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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-2-8.魔法街戦争勃発 北区への潜入

 中央区支部屋上でライダーグラサンの相手を龍人に任せた遼は、北区への入口を眺められる建物の5階に身を潜めていた。

 北区の入口は20人規模の魔法使いが周囲を警戒していて…正直なところ潜入するのはかなり難しそうな状況である。


『遼、今どこだ!?』


 突然遼の頭に龍人の声が響く。魔導師団の証である杖型ネックレスに内蔵された通信機能だ。


『龍人、ライダーグラサンは倒せたの?』

『それがよ、呆気なく倒れちまって…かなり拍子抜けだったんだよな。』

『…んー、それ少し気になるね。』

『だろ?』

『だね。…あ、今俺がいるのは北区の入口近くにある屋上にビールの看板がある建物の5階だよ。』

『おっけー。今向かうからちょっと待っててくれ。』

『分かった。』


 通信が切れると、遼は再び北区の入口を観察する。北区への侵入経路が複数あれば良いのだが、残念な事に島が中央区へと引き寄せられてくっついたという経歴上、中央区との接地面は1箇所しか存在しなかった。

 上空からの侵入なども考えたが、北区には南区と同じく防劇結界が張られている。

 つまり、龍人と遼の2人では地上からも上空からも侵入は不可能…という事になってしまう。

 何か…何か策は無いのか。…と、遼が眉間に皺を寄せて考えていると、小さな足音が下の階から聞こえてきた。


(…龍人かな?)


 念の為警戒しつつ階段の死角に移動した遼は、上がって来る者が誰なのかを静かに待つ。

 そして、階段を登ってきた者へ静かに銃を向け…力なく頭をガクンと下げた。というより、全身で脱力した。


「…あのさ、もう少し警戒したら?」

「ん?いやいや。ここにいんの遼って分かってんだから警戒する必要ないだろ。」

「まぁそうなんだけどさ。もしかしたら俺が誰かの人質にされていたかもしれないし、操られてたかもしれないじゃん。」

「そこは対応出来るようにしてたから心配無用!」

「相変わらず大胆だよね。その潔さが逆に良いのかもだけと。」

「を?珍しく遼が俺を褒めてんのか?いいぞいいぞ。もっと褒めてくれたまえ。」

「はいはい。で、問題はどうやって北区に潜入するかだよ。」


 龍人の謎なボケをスルーした遼が本題を切り出すと、そこに対してツッコミもせずに龍人は窓から北区の入口を観察する。

 北区の入口を警備しているのは…恐らくダーク魔法学院のメンバーだろう。というのも、服の縁に白いラインが施された青の服…つまりダーク魔法学院の制服を着ているからだ。


「確かに…抜け目ない警備だよな。あそこを突破するとなると、龍人化からの固有技と上位魔法陣を2発叩き込んで、遼の重轟弾で混乱させた隙に中へ飛び込むってとこか。」

「あのさ…それじゃあ潜入じゃなくて侵略だよ。戦争を回避したくて動いてるのに、戦争を誘発してない?」

「冗談冗談。真正面から喧嘩吹っかけて勝てるとは思ってないって。」


 そんな事を言ってはいるが、つい先程はそうやって戦ったらどうなるのかを本気で考えていた顔だったのを…遼は見逃していなかった。まぁ、だからといってココで無駄に突っ込んだりはしないが。

 そんな遼の気持ちを知ってか知らずしてか、龍人はニヤリと笑みを浮かべた。


「任せとけ。俺に妙案がある。」


 何故だろうか。嫌な予感しかしない遼だった。




 魔法街北区は、南区や東区と比べると質素なつくりが特徴の区である。北区の魔法学院であるダーク魔法学院の学院長を務めるバーフェンス=ダークが『見た目ではなく中身が大切だ。』という考えである為か、お金があれば自分自身の中身をどうやって素敵にするか…に投資するとういう特徴があった。

 こんな特徴の為か、正直に他の魔法学院と比べるとダーク魔法学院はファッションセンスでは…ダサいという最下位のレッテルを張られている。自他共に認めるレッテルであるのが皮肉。

 青を基調とし、縁に白のラインが施された制服は普通に見れば普通なのだが、街立やシャインと比べるとどうしても見劣りをしてしまう。まぁ、ダークの面々は開き直っているが。

 こんなダーク魔法学院だが、実力は折り紙つき。特殊な属性や珍しい属性を持つ者しか入学できない、少数精鋭が集う魔法学院なのである。

 その証拠に、龍人達が街立魔法学院に入学した時の1年生は375名。一方でダーク魔法学院は30名しか入学を許されていない。

 こういった学生事情もあり、北区には基本的に学生の姿は少ない。内面を磨き、外見に気をかけない者が多い為…通常のアパレルショップは無く、実用的な服を売る店が多いのもまた事実。

 こんな事情からダーク魔法学院の防衛と中央区奪取に動けるダーク魔法学院の学生は、1学年30名が4学年の合計120名程であった。

 その彼等が30人規模で北区の入口を防衛し、尚且つ中央区支部の奪取や他学院への攻撃を行っているということは、実は人員的にはカツカツに近いという事実があった。24時間体制での警備に加え、他学院との度重なる戦闘は、ジワリジワリと彼等の精神力を集中力を蝕んでいっていた。

 入口の警備を6時間行い、2時間の休憩後に4時間の中央区での他区攻撃。その後北区に戻り6時間は睡眠、残りの6時間は自由時間…というタイムスケジュールで動き続けていた。こんなハードスケジュールの中で一番しんどいのが4時間の中央区での他区攻撃だ。

 いつどのタイミングで敵と遭遇するのかも分からないし、どこから奇襲を受けるかも分からない。誰かと戦闘行為を始めればそれだけで目立ち、横槍が入るかもしれない。…この様に常に神経を張り詰めていなければならない4時間は、多大なる疲労感をダーク魔法学院の学院生に与えていた。

 そして、このハードな中央区での攻撃を終えた学院生達は皆が皆疲れ切った表情で北区入口に戻ってくるのだった。

 夜の6時。この時間にも頭をガックリ下げて疲れ切った表情の学院生が2人で戻ってきた。4人では無いのか?と思われるかもしれないが、ダーク魔法学院は今回の戦闘においては4人1組を特に推奨していない。集団行動はゲリラ戦の様な中央区の状況下において有利にも不利にもなり得るからだ。

 こうして戻ってきた2人の学院生は力無く警備に当たる他の学院生達に手を上げて挨拶すると、フラフラと北区の中に入っていく。恐らく相当激しい戦闘に巻き込まれたのだろう。中央区支部を巡る各区による激しい戦闘が行われた事実を知っている警備の人々は、ボロボロの制服で帰って来た2人に掛ける言葉が見つからなかった。

 そして同じ様な格好の学院生達がポロポロと現れ始める。


「……………。」


 ボロボロの制服を着た2人の学院生は、北区の街並みを眺めると顔を見合わせ…建物の陰へと歩いていく。そして、裏に積んである木箱に腰を下ろした。


「…北区ってだいぶ雰囲気が違うんだな。」

「有名な話だよ?1番外見に興味がないのが北区っていうのは。」

「マジか。」

「…もう少し他区の事を勉強した方が良いんじゃない?」

「いやぁ、遼みたいに真面目じゃないからさ。」

「龍人の場合は真面目とかそういう問題じゃなくて…危機感が足りないんだと思うよ。」

「…それを言われると反論出来ないような、そうでないような。」

「ま、龍人のそういういい加減なとこが案外良かったりもするけどね。」

「…なんかバカにされてる気しかしないんですけど。」

「ふぅ。それよりも、この後どうやって動く?」

「出た。華麗なるスルー。」


 お馬鹿と言われかねないやりとりを続けながらも、龍人と遼は警戒を怠らない。何せここは敵地も同然である北区の中なのだから。

 因みに、龍人と遼が北区に忍び込んだ手順は以下の通りである。


 中央区に出ているダーク魔法学院の学院生が1番気が緩む瞬間…つまり、北区に戻るタイミングを狙ったのだ。

 まず、龍人がフラフラの状態で正面から姿を現わす。そして注意をそらしている間に遼が魔弾で滅多打ち。更に、予め仕掛けておいた音消しの魔法陣を発動して周囲にバレない様に細工をする。

 奇襲としては王道かもしれないが、だからこそダーク魔法学院の2人は綺麗に攻撃を受けて意識を手放したのだった。

 倒れた2人は近くの建物の中に食料と共に拘束して放置。剥ぎ取った制服を着て成りすまし…、見事潜入に成功したのだった。

 これが龍人の言った妙案の詳細である。妙案というよりも大胆不敵と評するのが正確か。


 さて、ここ迄は順調に進んでいる潜入だが、問題はここからである。

 各区が争うという最悪の結果…魔法街戦争を防ぐ為に北区を説得するという名目で潜入した2人だが、どの様に説得するのかは…ノープランだった。


「よし。思った以上にスムーズに潜入出来たからプランを考える時間が無かったな。ここからどうしよっか。」

「難しいところだよね。このままダーク魔法学院に潜入するなんて無謀過ぎるし、今いる場所にずっと居たとしても状況が変わるわけでは無いし。」


 口元に指を当てて考え込んだ龍人は、周囲を警戒すると小さい声を出した。


「俺の考えだと2つ位動き方があると思うんだ。1つが直接バーフェンスの所に乗り込んで説得するか、ぶっ倒すか。」

「流石にそれは…。」


 遼の顔がヒクつくが、それを見越していた龍人は指を立てて遼の言葉を遮った。


「もう1つが、北区に住んでいる人達の本音を聞き出す…だな。」

「…なるほどね。でも、それには俺たちの事を…どうやって思ってもらうかが大事だよね。」

「そこなんだよ。迷子になりましたなんて言えないし。」

「例えば………。。」


 何か言ってみようか…と思った龍人だが、完全に言葉が詰まってしまう。

 北区へ潜入したが…具体的な行動プランが全くなく、龍人の案もどのように実現し、どんな結果を求めるのかが不明瞭だった。

 沈黙。


 カラン


 …と、空き缶が倒れるような音が龍人と遼が座る場所に響く。


「…!?」


 誰かがきたのかと警戒態勢を取ろうとした2人だが、それがかえって良からぬ疑惑に繋がると判断すると疲れたような雰囲気のままボソボソと話し続ける。会話の内容は中央区での戦闘について。

 音のした方を向かずに話し続ける2人の下へ、足音が近づいてくる。そして、5m程の所まで近付くと止まり…戸惑った声が掛けられた。


「…君達さぁ、第8魔導師団の龍人と藤崎だよねぇ?」

「……。」


 どこかで聞いた事がある話し方。そして、自分達の素性を見破った者へと視線を送ると…そこに立っていたのはストレートボブの髪を揺らす細身の男…第4魔導師団に所属する浅野文隆だった。

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