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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
884/994

15-4-8.思惑通り

 天地陣営による魔法街各区陣営への襲撃は奇しくも魔法街側が優勢となっていた。

 各区の状況を見てみよう。


◆東区陣営◆

 当初は子犬型のヒューマノイドキメラによる襲撃で打撃を受けた東区だったが、ジェイドの出陣で着実にヒューマノイドキメラを屠っていた。

 鮮血の爆風という異名は伊達ではなく、レイピアに纏わせる属性【爆】のエネルギーによって突き刺した相手を内側から爆発させ、属性【疾風】を駆使した風魔法によって吹き飛ばしていく。その戦いは一騎当千。風と共に舞う鮮血が精霊のように宙を踊り、1つのショーと錯覚させる演出になる。

 ものの5分も経たないうちに周囲にいたヒューマノイドキメラを一掃したジェイドは、目を細めながらレイピアの先端をサタナスへ向ける。


「この私相手に、この程度の魔獣…足りないな。お前の自信作だったか?お前が作った生き物だというのなら敢えて言おう。弱小生物を作って喜ぶお前は、ただの自己満足変人だな。」

「……くくく。」


 自慢の作品であるヒューマノイドキメラへの酷評、そして自分自身への明らかな悪口にも関わらず、サタナスは余裕の態度を崩さない所か…こみ上げる笑いを抑えられない様子である。


「何がおかしい…変人。」


 ジェイドは更に怒りを誘おうと敢えて変人と呼びかける。


「くくくくっ…!漸く僕の求める相手か現れた。あのヒューマノイドキメラを倒せない程度の相手では、僕の作品の真価を測ることは出来ないんでね。さぁ…試そうか。スピードに特化させたヒューマノイドキメラをね。」


 ナルシストチックに手を上げたサタナスは、小気味好い音で指を鳴らす。すると、ボコっと地面が盛り上がり…突き破るように4体の生き物が登場する。

 その姿は異形。二足歩行の全身は緑に染まり、腕から伸びる鋭い刃が特徴的か。だが、それ以外の部分は…最早どの動物を使ったのか分からないレベルで様々な部位が入り乱れていた。


「どうだ!?スピード特化タイプのヒューマノイドキメラだ。風魔法の使い手に匹敵する速度、そして同じ体を持つ4体のコンビネーションで切り裂かれるといい!」


 高らかに叫ぶサタナスが再び指を鳴らすと、4体のヒューマノイドキメラが同時に動き出した。


(…!?思ったよりも動きが早いか。初動の速さが異常だな。)


 レイピアを握る手に力を込めたジェイドは、敢えて前に出る。

 連携を崩すにはタイミングを崩すことが重要だ。下がるのでも、その場で待つのでもなく、相手の予想以上の速度で接近する事で当初の予定とは違うタイミングでの初撃が生まれ、それによって生まれる隙から突き崩していくのだ。

 属性【爆】を使用した事で赤く発光したレイピアとヒューマノイドキメラの刃が交錯する。

 衝突の瞬間に属性【爆】による爆破エネルギーが迸り、ヒューマノイドキメラに襲い掛かる。

 奇声をあげて焼かれた全身の痛みに身をよじる。…が、その体は次の瞬間には縦真っ二つに切り裂かれ、その間からもう1体のヒューマノイドキメラがジェイドに向けて突っ込んできた。


「な…!?」


 まさか仲間(ヒューマノイドキメラにその認識があるかは定かではないが)の命を切り捨てて攻撃をしてくるとは思っていなかったジェイドは、両手の刃から繰り出される連続斬りを辛うじて防ぎつつ個体する。


「シャア!!」


 着地と同タイミングで襲いくるもう1体のヒューマノイドキメラ。その2撃目と3撃目の合間に差し込まれる3体目のヒューマノイドキメラによる斬撃。


「く…ぬぉぉおお!」


 避けきれない事を悟ったジェイドは、自身を中心に鎌鼬の渦を発生させる。身を引き裂かれて吹き飛ばされるヒューマノイドキメラ。

 だが、終わらない。吹き飛ばされたヒューマノイドキメラの先に立っていた別のヒューマノイドキメラは、その腕から伸びる刃で突き刺して受け止める。そして…無造作に刃から引き抜くように投げ捨てると…


「キシャァァアア!」


 奇声とともに両腕の刃の先端を合わせ、エネルギーの塊を撃ち出した。

 その威力は高く、放り投げられたヒューマノイドキメラの体を突き抜けてジェイドへと迫る。


(また仲間を…!そしてこの攻撃は…属性無しか?」


 無詠唱魔法による攻撃だとすれば、レイピアで弾き、接近する事でカウンターの動きが可能…だが、ジェイドの直感が危険信号を発信していた。魔法壁や物理壁などの防御壁は基本的に空間に固定で出現させることしかできない。つまり、防御壁で防ぐか、ある程度の負傷を覚悟で攻撃をぶつける事で防ぐか、回避をしてタイミングが良ければ反撃をするかの3択である。

 この選択肢からジェイドが選んだのは、回避だった。普段のジェイドであれば相手の攻撃を突き破っていくのだが…今回に限っては得体の知れない気味の悪さが、直感の危険信号がその選択をする事を躊躇わせたのだ。

 近くに連れて異様な威圧感を増すエネルギーの塊に対し、ジェイドの取った回避行動は横に跳ぶという単純行動。だが、紙一重で避けるなどの行動をしなかった事が彼を救う結果に繋がっていた。


 パシュッ!ゴォォォォオ!


 エネルギーの塊が着弾したと同時に乾いた音がしたかと思うと特大の鎌鼬が発生し、着弾地点を中心とした空間を否応無しに切り裂いていく。


「これは…!?」


 驚きを隠す事が出来ないジェイド。属性を感じられなかった筈なのに、結果として起きた現象は属性【風】によるもの。しかも発生した規模から考えて属性エネルギーを隠すなど到底無理なレベルである。

 だが、現実に起きた現象はその常識を覆すものだった。これが示すところ…それは、サタナスが作り出した生物は、これまでの生物の常識が通じない存在であるという事。


 大した存在でないと侮っていたヒューマノイドキメラが、想像以上の能力を有しているという現実は…東区陣営における陣形に大きな影響を与える。

 攻め、攻め、攻め、倒せそうな所で新たなヒューマノイドキメラが現れ…攻め、攻め…この繰り返し。


 最初は4体だけだったヒューマノイドキメラも、気付けば其処彼処に出現しており、戦力差による優勢も既に失われていた。

 第6魔導師団のマーガレットやマリア、ミータもジェイドが視認できる範囲で奮闘している。各々の戦況はジェイドとさして変わらず…一進一退を繰り返していた。


「くくく…。僕のシナリオが崩れる事はあり得ないのさ。」


 サタナスの漏らす陰湿な笑い声は、戦闘の音によって埋もれ…東区陣営の人々の耳に届く事は無かった。

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