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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
877/994

15-4-1,中央区支部の乱

 各区陣営が魔法協会中央区支部を中心に4分割された中央区で睨み合いをきかせる中、1番最初に大きな動きが現れたのは行政区の陣営だった。

 中央区が4分割されたタイミングで各区のバランスを保つために西側に陣営を敷いた行政区は、攻めはせずとも完璧な防衛体制を整えていた。

 監視塔に索敵魔法、魔法壁と物理壁による奇襲対策、敵が姿を現した時にすぐ対処できるように常に20人の魔法使いが防衛ラインに配備されている。

 何よりも行政区は一定以上の実力者が多く集まっている事でも有名だ。ここに住み、働く者は各魔法学院で一定以上の実力か学力を持つ者に限られる。つまり、言わずもがなで他の区と比べて優秀な人材が集まる場所なのである。

 そんな行政区に戦闘を仕掛けようと考える区はいなかった。確かに東南北区には魔法学院が存在する。そしてその魔法学院から魔法街のために働く魔導師も選出され、彼らが4人集まった魔導師団も2つずつ存在している。そして、行政区には魔導師団は存在しない。

 そう考えると行政区よりも各区の方が戦力が高い気もするが、実はそうではない。


 行政区には元魔導師団のメンバーが多数存在しているのだ。ある者は省庁のトップとして。ある者はエリートとして名を馳せている。


 そして、実力者が揃っているという油断すら行政区陣営には存在しない。自ら指揮官として陣営に赴いているレイン=ディメンションがそれを許さないのだ。

 いつもは優しい雰囲気で皆を鼓舞するレインが、この戦争においては厳しめの表情で淡々と指示出しをしているのだ。それだけでのっぴきならない状況というのを行政区陣営の全員が理解していた。

 勿論レインが魔法街の最高責任者を務める魔聖という事実も、各区が行政区陣営を攻めることを躊躇う要因の1つである。

 レインの扱う属性は強力無比で、世論では4人いる魔聖で1番強いという意見が大多数を占めている。

 最初の魔法街戦争(今では第1次魔法街戦争と言うのが適切か)を終結に導いた英雄と呼ばれるレイン。その戦闘で各区の戦闘部隊を1人で次々と薙ぎ倒し…というここで話すと相当長くなる経緯を経て第1次魔法街戦争を収めている。

 その戦いぶりは最早伝説級。


 …さて、つらつらと行政区の凄さを述べてきたが、この行政区を攻めるのなら…他の区を狙った方が確実な成果が見込める。それは全ての陣営で共通の認識だった。

 だからこそ、2人の人物が霧の向こう側からゆらりと姿を現したのを見た時に、行政区の防衛ラインにいた20人の魔法使い達は「無謀な特攻をどこかの区が仕掛けてきたか」と思っていた。

 2人の人物はゆっくりと、しかし確実に防衛ラインに向けて歩いてくる。


「そこの君達!ここは行政区の陣営だ!間違ったのであれば速やかに引き返したまえ!そうすれば我々は攻撃をしない!」


 防衛ラインを任された指揮官の1人が拡声魔法で警告を発する。

 だが…2人の人物は歩を止める事は無かった。指揮官の言葉など聞こえなかったかのように、歩調には一切の乱れが見られない。


「おい!警告が聞こえないのか!?このまま進むのなら本当に容赦しないぞ!」


 警戒心を見せない2人の様子に違和感を覚える指揮官。それでも、ゆっくりと近付いてくるのを指をくわえて見ているだけという選択をすることはなかった。


「むぅ。何が目的なのか分からないし、2人だけで向かってくる事が引っ掛かるが…。全員攻撃用意!」


 相手の所属も分からなければ目的も分からない。もしかしたら和睦の使者という可能性だってあり得る。しかし、指揮官は躊躇わない。何故ならば、今は戦争最中だからだ。

 指揮官は静かに2人の動きを観察する。攻撃すべきかの判断をする為…では無く、どのタイミングで攻撃をするか…その最善のタイミングを見極める為に。


「今だ!撃てぇ!」


 2人の人物の体に魔力が溜まり始めたのを察知した指揮官は、攻撃の合図を叫ぶ。そして、行政区の防衛ライン最前線に詰める魔法使い達から迎撃魔法が次々と放たれ、雨のように降り注いだ。


「なんと…!」


 一定以上のダメージか足止めの効果を見込んでいた指揮官は…2人の人物が取った行動を見て驚愕の声を漏らさずにはいられなかった。

 黒髪の男と、赤髪の男…この2人が体の内側に溜めた魔力が膨れ上がったかと思うと、雨のように降り注ぐ魔法の中を行政区防衛ラインに向けて走り始めたのだ。


「こいつら…くそっ!撃て撃て!変則も混ぜながら攻撃の軌道を読ませるな!前衛10人は攻撃に専念!後衛10人は結界壁…魔法壁と物理壁をどちらも展開出来るように準備だ!待機部隊に援軍要請!近接部隊を前に出させろ!」


 黒髪と赤髪が並ならぬ実力者だと判断した指揮官は、矢継ぎ早に指示を出しまくる。

 近接部隊を選んだのは、彼ら2人が守るのではなく攻撃を避けながら突き進むという行動に出た事から、近接戦闘に長けた者だと判断したからだ。

 指揮官の指示通りに直線的な攻撃と曲線や折れ線、面などの変則攻撃が次々と放たれ…赤髪と黒髪の侵攻を阻む。2人は絶妙な体の使い方で確実に攻撃を避けていたが…それも圧倒的物量の前に限界を迎え直撃を受けてしまう。


「よし!一気に畳み掛けろ!後衛は5人攻撃!5人は結界壁のスタンバイ!近接部隊は…来たか。よし、近接部隊は前衛の前に付け!」


 動きが止まった2人へ15人の魔法使いによる攻撃魔法が集中し、数多の属性が直撃する事で属性同士の反発による爆発が起き始める。

 そして、近接部隊は目を薄めながらも爆発地点を凝視、少しでも相手方に動きが見えた瞬間に攻撃を仕掛けられるように、体から余計な力を抜いていた。更に、これらの攻撃が不発に終わり、思わぬ反撃を受ける事を防ぐ為に5人の後衛は結界壁展開をコンマ数秒で出来るように魔法を組み立てる。

 万全の攻撃と迎撃体制にて、攻撃魔法による結果を静かに待つ指揮官。

 そして…その結果は指揮官の予想斜め上をいく形で訪れた。


「ビックリしたんですなー!」

「ははっ!中々良い攻撃じゃねぇか!」


 元気な声を出して爆発の余韻から姿を現わす赤髪と黒髪である。反撃をするわけでも無く、単純に今の状況を楽しんでいるようにしか見えなかった。

 そして、それ相応の威力だった筈の攻撃を平然と退けた実力に行政区陣営では戸惑いが走る。

 その状況を知ってか知らずしてか赤髪の男は一歩前に出ると、指先を揃えて額の前に持っていき、ピット前に指をきるイケメン風挨拶をかます。


「よっ!ここ、行政区の陣営だよな!?」


 かなーりラフな態度に指揮官は戸惑いを隠せない。


「そうだが…。何が目的でここに来た!?」


 無駄のない応答に赤髪はニカッとこれまた爽やかな笑顔を見せる。


「そんなん単純だぜ!俺とビスト、どっちがお前たちを多く倒すかを勝負する為だぜ!」

「お前…我々を馬鹿にする気か!?そんな遊びに付き合う程日まではない!それに、お前たちに感嘆に倒されるほど、私たちは弱くはない!ノコノコと乗り込んできたことを後悔させてやるわ!」

「いいねぇその気迫。ぞくぞくするぜ。じゃぁ…正面切っての実力勝負といこうじゃねぇか!…俺の名はトバル=二アマ!」

「え?あ…えっと僕の名はビスト=ブルートなんですな!」


 突然のトバルの自己紹介に慌てたビストも続けて自己紹介を行った。

 この律儀な鼓動に行政区陣営はただただ戸惑うばかり。


「…お前たち、名前を名乗ってどういうつもりだ?」

「そんなん簡単だろ?正々堂々と戦う相手には名前を名乗るのが礼儀ってもんだろ。」

「…はっ。気取っていやがるな。お遊びに付き合ってはいられん。全部隊!!攻撃!!」


 指揮官の喉から攻撃の合図が迸る。


「「「うぉぉぉお!!」」」


 数多の属性が色取り取りの花火のように煌めきの尾を引きながらビストとトバルに向けて飛翔していく。


 そして…指揮官は確かに見た。

 数多の煌めきの向こう側で、トバルの口元が邪悪に歪む瞬間を。

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