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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
874/994

15-3-3.中央区支部

 静まり返った室内。電気は消えていて薄暗く、壊れた壁の外側から入ってくる光が部屋の中に舞う埃を強調している。

 廃墟の一室…と表現してなんら違和感の無いこの場所で、2人の人物が床に座り込んでいた。

 額を流れ、顎へ伝った汗が滴り床を濃く染める。

 部屋のドアは閉まっているが、外側からは何かが砕かれる音が微かに忍び込んできていた。


「…はぁ、はぁ。大丈夫?」


 座り込んだ男が息を切らしながら隣にいる女へ声を掛ける。


「…大丈夫なんだよ。ルフトちゃんこそ大丈夫?」

「なんとか…ね。」


 ルフトとミラージュは疲弊していた。これまでどんな任務を遂行しようとも、ここまで消耗した経験は無かった。


「…中央区支部に侵入してもう1週間経つけど、全く対抗策が分からないね。」

「ホントだよっ。私、こんなの初めてだよ。」

「なんとか…なんとかしないとマズイね。それに、なんであんなのがここににいるのかも解明しないと。」

「うん。そもそも、あれが何なのかも分からないんだよ。」

「だね…。未知すぎて困っちゃうよね。」


 2人は遭遇したものを思い出し…ブルリと体を震わせた。


 ドン!!


 突然部屋のドアが叩かれる音が響く。


「…また来やがった。」


 ドン!ドン!ドンドンドン!ドンドン!ガン!


 連打されるドアは少しずつその形を歪めていく。そして、激しい音ともに内側に吹き飛ばされてしまう。ドアが無くなった場所に立っていたのは、スーツ姿の男だった。

 この男の姿を認めたルフトとミラージュは体を強張らせる。その男は、例えば服がボロボロに破けていて皮膚が腐り、髪は抜け、片腕が捥げ…というゾンビの様な出で立ちとは程遠い外見をしていた。

 少しばかしよれたスーツを着る男は、一見すると仕事のできるサラリーマンといった出で立ち。しかし、違和感を感じさせるのは表情だ。

 サラリーマンが表情に浮かべるのは…憤怒。それだけなら良いだろう。だが…一切崩れることのない永遠なる忿怒の形相。人はそこまで同じ表情を続ける事は出来ない。それを続けているのだ。…初めてルフトとミラージュが遭遇した1週間前からその表情が崩れた所を2人は見た事が無い。


「ゔ…お前らばごの俺がだおず。」


 まともな発音が出来ない憤怒サラリーマンはドシっドシっと重い一歩を進める。


「…ミラージュ。あの攻撃に立ち向かうのは危険だから、吹っ飛ばして逃げるよ。」

「分かったんだよ。ルフトちゃん捌きをお願いね。」

「オッケ!」


 警戒しながら作戦会議をする2人に向けて、憤怒サラリーマン両手を向ける。ブゥゥンと魔力が両手に集中し、周りが歪む。高密度の魔力によって光が屈折しているのだ。これは並大抵の魔法使いに出来る芸当では無い。ましてや、彼は…魔法協会中央区支部の職員。このレベルで魔力を持ち、操れるものであれば中央区支部職員よりも要職に就けるはずである。これを鑑みれば、余程性格などのパーソナリティに問題があるのか…第2次魔法街戦争が始まってから何かしらの影響で力を得たのか…という事になる。

 謎が謎を呼ぶ憤怒サラリーマンだが、今はその考察を進める余裕は無かった。両手に集中した魔力が媒体として風属性の魔法へと昇華したのだ。生成されるのはシンプルな拳大の風塊。但し、超高密度。


「吹きどべ。」


 バスッという乾いたような重い音と同時に風塊がルフトとミラージュのそれぞれへ放たれる。


「…らあぁぁ!」


 気合の声と共にルフトは魔法障壁【風】を展開し、風塊の軌道を自分達の左右に逸らしていく。結果は成功。物凄い風圧を撒き散らしながら風塊は横を通り抜けていき、部屋の壁に衝突。触れた壁の部分だけを円状に綺麗に破壊しながら建物の外へ消え去っていった。


「行くんだよっ!」


 ルフトが風塊を捌く横でミラージュは薄紫の星型宝石が付いた杖を取り出して憤怒サラリーマンに向けていた。防御はゼロ。ルフトが防いでくれると信じるからこそ、動作の全てを攻撃に向けていた。

 魔力が杖を媒体として介し、光魔法へと昇華。数多の星型光魔法が杖の周りに現れ、光の奔流となって憤怒サラリーマンを呑み込んでいく。


「ぐ…うゔゔゔゔぁぁぁ!!


 苦しそうな声を上げながら憤怒サラリーマンは吹き飛ばされ、入ってきたらドアから部屋の外へ姿を消していく。


「よし。別の部屋に逃げる!」

「うんっ!」


 ルフトとミラージュは疲れた体に鞭を打ち、別の安全な場所を求めて移動を開始した。





 10分後。2人が辿り着いたのはホールだった。魔法街統一思想集会が行われたホールである。誰も人がおらず、電気も消えているガランとした空間は薄暗く、地味に気味の悪い雰囲気を感じさせる。死角からの襲撃に合わないように観客席の端に座った2人は、探知結界を周りに張り巡らせながら状況の整理を行っていた。

 因みに、どんな状況でも軽いノリのスタンスを崩さない2人の会話は深刻さが薄い事を…予め伝えておこう。


「ミラージュ、この中央区支部の状況はどう考えてる?」

「んー。私ね、普通じゃ無い何かの力が作用していると思うんだよっ。」

「その心は?」

「明らかに普通の人間じゃないでしょ?魔力の溜まり方なんて魔法学院の教師クラスだもん。」

「そうだよねぇ。異常な強さに加えて、麻薬でも使ったのかってくらいに挙動もおかしいよね。」

「でしょ?そうすると…私達は挙動不審の原因を掴まなきゃなんだよ。」

「…1つ心当たりがある。前に龍人と遼がギルドの依頼で異様な形相の男と戦った事があるらしいんだ。んで、俺たちを追いかけてきてる憤怒サラリーマンみたいに表情が変で、恐怖を感じるレベルの威圧感みたいなのがあったって言ってた。」

「それ、似てるね。」

「でしょ?でね、最後にその男の体から靄みたいなのが出て、普通に戻ったんだって。」

「ふーん…だとするとその靄の正体が分かってるかが大事なんだよ。」

「まぁそれが明確ではないんだけど、龍人と遼は思念体じゃないかって言ってたね。」

「…思念体。私、噂程度にしか聞いた事が無いから全然分からないんだもん。もうさ、一気に強行突破とかどうかなルフトちゃん?」

「駄目でしょ。支部長室前の警備具合凄かったの忘れたの?憤怒サラリーマンが一杯だったしねっ。」

「えー、でも憤怒じゃなくて悲壮とか爆笑とかもいたもん。」

「そう言う問題じゃなくて…………あ。」


 ルフトは何かを思い出したのか手をポンッと叩く。


「分かった!倒すんじゃなくて、支部長室のドアを開ける事を最優先にすればイケる!」


 ニカッと笑うルフト。

 無謀な雰囲気が漂うが…それを聞いたミラージュもニカッと笑う。


「流石ルフトちゃん!コソコソするんじゃなくて堂々と侵入するわけだね!私、大賛成なんだよっ。」

「そうと決まれば…やりますかね。」

「うんっ。」


 先程までの疲れきった雰囲気を微塵も感じさせないで立ち上がったルフトは、丁度ホールに入ってきた憤怒サラリーマンを見つけ…悪餓鬼の様な表情を浮かべるのだった。

 自由奔放な風使いと、自由奔放な光使いのドタバタ劇場が開幕する。

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