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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-5-3.北区V.S行政区

「君は…この状況をどう見る?」

「私からすれば北区はまだまだ余力を残している…と言うのが一番の懸念事項だな。」

「余力…か。それは何をもってしての判断だ?」

「そんなものは簡単だ。魔導師団の面々は誰も出てこず、バーフェンスも出てきていない。クラックが1人で無双を続けているようにも見えるが、視点を変えれば彼1人へかなり負担がかかっている。」

「.……つまり、余力を残しているが、クラックへの負担が大きすぎる点を考慮すると、北区にも何かしらのトラブルが発生していると考えられると?」

「そう解釈も出来るな。勿論、可能性の一つに過ぎない点を忘れてはいけないが。」

「成る程。…火日人、本当にこちらには来れそうにないか?」

「…あぁ。行きたいのは山々だが、今の中央区支部での戦闘だけに注視してしまうと、何かを見落とす可能性があるからな。特に、霧の消失と共に姿を消した天地の動向が全く追えないのが気になる。」

「そうだよな…。」


 モニターに映るパラパラと資料をめくる赤髪短髪の男…霧崎火日人の顔を見ながら、レインは小さなため息をついてしまう。


「どうした?レイン君がため息とは珍しいな。」


 意外そうな顔をした火日人は資料をめくるのを止めると、マジマジとレインの顔を見つめた。


「はは…。思った以上に戦況が悪くてね。」

「と言うと?」

「火日人の言った通りだよ。北区、そして教師のクラックだけを相手に戦うのなら何の問題もない。第一次魔法街戦争時は目の前の敵を鎮圧するだけで良かったから簡単だった。けど…今回は天地が姿を現したことも含めて目に見えない動きが多すぎる。私が前線に出る事でひと時の戦況が改善されたとしても、辿り着く結果が最悪なものであれば…それでは意味がなくなってしまう。」

「……それは残念だがその通りだな。確かにレイン君が前線に出ることに対するメリットとデメリットはどちらも存在するか。だが、天地の構成員が攻め込んできた時はレイン君自ら戦いに赴いただろう?」

「その時は…だな。実際に彼らと戦った時に違和感しか無かった。彼らは本気を出しているように見せて本気を出していなかった。そして、少しずつ中央区支部の場所に私達を誘導していったんだ。恐らく、各区で同じような状況が展開されていたはず。今回の霧と天地の攻撃が無ければ、本格的に戦闘が開始される事も無かったと思うんだ。」

「そういう事か。だとすると、行政区で魔法街全体の状況を確認する俺と、実際に戦場でリアルな情報を元に状況判断を行うレイン君…。この俺達2人がその役目を行わなくなると、今は姿を消している天地が再び動き出した時が危険だな。」

「そうなんだ。だが…行政区陣営の戦力では北区の侵攻を止められない。今は良いがクラック以外の強者が参加したら厳しいんだ。」

「むぅ…。」


 モニター越しに黙り合う2人。部屋の中に誰もいない状況だからこそ、他の者には見せられない表情で、本音で話す事ができているレイン。普段は毅然とした態度を取っているレインだからこそ、彼女がどれだけ火日人に心を許しているのかが窺える。


「…ん?レイン君。北区の第3魔導師団は他星で動けなくなっているとして、第4魔導師団とバーフェンス君はどこに待機している?」

「それすらも掴めていないんだ。」

「…そういう事か。天地、中央区支部の戦況に加えてバーフェンス君と第4魔導師団も別個に動いている可能性があるのか。まずいな。…言い方は失礼だが、駒が足りない。」

「せめてラスターがいれば状況も変わるんだが…まだ連絡は取れていないんだよな?」

「あぁ。西区への転送魔法陣が悉く使用不能なのに加えて、一切の魔法が通じなくなっている。」

「西区に取り残されている人々の目星は付いたのか?」

「恐らく…だが、ラスター君の他に魔獣討伐の依頼で数十人規模で取り残されているな。その中にブレイブインパクトもいる可能性が高いとの報告も上がっている。幸か不幸かは別として、魔獣と渡り合うという視点だけでいえば戦力としては十分だな。」

「ブレイブインパクトか…。」


 ブレイブインパクトは北区に所属する魔獣討伐専門のスペシャリスト集団。その彼らが北区にいないというのは吉報。

 しかし、懸念点も存在する。彼らは魔法街統一思想を主導していて、第2次魔法街戦争勃発前には魔法外統一思想集会を開いたりと、精力的に活動していた。

 この魔法街統一思想と半獣人襲撃などは全て絶妙に絡み合っており、一時は支持者を減らした統一思想は最終的にこれまでで最大の勢力にまで発展していた。そして、魔法街の世論の大多数が魔法学院を1つに統一し、全ての区が1つに纏まるべきという統一思想を支持した時に謎の人物によって強制的に魔法街が1つに統一させられたのだ。

 この時に世論が統一を受け入れるかと思われたが、同タイミングで各区へ各区からの差し金と思われる魔法を使う動物による攻撃が発生。これによって区間の感情が爆発し、対立姿勢が確立されていた。

 つまりだ、導かれた結論から見ればブレイブインパクトは被害者である。しかし、過程を見れば被害者と一概に言い切ることもできなかった。何と言っても、第2次魔法街戦争はまだ終わっていないのだから。

 暫しの間俯いて沈黙を保ったレインは、顔をゆっくりモニターへ向けた。


「火日人。やはり今の状況は行政区にとってかなり不利だ。そして、戦闘はこの中央区で起きている。もう過去には戻れないし、やり直すこともできない。確約された未来もない。ならば…私達は守るべきではないのかもしれない。」

「…。」


 火日人は無言を貫く。レインが自分の中で出した結論を先ずは聞くつもりなのだろう。


「私は…いや、私達は戦場に出よう。一番強いものが指揮を取らねばならない理由はない。戦場に出て、全員を倒し、全員を救おう。それを天地が邪魔するのなら全力で倒すのみだ。」

「……ふふっ。」

「何が面白い?」


 額に手を当てて小さく肩を揺らす火日人を見て、レインはむすっとした顔をする。


「いや、やっとレイン君らしさが出てきたなと思ってね。」

「…私らしさ?」

「あぁ。レイン君、君は優しい。そして強い。だからこそ優しいが故に動けない事がある。それは相手を、仲間を思い遣るからこそだ。しかしだ、強き者はその力を持って全てを救う事が出来る可能性を秘めている。私はレイン君がその結論に至ったのが嬉しいんだよ。」

「火日人…ありがとう。」

「気にするな。君が決めた事に私も従おう。久々の実践が戦争とは皮肉な者だが、まだまだ私も錆付いていない事を見せようじゃないか。」

「あぁ。終わらせよう。私達の手で。」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 行政区陣営と北区陣営の攻防はクラックの独壇場となって一方的な展開になるかと思われたが、その実は一進一退を繰り返していた。クラックの攻撃は確かに攻撃力が高く、防御壁で防ぐのも次元魔法という特性上難しい。

 しかし、クラック1人の魔法に対して行政区陣営は数十人規模の連携を駆使して魔法を展開していた。これによって魔法の並列励起現象が発生して威力や範囲、強度の上昇が図られ、結果としてクラックの攻撃に晒されながらもなんとか場面場面で押し返す事に成功していたのだ。

 ここで露呈するのが北区陣営の連携力の弱さである。ダーク魔法学院という、特異な属性を有する者しか入学できない魔法学院の特性上だろうか。基本的にプライドが高い者が多く、授業も如何に自分自身の力を高めるのか…という点にフォーカスしたもので構成されていた。これが原因で仲間の魔法に合わせたり、補助したりという戦い方の経験値が圧倒的に不足していたのだ。勿論4人1組のチームで戦う為の授業もカリキュラムには取り込まれているが、あくまで授業として行なっているだけであり、同じチームの邪魔をしないように戦うという事を意識するに過ぎなかった。

 だからこそ、クラックという一点突破の強力な戦力を有しながらも行政区陣営を崩しきれないという事態が発生しているのだ。


「くそっ!奴ら…俺の攻撃を悉くズラしやがる。」


 連射した次元の矢を魔法壁【次元】によって軌道を逸らされたのを確認したクラックは、共に戦う者達へ指示を飛ばす。


「おい!奴らのど真ん中に風穴を開けてやる!1分稼ぐんだ!」

「「はい!!」」


 指示を受けた10人の魔法使いがクラックの前に立つ。そして、闇属性の魔法を中心に行政区陣営へ放ち、クラックの全方位を魔法障壁と物理障壁の10重展開を行う。

 行政区陣営はクラックの攻撃をうまく防ぎ続けているが、攻撃に関してはからっきしだった。放つ魔法は全てが簡単に防がれ、複数人による合同魔法でやっと対等に渡り合える程度。

 クラックの動きに危機感を覚えた行政区陣営は合同魔法を練り上げて放つが、それを予測していた北区陣営は防御ではなく攻撃によってそれを相殺。合同魔法が全て撃ち落された事で、行政区陣営の動きが一瞬止まる。

 そして…魔力を溜め終わったクラックの周りに5つの次元球が出現した。


「うっし。これで…いける。」


 次元球の輝きが増していく。


「お前らに恨みはないが…北区の、魔法街の為だ。悪りぃな。」


 どことなく悲しそうな表情のクラックだが、一切の躊躇いなく次元球から次元属性のレーザーが放たれ、それらはクラックの前で1つに収束し…極太のレーザーとなって行政区陣営へと伸びていく。

 その威力は…見るだけで強力な破壊力を秘めている事が簡単に想像されるレベル。

 行政区陣営の前衛部隊は急ぎ魔法障壁を合同で強化状態にて展開する。

 この激突が行政区陣営と北区陣営の戦闘の行方を大きく左右するものだと全員が理解をしていた。クラックの攻撃を防げるのなら行政区陣営が有利になり、防ぐ事が出来ないのなら…北区が有利になる事に間違いはない。

 そして、遂に次元魔法が魔法障壁へ突き刺さる。

 ドォンという大きな音が響き渡り、2つの魔法は貫かんと、防がんと鬩ぎ合う。魔法障壁が防ぎきれない次元魔法の余波が周囲の地面を破壊していく。

 互角。…クラックという1人の魔法使いと、行政区陣営の複数の魔法使いでやっと互角。しかし、過程はどうであれ対等に渡り合えているという事実が何よりもこの場面においては重要だった。

 このまま攻撃と防御の鬩ぎ合いが続くのかと思われたが、1人…余裕の表情で口をゆがめる人物がいた。


「はっ。この程度の攻撃で俺と対等と思われたら癪だぜ。跡形もなく消えちまえ。」


 クラックの周りに浮かぶ次元球がひと際強く発光し、レーザーに供給されるエネルギーが増幅する。そして、更に太さを増したレーザーの威力に耐えきれなくなった魔法障壁に無数のヒビが入り始める。


「エリートの集まる行政区と言っても、俺一人に対抗できないか。本当の実力者はほんの一握りって事だな。しかもそいつらが前線に出てこないんなら意味すらねぇ。…行政区っていうエリート集団に紛れて腑抜けたか?どちらにせよ、俺は北区を守るぜ。それが魔法街を守る事に繋がっからな。」


 更にもう一段階次元魔法のレーザーが太くなる。


「そんな…!?1人でここまでの出力を出せるだと…。」


 行政区陣営の誰かが小さく絶望の言葉を呟くが、魔法障壁が砕け散る音にかき消される。

 そして、次元エネルギーの塊が行政区陣営前衛部隊の数十人を呑み込んだ。

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