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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-1-12.渦巻く疑念

 迫り来る属性【光】を纏う鳩と属性【闇】を纏う蝙蝠の群れを見た龍人は、小さな疑問を抱いていた。


(なんだ?これがダーク魔法学院とシャイン魔法学院の手先だとしたら、なんで鳩と蝙蝠かぶつからないんだ?2つの魔法学院が手を結んで街立を攻撃してきたって事か?…だとしても、街立が狙われる理由が分からないな…。)


 3つの魔法学院はこれまで良くもなく悪くもなくという距離感を保って来た。一部学院生の中には他学院を目の敵にする者もいたが、それはあくまでも一部。他の学院生は不干渉不接触を暗黙のルールにしていた。

 この背景があるからこそ、今の状況は理解に苦しむものである。

 魔法街が陸続きの島になってしまった事、これがどこかの学院による陰謀なのか、それとも外的要因…天地による陰謀なのかは現状では分かっていない。

 そんな状況下で攻めてくる2つの属性の動物群。


「うらぁ!みんな、迎撃するぞ!ダークとシャインの手先なんかに負けるなぁ!」


 どこからともなく誰かが叫び、その声に鼓舞されるかのように学院生達は魔具を握りしめる。


「ちょっと待て…!」


 龍人が止めようとしたがそれも遅く…学院生達から属性魔法が一切の躊躇なく放たれてしまう。

 50人以上の魔法使いから同時に放たれた魔法の余波は凄じく、魔力同士がぶつかることによって渦が出現して周囲の建物に傷をつけていく。


「龍人さん、火乃花さん!このままじゃ学院同士の対立が明確化してしまうっす。」

「あぁ、タムの言う通りだな。」


 面倒臭そうな声を出しながら、タムの頭にポンっと手を乗せたのはラルフだ。しかし、目は真剣そのもの。龍人達一人一人に視線を送ると、淡々と話し始める。


「いいか。このままだと学院間の対立が激化する。ただ問題なのは、今起きているものが本当にダークとシャイン魔法学院によるものかって事だ。そうなのなら対処は簡単だ。けど…これが外的要因によるものなら、証明が難しくなる。」

「何でだ?どの学院も手先を放っていないって分かれば、対立は防げるだろ?」


 龍人の反論にラルフはゆっくりと頭を振る。


「良く考えてみろ。……!?」


 ドォォオオン!という大きな音が鼓膜を揺さぶる。何事かと視線を向けると、蝙蝠の群れが闇魔法を発動して南区の境目に貼られた防撃結界を震わせていた。


「ちょっと…蝙蝠が使う魔法にしては威力が高すぎないかしら?」


 そう話す火乃花の声はほんの少しだけ震えていた。それもそのはず…防撃結界に向けて次々と繰り出される闇魔法は、彼女が使う固有技の真焔【流星】と同じか、下手をすればそれ以上の威力を誇っていたのだ。

 問題はそれだけに留まらない。この闇魔法が何発も連続で放たれる事、そして鳩の群れも同じように光魔法を放ち始めていた。

 今この場にいる魔法使いで同じレベルの魔法を操れる者はほんの一握り。例え放てたとしても一発が限界という者が殆どであろう。

 こんな芳しくない状況下でも唯一平静を保っている人物がいた。その人物とはラルフ=ローゼスだ。

 ラルフは据わった目で蝙蝠群と鳩群を観察していた。そして、小さな呟きを漏らす。


「ふざけんな。誰の差し金だか知らねーが、2度と同じことを起こしてたまるか。」


 その声色には怒り、そして決意が込められていた。


「ラルフ…同じことって、魔法街戦争のことか?」

「…あぁ。俺たち大人は魔法街戦争を2度と起こさないために、口をつぐむ事を選択した。だが、それが間違いだったのかもな。同じ思想が広まらないように、魔法街戦争が起きた経緯を隠すことにしたんだ。けど、今回の流れはそれを逆手にとってやがる。俺は2度と同じ悲劇を繰り返させはしない。」


 ラルフの固い決意の言葉に龍人は何も返す事が出来なかった。大人達の選択が正しかったのかは分からない。その時に魔法街に居なかった龍人には非難する資格もない。

 ただ…1つだけ言える事があった。

 それは、龍人が魔法街を今、好きだと言える事。この星に住む人々と築いてきた絆を失いたくないと思える事。

 森林街という嘗ての故郷を失ったからこそ、この想いは龍人の中で強いものになっていた。

 だからこそ、龍人はひと言だけラルフに伝えた。


「護ろう。魔法街を。」


 この言葉にラルフはほんの少しだけ驚きの表情を浮かべ、視線を送るとニヤリと笑みを浮かべた。

 ラルフが何を思ったのかは分からない。ただ、龍人は敢えて「南区を。」ではなく「魔法街を。」と言葉を選んでいた。その意図が、伝わったのかも知れない。

 龍人とラルフの後ろにいた遼、火乃花、レイラ、そしてタムも力強く頷いていた。


「うしっ。そしたら街立魔法学院の実力を見せてやるか。…5分で全て倒すぞ。」


 ラルフの言葉を合図に龍人達は動き出す。

 守りではなく、攻めの行動。

 片方向の攻撃のみを防ぐ防撃結界は、双方向の攻撃を防ぐ隔絶結界とは違い結界の内側から攻撃を放ち続ける事が出来る。要は守らずして攻撃に専念できるのだ。

 但し、この戦法で問題となるのは攻撃の応酬が中〜遠距離中心になる事。本気で攻めるのであれば近距離での攻撃はどうしても必須となる。

 だからこそ、龍人達は防撃結界の内側から飛び出し、蝙蝠と鳩の群れに向かう事を選択した。

 龍人の隣を走る火乃花は焔鞭剣を生成して魔力を溜め、遼は双銃に属性【重】と属性【引】の魔力を溜め、レイラは龍人達を対象に支援魔法の第2段階を発動して身体能力向上、魔法&物理防御向上を付与し、タムはノームを隣に伴っていた。


(皆本気だな。うしっ。俺もやりますか。)


 夢幻の剣先を後方に靡かせるように持ちながら走る龍人は周りに魔法陣を展開する。

 …狙うのは蝙蝠の群れだ。

 攻撃に魔法時を割くために無詠唱魔法の飛行魔法で体を浮かせると、一直線に向かっていく。


「キシャァァァアア!」


 蝙蝠の群れは奇声を発しながら(これだけでも普通では無いことが窺える)龍人に向けて闇魔法を放出してくる。


(使うのは闇だけっぽいから光で相殺してみるか。)


 相手が蝙蝠ではなく試合形式の対人戦であれば、負けず嫌いな龍人は迷いなく闇魔法を使用している。しかし、これは下手をすれば命を失うかもしれない戦いであり、その状況下で自分のプライドを優先する選択肢は無かった。

 龍人は夢幻の切っ先に6つの魔法陣を直列展開し、魔法陣の中心へ刀身を突き刺した。


「これで少しは大人しくなれ!」


 6つの魔法陣が光り輝き、夢幻の刀身を包むようにまばゆい光が出現する。そして、右手に持った夢幻を体の左側後方に向ける形…居合斬りの構えを取ると小さく口を動かした。


「魔剣術【一閃光】!」


 横一文字に振り抜かれた斬撃の形に光魔法が飛翔する。放出などの魔法よりも凝縮された光のエネルギーは蝙蝠が放つ放出系の闇エネルギーを切り裂いていく。


「まだまだ!」


 続けて龍人は自身の前方に4つの魔法陣を展開。それらの後ろに魔法陣を直列展開していく。

 そして、4つの直列魔法陣群は横での繋がり…つまり並列魔法陣としても成り立ち、増幅された魔力が巨大な光の槍を生成した。

 蝙蝠の群れが放つ闇魔法群を払い飛ばすかのようにまばゆい光を放つ光の槍は、小さく律動すると砲弾のように突き進んだ。

 蝙蝠の闇魔法を切り裂き、消し去り、一切の抵抗感を感じさせない勢いで突き進み、蝙蝠の群れに突き刺さる。そして…何かに吸い込まれるようにして消えてしまった。


「……え。」


 まさかの展開に龍人は動きを止めてしまう。

 魔剣術【一閃光】と直列並列展開魔法陣による光の槍による連続攻撃は、確実に蝙蝠の群れの一部分を吹き飛ばせる筈だった。しかし、現実問題としてそれは起きていない。

 龍人が気付いていない何かがまだ隠されている可能性が高かった。


「龍人!」


 近くに駆け寄って来たのは遼だ。確か鳩の群れに向けて重力弾を連射していた筈だが…。


「遼、どうした?」

「それがさ…鳩に攻撃が当たる瞬間に何かで魔法が無効化されてるみたいなんだ。」

「そっちもか…。」

「え、って事は蝙蝠の方も?」

「あぁ。何が原因かわからないけど、攻撃が吸い込まれる感じで消えちまったんだ。」

「なんか…嫌な予感がするね。」

「…だな。一先ずは攻撃が消える原因を突き止める必要があるな。」


 周りの魔法使い達の攻撃も同様に無効化されており、戦況は蝙蝠と鳩の攻撃を防ぐしかなくなっていくのだった。

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