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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-4-3.北区陣営

 今回の戦争で1番好戦的な姿勢を見せていた北区だが、実は戦力的に危機的状況に陥っていた。

 北区が擁するダーク魔法学院は属性【闇】を代表とする希少な属性を持つ魔法使いしか入学する事が出来ない。故に、北区の魔法使いは他区と比べると圧倒的に攻撃力や魔法力に秀でた魔法使いが多い。

 だからこそ、守りでは無く攻める事で護る事を選択していたのだが…。この第2次魔法街戦争が本格化したタイミングで大きな誤算が生じていた。


 …北区陣営作戦本部。

 作戦をするために幹部や学院生達が集まっている場所で、ガラの悪い声が発せられる。


「ったくよぉ、どーなってんだよ。」


 イライラの感情を孕んで言うのは髪先にパーマがかかった黒髪を中分けにしたガッチリとした体躯の男。ガラの悪い口調に加え、椅子に浅く腰掛けて作戦本部のテーブル上に足を組んで乗せるという素行の悪さ。高校生の番長…というよりも高校生のヤンキーグループのブレインを担っていた男がそのまま大人になったかのような雰囲気だ。180cmを優に超える身長に、ガッチリとした体格も相まって威圧感は半端ない。

 作戦本部の中が怯える子羊と狼…みたいになっているという案は、ほぼ満場一致で可決されるだろう。

 怯える学院生の1人が震える口を懸命に動かして報告を行なう。


「…そ、それが、第4魔導師団の消息は変わらず掴めていません。」

「ハァ…?バーカ。そんなの分かってんだよ。俺が知りたいのは調査で何の足取りも掴めてないのか…だ。つまらない報告で時間を無駄にすんじゃねぇよ。」


 機嫌の悪さを一切隠そうとしない様子に作戦本部は一瞬静寂に包まれる。しかし、大男はそんな僅かな時間すら許さない。


「だーかーら、報告しろって言ってんだろ?」

「は、はい!え…えーと、第4魔導師団の目撃情報ですが、一切掴めておりません。10日程前の魔法街戦争勃発の時点で姿に姿がみとめられておりません。」

「てぇーと…12月24日からどっかに行ってるって事か。」

「はい。それ以前の行動も調べたのですが、中央区支部の取り合いの際は北区内にずっと待機だった為、各々が自由勝手に行動していたようでして…。」

「なるほどな。ったく、チームワークのカケラもねぇな。」

「クラック先生…これからの行動方針は如何なさいますか?」


 大男…クラックと呼ばれたガラの悪い男は腕組みをして低い唸り声を出す。


「ゔーん…。攻めるにも守るにも決定的な攻撃力に欠けるじゃねぇか。何で第4魔導師団全員と…バーフェンス学院長まで姿を消すかね。ホント空気読めってんだ。」


 …そう。北区は主要戦力であるバーフェンス、第4魔導師団が不在だった。更に、第3魔導師団に関しては他星への任務に行っている最中に魔法街戦争が始まったせいで、魔法街に帰ってこれないという事態に陥っている。

 つまり、中央区支部を取り囲む4つの区で1番戦力で劣るのが北区という事実。他区にこの状況がバレていないであろう点だけが唯一の救いである。…これも恐らくという補足が付くのではあるが。


「…クラックさん。これは提案なのですが、攻めるのでは無く守りに徹しては如何でしょうか?北区が守りに入れば意外感からあらぬ詮索が始まり、他区の動きを鈍化出来る可能性もあるかと思います。」

「あ〜それもありなんだけどよ、今回は他の3区だけが相手じゃねぇんだ。忘れたのか?中央区支部に現れた奴らを。」

「……天地……ですか?」

「あぁ。」

「あの…本当に天地という団体は存在するのでしょうか?誰かの虚言が大きくなった仮想の団体ということは…。」

「それは無い。」


 ズバッと言い切るクラックに、部下は目をパチクリさせる。何故そこまで言い切れるのかが不思議なのだろう。

 その様子を見たクラックは思わずため息をついてしまう。


(ったく、魔法街戦争が終結した時に、変な情報統制なんかすっから…こーゆー無知な奴らが増えるんだよ。)


「いいか…良く聞け。レインが情報統制を行なったから知らないかもしれんが、第1次魔法街戦争を引き起こした原因は…今回と同じ天地だ。」

「……!?となると…魔法街統一思想集会でキャラクが言っていた事は事実になるということですか?」


 今の話からキャラクの言葉と結び付け、外的要因の天地がこれまで様々な暗躍を繰り広げていたところまで思考が及ぶところを見ると、どうやらバカでは無いらしい。つまり、第1魔法街戦争の根本的原因を知らないのは単純に無知が故の罪である。

 クラックはテーブルの上でクロスしていた足を組み替えると、肩をすくめた。その動きを見て近くに座っていた者達がビクッと肩を震わせたのはご愛嬌。


「その通りだ。確かに今は各区と戦ってんな。けど、同時に天地の奴らが攻めてきた時に備える必要もあんだよ。」

「……。しかし、それでは北区の戦力を考えると…。」

「だーかーら!困ってんだよ!ったく。北区のトップ戦力全てが不在とか意味わかんねぇ。」

「「「…………。」」」


 沈黙。もし、今ここで他区から攻められれば戦力的に大打撃を受けるのは避けようの無い未来。

 ガン!…と、作戦本部のドアが乱暴に開かれる。


「あぁん?」


 マナーのない訪問にクラックの眉が釣り上がった。自分の座っているマナーが最悪な事は、勿論棚に上げて…である。

 開け放たれたドアの所には、細い目をした細身の男…微妙にしっとりした短髪のパーマがなんとも言えない雰囲気…が肩で息をしながら立っていた。


「はぁっ…はぁっ…。」

「なんだよ?今、作戦会議中なんだけど?」


 イライラした様子のクラック。しかし、細身の男はその目に焦りの陰を浮かべながら慌ただしく口を開く。


「いきなりすいません!クロウリー=ラムフィズです!」

「…ああ…クロウリーか。確かアニソンオタクだっけ?」

「はい!1番好きな歌手は…って違います!襲撃です!」


 バキバキガタン!…と、足を乗っけていたテーブルを踏み潰してクロウリーを睨みつけるのは、勿論クラックだ。


「…どこの区の奴らだ?」


 空気が張り詰める。かつてラルフのライバルとも呼ばれた実力者のクラック。彼が怒り、戦うことを想像したその場の者達は思わず身震いをしてしまう。

 クロウリーも例に漏れず頬を引きつらせながら…やや震える声で報告を開始した。


「は…はい。えっと…敵は1人です…ひっ!」


 ガンメキピシッ!…と、クラックの右手が壁にめり込む。バリッと拳を引き抜き、無言で先を促す。


「えぇとですね、その人物なのですが全身真っ黒で顔も黒仮面を付けていまして…素性不明です。」


 クロウリーの具体的だが情報が少なく見える報告に、クラックは腕を組んで考察を巡らせる。


(…黒尽くめか。あのイケスカネェ銀髪野郎に付き従ってた奴も黒尽くめだったな。けど、仮面はして無かったか。仮面てかフードだったか?同じ奴が服装を変えたのか、他の奴か…。)


 そんな思考を巡らせていると、もう1人の学院生が血相を変えて飛び込んでくるなり、早口でまくし立てるように報告を始めた。作戦本部の雰囲気を確認する余裕すらない焦りようである。


「た、たタタタタ、大変です!襲撃者の攻撃によって最前線で防衛にあたっていた10名が負傷!死者はおりませんが全員が戦闘続行は不可能です!敵が使う属性は…恐らく属性【振動】かと!この作戦本部を目指して直進中でござる!あ…!ございます!」


 何故ござると言ったのか。

 こんな状況でなければツッコミが入るのだろうが、生憎今は緊急事態の最中。華麗に全員がスルーした。


「振動………。おい、マジか。前に聞いた噂と酷似してんな。」


 何かに思い当たったのか、突然立ち上がったクラックは肩を回しながら入り口に向けて歩き始める。その威圧感は、入り口に立っていたクロウリーが無意識に道を譲る程。


「クラック先生…まさか!?」


 学生の1人が困惑の声を上げる。


「そのまさかだ。ったく。襲撃野郎は学院生の手に負える相手じゃねぇ筈だ。俺が出る。」


 魔導師団と魔聖が不在の中、クラックは実質的に北区の最高責任者代理の立ち場だ。そのクラックがもし負ければ…最悪の結果が待っているのみ。

 しかし、10人の学院生があっという間に戦闘不能にさせられた事実を鑑みても対抗できるのは…恐らくクラックのみ。

 止める事が出来ない自分の実力の不甲斐なさに、その場にいる学院生達はギリギリと歯に力を込める事しか出来なかった。


 ラルフと同じ第1魔導師団に所属し、ラルフのライバル的存在でもあり、炎の死神の異名を持つ男が動き出した。

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