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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-5-4.対立の構図

 クラックの放った次元魔法レーザーが行政区陣営の面々を呑み込み、着弾し大爆発を引き起こす。引き裂かれた次元の歪みが戻る力と、それをさらに引き裂こうとする力が反発し合い爆発の規模を大きくしていく。


「…うし。これで行政区の前衛部隊は倒したな。次は…。」


 首をコキコキ鳴らしながら周りに視線を巡らせたクラックの動きが止まる。スッと細められた目線が再び行政区陣営の前衛部隊がいた場所へ向けられた。


「ちっ…ここでお出ましかよ。」


 舌打ちと共に忌々しそうに吐き捨てたクラックの目線が捉えたのは、次元属性の爆発の中で悠々と立つ2人の人物だった。

 軽いパーマの掛かった薄青ロングヘアを揺らすナイスバディな童顔女性…レイン=ディメンション。

 赤髪短髪に少しお腹が太り気味の…所謂おじさん体型に近い男…霧崎火日人。

 行政区最高責任者と行政区執行役員という役職的に偉い2人…というだけではない。レインに関しては魔法街最高の魔法使いの1人であり、火日人は霧崎煉火と霧崎火乃花の父親にして師匠。たった2人だが、戦局を容易にひっくり返す事が出来る存在である。


「よりによって行政区でトップレベルに強い2人か…最悪、覚悟を決めて挑むしかねぇが…。」


 北区陣営に向けて歩み始めたレインと火日人の姿を睨みながら呟くクラックの額を一筋の汗が伝う。

 平時であればレインと火日人のどちらにも挑む者はいない。それだけの実力者。その2人が揃って向かいくる姿は、見える災害の到来とでも表現できようか。

 クラックの放った次元魔法レーザーの爆発に巻き込まれたはずの行政区陣営前衛部隊は、全員が無傷でレインの後ろに控えていた。着弾したのは間違いがない事を考えると、爆発発生の瞬間から魔法への干渉を行い、全てのエネルギーを逃したのだろう。想像するだけでも恐ろしい技量である。


(あの2人がどのスタンスで来るのかが重要だ。)


 戦闘中止を訴えるのか、徹底抗戦を叫ぶのか。レインの性格を考えれば戦闘中止を謳った上で、共に天地と戦おうと提案してきそうだが…。


(だが…それはお断りだ。そんな生温いやり方では魔法街は守れねぇ。何があっても俺たちの目的はブレちゃいけねぇ。)


 北区陣営は歩みを止めたレインと火日人へ視線を送り続ける。これまで激しい戦闘が行われていた戦場が、この時だけは静けさを取り戻していた。

 一歩前に出たのは…レイン。


「皆。私は行政区最高責任者を務めるレイン=ディメンションだ。この戦争…私達の思惑と大きく外れたものだと認識している。」


 ここまで聞いて、クラックは予想通りにレインが和睦を提案しようとしていると確信する。そうであるのなら、すべき事は決まっている。北区の目的を達する為に提案を跳ね除け、戦う事。


「私はこの星を…魔法街を大切に思っている。この星の平和を、守ると決めた。だからこそ、和睦などという簡単な…逃げともなる手段は選ばない。私は…私達行政区はここ星を守る為に力をもって魔法街の再統一を図る!従い、ここにて告げよう。私達と戦うか、軍門に下るかを選択してもらう!」


 衝撃。あの穏健な平和主義のレインが、遂に戦う事を宣言した。これは北区にとっても…いや、他の区にとっても脅威である。


(あのレインが…第1次魔法街戦争を終結に導いた英雄が本気で動くのかよ…!)


 和睦でも、徹底抗戦でもなく…攻めの姿勢を見せた行政区に北区陣営は戸惑いを隠すことができない。しかし、のんびりと戸惑う時間は無い。今は戦争中。レインが問いかけを放った以上、北区はそれに応じる必要があった。


(バーフェンス学院長がいない今…彼の言った通りに動くしか無いか。)


 目を閉じたクラックは覚悟を決める。握りしめる両手が小さく震えているが、それは恐れではなく、武者震いだろう。そう…思わなければ前に進む事は出来なかった。


「レイン=ディメンション!俺たちは行政区の参加に入るつもりはない!力をもって戦うというのなら…力をもって抗おう!北区の…ダーク魔法学院の力を思い知らせてやる!」

「……そうか。」


 クラックの返答に一瞬悲しそうな目をするレイン。だが、すぐにその感情を消し去り、横に立つ火日人と目線を合わせて頷きあうと…高らかに宣言した。


「これより北区を倒す!総員…全力で戦え!行くぞ!」

「「「「おぉう!!!」」」」


 遂に北区と行政区が真正面から、持てる力の全てをぶつけ合う。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 北区と行政区が戦闘を激化させた様子を遠目から見ていた東区シャイン魔法学院学院長のセラフ=シャインは、横に立つマーガレット=レルハに声を掛ける。


「この戦い…どう思う?」

「そうですわね…レインが本気を出したのは意外でしたわ。でも、彼女の正義感を考えれば当然かも知れませんわ。」

「はんっ!良く見てるじゃねぇか。…さて、私達はどう動こうか。」

「前線はジェイドが奮闘しているので、任せておけば問題ないのですわ。今問題なのは…私達の目的をどうやって達成するのかですわね。少なくとも東区内に目標が見つかっていないのですわ。ただ、状況的に存在はしている筈ですの。」

「だったらどーすんだよ?私が実力行使で一気に吹き飛ばそうか?」

「そうしたら東区がセラフ学院長によって内側から崩壊しますの。最善策は…このまま相手の攻撃を凌ぎつつ…様子見を続行ですわね。」

「締まらねぇ作戦だな。」

「しかし、それが最善であることに間違いがないのですわ。」


 マーガレットの強い物言いにセラフは肩を竦めて応じる。


「まぁ…いいか。あの2人も奥で控えてるんだろ?」

「ですわね。あの2人が居れば戦力が大分強化されますの。目標を見つけた際の勝率も上がりますわ。だからこそ今は余計な力を使わずに温存すべきですわね。」

「まぁ…いいだろ。なら、しっかりと力を温存する為にジェイドの負担を少し減らすか。…おい!5人ばかし後衛の奴らを前線に送れ!ジェイドの補佐を第1優先で動かせろ。」

「かしこまりました!」


 傍に控えていた学生の1人がセラフの命を実行する為に走り出す。

 その後ろ姿を眺めていたセラフは長い睫毛を伏し目がちにすると腕を組み直す。その動きで豊満な胸を揺らしながら、周りに聞こえないようにマーガレットへ呟いた。


「…一刻も早く目標を見つける必要があるな。遅れれば遅れる程後手に回る危険性が高い。」

「わかっていますの。ただ、秘密裏に動く以上…捜索の速度を上げる事も難しいのですわ。」

「ちっ…。どんなにこっちが策を講じてもあいつらの方が常に先手をいってる感が拭えねぇな。」

「それでも、抗いますの。私は負けませんわ。」

「良い気概だな。その意気で頼んだぜ。」


 セラフとマーガレットは小声での会話を終えると、戦況を確認し、最適な選択を行う為に再び指示を出し始めた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 さて、各区の動きを整理してみよう。

 北区はクラックの部隊が中央区のレイン、火日人の部隊と交戦。

 東区は北区と中央区の交戦場所へ遠距離魔法を放っていたが、レインの登場で攻撃を中断。その代わりにジェイド率いる部隊が南区に向けて進軍を開始していた。

 北区と中央区。東区と南区という対立の構図が確立した事で、これまで大きな動きを見せなかった戦場が…ある意味で勝者を決めるための動きを開始していた。

 4つの区が疑い合う事で始まった第2次魔法街戦争だが、其々の区が其々の思惑を抱えて動き、天地という外的要因も暗躍を見せる。

 混迷の様相を呈する第2次魔法街戦争。

 戦争の先に再び以前のような穏やかな時間が訪れるのかは不透明である。しかし…というべきか。だからこそ諦めず、今の戦争に抗うべく決意を固める者達もいた。

 その1人が、この物語の主人公…高嶺龍人である。

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