でいる龍人は、その違いに気付くことなくスイとの戦いを継続中のジェイドへ視線を送った。

 戦いは…五分五分といったところか。ジェイドはレイピアの突きに風魔法と爆魔法を巧みに掛け合わせていて、対するスイは斬撃の中に流体の水と固体の氷を織り交ぜることで変則的な攻撃を繰り出している。

 剣技ではジェイド、魔法ではスイに軍配が上がるかといった所。気になるのは…互角の戦いを繰り広げているのにも関わらず、両者の表情が大きく異なる所だろう。

 スイが真剣な…至って真剣な表情をしているのに対し、ジェイドは余裕感のある表情…それこそ愛弟子の稽古をつける師匠のような表情をしていた。


(…ジェイドの方が余裕だな。それに、あの魔法…属性【風】にしては戦闘速度と斬撃が鋭い。もしかしたら属性【疾風】の可能性もあるか。)


 2人の戦いに割り込むか…という点において悩んでしまう。普通に考えれば南区を優勢に導くために参戦すべき。しかし、剣士という古風な考えを持つスイがそれを喜ばないであろう事も容易に想像出来た。同じ男としてそれを邪魔したくないという気持ちもあるのだ。

 そうこう思考を巡らせているうちに2人の戦いが動きを見せた。

 スイの鋭い4連の斬撃をレイピアの先端で軌道をズラして回避したジェイドが、ゆっくり長い息を吐くとレイピアを下ろしたのだ。

 戦闘放棄とも取れる行動にスイの眉がピクリと反応する。


「お主…どういうつもりだ?我では相手にならないと言うか?」

「そんなつもりは無い。ただ、これ以上お前と戦う必要がなくなったのだよ。」

「つまり、敵に値しないと判断したと言う事だな?」

「違う違う。私達が南区を攻めていたのはあくまでも東区の目的を達成する為。その目的の一端を掴んだとの情報が入ったのでね。ここで戦うのではなく、東区に戻ろうかと判断したのだよ。それに、そちらには強力な助っ人が来ただろう?このまま戦っていても私達の被害が増えるだけで何の利益にもならないのだよ。」

「目的…?お主達の目的は南区を倒すことでは無いと言うのか?」

「その通り。過程でそうなる可能性はあったのだけれども、そうならずに良かったよ。」


 そこまで話すと、ジェイドは様子を見守っていた龍人へ視線を向けてきた。


「高嶺龍人。久しぶりだな。」

「だな。魔法街戦争前の会議みたいなので会ったきりか。」

「あぁ。私達はこれで引かせてもらう。お前とも戦ってはみたかったが、どうやら状況がそれを許さなそうだ。武運を祈ろう。」

「…なぁ。お前達の目的って……天地と戦うことか?」

「……私達がそんな事の為に他区を攻撃すると思うか?」

「あぁ。そもそも東区は戦争自体に消極的だったはずだ。それか攻めの行動を取るってことは、それによって何かを達成したいって事になる。でだ、俺がここに来る途中で各区へ天地が襲撃しているのを見た。つまり、そう言う事だろ?」

「ふふ…。」


 目を閉じて頭を軽く横に振ったジェイドは笑い声を漏らす。


「まさか私達の目的がバレてしまうとは。龍人の言う通り、私達は戦闘を行う事で天地を炙り出し、撃破する為に動いている。そして、東区に天地が現れた以上ここにいる理由が無いのだよ。」

「ふん。ならば、これでここに居る理由が出来てしまうという事か。」

「そうですね。もう少し遅くくれば良かった気もしますが。」


 突如割り込んできた2つの声。


「…………テメェ………。」


 その声の正体を近くの岩場の上に確認した龍人は、自分でも驚く程に低い声を出していた。そこに込められたのは怒り…いや、憎しみか。深く黒いものが龍人の胸の奥から溢れ出す。


「高嶺龍人か。…前よりは強くなったようだな。」

「だからなんだ。セフ、俺はお前を許さねぇぞ。」

「好きにしろ。俺はお前に用はない。歯向かえばこの屑の様にボロ布同然に成り果てるのみ。」


 そう言って長い銀髪を揺らすセフは左手に持つ何かを龍人の方に投げる。

 ドサッと落ちたのは…酷い怪我を負ったタムだった。


「タム…!?レイラ!治癒魔法を!」

「う、うん!」


 レイラが直ぐに駆け寄り、タムへ治癒魔法をかけ始める。


「セフ…と言ったな。私は東区所属第6魔導師団のジェイド=クリムゾン。何が目的だ?」

「………お前と話す意味はない。」

「ほぅ。なら、力尽くで聞き出させて貰おうか。」


 余裕感を湛えていたジェイドの目付きが鋭くなる。先の戦いでは一切見せなかったものに、それを横で見るスイが悔しそうに更に目付きを鋭くしていた。…ジェイドの本気を引き出せなかった事が悔しいのだろう。だが、今はそこにこだわる場面ではない事も確かである。


「あの…。」


 と、ここて場違い感を何故か感じさせる躊躇いがちな声をあげたのは、セフの隣に立つもう1人の男。左目下のホクロが特徴的な、黒髪短髪のいかにも育ちが良さそうな男。魔法街で知らない人の方が珍しい有名人。出世街道を駆け上った事で有名なテング=イームズだ。

 眼鏡の位置を直しながらテングは控え目ながらも…込められた意思の固さを感じさせる口調で話す。


「僕達はあくまでも目的を達せられれば、それを邪魔されなければ危害を加えるつもりはありません。まぁ…天地がそう言ったところで信じられないとは思いますが。」


 全員がテングを注視する。天地という世界を股にかける凶悪組織が、会話のような場を設ける事自体…龍人達の感覚からすれば異様だった。…これがひとつ。何よりも、テングという有名人が天地に与しているのは一部の者達は把握していたが、まさか堂々と天地として姿を表すのが意外だったというのもある。

 …話を戻そう。テングが言った「目的達成の邪魔をしなければ何もしない」という言葉。生易しい言葉に聞こえるかもしれないが、裏を返せば「邪魔をすれば容赦しない」という事に他ならない。

 となれば、問い掛けるべきはただ1つ。


「お前達の目的はなんだ?」


 南区の面々を代表する形で龍人が問い掛ける。答えるのは…テング。


「それをあなた達に事細かに説明する必要は無いと考えています。速やかに僕たちの前から立ち去って下さい。」

「…何が目的なのかが分からないのに易々とどうぞとは言えないだろ。」

「では、聞けば納得して引き下がるんですか?」

「それは内容次第だな。」

「ですから、私達の目的を仮に伝えて…」

「テング、少し黙れ。」

「……はい。」


 もう少しで目的を掴む何かをテングが言いそうだったのだが…、それを止めたのはセフだった。

 銀に輝く長い髪を揺らし、刀身の長い細身の刀を持ち上げて切っ先を龍人に向けてくる。その瞬間、龍人の背筋を凍り付く感覚が走り抜けた。悍ましいと表現するには生温い殺気が突きつけられたのだ。いや、殺気なのだろうか。それよりももっと暗く、冷たい何か。…ただ切っ先を向けられただけというのが尋常ではなかった。


「俺は目的の為に進む。その道を阻む者は誰であろうと斬り捨てる。それだけだ。」


 そう言い放ったセフは岩場から音も無く降り立つと、ゆっくりと歩き始めた。その向かう先は…南区陣営がある方向だった。

 行く先で何をしようとしているかは分からないが、これを見逃せは後悔するであろうことは直感が警報を鳴らしていた。

 …戦うしかない。

 夢幻を握りしめた龍人は攻撃を仕掛けるべく魔法陣を展開しようと…。


「おいおい。なんでセフがここにいるんだよ。」


 そんな風にやや面倒臭そうに言いながら姿を現したのは、ラルフだった。ケツをポリポリ掻きながら立つ姿は緊張感が全く感じられない。デブ体型だから尚更である。

 そのラルフを見たセフの足が止まる。


「ほぅ…。消滅の悪魔が立ちはだかるか。」

「はん!その呼び方好きじゃぁねぇんだけどな。まぁいいさ。…消滅の悪魔って名前がついた理由をその身に思い知らせてやるよ。」


 セフとラルフは数秒間睨み合うと…動き出した。

 まずはセフが無造作に刀を振り抜き、それに合わせて冷気が走る。


「おっと!」


 これを魔法壁で防いだラルフは同時にセフの足元へ次元の裂け目を生成し、それが戻る力を利用して次元の歪みによる爆発を発生させる。一瞬のカウンターによって爆発にのみ込まれたセフが細切れに…とはならない。

 爆発が起きた瞬間にラルフの横に移動していたセフは翳した左手から爆発を放ち、同時に刀を下から振り上げる。切っ先が地面を掠り、めくり上げながら走る。更に噴出する闇が刃と共にラルフを喰わんと襲いかかる。

 しかし…攻撃は当たらない。パッとラルフの姿が消えたのだ。目標を失った爆発と闇が、その延長線上にいる者、ある物をことごとく破壊していく。

 そんな流れ弾の被害者達へ一切の気を払うことなくセフは視線を上へ向ける。


「狭の精霊よ、我に力を貸したまえ。繋ぐ力は過ぎたる事で別つ力へ。別つ力は消滅を誘引するものなり。我、その現象を剣と成して敵を葬らん」


 セフの真上へ移動していたラルフが詠唱を終えると、澄んだ半透明の刀身が特徴の剣が現れた。

 その剣を見た龍人はラルフが本気を出した事を悟る。名は精霊剣ノルニル。次元を司る精霊剣だ。つまり、属性【次元】を持つラルフとの相性はピッタリであり、故に…これを使って戦うラルフのそばに居ると命を落としかねなかった。

 精霊剣ノルニルを上段に構えたラルフが振り下ろす。すると、ラルフからセフに至る空間が大きく裂けた。そして、裂けた空間が戻る力によって爆発が起こる。その規模はつい先程ラルフがセフの足元に発生させたものの数十倍の規模だ。荒れ狂う爆発と空間の歪みが辺りに干渉し、景色が歪む。


(一振りでこれかよ…。)


 あまりにも強力な攻撃に龍人は驚きを越して呆れてしまう。


「ふん。厄介だな。」


 歪みの中から姿を現したセフ。その身は傷一つ付いておらず、彼がラルフの攻撃を防ぎきった事を証明していた。

 だが、それを見たラルフはニヤリとした笑みを深くする。まるでこの戦いを楽しんでいるかのように。


「いいねぇ。まだまだこれからだぜ?」


 …いや、楽しんでいた。天地という魔法街にとっても宿敵と言える相手だとしても、楽しめる余裕があるという事。もしくは単純にお馬鹿なのか、もしくは戦闘狂なのか。

 後者のどちらでもない事を願うばかり。

 ともかく、ラルフとセフが本格的に戦闘を開始した。つい先程までの攻撃のやりとりがお手並み拝見レベルのものだったのだと痛感させられるレベルの戦いだ。ラルフの精霊剣ノルニルが次々と次元の裂け目を創り出し、セフの刀がそれをいなし、反撃に闇、爆発、凍が次々と放たれる。

 辺りの空間が歪み、凍りつき、闇に侵食され、爆発で吹き飛び…。

 それはまるで映画で出てくるCGをフルに使った光景のようで…兎に角ド派手だった。


(こりゃあ戦いに入る余地がないな。)


 だが、これでセフという最大の脅威への対抗ができた事になる。残るは…。


「…テング。お前の相手は俺がする。」


 静かに佇む眼鏡をかけた青年は、龍人の言葉を受けてどことなく悲しそうな笑みをするのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ