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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-3-5.天地に属する者達

 魔法街中央区支部の屋上に出現し、大量の濃霧を発生させる魔法陣の発動を終えると黒髪の青年はホッと息をついた。

 見た目はThe優等生。短い前髪は立てたり流したりする事なく真っ直ぐ下ろされ、眼鏡を掛けた左目の下ににはどこか可愛らしさを感じさせるホクロがあった。


(ふぅ。ここから暫くは様子見ですね。)


 彼の名はテング=イームズ。今は天地に所属しているが、元は機械街のヒーローズに所属していた。今はヒーローズと天地、魔法街とトリプルスパイのような役割をこなしている。

 天地の任務で魔法街に潜り込んだテングは、優秀な学力と実力を買われ、魔法協会中央区支部に就職。その後、天地の科学者サタナスが行なっていた合成獣の実験に関わっている事をルフトとミラージュに察知された結果、昇進という名目で行政区魔法協会本部星間交易課に異動。厳しい監視の目の中仕事を行うことを強制されつつも、監視の目を潜り抜けながらスパイ活動を続けている実力者である。

 そんなテングだが、今はなんとも言えない葛藤の中でスパイ活動を続けていた。彼が天地に所属した理由は、機械街に巣食う闇社会…クレジ=ネマを筆頭とした組織…の情報を天地より仕入れてヒーローズに流す事。

 しかし、そのクレジは現在天地に所属しているのだ。なんと機械街紛争の際にクレジは機械街を捨てて天地へ加入していた。

 天地に所属をした理由であるクレジの天地への所属…どんな因果なのかと最初は頭を抱えたテングだが、後にポジティブな思考に切り替わっていく。

 仇敵であるクレジが近くに居るのであれば、ダイレクトに機械街に関わる情報を仕入れる事が出来る。そうすれば闇社会の行動をより効果的に妨害していける…と。

 しかし、天地に入ったクレジは一切機械街に関わる行動を見せることは無かった。…つまり、テングの行動計画は次々とクレジによって崩され続けているのだ。

 こんな状況で完全にモチベーションが落ちているのだが、それでもテングが所属しているのは天地という団体。リーダーから所属している価値を見出されなくなれば、それだけで除名…この世からの抹殺をされてしまう。

 だからこそ、今回の魔法街における作戦への参加を指名された時にテングは逆らう事なく首を縦に振っていた。

 全ては、故郷である機械街を守るための選択だ。


(今回の作戦は…かなり大胆ですね。流石に彼が考える作戦は僕の発想力を越えています。)


 そもそも、今回の作戦を行うにあたっての仕込みの規模が…。


「フッフッフッ…テングクン、そろそろアレが始まる時間だよ。」


 物思いに耽っていたテングに話しかけて来たのは、ラーバル=クリプトン。元魔商庁長官の高官である。ロジェス=サクリフという男を使った実験の後に魔法街離れ、天地のブレインとして今は活動をしている、テングからすると狡猾という評価がしっくりくる人物だ。


「もうそんな時間ですか。…上手くいくと良いんですが。」

「何を心配している?天地の主要戦闘員が動くのだ。上手くいかない筈がないだろう。」

「そう思いたいんですけど、各区には魔聖がいるんですよ?」

「ふん。君はまだまだ理解が乏しいな。私達のリーダであるヘヴン=シュタイナーがその程度の事を考えない訳がないだろう。」

「そうですけど、でも魔聖が動く事を防ぐのは出来ないですよね。」

「だからこそ今回の作戦があるんだよ。大多数が動く事で個はその力を制限せざるを得なくなるんだ。」

「そうなると良いんですけど…。」

「ふんっ。心配性だな。」


 考え込むテングを見て鼻を鳴らしたラーバルは、片手をヒラヒラと振りながら歩き去って行った。


(この作戦が成功すれば…きっと魔法街は壊滅的な被害を受ける。…僕が守りたいのは機械街だ。魔法街がどうなろうも知ったことでは…ない。)


 葛藤を抱えたまま作戦の開始を待つテング。その反対側の場所では1人の青年がやる気に満ち溢れていた。


「よしっ!やるんですな。平和な世界を作るための大きな一歩なんですな!」


 右に流した黒髪と、彫りが深くパッチリとした目からあどけなさを感じさせるこの男…名前をビスト=ブルートという。

 彼もまた機械街出身であり、クレジとほぼ同じタイミングで天地に加入したメンバーだ。

 とは言え、クレジと同じ闇社会に属していたわけではない。何の因果か…彼もまたテングと同じヒーローズに所属していた1人だ。しかし、テングとは違い…ビストは自分が育った孤児院の子供たちを裏切ったという罪悪感に負け、皆が笑いあう世界を作る為に天地への所属を自ら申し出ていた。

 ビストの隣に立つ男…額に赤バンダナをまいた赤髪の青年が、ビストのやる気に満ち溢れた言葉を聞いて楽しそうに笑い声を上げた。


「はははっ!いいねぇいいねぇ!これから始まる戦いの宴を想像するだけで俺の血が騒ぐぜ!」

「トバルは相変わらず戦闘が好きなのですな。」

「勿論よ!その為に天地にいるんだからな。それよりも…龍人と戦えるのか?」

「…そこは少し悩みはしたんですな。けど、僕も龍人も掲げる目的は同じなのですな。それなら、僕が勝っても、龍人が勝っても導かれる結果は同じなのですな。なら、より確立の高い方が進んでいけば良いと思うのですな。」

「なるほどな。確立が高いのは、それを実現しうるに値する力を持っている方って事か。だったら全力で叩き潰しかないな!」

「ですな。最初から全力でいくんですな。トバルには負けないんですな。」

「おっ?俺と勝負するつもりか?なら、どっちの方が相手を沢山ぶっ倒すか勝負しようぜ!」

「いいですな!負けないんですな!」


 様々な悩みから天地に所属したビストだが、組織の中で楽しくやっているようでもある。やや戦闘狂寄りの正確になりつつあるような気がするのは、恐らくきっと多分トバルによる影響だろう。


 天地の面々が着々と準備を進める中、この組織を束ねる人物…ヘヴン=シュタイナーは中央区支部屋上の中心地点で胡座をかいて座っていた。

 目を閉じて座るヘヴンは静かに、静かに座り続けていた。

 彼の周りにはゆったりとした魔力が漂っている。それは暴力的なものではなく、どちらかというと優しさを感じさせるもの。

 そして、天地のメンバーは誰1人として彼の近くにいなかった。天地のリーダーがこの場にいるという事は、彼の命を狙う者が奇襲をかけてくる可能性が非常に高い。それだけの怨みを買う事を星々で繰り返して来ていた。ただ、その危険を承知の上でヘヴンは周りに人を置いていなかった。

 理由は2つ。

 1つは例え奇襲を受けたとしても返り討ちにできる自信がある事。曲者でツワモノ揃いの天地をまとめているのだ。生半可な実力である訳がなかった。実際に彼の部下であるセフは1人で森林街を壊滅させるほどの実力者。クレジは機械街の街主であるエレク=アイアンと同等かそれ以上の実力を有する。ビストは獣人化【獣王】を操る…龍人と同じ里の因子を受け継ぐ者。サタナスはイカれた実験によって新たな魔導生物を生み出すマッドサイエンティスト。

 こういった者達が集い、大人しくヘヴンの指示に従っているのだ。それだけで彼の実力を想像する事は堅くない。

 そしてもう1つはこれから行う作戦は一人一人の立ち回りが非常に重要で、護衛として側に置く程勿体無い事がないという事実。適材適所で最大限のパフォーマンスを演出するヘヴンならではの人員配置であった。


「………。ふぅ。」


 しばしの沈黙の後、薄く、ゆっくりと吐かれた息と共に小さな声が漏れる。

 そして、閉じられた瞼がゆっくりと開いていき、中で爛々と輝く真紅の瞳がその存在を露わにした。


「さてっ☆機は熟したかな。」


 それまでの静かな瞑想からは想像しにくい明るい口調のヘヴンは…胡座をかいて座ったまま右手を上げ、パァン!と指を鳴らした。


「ショータイムの始まりだね☆。」


 天地による魔法街への大規模作戦が本格始動する。

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