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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-7-1.動き出す天地

 空に輝く凶星を見ながら、龍人は動く事よりも考える事を優先させていた。考えなしに動けば、その行動のミスから大切な何かを失いかねない。


(あの星は…誰が発生させた?どこかの区がやってんのか…?何が目的だ…。)


 思考がフル回転していく。


「……待て。今を見てたら答えは出ない。なら…。」


 ブツブツと呟きながら、思考を巡らせるポイントをを変える。

 何故星が出現しているのか。ではなく、天地は何を目的としていて、それと星がどう関連しているのか。それにはピースから大元の目的を推察する必要があった。

 そう簡単な事ではない。可能性という要素が強い推測は辿り着く答えが幾つにも分岐していて、正しい結論に至るかは分からない。

 第4魔導師団と共に地下へ潜んでいた時に聞いた情報も踏まえながら、最適解を模索する。


(中央区支部で霧を発生させて、各区への襲撃。襲撃者が撤退したタイミングで各区の位置どりが悪く、流れるままに戦闘開始。そして今に至るんだよな。つまり……この襲撃の目的は各区同士の戦闘を本格化させる為のきっかけ作りだ。そう考えれば魔法街が強制的に統一される前の半獣人の襲撃は各区間の関係悪化が目的。それは魔法街が統一された時に各区が対立姿勢を取る結果に結びついてる。……けど、今の魔法街戦争って状況を作り出すことが目的だとしたら、これで目的は完了してるはず。いや、それだけだと天地にメリットが無い。機械街の時みたいに属性変換動力器を手に入れる…みたいな本当の目的があるはずだ。)


 ここで1度思考が詰まってしまう。もし魔法街でしか手に入らない希少なアイテムがあったとして、龍人がそれを知っている可能性は限りなくゼロに近い。そうなると、考えられるのはどこにあるのか。そして、その場所と今の魔法街の状況が結びついている根拠を見つけること。


(単純に考えたら中央区にある可能性が高い。謎の魔法陣もあったし…でも、それなら中央区支部を壊すか?あの建物自体が何かを隠す為の役割を担ってたってんなら分かるけど、中央区支部が壊れた事で何かが変わったとかは無い感じがするな。そうすると中央区って線は薄くなる…?次に可能性があるのは……。西区?あそこにはかなりレアな魔獣はいるけど、それが狙いな訳はないよな。西区に何かあるのか?…現に西区だけは統一から外れている。………もしかして。)


 1つの嫌な予想に思い当たってしまう。

 非現実感がやや強いが、それを元に推察すれば…今ここで魔法街戦争が起きている理由にも納得感がある。そして、空で輝く星が天地によるもので、それがもたらすであろう結果の大枠も見えてくる。

 ……そんなの許せるはずがなかった。

 龍人は森林街という故郷を失っている。それはセフの手によって。いや、他にも天地の者達がいたのかも知れない。しかし、龍人が見たのは、深い憎しみを覚えたのは、怒りを燃やしたのはセフである。

 彼が無慈悲に奪った沢山の人々を思い出すだけで、1人1人の日々を幸せに過ごす笑顔は今でも忘れる事ができない。…その笑顔と共に浮かぶ死に際の絶望に彩られた顔も。


 …もし。…もし、だ。天地がそれと同じ事を魔法街に起こそうとしていたのなら…龍人は全力で止めるだろう。それこそ命を投げ打ってでも。自分という存在が消えたとしても。それだけの覚悟が…魔法街に住む人々を大切に思う気持ちがある。


(俺の予想が正しいなら……。)


 星の光が強くなる。それは従来の数倍程度の大きさにまで膨れ上がると、4つに分かれた。その内の1つは行政区陣営の前で戦う…龍人が観察していた地点の近くに降ってくる。

 星の分かれ方を見るに恐らく東西南北に別れたのだろう。となると、龍人の予想が益々現実味を帯びてくる。


「…やらせねぇ。」


 地面に落ちた星の正体が黒い箱で、その中から出て来たのがクレジ=ネマである事を遠目ながらに確認した龍人は身を翻して駆け出した。

 目的地は南区陣営だ。


「俺が…阻止してやる!」


 決意を固めた龍人は走る。走る。走る………走る。

 途中、北区陣営付近で雷が降り注ぎ、爆発が生まれるのを見た。しかし、立ち止まらない。

 途中、東区陣営付近で巨大な影の剣が舞い、空気の刃が乱れ舞うのを見た。その脅威と戦う者の中に火乃花とカイゼ=ルムフテらしき姿を見た。なぜ東区と共にいるのかという疑問もあるが、火乃花がいるという事は東区が南区の本当の敵では無いと言う事。だからこそ、龍人は仲間を信じて立ち止まらない。

 今すべきなのは…仲間を助ける事ではなく、天地の目論見を阻止する事。止まらない。止まれない。


 走る。


 走る走る走る。風魔法を使って一歩の移動距離を伸ばし、移動速度を上げながらも走る。

 行先の状況が不透明すぎる以上、転移魔法は使えない。下から襲撃を受ける可能性がある以上、飛翔しての移動も危険を伴う。だから走るしかなかった。

 そして、30分余り走り続けて南区陣営の前に到着した龍人が見たのは、ジェイド率いる東区陣営と南区陣営が攻防を続ける戦闘風景だった。

 普通の戦争風景にホッとする反面、他の陣営では明らかに天地の襲撃があったはずなのに…と疑問も残る。

南区だけ襲われていない理由が分からない。

 天地が4方向に分かれて各区を襲撃した理由が龍人の予測通りだとすると、今ここで南区を襲わなければ天地の予定が崩れるはずだった。


(…なんだ?俺が考え過ぎだったのか?別の目的なのか?………。くそっ。考えても分からないから行動あるのみだ。)


 夢幻を魔法陣から取り出した龍人はジェイドとスイをスルーして(何故か割り込んではいけない気がした。)、遼とレイラが対峙する東区部隊の真ん中に降り立った。


「おい!お前何やってるんだ!持ち場を離れるな!」


 龍人のことを後衛だと勘違いした1人の魔法使いが後ろを指差す。戻れ…ということなのだろう。


「いや、そもそも俺は東区の人間じゃないし。ってか、この戦い自体が無益だ。今すぐやめよう。」


 飄々と今の戦いの無意味さを伝えてみるが…。


「何を言ってるんだ!俺たちの目的のために、南区と戦う事がどれだけ必要な…………今、東区の人間じゃないと言ったか?」


 思考が停止寸前の魔法使いを見ながら龍人は頭をポリポリと搔いてしまう。なんというか…物分かりが遅いのだ。


「だからそうだって。もう少し分かりやすく言おうか?俺は第8魔導師団所属の高嶺龍人。お前達の敵ではないが、状況的には敵になるな。」

「第8魔導師団…!?て、敵、敵だぁ!」


 もはやコントになりかけているような遣り取りに思わず龍人は浅く息を吐く。何というか…戦争をしている筈なのにこの緊張感の無さはなんなのか。


「お前達…反応が遅すぎるだろ。」


 東区の魔法使い達はすぐに龍人へ攻撃を放とうとするが、自分達のど真ん中にいる龍人に魔法を放てば仲間に被害が出る可能性に思い当たり、一瞬の躊躇が生まれる。

 それは戦闘という場面において逆転を許すにたるものである。…そもそもそれが無かったとしても、無防備に攻撃を受けるつもりも無いが。


「一先ず…一旦戦闘を止めさせてもらう。」


 魔法陣が発動する。一瞬で組み上げられたそれは眩い光を発し、暴れ狂う風を生み出した。人が立つ事すらままならなくなる程のそれは渦を巻き始め、竜巻と成る。


「ぅぁぁぁ…!」


 悲鳴とも似つかない叫び声を上げながら東区の魔法使い達は上空へと吹き飛んでいった。

 竜巻の中心に立つ龍人の姿は当然の如く周囲から目を引いた。それは南区前衛部隊で戦う遼とレイラも同じで…。


「龍人!」

「龍人君!!!」


 2人がほぼ同じタイミングで龍人を呼んだのを聞いた龍人は、喜びの感情が自分の中に生まれるのを感じて笑みを浮かべる。

 しかし、今ここでのんびりと再会を喜ぶ訳にはいかない。とは言え…少しでも良いから話をする時間が欲しいというのも現実問題としてあった。

 南区の状況がどうなっているのか。それを確認しなければ…龍人の中にある懸念が晴れる事が無いのだ。


「…よし。一旦、強制的に戦闘を止めるか。」


 龍人は風魔法を使って南区陣営側に移動をすると東区前衛部隊に向けて魔法陣を展開した。魔法陣が次々と出現し、並列として配置されていく。


「魔法陣の並列励起…これで区切らせてもらう。」


 10の並列展開された魔法陣が励起し、巨大な物理壁と魔法壁が出現した。


「…凄い。」


 龍人が一瞬で巨大な防御壁(魔法壁&物理壁)を展開したのを見たレイラは思わず感嘆の声を漏らしていた。簡単に防御壁を展開したように見えるが、この規模で…しかも東区部隊と南区部隊を分断する大きさのものを展開するのはかなりの魔法技術と魔力が必要になる。例えそれが魔力消費量が少ない魔法陣を使っていたとしても…だ。

 レイラのそんな感想に気付いているのか気付いていないのか分からないが、防御壁の展開を終えて振り向いた龍人は周りにいる南区前衛部隊の面々に指示を飛ばす。


「みんな…久しぶり。ちっと状況把握をしたいから東区の奴らの動きを監視しといてもらっていいか?あとスイとタムは……あれ?」


 スイとタムの姿が見えない事に周りを見回すと…防御壁の向こう側でジェイドと剣戟を交わすスイの姿があった。


「…マジかよ。スイの奴、絶対ワザと防御壁の中に入らなかっただろ。」

「はは…さっき1回負けてるからね。」

「あのスイがロジェスに負けたのか…。やっぱりあいつは強いんだな。…なら、尚更早く話を済ませる必要があるな。レイラ、今の南区陣営の状況を簡単に教えてもらえるか?」

「あ、うん。えっと、私とタム君、スイ君が前衛で東区の人達を抑えてて、ララさんとか他の人達は一旦後ろに下がってるよ。後は…火乃花さんとカイゼ君が龍人君達と同じタイミングで行方不明になったままなの…。」

「あ、火乃花とカイゼなら多分東区にいるぞ。」

「え?東区に?」

「あぁ。ここに来る途中で東区の近くを通ったんだけど、2人っぽい姿を見た。遠目だったから確実とは言えないけど、多分間違いないと思う。」

「そっか…良かったぁ。」


 ほっとして顔を綻ばせるレイラを見て、龍人は一瞬見とれてしまう。が、それも一瞬の事。すぐに思考を戻す。


「となると、あとは…後衛の人たちは何してんだ?」

「東区の他にもなにかの襲撃が来るかもしれないから、それに対抗できるように態勢を整えてるはずだよ。」

「なるほどね。ってなると、それが整えば前線が厚くなるか…。」


 思ったよりも南区の状況が悪くない事に龍人は安心感を覚える。残る問題は…あと1つ。


「あと確認したいのが、空から星みたいなのが降ってこなかったか?」

「星?…私は見てないよ?遼君は?」

「俺も見てないよ。」

「マジか…。実はさ、それから各区に星が降ってて…そこから天地の奴らが現れて攻撃してるみたいなんだ。」


 遼が顎に指を当てて考え込む。


「それって…なんか不思議だね。前に天地が各区を襲った時は、それがきっかけになって魔法街戦争が本格化したよね?ってなると、単純に各区を攻撃しに来ただけじゃないよね。何かの目的があって攻撃を仕掛けてるって考えるのが妥当だよね。」


 遼らしい推論、そしてそれは龍人の考えと一致していた。頷いた龍人は自分の推論を口にする。


「俺も遼の言っている事と間違いがないと思う。あくまでも今回の各区襲撃は、それ自体が目的じゃなくて…他の目的を達成するための手段だと思う。そこで気になるのが、中央区支部跡地の中心地点に魔法陣の一部みたいなものがあったんだよ。」

「それと今回の襲撃に関連があるって事?」

「あぁ。その可能性があるんじゃないかなと。」

「えっと…それってどういう事?」


 いまいち話についていけないのか、人差し指を口にあてたレイラが首を傾げる。…相変わらずの自然体の可愛らしさである。


「つまりだ。何かしらの大きな魔法陣を完成させるために、各区陣営にそれを設置する必要があるって事だ。」

「じゃぁ…天地の人たちがその魔法陣の一部を設置したら…。」

「天地の目的のなにかが叶う…可能性が高いな。」

「…止めなきゃ。」

「だな。…やっぱり南区に来てるはずの天地の奴がいないのが気になるな。」


 指を顎に当てて考え込んでいた遼が頷く。


「そうだね。そうすると、何かしらの方法を使って南区の内部に潜り込んでいる可能性も捨てきれない。早く東区との戦闘を落ち着けないと。」

「うし。そうと決まれば…一気に決めるか。」


 腕をぐるぐるまわす龍人は夢幻を右手に握りしめると、自分が展開した防御壁に近づいていく。


「遼、カウントで防御壁を解除する。そこから一気に決めるぞ。」

「オッケー!」


 遼が後ろにいる事に安心感を覚えながら、龍人は笑みを浮かべていた。安心して背中を任せられる仲間がいることの嬉しさ、そしてそれを守りたいという気持ちを再確認しながら。

 …この時、龍人は1つの懸念事項を遼達に伝えていなかった。それは、天地が魔法陣を完成させて先に狙うもの。それが今の魔法街の配置と大きく関係している可能性が高いという事。

 言うべきか迷ったのだが、今ではないと判断をしていた。まずはこの状況を打破することが先決だとしたのだ。


「3、2、1…行くぞ!」


 龍人のカウントで防御壁が解除され、龍人は東区前衛部隊に向けて切り込んでいった。

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