表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
867/994

15-2-9.魔法街戦争 捕虜へ

 北区にある住宅街の一角。決して豪華な家が建ち並ぶ訳ではない北区の中で、豪華という程でもなく、見すぼらしいという程でもない…つまりは一般階級的な雰囲気の普通の家。ヨーロッパ風のアパートメントの一室で3人の男がコーヒーを啜っていた。


「本当にさぁ、君達の行動っていつも王道のようでぶっ飛んでるよねぇ。」

「悪かったな。でもさ、今回のこの潜入は俺たちの発案っていうよりも南区としての判断だぞ。」


 呆れた話し方をしているのが浅野文隆。それに対して弁解しているのが龍人だ。

 北区の住宅裏で座り込んで今後の動き方を相談していた龍人と遼の下に近寄ってきた文隆は、すぐに2人の素性を見破った。潜入者である2人を第4魔導師団の文隆が見逃すはずが無い…と、戦闘態勢に移ろうとした龍人と遼だったが、文隆は戦う素振りを見せるどころか、肩を竦めると、


「まぁ…何となく事情は察するけど、一先ずこっちに来てもらえるかなぁ?ここで話してると怪しまれるから、おれの家に案内するよぉ。」


 …と、緊迫感ゼロの様子で自分の家に2人を招待したのだった。

 そして、文隆の家に到着した龍人と遼は、コーヒーを飲みながら事情を説明し…今に至る。

 無謀とも言える潜入作戦に対して文隆は呆れ調子だが、それを責める雰囲気は一切感じられなかった。むしろ、楽しんでいるようにも感じられる。


「…君達の考えも行動もよく分かるよぉ。でもね、無謀だよねぇ。」

「そうだね。でも、それ位のリスクを冒してでも動かないと…区間戦争は避けられないと思うんだ。」


 真面目に真面目な表情で答える遼を見て、文隆は口元を歪ませる。


「だよねぇ。」


 白い湯気がゆっくりと立ち昇るコーヒーカップをゆっくりと持ち上げ、少しだけ傾け

口の中に広がる芳香な香りと苦味を上品に味わう文隆。

 何を考えているのか全くわからないという印象だが、カップをテーブルに置いた文隆は真剣な表情で話し始めた。


「こうやって君達と会えたのは、ある意味で幸運かもしれないよねぇ。実は…おれ達第4魔導師団は北区の行動方針に反対なんだよねぇ。」

「…マジか。だったら協力して戦争回避に…。」


 思わず身を乗り出す龍人だが、文隆は龍人に手のひらを向けて言葉を中断させる。


「その気持ちは山々なんだよぉ。ただ、北区においてバーフェンス学院長は絶対的なんだよねぇ。正直、逆らった所で勝てる気は全くしない。それどころか北区にいられなくなってしまう可能性もあるよねぇ。まぁそうなったら他の区に移住すれば良いんだけど、今回の焦点はそこじゃぁないから…分かるよねぇ?」

「…つまり、北区の方針を変えるにはバーフェンスを説得しない限り無駄って事か?」


 神妙に頷く文隆。


「そうなんだよねぇ。となるとだよ、どうやってバーフェンス学院長を説得するか…なんだけど、それが難しいとおれは思うんだよぉ。いつもなら他の人の意見とかも聞いてくれるんだけど、今回に関しては有無を言わさずの方針なんだよねぇ。」

「つまり、バーフェンスは魔法街戦争を望んでるって事なのか?」

「う〜ん…。そこが微妙なんだよねぇ。なんて言うか、俺の感覚では魔法街戦争が目的というよりも手段に思えるんだよねぇ。魔法街戦争が起きた先を見ている気がするんだ。」


 この文隆の言葉に思い当たる節があるのか、遼が顎に手を当てながら頷く。


「確かにそう言われると…。行政区で行われた会議の時に手は組まない。みたいな事言ってたね。俺の邪魔をすればなんとかとも言っていたかも。」

「でしょぉ?何の為に手を組まなくてって言うのがわからないんだよねぇ。」

「確かに不自然だな。邪魔をしたらって言うってことは、邪魔をしないのであれば戦う必要性もないって事か…?」

「その可能性もあるよねぇ。」


 文隆自身にも迷いがあるのだろう。イマイチ煮え切らない様子である。

 ここで龍人は最初から気になっていた事を文隆に尋ねる事にした


「なぁ…。文隆がここにいるってなると、第4魔導師団は今何をやってんだ?」

「ん?第4魔導師団は北区の護衛だよぉ。中央区には行かないで、ここを攻められた時に防衛にあたるっていう任務かなぁ。でも、北区入口の防衛ラインにいるわけじゃなくて、有事の際までは自由行動だねぇ。」

「なんともまぁざっくりとした…。」

「でしょぉ?バーフェンス学院長にしては適当なんだよねぇ。その癖自分は南区を攻撃しに行ったり、中央区に何かをしに行ったりして殆ど北区を不在にしているしねぇ。」

「ん〜、それを聞いていると、なんで区間で戦闘が起きているのかイマイチわからなくなってくるよな。」

「どういう事ぉ?」

「だってそうだろ。今回の魔法街が1つにくっついた事件の黒幕も分からないし、あのフードを被った奴がどこの誰かも分からないだろ。そんでもって区同士で犯人のなすり付け合いみたいになって、挙げ句の果てに各区の住民の不満が爆発してなし崩し的に中央区での戦闘だろ?まぁ、バーフェンスの南区攻撃とかが引き金の1つになっている事に間違いはないけどさ。」

「それはその通りだねぇ。じゃぁ聞くけど、君達はこの戦争一歩手前の状況をどうやって変えるつもりなんだい?」


 核心を突く質問。そして、それは龍人と遼が何よりも悩んでいる問題だった。だからこそ…というか龍人は敢えて強気な態度を選択した


「その具体案を聞いてお前達が邪魔をしてくる可能性はあるよな。」

「あぁ…それはそうだねぇ。おれ達には北区を守るって任務があるからねぇ。」

「だろ?今はここでのんびり話しているけど、この状況からお前を信じてペラペラと話すのは出来ないな。」

「いいねぇ。それでこそ、第8魔導師団というものだよぉ。じゃぁおれが当ててみようかなぁ。案は2〜3かな。バーフェンス学院長を力尽くで説得するか、北区の住民の真意を探って裏から操作するか…それとも、本気で戦争を行うか。だねぇ。」


 1つ目と2つ目は良いが、文隆が言った3つ目の案は…龍人と遼の想像を超えた意見だった。


「…おい、本気で戦争を行うってどういう事だよ。」

「そのままだよぉ。本当に分からないのかなぁ?」


 龍人は驚きで怪訝な顔だが、隣に座る遼は何かに気付いたようで…小さく頷いた。


「なるほどね。そういう考え方もあるんだね。」

「お、藤崎は勘が鋭いねぇ。参謀向きだねぇ。」

「どーゆー事だ?」


 本当に分からない龍人は文隆と遼へ疑問の視線を送る。すると文隆は目線で遼に説明を促した。単に説明をするのが面倒くさい…とかではなく、本当に遼が理解できているのかも把握するつもりなのだろう。遼もその文隆の意図を理解しているのか、小さく頷くと口を開いた。


「今回の戦争直前の状況の要因は、魔法街の強制的な統一の首謀者がわからない事。そして魔瘴クリスタルに起因する人ならざる者による各区への攻撃だよね。最終的に引き金を引きかけたのはバーフェンスの南区攻撃だと思うけど。…でね、これらの状況ので一番の問題は全ての事件で首謀者が分からないって事だと思うんだ。だから、首謀者の目的通りに魔法街戦争を引き起こして、魔法街戦争の先に何を望んでいるのかを炙り出そうって事だよね。その中で首謀者が分かれば…って所だと思う。」

「っふふふふ。藤崎は流石だねぇ。きっと、そうすれば最終的に大事な場面で首謀者が出てくるはずだよねぇ。でも、その過程で大きな、そしてかけがえの無い犠牲を強いるかも知れないけどねぇ。」


 遼の推測は確かに筋が通っているものだった。だが、そこには大きな欠点が付き纏う。それが文隆の言う犠牲だ。森林街という故郷を天地の襲撃によって失った龍人からしたら、そんなものを許す事が出来なかった。だが、その思いを話そうとする龍人を遮るようにして遼が話す。


「龍人はきっと森林街のレフナンティの事を考えてると思うんだ。でも、考え方を、視点を変えれば…それだけの犠牲を払う覚悟がなければ、この魔法街を守れないのかも知れない…よね。」

「…遼。」

「まぁまぁ…そうやって湿っぽくなる必要は無いよねぇ。」


 静かに遼の推測を聞いていた文隆は、どこか楽しそうに口を挟む。


「いいかい。力尽くか、融和か、炙り出しか。今の状況を大きく変えるにはこの3つしかないとおれも予想しているんだよぉ。そして、おれ…いや、おれ達第4魔導師団は炙り出しをメインに考えている。バーフェンス学院長の真意はもしかしたら、炙り出しとは違う方向性かも知れない。ただ、真意が分からない以上、おれ達は信じる道を進む事に決めたんだよねぇ。」


 この発言はつまり、第4魔導師団はバーフェンスの示している北区の行動指針については反対だが、魔法街戦争を行う事に対しては賛成という事になる。


「文隆…お前も魔法街戦争を起こすつもりなのか?」


 龍人から殺気が漏れる。それは文隆や遼の背筋をゾクリとさせるレベルだった。


「正確に言うとねぇ…魔法街戦争を起こして首謀者を炙り出し、魔法街を守るつもりだよぉ。だからね、今の無駄に小さな小競り合いを続けている、ただただ消費するだけの状況に反対なんだよねぇ。一気に戦い、戦力が残っている間に首謀者を炙りださないと…おれ達はただ共倒れするだけになってしまうんだよぉ。」


 それは、龍人とは相容れない意見だった。遼も炙り出しの方法論を予想はしたが、全面で賛成という訳では無いらしく…文隆の戦争積極論に顔を顰めていた。


「本気か?」

「そうだねぇ。本気だよぉ。……だからこそ、おれは君達をここに呼んだんだよぉ?何故か分かるかい?」

「…まさか。」

「そうさぁ。ここでおれ達と君達2人が戦ったらどうなると思うかなぁ?」


 この問いの答えは単純だった。北区の住民が第4魔導師団と戦う第8魔導師団の2人を見たら…それは守護者と侵略者にしか見えないだろう。侵略者は勿論、龍人達だ。


(やっぱり罠だったって事か…!)


 可能性は考えていたが、淡い期待を持ってこの場にいたのも事実。裏切られたという訳では無いが、少しだけ寂しい感情が龍人の心に横から差し込んでくる。


「さて…龍人、藤崎。君達には選択肢があるよぉ?ここでおれ…おれ達と戦うのと、大人しく投降するかの選択肢がねぇ。」

「…くそっ。そういう事か!」


 突如、龍人と遼のいるこの場を3方からの強力な魔法圧がのし掛かってくる。恐らく建物の外に文隆の仲間…第4魔導師団のメンバーが控えているのだろう。


「文隆…てめぇ!…がっ。」


 怒りを露わにした龍人の鳩尾に文隆の膝がめり込んでいた。そして、龍人の耳に顔を近づけた文隆は何かを囁くとニヤリと笑みを浮かべ、闇属性を宿らせた右腕で再度龍人の鳩尾を殴りつける。

 強烈な攻撃を至近距離で連続して受けた龍人は意識を手放すと、力無く崩れ落ちた。


 カチャ


 文隆が音のした方を見ると、無表情に近い遼が双銃を構えていた。既に魔力は溜められており、ほんの少しでも気を緩めた瞬間に額に穴が開きそうな迫力である。

 目の前で銃を構えられていても、文隆は余裕の表情を崩さなかった。

 引き金に掛けられた遼の指に力が篭る。


 シュン


 空気を切る鋭い音が鳴り…倒れたのは、遼だった。

 フワッと姿を現したのは森博樹。無表情で立つ博樹はどこか複雑な表情を浮かべていた。


「博樹さぁ、顔が暗いねぇ。何をそんなに悩んでいるんだい?」

「んー、悩むっていうか…複雑な気分だよね。」

「まぁねぇ。でも…これで俺たちの目的が達せられる可能性が高まったよねぇ。」

「まぁねぇ…。」


 小さな戦闘が行われた文隆の家だが、周囲の家に住む人々はなんら異変を感じず…いつも通りに生活を送っていたのだった。

 戦闘音が一切漏れず、そして第4魔導師団が1箇所に集まっているのにも関わらず…その異変を周囲に気取らせない実力は流石のひと言に尽きるだろう。


 こうして龍人と遼の北区潜入という任務は、2人が捕らえられるという結果で幕を降ろす事となったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ