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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-1-10.動物達との戦闘

 転移魔法陣で街魔通りの中心に転移した龍人達5人が目にしたのは、暴れまわる狼と猿だった。

 狼は氷を、猿は電気を操って人々に襲いかかり、街魔通りに並ぶ店を破壊していたのだ。


「これはマズイ状況だな。全員で一気に倒すぞ。レイラはこの場所でタムを守りつつ俺たちに支援魔法を頼む。タムは近寄るやつを撃退しつつ、周囲に怪しい魔法を使う奴が居ないか探してくれ。火乃花と遼と俺は…まぁ、自由に暴れるでいいか。」

「そうね。私達3人なら集まって戦わなくてもこのレベルの動物なら倒せると思うわ。」

「うん。俺もそう思う。」


 火乃花と遼は龍人の意見に賛成のようである。レイラも力強く頷き、その隣にいるタムもやる気を見せていた。


「任せるっす!行くっすよ。ノーム召喚!シルフ召喚!」


 タムの体が強い光に包まれると魔法陣が出現し、ゴツい岩男と銀髪のナイスバディエルフが現れた。

 ゴツい岩男がノーム、銀髪エルフがシルフである。ノームは土属性の魔法を司る精霊、シルフは風属性の魔法を司る精霊である。2体を同時に召喚したタムはやや辛そうな表情だが、それでも飄々とした雰囲気は相変わらずだった。


「よし。行くっすよ。ノームは俺に近づく動物を撃退するっす。シルフはこの周辺で動物を操って居そうなやつを見つけるっす。」

「分かったでごわす。任せるでごわす!」

「ふふっ。それくらい簡単よ。すぐに見つけてあげるわ。」


 タムの指示にノームはドン!っと仁王立ちし、シルフは空高く飛翔していった。

 この1連の行動で魔法を使った事で、気づけば狼と猿が龍人達をターゲットに見定め、ジリジリと近づき始めている。


「タムサンキュー。じゃぁ、俺達もやるか。」

「勿論よ。」

「任せて。」


 龍人は夢幻を取り出し、火乃花は焔鞭剣を生成し、遼は双銃を取り出すと自然な体勢でクルクルと回す。


(余計な事を考えてたら鈍る。今は…目の前のあいつらを倒すことに集中だ。)


 龍人は自身の周りにストックしていた複数の魔法陣を展開すると、狼に向けて駆け出した。同じタイミングで火乃花も龍人と反対側へ、遼は双銃から魔弾を放ち始めていた。

 龍人が向かう先にいるのは3体の狼に。それぞれ周りに氷を浮遊させていて、龍人の接近に気がつくと短い咆哮と共に氷の礫を放ってくる。


「この程度!」


 展開していた魔法陣の幾つかを同時に発動させると、炎と風が発生して氷の礫を溶かし、吹き飛ばしていく。その隙に水平に構えた夢幻を持った龍人は狼に肉薄していた。


「シッ!」


 短く息を吐くと同時に剣を薙ぐ。肉を切り骨を断つ感触が刃を通して手に伝わるが、この程度で怯むわけにはいかなかった。昔の龍人なら躊躇していたかも知れない。しかし、守るためには些細なものでも何かしらを犠牲にしなければならない事をこの1年半で龍人は学んでいた。

 夢幻の刀身が狼の体を抜けると同時に血飛沫が舞う。視界を塞がないように物理壁で血を浴びないように防いだ龍人は、続けざまに魔法陣を発動。発生した風による力を利用して残り2体の狼を斬り伏せた。

 一瞬で3体の狼を倒した龍人は、その先にいるのは10体は超える狼達を見ながら刀身を振って血を飛ばす。


「「「グルルるる」」」


 仲間が斬り倒された事で、龍人を危険だと認識したのだろう。周りの狼達は建物への攻撃をやめて龍人を睨みつけていた。


(思ったより強くはないか?去年現れた熊とかの方が強かった気がすんな。)


 呆気なく3体の狼を倒せた事に龍人は小さな違和感を覚える。狼が弱いのか、龍人が強くなったのかは分からないが、それでもこのタイミングに街魔通りを襲撃する戦力としてみた場合、弱いと言わざるを得なかった。そこに何かしらの意図が隠されているのか…が重要である。

 思案を巡らせる龍人が怖気付いていると勘違いしたのか、おびただしい量の涎を口から垂らした狼の群れは一斉に龍人へ襲い掛かった。

 狼特有の低姿勢による疾走に加え、渦巻くようにして展開した氷の礫が嵐のように降り注ぐ。


「…。」


 対する龍人は落ち着いたものだった。展開した魔法陣を分解して新たな魔法陣を構築する。

 そして….ニヤッと不敵な笑みを浮かべる。


「容赦しないかんな。」


 構築型魔法陣が光り輝いて出現させたのは、狼達が操るのと同じ氷の礫。

 負けず嫌いの龍人は、あえて相手と同じ属性魔法を使って圧倒するという手法を取ることがあった。弱点属性を使わず、同じ属性魔法を使うことで単純に実力がものをいう勝負に持ち込むのだ。

 第3者的に見れば非効率なのは明らかだが、こういった戦い方こそが龍人の強みのひとつでもあるのだ。

 生成された氷の礫は一瞬でその数を増し、うねる本流のような動きで向かいくる氷の礫へぶつかっていく。

 カンッという氷と氷がぶつかる甲高い音が響き渡り、それが幾重にも重なることである種地響きのような音が周囲に響き渡る。砕け散った氷が舞い、それらが視界を遮っていく。

 激突が始まって数秒後。キラキラとダイヤモンドダストのように細かく砕かれた氷が周囲を幻想的に彩る中、夢幻を右手に握った龍人が1人立っていた。

 周囲には狼が体の複数箇所から血を流し倒れている。もがき、立ち上がろうとする狼もいるが、負傷によるダメージが大きいのか満足に脚を動かす事が出来ていない。


「よし。これでこっち側の狼は倒せたかな。」


 龍人は長く息を吐きながら周りを確認していく。狼の群れは全滅しており、残るは火乃花と遼が対応している動物群…主に電気を操るの猿である。

 そちらの状況を確認してみると…流石は火乃花と遼と言ったところか。半数以上の猿が既に地面に伏していた。

 火乃花の圧倒的な火力による攻撃、その隙間を縫うようにして襲いかかる遼の魔弾。これらの絶妙なコンビネーションによって、猿達は為すすべもなく次から次へと倒れていく。電気を操るという特性から、体の電気信号に作用して身体能力を一時的に上昇させる魔法を使っているはずなのだが、2人を前にそれらはほぼ意味を成していなかった。


(遼と火乃花の方は大丈夫そうか。レイラとタムの所も問題無さそうだし。…となると、この辺り一帯の動物は全部倒せたか?)


 中央の混乱を抑えたとなれば、次は北にある魔法協会南区支部に向けて進むか、街立魔法学院に向けて進むかのどちらかになる。だが、北にはラルフ、南にはキャサリンがいるため…正直な所龍人達が向かった所で結果に大きな変化が出るとも思えないのもある。

 龍人はタムに状況を確認するため、近くまで駆け寄ることにした。


「タム。シルフで周りを調べてどうだ?」

「龍人さん、凄いっすね。圧倒的すぎてビックリしたっす。あれって龍人化を使ってないっすよね?」

「まぁね。毎回毎回固有技を使うわけにもいかないだろ。それより、怪しい奴は見つかったか?」

「ちょっと待つっす………。」


 タムは目を閉じると集中し始める。シルフとコンタクトを取っているのだろうか。


「ウッキィィィィ!」


 甲高い叫び声を上げながら遼と火乃花による攻撃の隙間を縫うように進んできた猿が、今がチャンスとばかりに飛びかかってくる。


「ったく、結構かしこいじゃんかよ。」


 龍人が夢幻を構えて迎撃に当たろうとするが、ヌッと大きな影が横から現れた。


「俺に任せるでごわす。ふんっ!」


 タムが召喚したノームだ。身長2m50cmはある巨躯は体の軸を捻りつつ、猿に向けて横から右拳を叩きつけた。


「ブゲギャッ!?」


 強烈な衝撃に猿の体はくの字型に曲がり、大砲の砲弾の様に吹き飛んでいった。


「楽勝でごわす。」


 ドスン!と両足を踏ん張る格好で地面に付けたノームは、ボクサーの様に構えを取って動かなくなる。

 容赦のない強烈な攻撃に、つい先程まで自分も同じ様な攻撃をしていたのにも関わらず、龍人はヒクついた笑みを浮かべてしまう。


「召喚魔法って凄いんだね…。」


 ポロッとレイラが呟き、龍人はレイラと目を合わせると頷き会うのだった。


「…龍人さん!」


 そして、目を閉じていたタムが緊迫した声を出す。


「見つかったか!?」


 目を開けたタムは焦った表情で周囲に視線を巡らせていた。上空からはシルフが物凄いスピードで飛んできていた。


「マズイっす。」

「何がだ…………これは…魔力が集中してきてるのか?」


 そう。気づけば龍人達の上空に高濃度の魔力が集中し始めていた。その魔力の濃さは異常のひと言。これから何が起きるのか。それを想像するだけでも恐ろしいほどの魔力だった。


「街魔通り周辺の状況はシルフに確認してもらったっす。周辺にあやしい魔力を放ったりしている人物はいないっす。ただ…。」


 ここでタムは口籠ってしまう。


「ただなんだよ?」

「……ん〜っと、これが本当なら本当にヤバいんすが、街魔通りの魔力蓄積機から変な魔力反応が出ているみたいっす。」

「へんな魔力反応?」

「ふふっ。それは私が説明してあげるわ。魔力蓄積機っていうのは、私が見たところ街灯に光を灯す魔力を蓄積するものよね。その中の魔力が蠢いているの。何かに反応して引っ張られているみたいね。」


 ふわふわ浮きながら説明をするシルフはキョロキョロと周りに視線を送り続けている。そして、風を身に纏わせ始めながら空を見上げた。


「私の予想だけど、魔力蓄積機の魔力は上空に引っ張られてるんじゃないかしら。」

「上空にね…それはあり得る話か。」


 のんびりと話している様に見えるが、実はこの時ノームは何体もの猿を横殴りにして吹き飛ばしていた。ノームがいるからこそ確保できている話す時間である。


「一先ずだ、あの上空の魔力反応を蹴散らすのは難しいと思う。だから…魔法学院か魔法協会の方を助けに向かおう。ここで考えていても事態が好転することは無いだろ。」

「それは俺も賛成っす。」

「うし。そしたら…シルフ、どっちの方が戦力が集中していたか分かるか?」

「ふふっ。そんなの簡単よ。戦力が集中していたのはま……魔法協会の方ね。」

「じゃぁ、龍人さん魔法協会の方を助けに行くっす!」

「おっけー。」


 一瞬だけシルフの様子がおかしくなった様な気がするが…気のせいだったのだろう。タムも特に触れなかったし、シルフも変な素振りを見せていない。魔法協会、魔法学院のどちらも魔法という名前がつくので、召喚されたばかりのシルフが少し悩んだ…と考えるのが妥当だった。


「火乃花!遼!このまま相手の戦力が集中してる魔法協会に向かうぞ!」


 龍人が声を掛けると、焔鞭剣の回転斬りで群がる猿を吹き飛ばした火乃花が返事をする。


「分かったわ!このまま倒しながら移動するわね!」

「おっけー!じゃぁ俺もこのまま移動する!」


 拡散弾を双銃から馬鹿みたいに連射した遼は何故か爽やかな様子で返事を返すのだった。人と戦うことや命を奪う事に躊躇いを持ち、中々実戦で実力を発揮する事が出来なかった昔の遼とは大違いである。おそらく、何かが遼の中で気持ちの整理を付ける手伝いをしたのだろう。

 龍人とレイラ、タムの3人は火乃花と遼が戦いながら移動を開始したのを確認すると、頷き合って共に移動を開始したのだった。


 彼らの視線の先からは手に炎を纏った熊が接近していた。

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