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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-2-7.魔法街戦争勃発 龍人の特訓成果

 対峙する龍人が口元に笑みを浮かべるのを見たライダーグラサンは、軽く頭を振ると拳法家のような構えを取る。果たしてそれが本来の構えなのか、正体を隠すための構えなのかは分からない。しかし、これまでよりは本気で向かってくるのだろう。

 特訓の成果を試してみる事にした龍人は、今までのジャバックとラルフとの地獄のような特訓の日々を反芻していた。それは生半可な体験ではなく、しかし、だからこそ相当分の力を手に入れることが出来ているとの自負はある。

 問題はここ最近の相手がバーフェンスだったり、魔法を使う動物だったりと余裕を持って試す機会が無かったこと。

 だが、魔法街戦争が勃発しそうな…そして、それを防ぐ為に全力での交渉、戦いが控えているかもしれない状況で、特訓の成果を試せるかもしれない機会が偶然にも回ってきたのだった。

 その相手となるライダーグラサンの実力はまだまだ底が知れない。もしかしたら、今まで通りの戦い方を踏襲した方が良い結果になるかもしれない。しかしだ、ここで龍人の新しい戦い方を全く知らない相手と戦った時にどんな結果や課題が出てくるのかは、今だけを見なければ非常に重要なファクターである。

 ここで試す自分の新しい戦い方が、ともすれば今後の運命を左右する可能性もあるのだ。


「タイミングが良いのか悪いのか…とにかく、俺の前に現れてくれて感謝だなライダーグラサンよ。」

「……なんだって?」

「へっ、気にすんな!」


 夢幻を構えた龍人はライダーグラサンに向けて一直線に駆け出す。何かしらの作為を感じさせない、真っ直ぐな疾走。この動きがライダーグラサンに疑惑を与える。…何かしらのトラップが仕掛けられているのでは無いかという疑惑を。しかし、この疑惑は杞憂に終わる事となる。

 切り掛かって来た龍人は、ただひたすらに真正面から全力で剣技による攻撃を連続で放ってきたのだ。そこにズル賢さは微塵も感じられず、1人の剣士…魔法使いとしての正々堂々とした戦いをする覚悟が龍人の眼差しと、ひとつひとつの攻撃に込められた気迫から伝わってきていた。

 連撃を素早い身のこなしでかわしながら、龍人から距離をとったライダーグラサンは風刃を放って反撃する。


「はっ!」


 だがしかし、龍人の気合いとともに放たれた横一文字斬りの魔力によって風刃は軌道をずらされ、明後日の方向へ飛んでいってしまう。

 

1度の応酬ではあるが、それだけで龍人の実力を侮れないものと判断したライダーグラサンは、肩を竦めると何故か笑い始めた。


「くくっくくくく…。やっぱり強いな龍人は。前から強いとは思ってたけど、その時よりも剣術の腕があがってんじゃん。」

「…ん?お前、俺と戦ったことがあんのか?」

「さぁな。そんな事は今この場ではどうでも良い話だろ。大事なのは、倒すか…倒されるかだ。」

「…間違っちゃいないな。」

「だよな。じゃぁ俺も本気で戦うぜ!」


 ライダーグラサンはヒーローみたいな腕をジャキーンみたいな感じで斜め上に向けて伸ばすと、両手の指を熊手のように広げて斜め下に振り下ろした。


「……!?」


 何かが飛来してくるのを感知した龍人が魔法壁を張ると、そこに複数の細い何かが激突する。


(なんだ?風魔法にしてはぶつかった時の感触が変だな。…硬い?)


「まだまだ!」


 ライダーグラサンの右手の先から細い物が伸びる。細いと言っても先程よりは太い。鉛筆程度の太さ。その細い何かは横に10本分裂すると、右手の動きに併せて龍人へ横から叩きつけられる。

 太さが増した事で、色が黒に近いものだと分かる。鉄などの物理というよりも無形の非物理に近い。ここから推測されるのは…。


「闇か!なら…!」


 属性が分かったのであれば、防御に徹する必要はない。龍人は新しい戦い方の1つとして完成形を迎えつつある魔劔士として戦うための魔法陣を展開する。夢幻を魔法陣の中心点に据え、複数の魔法陣が直列励起する。そして、属性【聖】の光が魔法陣からあふれ出ると柔らかな光となって夢幻を包み込んだ。

 これこそが龍人の新しい戦い方。つい最近まで試していたのは剣術中心の戦い方だが、今回は違う。劔技と魔法の割合は50%:50%なのだ。劔が魔法を活かし、魔法が劔技を活かす。これを実現する為の魔法劔である。正確に表記するのであれば魔法劔【聖】だ。

 聖属性の魔法が付与された夢幻を龍人は棒状の闇魔法に向けて鋭く振りぬいた。

 ガギィィンという激しい音を立てて聖属性の劔と闇属性(多分)の棒が激突する。ライダーグラサンの放つ闇属性の攻撃は10本の棒ではあるが、夢幻の刀身から広がった聖属性によってその全てが防がれていた。


「なっ…!?」


 力技…とも取れる龍人の剣技ではあるが、ライダーグラサンが驚いたのはそれが理由ではない。

 夢幻でライダーグラサンの攻撃を受け止めた龍人は、拮抗状態になる直前に夢幻を手放しつつ10本の棒を潜り抜けてライダーグラサンの外側へ回り込んだのだ。手放された夢幻の柄には魔法陣が展開しており、その中に夢幻は一瞬で吸い込まれて消えていく。


「くらえっ!」


 そう叫んだ龍人はライダーグラサンの右脇下で既に魔法陣を展開していた。発動の光を転送魔法陣が放ち、聖属性の衝撃波が至近距離で放たれる。


「ぐ…ぁぁあああ!」


 直撃を受けたライダーグラサンは体を宙に浮かせて吹き飛んでいく。そのまま中央区支部の屋上角に激突すると、ズルズルと滑り…パタンと倒れるのだった。


(…あれ?思った以上に呆気ないんけど…。)


 まだまだ試したい戦い方があるのだが、ライダーグラサンが動かない以上はどうする事も出来ない。


「………。遼を追い掛けるか。」


 あまりにも呆気ない結果に首を傾げながらも、龍人は中央区支部の屋上を北区方面へ走り飛び降りていったのだった。


 後に残されたライダーグラサンは龍人の姿が見えなくなるとのそっと起き上がる。

 屋上の端に倒れていたライダーグラサンが下を覗き込むと、まだまだ各区の手先による中央区支部制圧戦が行われている。


「はぁ…。ここで戦う事に意味は無いんだけどな。」


 首をコキコキ鳴らすと、ライダーグラサンは北区の方へ視線を送る。


「……。北区は中央区の制圧、東区は防御。望みは南区だけか。俺にできる事は無いな。命令のままに…戦うしかないよな。ただ、天地の動きには注意しないと。」


 両手を上にあげてグンっと伸びをしたライダーグラサンは、ヒーロー戦隊の主人公ばりのポーズで眼下の戦闘地域に向けて宙へ身を躍らせていったのだった。

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