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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
861/994

15-2-3.決裂

 ドンドンドン!


 沈黙が支配する会議室の中にドアを叩く音が響き渡る。魔聖が4人集まっている部屋のドアをノックするのなら、普通は控えめに叩くはず。だが、このノックはまるでドアを打ち破らんとするかのような勢いだった。これだけで普通では無い何かがこれから起きる事を予感させた。


「…入るがいい。」


 ノックする者に心当たりが無いのか、眉を顰めて怪訝な表情をしたレインが応答すると…

 ガラガラガラガン!とかガーピシャン!みたいな擬音語が近い勢いでドアが開かれ、スーツを着た青年が飛び込んでくる。


「た、た、たたたたた……。大変です!魔法協会中央区支部で各区の学院生を中心とした戦闘が開始しています!」

「…なんだと!?」


 まさかの報告にガタッと立ち上がるレイン。


「ふん。だから俺は他の区を信じないと言ったんだ。おい、お前。」

「は、はいっ!」


 バーフェンスに声を掛けられた青年はビシッと背筋を伸ばす。その表情に見えるのは恐怖か緊張か。


「戦闘のきっかけはどこの区だ?」

「…ざ、残念ながら戦闘勃発の詳細は分かっておりません。」

「ふん。まぁ分かっていてもこの場では言わないか。」

「い、いえ!本当に分からないんで…」

「もういい。それ以上の問答は不要だ。区間の対立が決まった以上、ここにいる必要はない。」


 青年の言葉をバッサリ切ったバーフェンスは音もなく立ち上がると会議室から出て行こうとする。

 徹底した対決姿勢に掛ける言葉が見つからない他区の面々は、バーフェンスに続いて出て行く第4魔導師団を眺める事しか出来なかった。気さくな性格の文隆ですらも固い表情のまま会議室から出て行ってしまう。

 この行動に鼻を鳴らしたのは…セラフだった。


「はっ。バーフェンスの野郎は相変わらずだな。結局魔法街戦争と大して変わらねぇ結果に落ち着くか。」

「セラフ学院長それでは…。」


 最悪なシナリオが全員の頭に浮かぶ。セラフの隣に座るマーガレットも不安に瞳を揺らしながら、次の言葉を待っていた。

 腕を組んで爆乳を強調していたセラフは、両手の指を組み合わせると頭の上に持っていって伸びをする、緊張感が微塵も感じられない行動だが、1つだけ確信を持って言えることがあった。それは…伸びをした事でセラフの爆乳がバルンと揺れ、男どもの視線が釘付けになった事。


「おしっ。私達も東区に戻る。…てめぇらの異論は認めねぇぞ。」


 ギロッと第6魔導師団を睨み付けるセラフ。その威圧感は凄まじく、まさしく蛇に睨まれる蛙の子如く第6魔導師団が竦み上がって従うと思いきや、マーガレットが反旗を翻す。


「嫌ですわ。」

「なんだと…?」


 ドスの効いた声を出すセラフ。しかし、効果は無い。


「当たり前ですの。なんで私が龍人と戦わなければなりませんの?区間のしがらみとかで私が納得するとは思って欲しくないですわね。」

「…ちっ。」


 鋭い舌打ちをすると、セラフはどかっと再び椅子に座る。

 今回の事件は誰かしらからの各区への攻撃や、中央区での対立が起因になってはいるが、そもそもの根本的な所にあるのは区間の対立。そして他区への憎しみの念。


「あの……。」


 躊躇いがちに口を開いたのは龍人の隣に座る遼だった。


「各区が1つになる前に現れたフードを被った人が今回の事件に大きく関わってると思うんだけど、あの人の心当たりって誰も…ないのかな?」


 もっともな意見だった。そもそも区間の対立が目立ってはいるが、確かにフードの人物が関わっているのは確実。となれば、その人物がどの勢力に属するのかが焦点となる。

 フードの人物がホログラフィックのように各区に現れたのは周知の事実となっていて、知らないという言い訳は通用しない。

 しかし、心当たりがあったとしてもそう簡単に言えるものではなかった。もし、間違った事を言えば、それが新たな火種に見える事が分かりきっているからだ。

 この会議何度目かわからない沈黙が再び場を支配する。


(なんか…どの区も何かしらの情報を隠してて、様子を伺い合ってる感じか。このままだと何も状況が変わらない気がするな…。)


 ドンドンドン!


 龍人が周りの人達の表情を見ながら思いを巡らせていると、会議室のドアが再び強打される。そして、レインの返事を待たずに会議室の中に飛び込んできたのは若い女性職員。


「会議中失礼いたします!中央区での区間戦闘におきまして、巨大な爆発が発生。死傷者が多数出たとの報告が入りました…!」


 ブチッという音が聞こえたのは…恐らく気のせいでは無いだろう。女性職員の報告を聞いて額に青筋を浮かべたセラフがテーブルを蹴り上げる。

 それなりに重いはずのテーブルはなんの抵抗もなく真上に吹き飛び、机の角を天井に突き立てた。

 パラパラと木片が散る中で立つセラフの周りには光の粒子がバチバチと明滅していた。


「セラフ、落ち着くのである。」

「あぁん?これが落ち着いてられっかよ。負傷者じゃなくて死傷者だぞ。私が望んでるのはこんな所でのんびり会議をしていて、人の命を失うって事じゃねぇ。こんな結果になるんなら、私の力で魔法街を変えてみせる。」

「待つのである。感情的になっては、良い結果は導けないのである。」

「ゴタゴタゴタゴタうっせぇんだよ!」


 セラフの前に明滅していた光が凝縮すると、チュンッという鋭い音と共に光の針がヘヴィーへ伸びる。


「むっ!?」


 パキィン!という音が会議室に鳴り響き、ヘヴィーが展開した魔法壁が光の針を弾き飛ばす。


「おい行くぞ。」


 殺気を孕んだ声を第6魔導師団に掛けたセラフは胸元からクリスタルを取り出し、記憶されていた転送魔法陣を発動させて中に身を投じた。

 第6魔導師団のジェイド、マリアの2人は無表情で後に続き、ミータは肩を竦めて呆れ顔で魔法陣の中に入って行く。そして、マーガレットは明らかに不満そうな顔でミータを追い掛け、魔法陣に入る直前で何かを思い出したのかフッと足を止めた。


「龍人!」


 振り向いたマーガレットは龍人に向けて何かを投げる。


「ん?」


 パシッと龍人が受け取ったのを確認すると、マーガレットは変わらずの不満顔で魔法陣の中に姿を消していったのだった。

 手の中を見るとそこにはクリスタルが握られていた。だが、不思議なことに魔力は感じない。魔力を込めてみることも出来るが、投げて渡したということは何かしらの意味があるということ。…そう判断した龍人は火乃花達にクリスタルを見せて首を傾げ、制服の内ポケットに仕舞ったのだった。


「…はぁ。結局こういう結果になってしまったか。ヘヴィー、このままでは互いを食い合って疲弊するだけだ。頼んだよ。」


 頭がいたいとばかりにコメカミを抑えたレインは、ヘヴィーを見ると頭を下げる。


「ほっほっ。それは私が1人で出来ることでは無いがの。なんとか賛同者を増やして戦闘を防げるように動くのである。」

「あぁ…このまま奴らの思い通りに動くわけにはいかないからな。それでは、私はここで失礼する。」


 小さく頭を振ったレインは疲れ切った表情で会議室を出ていったのだった。

 会議室に残されたのは第8魔導師団と第1魔導師団の3人。そのうちの1人、ホーリー=ラブラドルが頭の後ろで手を組みながら上半身を仰け反らせる。


「ったく、どいつもこいつも本音を隠して建前ばかりで話しやがって。まだマーガレット、龍人、遼の方が素直に発言していて好感が持てるぜ。」


 男勝りな話し方をするホーリーだが、女である。長い茶髪をロングテールに結び、赤縁眼鏡をかけた彼女はキャリアウーマンという言葉を連想させる。


「マジでその通りだぜ。ほんっとくだらねぇよな。レインも何も話さねぇし。」


 ホーリーの言葉に呼応したのはクラック。中分けの黒髪は髪先だけがパーマがかかった特徴的な髪型が目を引くが、体格はがっちりしていてどこかヤンキー要素を感じさせる。


「おいおい。お前達…一応相手は魔聖だぞ。言葉遣いに注意した方が良いんじゃないか?」


 ラルフが眉間に皺を寄せる。


「ハァ?そんな事を言っても何にもなんねぇだろ。まぁ俺様も黙ってたから人の文句は言えねぇけどな。それによ、この流れは俺様とホーリー、あとはラルフ…第1魔導師団でどうにか対処するしかないだろ。」

「…だな。」

「勿論。そう言えば、街立はどーすんだ?」


 何故か面倒臭そうな態度のホーリーがヘヴィーへ視線を向ける。


「レインの要望通りに区間の戦闘を防ぐつもりなのである。じゃが、第8魔導師団をわたしの意思下に置くつもりは無いのである。彼らには自分で考え、自分なりの答えを見つけてもらうのである。」


 まさかの発言に龍人は思わず耳を疑ってしまう。てっきりヘヴィーの支持下で事の対応に当たると思っていたのだ。自分で考えるとなると…極端な言い方をすれば街立魔法学院を潰す行動を取って良いという意味でも捉えることができる。

 この後、ヘヴィーは第1魔導師団と二言三言話すと龍人達を連れて南区へ帰還するのだった。


 そして翌日。


 第2次魔法街戦争が勃発する事となる。

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