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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-4-16.1つの決断

 拮抗していたかに見えたセフとラルフの戦いだが、幸いな事にラルフが多少なりとも優っているようだった。ラルフの攻撃に少しずつ押され始めたセフは、南区陣営の入り口側へ後退していく。

 この戦闘風景は、黒い忍者と戦う魔法使い達にも勇気を与えるものだった。天地という凶悪な団体の一角を担うであろうセフよりも、自分達の教師が強いのだ。士気が上がる。

 これまで黒い忍者とギリギリの戦いを繰り広げていた魔法使い達の目に宿る光が変わる。「勝てるのだろうか。」「生き延びる事が出来るのだろうか。」…そんな不安が漠然と心の奥底に蟠ったまま戦っていたのが、「勝てるかもしれない。」「生き延びたい。」「仲間を守る。」…そんなプラスに近しい思考へ変わったのだ。

 人は意識が変わる事で行動が変わる。行動が変われば効率が変わり、効率が変われば…発揮される力が変わる。それは戦闘においても同じ事が言える。同じ実力を有する者でマイナス思考な者は発揮できる力が良くて80%程度。しかし、思考がプラスならば発揮出来る力は100%に近づいていき、ともすれば100%をも超え得る。これまでの自分の殻を破る事で自分を超える事が出来る。

 この現象が…全員が自分を超えたとは言わないが…南区陣営の魔法使い達に起きていた。

 従って、これまで守りの要素が強かった戦い方から攻めの要素が大きくなる。攻撃は最大の防御という言葉がある通り…南区陣営は黒の忍者達を確実に後退させ始めた。


「よし!いけるぞ!」

「当たり前だ!素性の知れないやつなんかに負けるか!」


 ラルフの戦いぶりを見て強気になった仲間達を横目で確認しながら、黒い忍者を連続で切り捨てたスイは、自身も負けじと刀を構える手に力を込める。


(我の見立てでは黒い忍者は捨て駒。そしてセフが本命。…だと思っていたが、違うのか?)


 斬って霧散させても次から次へと現れる黒い忍者は、実力としては並レベル。天地が操っていたとしても弱すぎた。つまり、黒い忍者を囮としてセフが南区陣営の叩きに来たと予想していたのだが、ラルフに押されている様子を見ると、更なる隠し駒が控えているのでは…と邪推してしまうのだ。

 勿論、隠し駒という考え方にも疑問が残ることは否めない。セフという天地にとって幹部レベルの人物以上の隠し駒がいるのか…という疑問が。

 スイが漠然とした疑問…というか不安を持っていたとしても、戦況が止まることはない。

 そしえ、横から襲いかかって来た黒い忍者の後ろ回し蹴りを身を屈めて回避し、足払いからの斜め斬りあげで霧散させたスイは…ふと気付く。視界が薄っすらと白くなっている事に。


「これは…霧?」


 それは中央区を4分割する結界壁によって、南区陣営に侵入する事を防がれていた霧だった。視界を悪くする事は勿論のこと、魔力の流れを阻害する効果を持つ霧が入って来たという事は…このままではまともに戦えなくなってしまう危険性を孕んでいた。

 何よりも問題なのは…


「スイ!俺様の予想では南区陣営の入口付近の結界壁が破壊されたってトコだ!」


 偉そうに言いながら近寄ってくるクラウン。真面目に戦っていたのだろう。それなりに汗をかいており、濡れたパーマ髪がやや気持ち悪かった。


「クラウンか。我も同意見だ。そうでなければ霧が入ってくる事は無いはず。」

「だよな!俺様は入口に向かうぞ。さっきまでここより濃い霧の中で戦っていたが、魔法が使えなくならなかったからな!俺様は侵入者を倒して…モテる!」

「…魔力の阻害効果が消えているのか?」

「あぁ。俺様ほどの実力者になると耐性があるとみた!」

「いや…そんな簡単な話では…」

「ゴーゴーマイウェイ!モテモテロードまっしぐらだぜ!ヒャッハー!」


 両手を天に向かって突き上げたクラウンは中央区支部の方…つまり、霧の濃い方向へ走って行ってしまう。


「…我には理解が出来ん。」


 ボソッと呟いたスイは、周りに黒い忍者がいなくなった事に気づくと眉を顰め、少しの思考ののちにクラウンの後を追いかけるように歩き始めた。


(どうにも同じタイミングで色々な事が起きすぎている気がする。様子を見るのも手ではあるが…元凶が潜んでいそうな所に向かうのが得策だろう。)


 危険度が高いはずである霧の濃い方向…つまり中央区支部へ向かう事を決心したのには1つの大きな理由があった。それは、霧が南区陣営に入り始めてから敵方の攻撃が弱まった気がしたのだ。

 本来であれば自分達の放った霧の侵入に乗じて一気に攻勢を掛けるべき。しかし、現実には逆の現象が引き起こされている。それが南区陣営にとってプラスであれば良いが…もし、マイナスだと仮定をした場合に、事が起きる可能性が高い場所はどこか?を推測した結果、敵の本陣に近いであろう中央区支部へ向かうのがベターなのである。

 クラウンはモテるために強敵を倒すべく中央区支部へ向かい、スイはリスクヘッジの観点から同じ場所へ向かう。

 そして、中央区支部へ向かう動きは南区陣営の他の場所でも始まっていた。


 場所は南区陣営作戦本部付近。


 負傷者の治療を行っていたレイラとララの近くに、穏やかな笑みを浮かべなが近寄って来たのは街立魔法学院学院長のヘヴィー=グラム…魔法街最高戦力である魔聖の1人だ。


「ほっほっほっ。頑張っておるの。」


 魔法街戦争勃発前は各区へ裏から働きかけ、勃発後はすぐに魔法街に戻って南区の陣頭指揮を取っていたヘヴィーの顔には、やや疲れの影が濃く見える。

 しかし、その疲れを見せながらも他人を気遣う事が出来るのがヘヴィーという男の度量の大きさが伺えるというもの。


「連続で治癒魔法を使っていて疲れが溜まっていないのか心配なのである。いざという時に全力を発揮出来ないのは、戦場にいるものとして失格なのである。その辺りを踏まえた上で魔法を使うのじゃぞ。」

「はい。分かりました。」


 素直に頷くレイラ。一方、ララは口をチュンチュンさせて首を傾げていた。


「ヘヴィー学院長…私、分からない事があるんです。」

「なんじゃの?」

「それが…今回の戦争で誰が得をするのかって事なんです。」

「ほぅ…それはまた難しい話である。」

「でも、大事だと思うんです。」

「間違いは無いのである。ララはどの様に考えているのじゃ?」

「私は…南区には一切の得がないと考えています。ただただ消耗するだけですもん。それは行政区も東区も同じだと思います。今回の戦争のきっかけになった半獣人の襲撃と、魔瘴クリスタルに関しても…特定の区が得をするというよりも個人の得につながりそうな気がして…。」

「うむ。特定の個人となってくると、それを探し当てるのは困難なのである。しかし…その目線で見る事は必要じゃの。」

「そうなんです。この魔法街戦争は…ただ魔法街が疲弊するだけだと思うんです。」


 タダでさえあひる口なのに、更にとんがる事でアヒルたらこ口みたいになるララ。


「ならば…それを確かめるとするかの。天地の真意…をの。」


 突然天地という特定ワードを口にしたヘヴィーを驚きの目で見るララを他所に、ヘヴィーはゆっくりと歩き出してした。


「ヘヴィー学院長!天地は魔法街戦争に乗じて現れたんじゃなくて…首謀者って事ですか?」


 歩き去る背中に声をかけるララだが、ヘヴィーは振り向く事なく返事をする。


「それを確かめるのである。首謀者なのか違うのか、首謀者ならば…魔法街戦争の先に何を見ているのか。…嫌な予感がするのである。」


 ララはそれ以上追求する事が出来なかった。普段はおとぼけ爺さんのようにホクホクと微笑んでいるヘヴィーだが、今は違ったのだ。のんびりとした歩みだが、まとう雰囲気は鋭い刃そのものだった。


(私も…ここでずっと治療だけをしてる訳にはいかないよね。)


「レイラさん、私達も…前線に出ない?」


 この申し出はかなり意外だったようで、レイラは目をパチクリさせてララの顔をマジマジと見つめていた。


「ララさん…本気?私達がここから離れると治癒魔法の速度が大分落ちちゃうと思うよ。」

「うん分かってる。でも、ここでずっと治癒してるって言うのは…ただ守り続けてることにしかならなないよね。私達、魔導師団でしょ?」

「魔導師団…そうだよね。私、戦争って言葉に少し怖気付いちゃってたかも知れない。」

「うん。私も。…行こう?」

「うん!」


 こうして自分達も前線という危険な場所に身を投じる事を決意したララとレイラ。

 彼女達は後衛を務める他の魔法使いに負傷者の治癒を含めた後方支援を託し、霧の中に向けて歩み始めた。

 これが、魔法街の在り方を変える決断の1つになる事は誰1人として予想していなかった。

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