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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-4-4.北区陣営 死神と黒仮面

 黒の閃光が迸る。大気が震え、触れたものは悉く瓦解していく。


「ふふふふ。弱い、弱いですねぇ。魔法街で1番の強者が揃うと聞いていましたが…この程度なら、赤子を捻り殺すのと同義ですねぇ!」


 全身黒尽くめの人物は異様な姿をしていた。真っ黒のローブを羽織い、顔には漆黒の仮面。緑の曲線が彫られたそれは、怪しい呪術をイメージさせる禍々しさを見る者に感じさせる。

 無造作に振られた右手から迸るのは黒の魔力。それは待機を震わせて触れるものを衝撃で吹き飛ばしていく。その衝撃は北区陣営がここ数日で築き上げた建造物を容赦なく破壊する。


「弱い。弱い弱い弱い!肩透かし過ぎて笑えますねぇ。こんな程度ならばこの私が出向く必要など無かったですねぇ。ふふふ。彼に慕い付きそうあの女にでも任せれば良かったですかねぇ。」


 余裕の態度で黒の魔力による振動波を放つ黒仮面は、コキコキと首を鳴らす動作を行った。


「最早私がここにいる必要はありませんねぇ。さっさと目的を果たさせてもらいますよぉ!」


 黒仮面は両手を広げると、其々の掌に魔力を圧縮していく。

 その行動に危機を感じた北区陣営からは次々と攻撃魔法が飛来し、黒仮面に突き刺さるが…すべてが体に触れる所で弾かれていく。


「くたばって下さいねぇ!」


 ブゥゥゥンという低い振動音が響き渡り、黒仮面の両手の先にある空間が歪む。そして、その歪みを発生させている原因である圧縮された振動波が北区陣営の学院生達がいる地点に向けて放たれた。

 一瞬、世界が歪んだような錯覚を北区の学院生達は覚える。そして、次の瞬間には目の前に振動の波が押し寄せ…激しい音と共に彼らの目の前で弾かれ、停滞し力を失っていく。

 黒仮面に取っては不可解な現象。首をゆ~っくりと傾けながら黒仮面は肩を揺らす。


「クックっクック…。どうやら、先程の弱いという言葉は訂正した方が良さそうですねぇ。」


 そう言って黒仮面が視線を送る先には、悠然と歩み寄る大男の姿があった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 北区陣営作戦本部を出たクラックは、怒りに近い感情を発露しながらも、心の内ではほんの少しだけワクワクした感情も躍らせていた。

 第1次魔法街戦争に於いて、ラルフと共に戦い抜いた記憶は今でも忘れない。あの時、ラルフのライバルとまで呼ばれたクラックは最高に心躍る戦いを繰り広げていた。相対する者たちは各魔法学院でトップレベルの魔法使いばかり。その者たちと命を懸けた全力の戦いは…恐怖であり、また良き記憶でもある。

 魔法街戦争が終結し、本気での戦いをする場面が無くなったクラックは、後進の教育に全力を注いできた。それは有事の際に魔法街を護る為。そして、自分が本気で戦える魔法使いを育てる為…という気持ちがあったのは否定が出来ない。


 そして今…北区陣営に恐らくはクラックが本気を出せる…いや、本気を出さざるを得ない相手が現れた。


(俺の記憶が正しければ、機械街の闇社会に君臨する奴がいたはずだ。振動の魔法を使う残虐非道な奴ってのは覚えてる。んで、黒仮面を被った正体不明の人物ってのもな。もしそいつが天地に所属していて、ここに攻め込んできたんなら…俺以外に対抗できる奴はいねぇ。なら…やってやるさ。)


 北区陣営の防衛線に向けて歩くクラックは前方から聞こえる激しい音に眉を顰める。爆発などではなく、強力な衝撃に吹き飛ばされるかのような音。そして、瓦解する建物群。

 それは遠目から見ても強力な魔法が暴れまわっている事を確信させる光景だった。

 情人であれば恐れおののく光景に、クラックは笑みをこらえる事が出来ない。


(はっ。いいじゃねぇか。ウキウキする気持ちが抑えられないぜ。)


 戦闘狂…と表現したくなる様子ではあるが、そう簡単に戦闘狂と言ってしまうと他の戦闘狂の皆様に失礼にあたってしまうというなんとも微妙な具合である。 

 真っ直ぐ戦闘地点に向けて歩き、近づくクラック。

 その足取りは、クレジを視認できる場所まで到達すると止まる。クラックの視線の先では両腕をグネグネと動かしながら黒い魔力…振動波を暴れさせる黒仮面の姿があった。

 その暴れる姿をみてクラックは確信する。目の前にいる黒尽くめ黒仮面の怪しい人物が、機械街にて恐れられた闇社会のトップに君臨する…クレジ=ネマであると。ここまでの異様な姿と、強力な振動を操る魔法はクラックがうわさに聞いていたクレジ像とほぼ一致するものだった。

 クツクツと肩を揺らしながら蹂躙を続けるクレジは、魔法学院生数人が合同で放った属性【闇】によって生成された複数の剣をフワッという擬音そのままの動きで後方へ飛び退って避けると、余計な力を抜いた体勢で両の手のひらを学院生達に向けた。そして圧縮された振動波が解放…学院生達に襲い掛かる。


(おっと、この攻撃はやべぇな。)


 放たれた攻撃が秘めた威力を、肌で感じる魔力圧から驚異的な物だと判断したクラックは動き出す。

 右手に籠めた魔力を解放…そして、学院生達と振動波を隔てるように次元の断裂を発生させた。結果はもちろん次元の断裂が振動波を防ぐ。この程度の攻撃魔法を防げないようでは第1魔導師団に所属する資格がない。クラックからすれば当然の結果。

 黒仮面…クレジは肩を上下に震わせながらクラックへと視線を送ってくる…笑っているのだろうか。その視線を向けられた瞬間…クラックの背中を冷たい感覚が走り抜けた。

(こいつは…普通の敵じゃぁねぇな。命を懸けて戦う必要が有りそうだ。)


 緊張感で手に汗握りながら歩み寄るクラックへ視線を向けたクレジは…首をゆっくりと傾け、仮面の内側から聞く者の心を嫌悪感に陥らせる声を発した。


「クックっクック…。どうやら、先程の弱いという言葉は訂正した方が良さそうですねぇ。」

「そりゃぁそうだろ。俺がそんな弱っちかったらダーク魔法学院っていうネームブランドがズタボロだ。」

「ほぉ~ぅ。魔法街にある魔法学院の中でダーク魔法学院を擁する北区が一番強いと聞いてここにきて、余りにも手ごたえが無かったので心配していたんですよねぇ。魔法街なんて所詮この程度かと思っていましたが、どうやら…あなたの様な実力者がいる事から鑑みますと、なにやらこの弱さにも何かしらの事情がありそうですねぇ。」は

「けっ。なんとでも言ってろ。お前がどんな推測をしようが、それは全て無駄に終わる。」

「それはそれは面白い言い分ですねぇ。念の為…理由を伺いましょうかねぇ。」

「そんなん簡単だろ。お前はここで俺に倒されんだよ。」

「言いますねぇ。」

「そりゃぁ言うだろ。」

「ならば…それを証明して頂きましょうかねぇ。」

「後悔すんなよ仮面野郎。」

「そのお言葉、そのまま返しますよぉ。」


 挑発の掛け合いの末に訪れたのは静寂。そして、その次に訪れたのは振動と次元刃が激突する爆音。

 炎の死神の異名を持つ男と、破壊の黒仮面を持つ男が持てる力をぶつけ合う。

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