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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-3-2.防衛体制

 再び場面は南区へ戻る。ラルフとキャサリンが合流した南区陣営は、急ピッチで天地や他区からの攻撃に備えた準備を進めていた。

 まず、中央区支部から伸びた結界壁の出入口…ハの字の上の部分には属性【地】を駆使して高台と櫓の組立を行い、遠方の動きを監視する。まぁ霧の所為で意味があるかは微妙だが。

 ハの字に結界壁が伸びているだけだと隣の区と隣接していて襲撃の危険が…と思われるかもしれないが、ねずみ返しの様に上部には垂直に結界壁が展開されている。つまり、Tの字の様になっているのだ。

 こういった事情から、簡単に横からの奇襲を受けにくい造りにはなっている。逆を言えば他区の状況把握が霧と相まってかなり困難という事だ。

 周りに指示を出しながら中央への入り口に到着したラルフは、負傷者の手当てをしているレイラへ声をかけた。


「よっ。中央の偵察はどうだった?」

「それが…霧の中に入った瞬間に魔法の制御が難しくなっちゃったみたいなんです。」


 可愛らしい困り顔を見せるレイラの横顔に見惚れる治療中の学院生は、ラルフのニヤニヤとした目線が向けられている事に気付くとハッとなって報告を始める。


「えっと…魔法の制御が急に難しくなりまして、なんというか…魔力の流れが歪む感覚でした。」

「成る程な。それで無力化された所を襲撃されたのか。無詠唱魔法で身体能力強化をしてもなんとかならなかったのか?」

「それが襲撃者の姿が見えませんで…。気付いた時には殴られたような衝撃で吹き飛ばされていました。それに、無詠唱魔法は使えなかったんです。」

「マジか…。」


 魔法の基礎である無詠唱魔法を使う事が出来ないと言うのは、余程の武芸に秀でていなければ魔法使い相手に立ち回るのは不可能に近い。

 何よりも気になるのは…。


「相手の姿が見えなくて、殴られたみたいな衝撃で飛ばされるとか確実に魔法による攻撃だろ?」


 ラルフの言葉にレイラがハッと目を見開く。


「そっか。そうなると霧の中で魔法を使える条件があるんですね。」

「だな。それが条件なのか能力なのかは分からないが、それを見つけない限り…どうにもならないな。」

「そうなると、もしあの霧が結界壁の内側に入ってきたら…かなり危険ですよね。」

「敵さんが霧の中でも魔法を使えるんならそうなるな。俺だって魔法が使えなけりゃただのデブだし。」

「ですよね…。」

「…否定なしか。」


 今置かれている状況がかなり厳しい事に黙り込んでしまうレイラと、「ただのデブだし」という自虐を肯定されて地味にヘコむラルフ。何ともシュールな光景である。


「ひっひっひ。」


 そこに近付く1人の人物。怪しい笑い声と共に肩を揺らしながら歩く姿は変人そのもの。


「お、キタルじゃねぇか。」


 ラルフに来ると呼ばれた白衣の男は、目線を霧に向けたまま肩を竦める。


「この霧は厄介だねぇ。魔力の流れを阻害するだけじゃなく、弱体化の効果もありそうだよ。君、霧の中に偵察で入った時に体が重くならなかったかい?」


 キタルに問われた学院生はハッとした表情をする。


「そう言えば…無詠唱魔法を使えないからかなと思っていましたが、霧の中に入った瞬間に体が重くなった事を覚えています。」

「…うん。ほぼ確定だろうね。あの霧の中では弱体化が作用しているねぇ。」


 確信を持って頷くキタルを見て、ラルフは困ったように両手を頭の後ろで組む


「キタル、そうするとどうしたら良いんだ?あの様子だと風魔法で霧を吹き飛ばしてもすぐに復活しそうだろ?今はこっちの陣営内に入ってきてはいないけどよ、このまま陣営内に入ってきたら…まじでヤバいぞ。」

「そこは大丈夫だと思うね。僕の見立てだとあの霧が入ってこないのは結界壁が防いでいるからだと思うんだ。これほどの大きさの結界壁だ。結界が無いところでもある程度の効果作用は見込めるからね。

「なるほどな。って事は、どうやって他の区とコンタクトを取るかが重要になるな。」

「そうは言うけど、どうするつもりなのよ?」


 腕を組んだキャサリンが鋭い目付きで問いかける。それもそうだろう

結界壁を超えて隣の陣営に行くことも出来ないのだ。転移魔法を阻害する効果があるのか、ラルフが何度か転移をしようとしたが何故か結界壁の前に出てしまったらしい。

 更に、他の区へ向かうために通る必要がある中央は霧が支配する空間。ちょっと間違えれば敵から奇襲を受けて負傷してしまう可能性があった。


「ん〜判断が難しいところだな。このままここにいても何も変わらないし、リスクを冒して中央に入って他の区へ着いたとして、歓迎されるかも分からないだろ。…動きようがないんだよな。」


 全員が考え込んでしまう。現状を打破するためには圧倒的な魔法によって敵…天地の目論見を崩す必要があるのだ。その為には相手の目的を知る必要がある。しかし、今の状況ではそれすらも分からない。


「…。」


 教師達の話を聞きながら、レイラは中央区支部へ侵入したルフトとルーチェ、そして北区へ侵入して音信不通となった龍人と遼へ思いを馳せていた。音信不通の2人はただただ無事を祈るしか無い。そして、中央区支部へ侵入したルフトとルーチェもまた…無事を祈るしかなかった。

 彼ら2人が中央区支部へ侵入して1週間。中で何が起きているのかも分からないのだ。魔導師団が身に付けている杖型のネックレスによる通信も一切が通じていない。


(みんな…無事でいてね。)


 空を見上げて祈るレイラ。

 平和な時間が懐かしい。それは…もう戻ってこないのだろうかという恐怖に駆られる事もある。だが、それでも前を向いて進んでいくしかない事を知っているからこそ、レイラは不安な気持ちを拭い切ることが出来なかった。




 ユラリ



 霧の中にいる男は静かに南区陣営の様子を伺っていた。着々と進む防衛態勢。それらが完成すれば、ひとつの要塞のようになるであろう。しかし、男はさして気にしていなかった。

 その理由は単純。どんな手段で防衛を講じようとも、それらを全て薙ぎ倒す事が出来る自信があるからだ。例え、その場に消滅の悪魔と呼ばれるラルフ=ローゼスがいようとも関係がない。

 物事は単純。倒すか倒されるか。ただその結果のみに集約される。

 全ては力。何かを守るのにも力は必要で、何かを倒すのにも力が必要。全てを奪う圧倒的な暴力が襲い来るのであれば、それを上回る力でねじ伏せる必要があるのだ。

 自身の譲る事が出来ない目的を達成する為には、どんな犠牲だろうとも厭わない覚悟が男にはあった。それは敵であろうとも、仲間であろうとも関係がない。目的を達成する為に必要なものは全て利用し、犠牲にし、突き進むのみ。

 その選択が間違っている可能性だってある。しかし、それで良いのだ。

 何故ならば…間違わない人など存在しない。信じた道を進み、間違っていると気付いたら…その時に間違いを正せば良いのだ。その間違いですら、圧倒的な力があれば正しい道に変わる事だってある。


 つまり、力が全て。


 圧倒的な力を持った男は、自身の目的を達成する為に…南区陣営への一歩を踏み出した。

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