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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-5-2.募る不安

 消え去った中央区支部のあった場所を中心とした4区による戦闘は混迷を極めた。まず、霧が消え去った直後に上空から数多の魔法が各区へ降り注ぐ。これによって甚大な被害が発生し、他区への憎悪が増大。

 この降り注いだ魔法に対して、天地と戦って最前線に出ていた各区のトップ戦力が高密度高威力の破壊力を込めた魔法を撃ち合い、そこから五月雨式に数多の攻撃魔法が飛び交う。

 行政区はレインが後方へ下がり、他の魔法使い達が絶妙なコンビネーションを発揮。

 ダーク魔法学院を擁する北区は、教師であり炎の死神の異名を持つクラックを中心に他区へ牽制の攻撃を連発。

 シャイン魔法学院を擁する東区は先陣を切るジェイドを第6魔導師団が補佐しつつ安定的な戦いを繰り広げる。

 街立魔法学院を擁する南区は、戦闘開始時点で最前線にいたラルフは後方へ下がっていた。他の教師陣も下がった事で、レイラとララ、スイ、タム、クラウン、サーシャが中心となって他区の侵攻を防いでいた。攻め…よりは守りに傾倒していると言えるだろう。


 頼りになるメンバーが揃っている事に間違いはないのだが…今この場で戦うにあたってレイラは1つだけ懸念を抱いていた。

 それは…サーシャの存在だ。

 彼女は以前、南区にある魔具店『魔法の台所』の店主であるシェフズ=ソーサリが襲われた現場にいて、レイラ達へ容赦のない攻撃を加え…そして、天地のユウコ=シャッテンに救出される形で姿を消していたのだ。その翌日は姿を見せず…魔法街戦争が本格化した時には、いつの間にかいつも通りの様子で先頭に立って参加していたのだ。

 彼女が本当に天地の手先であるのならば…今ここで協力して戦う事はかなりの危険を伴う。本来であればもっと前にこの問題を取り上げるべきだったのだが、そんな暇を見つける間も無く第2次魔法街戦争へ突入してしまっていた。

 シェフズが襲われた一連の事件を知っているのが第8魔導師団とラルフ、リリス、ヘヴィーだけというのも問題だった。龍人や火乃花がサーシャと戦った時に、何かに操られているような違和感を覚えた為…一旦様子を見ようという結論になったのも、問題がここまで先送りになってしまった原因でもあった。

 ともかく、このままサーシャと共に戦って良いのか。それとも拘束すべきなのか。…レイラは判断に困っていた。拘束するにしても周りへの説明に時間がかかる。サーシャの様子はいつもと変わりがない。しかし、どこかで裏切られれば…南区は壊滅の一途を辿る可能性もある。

 思考が堂々巡りだが、勿論それだけを気に出来る状況でもない。なんせ…他区からの攻撃が止めどなく降り注いでいるのだから。


「レイラさん!このままじゃマズイっす!今の位置は攻撃にも防御にも中途半端っす。少しずつ前線を下げて防御寄りにした方が良いっす!」

「タム君…。でも、このまま守りだけにしたら押し切られちゃう可能性もあるよね?」

「それもそうなんすけど、この前線に集まっているメンバーがヤバイっす。北区は炎の死神クラック、東区は鮮血の爆風ジェイドと第6魔法師団の他3人、行政区はあのレインの訓練を受けた魔法使い達っす。正直、俺たち南区のメンバーだと役不足っす。せめてラルフ先生とかが前線に戻ってきてくれれば良いんすけど…。」

「そうだよね…。」


 消滅の悪魔の異名を持つラルフは、魔法街の魔聖に次ぐ実力の持ち主。その彼が前線に戻って来れば、他区の主戦力とも同等に渡り合えるだろう。

 龍人や遼、ルフト、ミラージュは行方が知らない状態であり…。


「あれ?…………そう言えば、火乃花さんとカイゼ君がいない気が……。」

「あ………。」


 レイラの気付きにララも手を口に当てて硬直する。


「え?火乃花さんとカイゼさんって任務でどこかに行ってるんじゃないんすか?」


 2人の様子に目を丸くしたタムからは当然の質問が投げかけられ…。


「おい。今の話…どういう事だ?」


 近くで無言で話を聞いていたスイが加わってくる。

 タムとスイから発せられる異様なプレッシャーに、レイラは無意識に足を後退させていた。


「え、えっと…レイラさんとカイゼ君は戦争を止める為に東区へ向かう担当だったんだ。それでね…帰ってきてないの。第8魔導師団で私1人がお留守番みたいな形だったから、いない事に違和感がなかったんだけど…良く考えてみたら今の状況で南区にいないのは…おかしいよね。」

「…それはおかしいっすね。」

「うむ。考えられるのは東区へ向かう途中で何かしらの事態に巻き込まれたか、東区で何かあったかだ。」

「うん…。あ、危ない!」


 火乃花とカイゼの安否へ思考が割かれたレイラ達へ上空から落雷が襲い掛かり、これに気付いたレイラが咄嗟に魔法壁を展開して防ぐ。


「レイラさんありがとっす!」

「く…安否が気になるが、ここで考えて動きを止めるのは得策ではないか。ララ、この後はどう動く?」


 スイの問い掛けにララは人差し指を唇に当てて思考を巡らす。戦争時において魔導師団が指揮を取るのは当然の話で、レイラよりも魔導師団歴が長いララは。が前線の指揮を任されていた。


「んー…タム君の言う通り、他区の前線で戦う人達は強者揃いだよね。力を合わせれば対抗出来るかも知れないけど……うん。一旦後方に下がりつつ様子を見た方が良いかも知れないね。」

「心得た。ならば、我はこのまま前線にて敵の追撃をできる限り防ごう。…レイラとタムも我と共に戦えるか?」

「一応レイラさんとタム君をここに残したい理由を聞いてもいい?」

「うむ。敵の攻撃を的確に防ぐ意味でレイラは必須だ。そして、タムの精霊を使ったマルチな戦い方も状況的に必要だ。」

「うん。それなら良いと思うよ。じゃあ…私とサーシャさん、クラウン君が一度下がって態勢を整えよう。」


 ララの意思決定により、全員が速やかに行動を開始する。


「この俺様が前線から下がったら活躍の場が無くなってしまうだろうが!?カッコよく戦い、モテライフ到来の計画が………ぐふぅっー!?」


 なにやら叫び始めたクラウンはニコニコ笑みを浮かべたララの拳を鳩尾に受けて沈黙。


「じゃ、お願いね。」


 そのままズルズルと引き摺られて去って行ったのだった。

 コントのような一コマを見たスイ、レイラ、タムの3人は顔を見合わせると気持ちを切り替えて頷き合い、右側に陣を敷く東区、左側に陣を敷く行政区へ視線を送る。

 現在は遠距離魔法による牽制に近い攻撃の撃ち合いが散発的に続いているが、いずれ本格的な戦闘へと移行するはずである。勿論近接戦闘も展開されるだろうし、多数の犠牲者も出るだろう。

 その前にどれだけ態勢を整えられるのかが焦点となってくる。


(………サーシャさんが後衛に行っちゃったけど、大丈夫かな?)


 敵の攻撃に直で晒される前線にいてもなお、レイラはサーシャの事が気掛かりだった。

 そんなレイラの表情から察したのだろう。タムが声を掛ける。


「レイラさん…もしかしてサーシャさんの事を考えてるっすか?」

「え…なんで知ってるの?」

「ラルフ先生から聞いたっす。魔法の台所のシェフズさんが怪しいって言ったサーシャさんが…シェフズさんを襲ったって話っすよね。」

「あ…うん。でも…私達はシェフズさんが襲われた瞬間は見てないんだ。状況証拠的にサーシャさんが濃厚なんだけど、絶対っては言い切れないよ。」

「でも、状況証拠的に他の人は考えられないんすよね?」

「…………うん。」

「そうなると、後衛でいざという時に内側から何かをされる可能性があるっすね。でも、今この場でそれを話して混乱を引き起こすのも危険っす。」

「そうだよね。私もそこが気になってて…。」

「これは提案なんすけど…。」


 サーシャについてあれこれと話し合うレイラとタム。一方でスイは横目で2人の様子を確認しつつ、基本的には口を挟まずに沈黙を保っていた。但し、その目線は鋭く…狩人のようにレイラとタムを一瞬だけ睨みつける。

 その一瞬に気付くことのない2人はサーシャという懸念事項についてどの様に対処するのかを話し続けているが…結果、大した結論が出る事は無かったようである。


「そうすると…先ずはこの場所で敵の攻撃を確実に防いで、何かあった時に臨機応変に対応するしか選択肢が無いっすね。」

「そうだね…。ちょっと不安だけど、タム君とスイ君が知ってくれてるってだけで少し安心かも。」

「…そろそろ良いか?お主達があれこれと話している内に敵も準備が整ったようだ。…来るぞ。」


 スイの言葉通り、各区陣営が本格的に動き始めようとしていた。

 不安材料を抱えながら、レイラ達は目の前の敵の対応に追われる事となる。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 最初に大きく動き出したのは、やはりと言うべきか攻撃的な姿勢を最初から貫いている北区だった。

 彼らが攻撃の矛先を向けたのは行政区。レインという魔法街最高戦力がいる場所であり、尚且つ連携力に富んでもいる強敵と言って差し支えのない陣営だ。それでも桁外れて突出した力を持つのがレインだけという…見方によっては短所となる点が、最初に狙ったポイントなのだろうと他の陣営は予想していた。

 そして、それは事実として露見する。

 ダーク魔法学院教師のクラックが次元魔法を中心に組み立てた攻撃が、行政区陣営を少しずつではあるが確実に押し始める。

 この2つの陣営の本格的な戦闘に対し、東区は戦力の3分の2を北区と行政区の戦闘地点への攻撃、残りの3分の1を南区への牽制で配置していた。

 そして南区はひたすら敵の攻撃を耐えるという防御を選択。

 …先ずは北区と北区と行政区の戦闘がどのように落ち着くのかが、ひとつの焦点となる事は間違いが無かった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 北区の先鋒を務めるクラックは行政区陣営にとって脅威の存在である。

 中央区支部を覆っていた霧が消えた時点でトバルとビスの2人と戦っていたレインは、霧の消失と共に2人の姿が消えたことを確認すると、行政区陣営に指示を飛ばしながら一旦は後方へ下がっていた。

 しかし、戦闘が行われている前線から届く報告は…どれも頭を抱えたくなるものばかりである。


「クラックの次元魔法が広範囲で爆発し、前線部隊の1割程度が負傷しました!現在負傷者の治療を行いつつ北区の攻撃をギリギリで防いでいる状況です…!」

「当方の攻撃が全く届いておりません!北区の前線部隊に防御壁系統のスペシャリストがいる可能性があります!」

「前線部隊の攻撃をクラックへ一点集中させます!彼を止める事が最優先です!」


 …とまぁ、こんな感じの報告が多く、圧倒的な実力を持つクラックを中心に戦場が動いている状況だった。

 この不利な状況を打開すべく、レインはとある人物と通信用の魔具を使って会議を続けていた。

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