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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-6-10.激化する戦争

 ジェイドの攻撃を難無く退けた遼は、牽制で東区部隊に向けて銃を撃ちながら状況の確認を行っていく。


「えっと…ここにいるのかレイラとタムだけって事は、他のメンバーは後ろに控えてるって事?」

「う、うん。あとスイ君がジェイド君と戦ってたんだけど…さっきのと同じ攻撃を受けて……。」

「え…?あのスイが…え?負けたとかじゃなくて?…え?」


 スイが命を落としたということを暗に伝えるレイラの言葉に遼が狼狽える。


「私も信じたくないんだけど…でも…。」

「マジか……。」


 クラスメイトの死をすぐに受け入れられない遼は無言で銃を撃ちながら…今の状況を噛み砕いていく。


(あのスイが命を落とすなんて…この戦争、絶対に止めなきゃ。何よりも先決なのは無駄な衝突を止めること。それなら…ジェイドを止めるのが優先事項だよね。)


 遼は戦闘の意思を示すために銃口をジェイドへ向ける。一方のジェイドは余裕の表情でレイピア片手に遼達の様子を観察していた。そして、銃口を向けられたことに気付くと僅かに口元を緩める。

 余裕…なのだろう。遼1人が参戦した所で何かが変わると思ってもいないのだろう。勝利を揺るぎなく信じている目をしていた。


「レイラ。俺がジェイドを倒すよ。レイラは他の東区の人達を頼む……って……え?」


 突如横から突き出された手が銃を握る遼の手を掴む。ボロボロに焼け焦げた着流しから伸びる手は、熱に炙られたのか黒く燻んでいる部分が所々あった。


「奴の相手は我の役目だ。」


 低い声でそう言ったのは…スイだった。


「え、す、スイ君!」

「無事だったんだね。安心したよ。」


 驚き、顔を綻ばせるレイラと安堵の表情を浮かべる遼を見て、憮然とした表情をしていたスイは目を閉じた。そして、再び目を開けた時には真っ直ぐ…ひたすら真っ直ぐな瞳を湛えていた。


「心配をかけてしまい申し訳無い。我の油断が招いた事態だ。だが、次は無い。我は…我が奴を倒す。」


 決意に満ちた言葉。しかしその様子を横で見ていたタムが口を挟んだ。


「でも、スイさん…本当に大丈夫っすか?ジェイドさんの力は本物っす。しかもさっきの戦いで彼は殆ど魔法を使ってなかったっす。だから…」

「だから奴は本気を出していなかった。次は我を確りと倒す為に本気を出してくるだろう。そうなれば命を落としてしまうかもしれない…か?」

「………。……そうっす。」


 命を落とす。そこまで自分で言及するスイにタムは何も言うことが出来ない。


「だが、敢えて言おう。魔法を使っていなかったのは我も同じ。ならば…この勝負はまだ分からない。」

「スイさん…。」


 虚勢かもしれない。しかし、スイは戦うという姿勢を崩さない。剣士としてのプライドもあるだろう。男としてのプライドがあるだろう。だが…それだけでは無かった。


「我は………南区を守る。」


 そう言って前に出たスイは氷冰刀を構えてジェイドに向けて歩き出した。その頬が薄っすらと赤らんでいるように見えたのは恐らく気のせいだろう。

 対峙するジェイドはスイの生還を喜んでいるのだろうか、それとも楽しんでいるのか。…とにかく、楽しそうに肩を揺らしていた。


「くっくっくっ…あれだけのやられ方をして、この私にまだ立ち向かってくるとは中々見上げた根性だね。」

「ほざけ。お主の顔を引きつらせてやる。」

「ふっ。楽しみだよ。」


 スイとジェイドは笑みを浮かべると同時に駆け出し、ほぼ同じタイミングで獲物を突き出す。武器の特性もあってか、初速ではややジェイドに軍配があがるが、スイの巧みな刀先のコントロールでその差が埋められる。

 刀とレイピアが打ち合う音が響き、スイの操る水と氷、ジェイドの操る風と爆発が剣撃の舞を踊る2人を演出し始めた。


 スイの生存によって南区の状況は好転していた。元々はギリギリの攻防だったわけだが、そこに遼が加わった事で戦力的には同等か少し上回る所まできていた。

 とは言え…これでまたスイが負けてしまっては元も子もない。今の戦力を減らさずにどこまで戦えるかがポイントだ。


「…よし、この後の動き方で提案があるんだけど良いかな?」


 周囲の状況や戦力を分析した遼が人差し指を立てながらタムとレイラに声をかける。


「あ、お願い!私には今の状況を変えられる方法が思い付かなくて…。」

「………………。ヴォルト召喚!……ってあれ?何っすか?」


 レイラは賛同の意を示してくれるが、タムはヴォルトを召喚するのに意識を割いていたのか話をあまり聞いていなかったようで、キョトン顔で遼とレイラを見る。

 いくら精霊召喚を行なっていたとは言え、タムにしては珍しい集中力の欠如である。そんなタムの様子に、連戦で疲れているのだろうと判断した遼は、特に言及せずに分かりやすい説明を心がけて話す。


「あ〜っとね、スイが負けないようにサポート役を置きたいんだ。致命打を防いでいけば、ジェイドも疲弊していくはずだから。それで、俺とレイラがその他の攻撃を防ぐ。…というより、撃退するつもりて動こうかなって思うんだ。」

「……それは……スイさんのサポートなら的確な中距離遠距離攻撃が出来る遼さんの方が適任じゃないっすか?」

「うん。そうかも知れないんだけど、この場の優先順位はジェイドを倒す事じゃなくて、東区部隊を倒す…撤退させる事だと思うんだ。

「それはそうっすね。けど、それなら尚更俺が召喚魔法で範囲攻撃を使った方が良くないっすか?」

「そうなんだけどね。でもタムはそれをしなかった。出来ない理由があったんだよね?これ以上タムに無理をさせるのは悪いからさ。」

「……分かったっす。じぁあ遼さん…ここは任せるっすよ。」

「任せて。」

「よし、やるっすよ!」


 ノームを引き連れてタムはジェイドとスイが戦う地点の近くへ移動していく。


(なんか…タムの様子がいつもと少し違った気がするな。…まぁこの戦闘の最中だし気が立ってるのかな。)


 タムの様子にやや違和感を覚えた遼だったが、深くは考えずに眼の前の敵へと思考をシフトさせる。

 東区前衛部隊は中距離魔法を中心としたメンバーのようである。南区前衛部隊がレイラとタムに頼りきっているという…これだけ攻めやすい環境であるのにも関わらず近接攻撃に踏み切らない点を鑑みると、敢えて攻め切らないのか、それとも近接に不安が残るのか…それとも他に別の…。


「ともかく、このままの均衡状態を維持してても何も変わらないよね。俺が相手の最前線に立つ人たちの………武器を全部魔弾で叩き落とすから、レイラは防御壁を続けるのと、相手が飛翔系で強めの魔法を使ってきたら反射障壁で跳ね返してもらっていい?」

「うん分かった。でも…やろうと思ったら今の攻撃具合だと半分くらいは反射障壁で跳ね返せると思うけど、強めのだけでいいの?」

「それで大丈夫。相手に強めの魔法を撃つ事を躊躇わせるには、それだけを反射した方が効果的な筈だから。」

「分かった!任せて!」


 前とは違って(…というと失礼かも知れないが)何処と無く頼り甲斐のある雰囲気を持つ遼に安心感を覚えたレイラは気合いを入れる。そして、遼が放った爆裂弾を皮切りに攻防は更に激しさを増していった。


 この時、スイをサポートするタムは何かを気にするように周囲の様子を確認していた。彼が感じていたのは…違和感なのだろうか。精霊使いという特性上、一般の魔法使いよりも感覚が鋭いタムは何かに気付いていたようである。

 しかし、彼がそれに言及しなかったのは何故か。

 不確定要素だったからか。

 大した脅威になり得ないからか。

 機が熟すのを待っていたからか。






 遼の参戦によって、南区陣営の前衛部隊は東区前衛部隊と互角かそれ以上の戦闘を繰り広げるようになる。

 だが、これによってレイラの頭からはいくつかの不安要素が薄れてしまっていた。

 それが後悔となって押し寄せるのはもう少し後の事で…。





「南区陣営に奴の姿は現れたか?」

「いえ…それがまだ…。」

「そうか…。なら、このまま待つ意味があるか疑わしいな。」

「では…誘き寄せますか?」

「それも良い。しかし、奴と接触した者もいるのだろう?」

「はい…数名ですが。」

「ならばこの魔法街にいる事に間違いはない。」

「そうですが…ここに現れるかは大分賭けの要素が強いように…。」

「では間接的に誘い込むか。」

「それはどうやって行うのですか?」

「簡単だ。プランの通りに動くだけだ。それで事足りる。」

「…え?それで結果が出るとは…。」

「見ていろ。全ての物事は同じ事をしたとしても、タイミング次第で結果が大きく変わるという事を教えてやる。」


 声は遠ざかる。






 所は変わり、北区陣営付近。

 北区陣営と行政区陣営が戦闘を行っている様子を眺められる高台ポイントに…龍人は身を潜めていた。

 中央区支部のループする空間の継ぎ目付近で空間に干渉する魔法を使い、強引に継ぎ目をこじ開けて見事に脱出したのだが…どうしても気になることがあって南区陣営に向かうのを後回しにしていた。


(おかしいな…。第4魔導師団の姿がやっぱり見えない。あいつらの目的は天地を倒す事。だったら北区陣営に合流してるかと思ったんだけど……。)


 龍人と遼、第4魔導師団の目的は天地が企んでいるであろう何かを仕掛けるタイミングでそれを潰す事。6人がチームで動き、確実に撃破していくという当初のプランは既に崩れている。それが文隆によるものなのか、不慮の出来事なのかは分からないが…合流できるのなら合流したいというのが龍人の本音だった。

 1人で突っ走らない選択をしたのには、天地との戦力差が大きな背景としてある。

 過去に何度か天地と戦ったことのある龍人は、彼らの強大な力を十分に理解しているつもりだった。この中央区にてビスト、ユウコ、ラーバルを退けはしたが…彼らがほんとうに全力を出していたかは不明。そして、セフやヘヴンといった圧倒的な力を持つ者がまだいる。彼ら相手に1人で勝てると考えるほど龍人は自惚れていなかった。

 南区の仲間と戦うとしても、一定以上の実力を有する者と共に戦わなければ足手まといになってしまう。だからこそ第4魔導師団と共に動きたかったのだが…。


(行政区はレインと…あの赤髪の人は火乃花の父さんか?確か…霧崎火日人だっけか。レインは言わずもがなの実力で、火日人も火乃花の親だから相当に強いだろうな。で、その2人と戦ってるのがクラックか。)


 規模の大きい戦いだった。クラックとレインの次元魔法が周囲の地形を変えながらぶつかり合い、その隙間を縫って火日人の焔魔法が荒れ狂う。一介の魔法使いであるのなら1度は見たいと願う好カードであり、絶対に加わりたくない戦いでもあった。

 これだけ派手にやり合っているのに第4魔導師団の姿が見えなといいうことは、この場にいない可能性が大いに高い。


(ハズレって事になるけど、もうここにいる必要は無いか…。東区の様子を遠目に確認しながら南区に向かうしか無いな。)


 索敵の魔法に引っかからないように注意を払いながら移動を開始する。

 …と、戦闘地点から視線を外す直前に視界に入っていた光景に遅ればせながら違和感を感じた龍人はもう1度振り向いた。

 しかし、異常はない。両軍が魔法の応酬を続けているだけ。

 いや、何かがおかしかった。何かを見た気がしたのだ。見過ごしてはいけない何かが……。


「どこだ…確かに何かがおかしかった。何だ…何が……。」


 周囲を見渡すが異常はない。青々と広がる空の下で戦いが繰り広げられ、輝く星が特等席のように上空で1つだけ瞬いている。

 ………星?


「そうか。そもそもこの時間に星が見えてる事自体が…ってなるとアレはなんだ?」


 何だろうか。嫌な予感しかしない。1番星のように輝くそれは凶星にも見える。

 進行する魔法街戦争。激化する戦闘。各区の連携は失われ、介入してくる天地。空間がねじ曲がった中央区。謎の魔法陣。魔法街統一思想。魔獣。魔造人獣。西区。

 星を見上げながら様々なピースが頭の中を駆け巡る。


(今まで俺が見た情報の中にヒントがあるはずだ。…今、今それが分からないと取り返しのつかない事になる気がする。考えろ。考えろ…。)


 クンっと星の輝きが強くなった気がした。

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