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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-4-2.行政区陣営

 色取り取りに輝く魔法が牙を剥いて次々と襲い来る中、トバルとビストはまるで最初から動きが決まっているミュージカルのステージのように全ての魔法を紙一重のタイミングで躱していた。

 ダンサーと、ダンサーをより素敵に演出する光の演出。…そんな風に見える1幕が上演されている。


「くっ…。全てを避けるというのなら、避けられない攻撃にするまで!全部隊、攻撃のタイプを点から線と面へ変更!先制の線と囲いの面で攻めるぞ!」


 行政区陣営指揮官の合図により、放たれる攻撃魔法の種類に変化が生じる。それまで属性矢などを中心としていた攻撃魔法は、属性刃などの線に、そして線と線を繋げた面の攻撃に。

 立体へと変化した攻撃により、パターンがより複雑化し、ダンスを踊るかのように舞っていたトバルとビストの動きはついに乱れを生じさせた。


「これは…避け続けるのは厳しいんですな!」

「ははっ!やるじゃねぇか!なら、こっちも変えるぜ!」


 不敵な笑い声を上げたトバルの手に魔力が集中したかと思うと、1本の槍が出現する。


「避けられないならブチ飛ばす!」


 クルクルと槍を回転させたトバルは、向かいくる立体の攻撃魔法に向けて槍を振るう。体の捻りを加えた遠心力を活かした高速の一撃。

 槍の穂先が魔法群に触れた瞬間、連続して爆発が巻き起こった。


「…お前達何者だ?」


 圧倒的な攻撃力で十数人の攻撃魔法を退けたトバルに対し、指揮官は警戒色を露わにしながら問いかける。


「あ、それを言い忘れてたな!俺たちは天地のメンバーだぜ!」

「ちょっ…それ言って良いんですかな?!」


 隣でビストがワタワタと慌てた様子を見せるが、不敵な笑みを浮かべるトバルはヒラヒラと手を振った。


「大丈夫だろ!俺たちが堂々と中央区支部の屋上に現れた時点でバレてるって。」

「確かに…それはそうだけど、素性を隠していた事で有利に物事が進む可能性だってあったんですな。」

「あーダメダメ。俺、そーゆー面倒臭いの苦手なんだよね。いつでも真正面から全力勝負!これに限るだろ。」

「…トバルがそういう性格だったの忘れていたんですな。」


 緊張感のかけらもない2人の様子に、指揮官は危機を感じる。2人対多数の状況でこの余裕感。槍の一撃でも分かるが…並ならぬ実力者である。果たして自分達でこの男達を仕留められるのだろうか…そんな不安が過ぎる。


「マズイ…このタイミングで防衛ラインが破られれば、他区に対して大きなアドバンテージを許してしまう。…ならば、出し惜しみすべきでは無いか。」


 諦めたかのように目を瞑った指揮官な右手を上に向けると光の帯を上空に向けて放つ。


「ん?なんだそれ?攻撃か?」

「今の何かの合図な気がするんですな。」

「…その通りだ。行政区という優秀な人材が集まるからこその力、見せてやる!」


 上空に放たれた光の帯は地上から50メートル程の所で止まると、シュンッと凝縮したかと思うと突然花火のように大きく弾ける。

 そして、弾けた光は小さな光の玉となってゆっくり地上にいるトバルとビストの上に向けて降り注いでいく。

 その様子を怪訝な表情で見つめるトバルとビスト。指揮官が何をしたいのかがさっぱり分からない…という表情だ。だが、その表情はすぐに驚きへと彩られる事となる。

 何故ならば、幻想的に降り注ぐ光の玉から数多の線が伸び、交差し…ものの数秒で巨大な立体型魔法陣を構築したからだ。

 そして、立体魔法陣が光り輝き、立体空間内に紅蓮の炎と灼熱の空気が生み出される。それらに襲われるようにしてトバルとビストは飲み込まれて姿が見えなくなった。


「どうだ…!前衛の魔法使い全員の同時操作による立体型魔法陣だ。この灼熱に焼かれて炭となれ!」


 灼熱空間となった立体型魔法陣の内部は赤に染め上げられ、漏れる空気が辺りを焦がしていく。

 これだけの熱量を伴う魔法の直撃を受けて、無傷で済むのは魔法街では魔聖くらいのもの。魔導師団であっても無傷はあり得ないレベルの威力である。

 いくら天地の構成員とは言え、無事に済むはずが無かった。


「よし!魔法の効果が切れるのに合わせて追撃を放つ!防衛部隊は防衛に専念!近接部隊は魔法陣を取り囲み、その他の者達は真上から直下型の魔法を叩き込め!」


 完全なる包囲と、逃げ場のない追撃、そして防御。

 大人数の連携による連続攻撃は確かにトバルとビストを追い詰めていた。…筈だった。


「はははははっ!いいじゃねえか!最高だぜ!」


 灼熱の赤の中から聞こえてきたのは、興奮の感情を乗せた笑い声。

 同時に結界型魔法陣内部を埋め尽くす赤に変化が訪れる。紅蓮の赤が埋め尽くす範囲が少しずつ小さくなっていき、それは凶暴な笑みを浮かべて姿を現したトバルの右手に凝縮されていった。


「魔法学院もない行政区は腑抜けの集まりだと思ってたけど、想像以上にやるじゃんか!いいねぇ。俺はこういうのを求めてたんだよ。少しは本気が出せそうだぜ。お前ら…俺に少しでも本気を出させたことを誇りに思えよ。」


 トバルの放つ気迫にビリビリと震える空気。場を緊張感が一瞬で支配する。

 そして、トバルの横に立つビストもこれまでとは違う雰囲気を纏っていた。


「トバル。もう遊ぶのは終わりなんですな。調子に乗ってたら僕達の任務が失敗するんですな。」

「勿論だ。やるか。」

「ですな。」


 タンッ!という軽快な音が響いたかと思うと…指揮官の横に立つ防衛部隊の1人が「ぐふぅぇ!」という鈍い声を漏らして吹き飛んでいた。代わりにその場に立つのはトバル。


「俺を舐めるなよ?」


 猛獣のような雰囲気を纏って言う姿は、見る者に畏怖を与える。

 赤の瞳は爛々と輝き、少しだけ上がった口角がニヒルな笑みとなっている。


「全部隊……ひっ!」


 指揮官は咄嗟にトバルから距離を開けて次なる指示を出そうと声を張り上げる。…しかし、一瞬で眼の前に詰め寄ってきた赤き瞳に覗き込まれ短い悲鳴を上げた。


「お前…指揮官なんだろ?って事は、この場にいる中で1番強いか、1番頭が回るって事だ。俺を楽しませろよ?」


 トバルの右手に輝くのは紅蓮の球。それが弾けるのを認めたのを最後に指揮官の意識はブラックアウトした。

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