5-1-10.対人戦トーナメント
龍人の死角に姿を隠していたルーチェは濃霧を散布し始めた龍人の様子を観察しながら、予想以上の実力に驚いていた。
(光魔法の閃光で相手の視界を奪う。更に予備として、辺りの光の屈折を歪ませる。そこにレイで相手を貫く。しかも、見えた方向とは反対側から当たるように、相手の光の認識を狂わせる。大体の相手なら、この組み合わせで落とせると思っていたんですが、一筋縄じゃ行きませんね。何より、レイを視認してからの防御壁の展開速度が異常ですわ。それに、思考する時間をそれ程与えていたとは思わないのですが、それでも防御壁を周囲に展開して全方位からの攻撃に備える対応力も抜群ですわね。)
次にどうやって攻めるかを龍人の後方で思案している間にも、龍人が散布する濃霧はリングの上をどんどん埋め尽くしている。この濃霧という選択はルーチェが周囲を歪ませていた魔法に対してかなり有効な方法であった。
(…出来ますわね!これでお互いに視覚を使って戦う事は出来ませんわ。視覚以外の感覚と、それを如何に欺くかですわね。まさか、互角の状況に持ち込まれるとは思ってもみませんでしたわ。)
龍人はルーチェに悟られないように、線状の探知結界を辺りに張り巡らせる。
ルーチェは濃霧が無い所まで探索型魔法と光魔法を合わせた魔力の目を飛ばし、上空から龍人を探す。
先に相手の位置を探ったほうが確実に有利になる状況を。互いに無駄な動きをせず、相手の位置を探り当てることに全力を注ぐ。
膠着状態を破ったのは龍人だった。
(さっきの攻撃が正反対から来たって事は、次の攻撃も見えた位置とは別の方向から着弾する可能性が高いだろ。ってなるとだ、右側と左側にいる可能性は…さっきの攻撃のフェイントと本命の方向だから可能性は低い。そして、正面に位置するよりは後方に位置取ったほうが場所を察知されにくい。それなら…ここは掛けてみるか。)
龍人は周囲の霧を凍らせて氷霧を精製。それを後方に向け一斉に放った。広範囲、且つ密度の高い攻撃がルーチェの居る位置を襲う。同時に、この攻撃によって龍人の周りから霧が消え去り、ルーチェが上空に飛ばしていた魔法の目が龍人の姿を捉える。そのまま攻撃目標として補足、目から極太の光線を発射した。
上からの攻撃を予想していなかった龍人は、躱し切る事が出来ずに直撃を受けて吹き飛ぶ。
ルーチェも氷霧を避ける事は出来ずに防御壁で耐えしかない。だが、氷霧が集中すればする程に防御壁ごと凍り始めてる。
…リング上の視界が完全に晴れた。
片膝を付き、やや苦痛の籠った表情の龍人の視線の先には、氷の塊に閉じ込められたルーチェの姿があった。




