5-1-8.対人戦トーナメント
火乃花が控え室に戻った所で、ラルフの声がグラウンドに響き渡る。
「さて、そろそろ疲れたから普通のテンションでアナウンスを入れてくぞ。次はだなぁ、龍人とルーチェだ!上位クラス学級委員同士の対決だ。んじゃ、よろしくな!」
名前を呼ばれた龍人はニヤリと笑うと、ルーチェの方を向く。
「ルーチェとか。真面目に戦わないとヤバイかな。頑張りますかっ!」
龍人は勢いよく立ち上がると、ストレッチをしながらリングに向かって歩き出した。
「龍人君が相手ですわね。相手にとって不足なしですわ。」
ルーチェも立ち上がると、服の汚れを払いながらリングに向かう。
龍人とルーチェ。街立魔法学院1年生上位クラス学級委員を務める2人がリング中央で対峙した。
ルーチェは龍人を普段は余り見せないような真剣な表情で見る。小さな挙動すらも見逃して貰えなさそうな眼光に、龍人は警戒心を上げていく。
「龍人君、極めて稀な属性【全】の実力見せて頂きますわ。」
「稀って言っても結局の所、全部中途半端って事だぞ?買いかぶり過ぎだって。」
両手を上にあげて伸びをしながら、放課後の教員校舎訓練室でラルフに言われた言葉を反芻する。
(「いいか龍人。お前の使う展開型魔法陣だが、確かに使える者も稀に存在する。しかもお前が周りに言っている属性【全】っていう属性じゃなくてもだ。ま、それでも稀である事は間違いないけどな。展開型魔法陣は魔法陣魔法をかなり極めないと出来ない芸当だからな。ここまではギリギリ普通の範囲に収められる。ただし、魔法陣を展開して、その魔法陣を使い、別の魔法陣を構築するのは…俺が知っている限りお前だけだ。んーと、構築型魔法陣と呼んでんだっけ?その構築型魔法陣を使うと、属性【全】という珍しい属性に加えて、何か稀少な力を隠してるんじゃないかと怪しまれる危険がある。今後は構築型魔法陣を使うのは俺との特訓中だけにするんだ。」)
ラルフと約束した構築型魔法陣使用禁止の制約を考えると思わず溜息が漏れてしまう。
(構築型魔法陣が使えないと、魔法陣のストックが切れたら負けなんだよなぁ。)
「いきますわよ!」
いきなりルーチェが叫ぶ。いや、考え事をしている間に試合開始が告げられていたのだろう。完全に聞き逃していた。
龍人は脚に風を纏い、高速移動の準備をする。
先に動いたのはルーチェだった。




