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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-1-11.最悪のシナリオ

 魔法協会に向けて進んだ龍人達は実に様々な動物を相手にしていた。

 水を操る蛙。風を操る鳩。炎を操る熊。氷を操る狼。電気を操る猿。などなど。

 どれも基本属性を操る動物だ。しかし、過去に同じ動物による襲撃があったとはいえ、基本的に動物は魔法を操る事が出来ない生き物。通常の動物とどこかしらが違う体を持っていてて魔法を操る生命体を魔獣と呼ぶ。

 この基本原則が壊れつつある事は、魔法街の何かが根本的に壊れつつあるのでは無いか。…そんな危機感を漠然と感じながらも龍人は襲いくる動物達を夢幻と魔法陣を組み合わせた技で倒し続けていた。

 ちなみに、命を奪わない。…という優しい事はしていない。生半可な覚悟で優しさを見せれば、瀕死の動物による攻撃を受け…最悪の場合自身が命を落とす事につながってしまうからだ。

 これに関しては火乃花、遼、タムも同じ見解の様だった。機械街や魔獣討伐試験での体験があったからこその思考である。

 そして、数多の動物の命を奪って龍人達が魔法協会の入り口が見える地点まで来ると、魔法協会前ではチーターと魔法学院生が激しい戦闘を繰り広げていた。


「チーターまでいるのか…しかも使う属性魔法が個体毎に違うな。」

「これはキツイっすね。チーターは元々身体能力が人間より遥かに高いっす。それが魔力で強化されて、更に属性魔法まで使うとなると…脅威でしかないっす。」

「だな…。」


 前方で展開される戦闘を観察しながら、龍人達は思わず足を止めてしまっていた。

 チーター達は属性【風】【火】【水】【地】【氷】などの基本属性を個体別に操っており、それらが規則性なく飛んで来るため学院生達は対処に苦慮していた。しかも、それらに加えて目にも留まらぬスピードで接近して攻撃を加えてくるので、防戦に追い込まれている。


「後ろから不意打ちで何体か倒した方が良さそうだな。」


 卑怯…という観念はすでに捨てている。まずは仲間達の安全を確保することの方が優先事項である。

 龍人の提案に火乃花が頷いた。


「そうね。私もそれが良いと思うわ。」

「あ、待って。ラルフだ。」


 遼が指し示す先を見ると、首をコキコキ鳴らす動きをしながらラルフゆっくりとチーターの群れに向かって歩いていた。遠目だから分かりにくいが…緊迫した事態なのにも関わらず、口元に笑みを浮かべているように見える。

 それを確認した龍人は体に入れていたちからをフッと抜く。


「みんな。多分俺たちの出番はないよ。あのラルフは比較的本気の時だ。すぐ決着が付くと思う。」


 この言葉に他の面々は興味を示し、ラルフへと視線を向ける。そして、既に戦局は動き始めていた。

 チーターの群れに1人で向かうラルフは右手に魔力を集中させつつ、己が武器を召喚するための言葉を紡ぐ。


「狭の精霊よ、我に力を貸したまえ。繋ぐ力は過ぎたる事で別つ力へ。別つ力は消滅を誘引するものなり。我、その現象を剣と成して敵を葬らん。」


 ラルフの右手を中心に空間が歪み、それはやがて剣の形を成す。


「これが俺の召喚精霊剣ノルニルだ。過去、現在、未来を切り裂く力でお前達をゆっくり眠らせてやる。」


 召喚精霊剣ノルニルは澄んだ半透明色の刀身を持つシンプルな剣。だが、存在するその場所から発せられる存在感は、今この場で群を抜いていた。それ程までに秘めた魔力が強いという事に他ならない。

 自分が戦う必要がない事を感じたからだろうか、戦闘以外の所に思考が及び始めた龍人は小さな疑問を見つけていた。


(そういや、前に魔法を使う動物が現れた時は、倒すと霧状になって消えていたな。だけど、今回は消えずに残ってる。…何か違いがあるのか?)


 龍人の疑念を余所にラルフが動く。


「喰らえ!」


 そう叫んでラルフが行った動作は単純そのもの。右手に持った召喚精霊剣ノルニルを右から左に軽くひと振り。剣先が通った先の空間が裂け、ラルフの前に構えるチーター達は抵抗する間もなく飲み込まれてしまう。

 そして、裂けた空間が戻る事で発生するエネルギーが爆発を引き起こした。

 轟音とともにチーター達は爆発に呑み込まれ、吹き飛び、地面に叩きつけられる。そして、霧状になって消えていった。


(あれ?チーターは霧状になる?って事は、俺達が倒した動物は倒しきれてないって事か?)


 何かを見落としている感覚に襲われた龍人は、後方…自分達がこれまで動物を倒して歩んで来た街魔通りへと視線を送る。

 だが、不自然な点はない。龍人達が倒した動物が其処彼処に倒れているという、ある意味地獄のような光景が広がっているだけである。

 この光景を自分達が作り上げたのだと思うと、なんとも表現しがたい気持ちになるが…。


「龍人さん、気落ちする必要はないっす。」


 声を掛けたのはタムだ。悲しそうな目をしているが、その奥には力強い意志も感じられる。


「…そうだよな。俺達が倒さなきゃ、街魔通りに住む皆んながこうなってたかもしんないしな。」


 どうにか自分を納得させようとする龍人だが、戦局は思考を巡らせる時間を与えてはくれなかった。

 死体の山となっていた動物達の体が一瞬ブレたかと思うと、次々と霧になり、上空へ昇っていったのだ。

 そして、動物達が霧になる光景をその場にいた全員がポカンと見つめる中、後方…中央区と南区の境目から喧しい騒音が聞こえてきた。


「なんだ?」


 異様な音に振り向くと…そこには2つの軍勢が迫っていた。

 ひとつは属性【光】の魔法を纏う鳩の群れ。

 ひとつは属性【闇】の魔法を纏う蝙蝠の群れ。


 この光景は…ひとつの嫌な予感を龍人達の心に刻むことになる。

 それは、シャイン魔法学院とダーク魔法学院による手先という事。

 それは、3つの魔法学院が戦うという事を示しており、導き出されるのは第2次魔法街戦争という最悪のシナリオだった。

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