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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-4-13.凶刃

 南区陣営作戦本部に姿を現した男は、一目見るだけで記憶に刻まれるような凛とした美しさを身に纏っていた。触れてはいけない澄んだ刀身。…見る者にそんなイメージを抱かせる男は感情のない目で…いや、感情を読み取らせない冷酷な目で静かに歩く。

 姿を隠そうともしない男は、当然の如く南区陣営の魔法使いからすぐに姿を認められた。


「あの人は…!」


 そして、その男を見つけたのは幸か不幸かレイラだった。

 見つけた瞬間にレイラの全身を悪寒が走り抜ける。過去の記憶…サタナスに捕まり、魔力を搾取され続けた時に幾度か姿を見せた男。その冷徹な目は今でも忘れる事が出来ない。


(なんで…なんでセフ=スロイがここにいるの???)


 過去には龍人に瀕死の重傷を負わせたセフの実力は言わずもがな。今の龍人ならば対抗できるかも知れないが…レイラは自分がセフを止めるイメージを持つ事が出来なかった。

 しかし、このまま見過ごすことは出来ない。セフが攻撃を始めれば…ものの数分でこの作戦本部が地獄絵図になる事は確実に起こり得る未来である。


(どうしよう…私、…私が止めなきゃ…だよね。私…出来るかな…。)


 不安がレイラの心を蝕み始める。


(私…私は攻撃魔法使えないし…皆がいないと…1人じゃ…でも、でも、私が守らなきゃ……。)


 恐怖と義務感が鬩ぎ合う。劣等感も混ざり、レイラの心は少しずつ少しずつ沈み始めていた。

 足が動かない。腕が動かない。思考も動かず、ただただ浅い呼吸を繰り返すのみ。そこに優しい声が掛けられる。


「…レイラさん大丈夫?」


 その声に反応して視界が色を取り戻すと、レイラの顔を覗き込む様にしてララが目の前に立っていた。


「あ…ララさん。」

「大丈夫?顔色が悪いよ?」

「あ、う、うん。えっと……。」

「分かってる。あの…銀髪の人、敵だよね。」

「……うん。天地のセフ=スロイって人。」

「そっか。雰囲気が只者じゃないなとは思ってたけど、天地の人なんだね…。私達で敵うか微妙かも知れないね。」

「うん…。私1人だったら多分5分ももたないと思う。」

「じゃあ私とレイラさんの2人なら10分はもつかな?」

「どうだろう…。」


 不安げな表情のレイラを見てララはタラコ唇っぽくてチュンとした口をさらに尖らせる。


「そんなに強いんだね…。」

「龍人君じゃ勝てないくらいに強いよ。」

「あの龍人君が勝てないって中々よね。」

「だったら…私も………戦う………。」


 途切れ途切れの声に振り向けば、黒髪おかっぱ頭の女子が俯き加減で立っていた。だが、その目に宿る力は強い。


「サーシャさん…。」


 サーシャと呼ばれたおかっぱ女子は俯き加減のまま口の横をクイッと持ち上げる。


「ふふふふ…どうせ私は大した戦力にはならないけど…ほんの1秒くらいなら時間を……稼げるかも。その間に教師が到着すれば…まだ…結果は分からない。」


 果てしなく後ろ向きな発言だが、それでも諦めたわけではない…未来に繋がる希望を見据えた言葉に…レイラはハッとさせられる。


(私…何もしないで諦めてた。私…一瞬だけど自分1人しかいないって思っちゃってたな…。皆がそばに居て、皆が支えてくれて…だから私はここに居られるんだ。そうだよね。ここで後ろを向いたら…龍人君に笑われちゃうよね。)


 身体に力が戻ってくる。こんな時、龍人ならば臆さずセフに向かっていくだろう。それも、真っ向勝負に見せかけてのトリッキーな動きで相手を翻弄し、生じた好きに最大限の攻撃を叩き込む…そんなイメージだ。

 龍人とできる事は違う。だが、何のために戦うのか…その想いは一緒だという自信があった。

 仲間を守る為。いつだって龍人は人の為に戦っていた。他の人は気づいていないかも知れない。けれども、レイラは気付いていた。


(だから、だから…私も前を向かなきゃ!)


 グッと目を瞑ったレイラが。次に目を開いたレイラの顔に不安の2文字は消え去っていた。


「ララさん、サーシャさん…セフさんを止めよう。」

「勿論。」

「うん…やる……よ。あ、1人……教師を呼びに行って…もらったよ。」

「サーシャさんありがとう。あのね、セフさんの攻撃は凄い威力が高くて……、だから私が全力で防ぐから、2人は攻撃に専念して欲しいんだ。」

「分かったよ。じゃあ久々に本気でいこうかな。」

「うん。私も…やる。」


 女子3人は横並びに立つと、ゆっくりと歩み寄るセフと対峙する。


「…ふん。俺に立ち向かうか。」


 人を見下したような、感情のこもらない声がセフから発せられる。


「そうね。私達が止めるよ!」


 叫んだララを中心に光の線が出現する。高速でララの周りを旋回する光の線は、うねる動きを見せるとララの右掌に集約されていく。


「サーシャさん、私の攻撃に続けてね。」

「……うん。」


 サーシャがおかっぱ頭を揺らしてコクリと頷いたのを見たララは、右掌をゆっくりとセフへ向けた。そして、集約された光の線が荒れくるいながらセフに向けて放たれる。

 光の奔流…とも違う。それぞれ独立した光の線が不規則な動きで絡み合い、まるで1つの塊であるかの様に密集し、しかし決して1つになる事は無く…セフへ襲いかかる。


「…えいっ!」


 ララの攻撃を追いかける様にして、小さめな掛け声でサーシャが闇の砲弾を撃つ。

 光と闇。相反する2つの属性が容赦なくセフへ襲い掛かり…キィンという鋭い音が響くと光と闇は弾かれたかの様に霧散してしまう。


「えっ…!?」

「……強い。」


 驚くララと、冷静に分析するサーシャ。

 いつの間にか細長い刀身の刀を持っていたセフは、歩みを止める事なく近寄ってくる。


「……まだまだ!」

「…うん。」


 ララとサーシャは再び攻撃魔法を放つ。幾重にも折り重なる光の帯。目にも留まらぬ速さの点を主体とした光針の連射。巨大な闇の棍棒。闇のビーム。

 技巧を凝らした多種多様な攻撃が次々と放たれてセフへ襲い掛かっていく。

 そして…それら全てはセフの持つ刀の一振りによって無へと帰していた。


「他愛もない。下らない児戯に付き合う為に来たわけでは無い。」


 規格外。その3文字以外に表現のしようがない実力差だった。仮にも第7魔導師団の一員であるララの攻撃を簡単にいなすセフ。


「これは…想像以上だね…。」

「どうする……?私…攻撃する?」

「ララさん、サーシャさん…。」


 レイラは何も言う事が出来ない。回復や防御専門の魔法しか使えないレイラは、セフが攻撃してこない限りできる事は無い。いや、正確には支援魔法を使う事も出来る…が、今の結果を見ると効果が見込めるのか怪しい。更に、攻撃された時に支援魔法に魔力を使っていたから…そんな言い訳が現実になりそうな気がして、無駄な魔力を使う事が躊躇われた。


「終わりか?なら、俺が攻撃するか。」


 無造作に振るわれる刀。そこから何かが放たれて高速で飛来するのを感覚で察知したレイラが、条件反射的に魔法障壁を3人の前に展開する。直後、何かがぶつかり、爆発が巻き起こった。


「きゃっ!」

「うんっ!」

「わふ…!」


 女子3人は其々の反応を示す。同時に、魔法障壁に無数のヒビが走っていた。

 爆煙が収まり、視界が確保され始めると…だらりと刀を握ったセフが静かに立っていた。


「…今の攻撃を防ぐか。以前よりも成長したようだな。ならば…。」


 そこからは地獄だった。連続で振るわれたセフの刀から放たれる爆発のエネルギーが連続で飛来し、確認する間も無く次々と魔法障壁に突き刺さる。

 レイラが幾重にも重ねて展開した魔法障壁は連続して発生する強力な爆発の連続に次々と壊されていく。


「う…。」


 その魔法障壁を次から次へと展開し続けるレイラの体にも、少しずつダメージが通り始めていた。魔法障壁越しに伝わる衝撃が、間接的に体へダメージを蓄積しているのだ。


「レイラさん!私達も…!」

「駄目だよ!2人は反撃のチャンスを!ここで全員が防御に走ったら…負けちゃう!」


 レイラが必死に歯を食いしばって攻撃に耐える姿に居た堪れなくなったララが、防御結界を張ろうとするが…レイラはそれを止めていた。


「私も…そう思う。今、反撃できなかったら……私達は負ける。」


 サーシャの言う通りである。セフは見る限り実力の半分も出していないだろう。いや、もしかしたら10%程度かもしれない。

 つまりだ、手を抜いている今がチャンスなのだ。逆に今倒せなければ…レイラ達に未来は無いと言える。

 サーシャの言葉を聞いてその理由を察知したララは、歯を食いしばって魔力を溜め始める。来るべきチャンスで全力を発揮する為に。その横ではサーシャも闇の魔力を両手に集中させながら爆発の向こうを静かに見つめていた。


 絶え間なく爆発の音が響く。規則性も何もないセフの攻撃だが、ほぼ等間隔で着弾し続けていた。狙うのはこれが乱れる瞬間。その針の穴を通すような小さな変化のタイミングに全てをかけるしかなかった。

 そして、そのタイミングは我慢に我慢を重ねた結果…訪れた。


「今!」


 セフの放つ爆発の斬撃による着弾に乱れを察知したララが叫び、サーシャと同時に極限まで圧縮した光と闇の一撃を放った。


「戦闘経験が浅いな。」


 その声を聞いて、女子3人を驚愕が襲う。

 爆発の先に見えたセフの人影は…氷で出来た彫像だった。光と闇が彫像へ直撃し一瞬で消し去るが…セフは彼女達の左側に回り込んでいた。いつ、どのタイミングで移動したのか。どうやって斬撃を放ち続けていて…横にいる事が出来るのか。

 疑問が一瞬で脳内を駆け巡り、その次に最大音量のアラートが鳴り響いた。


「逃げ…!」

「遅い。」


 どうにかララとサーシャを守ろうと、レイラは魔法障壁と物理壁をセフと自分達を隔てるように展開しようとするが…結界が顕在化する直前にレイラ達の足元が爆ぜていた。


「きゃっ!」


 世界が回る。爆発の余波に吹き飛ばされ、揉みくちゃにされ…レイラ、ララ、サーシャは作戦本部の壁に激突して地面に突っ伏した。

 そこへ悠然と歩み寄るセフ。


「これも…運命か。あいつの言う通りになるのは癪だが、このレベルなら問題ないか。ならば、計画通りに…。」


 セフが小さく何かを呟いているが、その言葉は頭に入ってこない。全身を痛みが襲い…思考がまとまらなかったら。

 倒れるレイラは、霞む視界に刀を振り上げるセフの姿を見た。


(あ、私…もう駄目かも。……龍人君。)


 死を覚悟した時に出てきたのは、同じ第8魔導師団の龍人だった。恋心が故なのか、それとも違う何かがあったのか…。


 そして、銀色に煌めくセフの刀が振り下ろされた。


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