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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-2-11.魔法街戦争 魔獣との死闘

 ラスター達が管理塔東側から迫る魔獣の群れに向かった頃、ラスターに実力を信頼されたばかりに援護を受けられないという状況に陥ったブレイブインパクトの4人は、数の暴力にやや追い詰められ始めていた。

 漆黒の大剣を横にひと薙ぎして2頭のエレメンタルウルフを斬り裂いたルーベンは、荒い息を吐くと隣に立って水の鞭を華麗に振るうセイメイへ声を掛けた。


「なぁセイメイよ。ラスターの野郎、俺達の力を大分高めに見積もってねぇか?」

「まぁ良いじゃないですか。それだけ私達の実力を評価してもらっているという事なのですから。」

「そうなんだがな…。流石にこれだけの魔獣に襲い掛かられると少しは嫌になってくるぞ。」


 大剣…名を懺龍の黒剣という…を肩に担いだルーベンは肩をすくめる。彼の周りには30頭を超えるエレメンタルウルフが夥しい量の血を流して倒れていた。正に死屍累々の四字熟語がピッタシの光景である。だが、これだけの魔獣を倒しても…襲いかかってくるエレメンタルウルフの勢いは止まらない。

 まるで…自分達はルーベン達を弱らせるためだけの捨て駒と言わんばかりの勢い。

 しかし、そんな捨て身に近い形で飛びかかってくるエレメンタルウルフを物ともせずに切り捨てるルーベンとセイメイ。見る人が見れば、虐殺される狼の群れ…である。

 さて、ルーベンとセイメイが黒の旋風と透き通った舞でエレメンタルウルフを屠り続けている場所から少し離れた地点では、キャラク=テーレとシャロル=ブリーフィアも容赦なくエレメンタルウルフへ攻撃を続けていた。

 キャラクの指先が宙で踊り『斬』の文字を描くと、彼の周りにエネルギーが発生。それはキャラクの全方位に向かって広がり…エレメンタルウルフを次々と斬り裂いていく。

 そのエネルギーは、近くで複数の属性エネルギーを浮かべて戦うシャロルにも襲いかかった。


「ちょっとキャラク!何をするんだい!?一応仲間なんだから攻撃魔法を使うときは配慮するべきよ。」

「ははっ。悪いね。」

「…キャラク、あんたの気持ちはアタイにも分かるよ。だけどね、それで機嫌を悪くして仲間を巻き込む攻撃をするっていうのはどうなのかしらねぇ?」

「…悪かったね。」


 いつにも増して不機嫌なキャラク。黒髪を揺らしつつ、近寄るエレメンタルウルフを確実に仕留めているが…ややオーバーキル気味の攻撃を続けていた。

 彼が不機嫌な理由は1つ。それは、魔法街の統一が魔法街の住民にとって不本意な形で強制的に実行されてしまったという事実だ。

 キャラク達ブレイブインパクトは魔法街統一思想団体を設立し、水面下で魔法街の統一に向けた活動を長年行ってきた。

 その目的は、啀み合う3つの魔法学院を1つに統一し、更には東西南北と中央、行政の6つの区…つまり6つの島から成り立つ魔法街を陸続きの1つの島にするというものだ。

 最初は全く受け入れられなかったこの思想は、キャラクが立てた緻密な長期計画によって少しずつ身を結び、遂には中央区支部にて魔法街統一思想集会を開催するまでになる。

 そして、一旦は盛り上がりを見せた統一思想は各区で半獣人が出現して暴れた事件によって衰退。諦めないキャラク達の活動によって息を吹き返し始めたタイミングで…魔法街の強制統一が行われてしまった。

 何よりもキャラクが悔しいのは、禁区へ魔獣の討伐に訪れていたタイミングで強制統一がなされたという事実だ。

 その結果、禁区に閉じ込められてしまったブレイブインパクトは魔法街の情報が何も分からない状況に陥ってしまっている。挙げ句の果てには魔獣が群れをなしてひっきりなしに襲い掛かってくるという状況。

 キャラクの機嫌が悪くなるのも頷けるというもの。


「それにしても、この魔獣達の動きが気になるな。」

「どういう事だい?」

「単純に他の場所にいる魔獣の群れが、わざわざ人間に向かって襲いかかってくるなんてこと滅多にないだろ?魔獣の動きってのはもっと野生的で本能的なはずだ。それなのに、今の魔獣は…それこそ人間の軍隊みたいな動きをしてやがる。」

「う〜ん、言われてみればそうだねぇ。つまり…この魔獣を指揮している何かしらの存在がいるって言いたいのかい?」

「その可能性はあるね。少なくとも、上位魔獣のような存在感、はたまた魔獣を操れる人間か…。そういった存在がいない限り今の状況に納得が出来ないね。」


 この推察は、数多の魔獣を長年に渡って狩り続けているブレイブインパクトだから気づくことが出来るものだろう。キャラクの推論を聞いてシャロルが疑わないのは、これまで何匹もの上位魔獣と戦ってきたからこそ。中には人間の言葉を介する上位魔獣もいるのだから、そういった存在が魔獣の指揮官となっているという想像は難くない。

 氷の属性魔法を周囲に向けて放ち、魔獣達と自分達の間に氷の壁を築いたシャロルは静かにひと息つく。


「それで、これからどうするのが良いかしら?」

「そうだね…。」


 キャラクは『探知』と『地図』の文字を連続して宙に書く。すると、空中に幾つもの光点が表示された地図が現れた。


「…このマップから見るに、北側から更に魔物の群れが向かってきているね。このままだと挟み撃ちを受ける可能性が高い。」

「なるほどねぇ。アタイなら…ちまちま戦わないで、一気に全壊させるけどねぇ。」

「ここまて押し寄せられたらそれもアリだね。流石にこの僕でもイライラしてきたし。」

「なら…やっちまうかい?」

「そうだね。どうせルーベンとセイメイも大した魔力を使わずに相手してる筈だしね。」

「そうと決まれば…ちょっとだけ本気を出そうかねぇ!」


 シャロルはニカッと笑みを浮かべると、箒杖を構えて回転させて天に向けて突き出した。

 この動きに合わせて火、水、風、土、雷、光、闇の属性エネルギーがシャロルの周囲を回り、天に向けて螺旋回転と共に昇っていく。そして、上空で回転しながら1つに融合し…7色になった属性エネルギーの集合体をシャロルは北の方向に向けて無造作に放った。

 7色の球は尾を引きながら…それこそ虹を引くようにして飛んでいき、北の方角へ姿を消す。そして、爆発を引き起こした。

 その爆発は激しく、多数の属性が天高く舞い踊り、まるで巨大花火が地上で爆発したかのように綺麗な光景を生み出した。


「シャロル…いきなり特大の攻撃を放つね。」

「いいじゃないか。アタイのお陰で大分数が減っただろう?」

「まぁね。それは間違いない。」


 キャラクが表示した地図上の光点は、シャロルの引き起こした虹色の爆発と同時にその殆どが消えていた。残るのは数個の光点のみ。本来であれば全滅して然るべき勢いの爆発だったはずだが…物陰で爆発を防いだのか、偶然にも生き延びた個体がいるようである。


「アタイのアレを受けて生き延びる魔獣が居るんだね。上位個体じゃないことを祈るしかないねぇ。」

「上位個体だとしても4人揃っていれば問題ないね。」

「それはそうね。そしたらさっさとルーベン達と合流して、一帯の魔獣を殲滅するわよ。」

「そうしようか。」


 急激にやる気を出したシャロルを見て肩を竦めたキャラクは、『転移』の文字を描きシャロルと共にルーベンとセイメイの元へ向けて移動したのだった。


 一方、管理塔東側に現れた魔獣の群れを対処するために管理棟から出たラスター、ルーチェ、バルクの3人は拓けた平野の向こう側から迫り来る魔獣の群れを見て口元をヒクつかせていた。


「おいおい…流石にこれは3人じゃあ厳しい気がするな。」

「そうですわね…。お父様、ここは本気を出して事態に当たるのはどうでしょうか?」

「あーそれは無理だ。今ここで俺の本気を出しちまったらこれまで積み重ねてきた努力が無駄になっちまうだろ。」

「しかし、このままでは下手をすると私達が命を落としかねないのですわ。あの群れ…レーダーを見た時はエレメンタルウルフが徒党を組んで向かってきたのかと予想してましたが、恐らく…ゴブリンの群れですわ。」

「だな。遠目だからなんとも言えないが、体のでかい個体もいそうだ。ってなると、オークやオーガもいる可能性が高いな。」

「ですの。これは危機的状況ですの。」

「あのさ…お前達親子はなんでこの状況でまだ落ち着いてんだよ?」


 向かい来る魔獣の群れに対して困った表情を見せながらも比較的落ち着いた雰囲気のブラウニー親子に対し、初めて体験する魔獣の群れ…大群に襲われるという事態にソワソワを隠せないバルクが我慢出来ずにツッコミを入れる。


「バルク君、俺もこーゆー事態に巻き込まれるのは久々だから結構焦ってるんだぞ?とは言え、俺たちの後ろには仲間がいる。援護射撃を上手く使いながら戦えば、ギリギリで凌げるはずだ。」

「…ギリギリって。だったら本気出したら良いんじゃないのか?」

「それは無理な話なんだよ。今この場で本気を出さずして死ぬのなら。俺はそれを選ぶ…さて、ここからは他の仲間とも一緒に戦うから、外行きの顔で戦うか。…私は群れの中央に切り込む。ルーチェとバルク君は私の一歩後ろで戦う様に心掛けたまえ。そうすれば、いざという時は君達の命くらいは救えるはずだ。では…行くぞ!」


 それまで気さくな雰囲気を出していたラスターは、外行きと言った瞬間に厳格で丁寧な物腰な雰囲気にガラッと変わる。

 余談ではあるが、普段のラスターは厳格で一人称が私である。ただ、家族や極一部の親しい者の前でのみ気さくで、ノリが良い気さくな雰囲気に変わるのだ。

 それは、数多の責を負う立場にいるからこそ、公私を分ける為のスイッチの切り替えとも言える。

 ルーチェとバルクに先駆けて走り出したラスターは、点を中心とした光魔法を放って次々とゴブリンの額を撃ち抜いて行く。

 その正確な撃ち抜きは驚異的のひと言で、バルクとルーチェは少しの間は何もせずに後ろをついて行くだけで良かった。


(やはりお父様の光魔法は凄いですの。威力、精度どちらをとってもずば抜けていますわ。)


 安全地帯となっているラスターの背後だが、進めば進むほどゴブリン達による包囲網が形成され始めていた。やがて、ラスターの攻撃に生じた隙間を縫って一体のオークが斜め下から剣を突き出す。


「甘ぇぜ!」


 これに反応したのはバルク。突き出される剣に対して垂直に振り抜いた拳が、まるで漫画の様に剣を叩き折った。


「…ぐるぅあ!」


 愛用の剣が折られて怒りを露わにしたのか、オークは涎を撒き散らしながら雄叫びをあげた。…が、振り抜いた拳の勢いを利用し、右足を軸に遠心力を利用した後ろ回し蹴りがこめかみにヒット。ベキィ!という頭蓋が砕けた音を響かせたオークは細切れの様に吹き飛び、ボーリングの様にゴブリン達をなぎ倒して姿を消した。


「やるじゃないかバルク君。」

「いやいや、今ワザとオークを近づけただろ!」

「ん?何のことかな?」


 心当たりがない。とばかりに首を傾げてみせるラスターだが、バルクは気付いていた。ワザとオークを近づけてバルクの実力を試したという事に。


(ったく。食えねぇおっさんだな!)


 とは言え、ラスターが近づけたのはその1匹だけで、この後はほぼ全てのゴブリン達を一人で倒し続けている。こういった事もあり憎らしいという感情はまったく浮かんでこない。


「おっと。オーガが隊列をなしてやってきたぞ。」


 ラスターの言葉を受けて前を覗き込むと、鎧と剣を装備した大柄なゴブリン…つまりオーガが横一列に並んで進軍してきていた。青い体表に2本の角が生えた姿は、禍々しさを携えている。


「…お父様、ここからは私達も戦いますわよ。オーガは確か中位魔獣ですわ。そこに下位魔獣のオークとゴブリンがいると考えますと、一筋縄ではいきませんの。」

「そうだな。では、後ろの支援部隊は目眩ましの攻撃を行った後に私達と共に突撃してもらおうか。こちらも隊列を組んで被害を最小限に留め、私達3人が遊軍として敵を確実に仕留めていく。私は中央、ルーチェは左翼、バルク君は右翼を攻めたまえ。」

「分かりましたわ。」

「任せとけ!」


 そして、ラスターの指示が支援部隊にも伝達された時点でオーガの隊列は残り50メートル程まで迫っていた。


「正念場だな。……行くぞ!」


 ラスターの掛け声とともに魔獣狩りを生業とする人間達が、果敢に立ち向かって行く。


 西区で魔獣と人間の激しい攻防が繰り広げる中…最悪に近しい事態がとある場所で進行していた。

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