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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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15-1-2.ひとつになった星

 中央区支部内にいる人達を転移魔法陣で片っ端から避難させようとしていた龍人は茫然と立ち尽くす。

 眩く光り輝く魔法陣は発動したという事であり、これはつまり既に手遅れという事実を示していた。しかし…。


「…………。何も起きない?」

「でも、魔法陣は発動してるんだよね?」


 これだけ大規模な魔法陣が発動しているのだから、それ相応の現象があって然るべきなのだ。空一面を覆い尽くすほどの雷が降り注ぐ、全てを飲み込む竜巻が蹂躙する、灼熱の業火が焦土と変える等々。…このレベルで納得がいく規模感。

 しかし、現実は無である。強いて言うなら眩しいというくらいだろうか。

 龍人達の周りにいる人々も空を見上げ、互いに顔を見合わせて首を傾げている。


(只のびっくりでしたってオチか?…いや、それにしてはいきなり現れて消えた謎の人物の言葉…『もうこんな茶番はやめよう。全ては魔法街が複数の島の集合体として存在するからだ。ならば…全てが1つになり、本音でぶつかり合う事で、初めて、本当の魔法街という星になれるはず。』…ってのが気になる。俺の予想が正しければ、この魔法陣が導く結果は…。)


 龍人達が警戒を続ける中、小さな震動音が小さく聞こえ始める。それは1方向からではなく、東西南北の4方向から。


「おーい!大変だ!!他区が中央区に近づいてきてるらしいぞ!!」


 緊迫感のある誰かの叫び声が龍人とレイラの耳に届く。


「やっぱりか…!」

「どういう事?」

「魔法陣が浮かび上がる前に現れた謎の人物が、『もうこんな茶番はやめよう。全ては魔法街が複数の島の集合体として存在するからだ。ならば…全てが1つになり、本音でぶつかり合う事で、初めて、本当の魔法街という星になれるはず。』って言ったんだ。最初は余計な区を破壊して…って事かと思ったんだけど、違ったみたいだ。どうやらあいつの狙いは…中央区に他区を隣接させる事みたいだ。」


 龍人の言葉を聞きながら、レイラの顔色がどんどん悪くなっていく。


「さっき見せられた魔瘴クリスタルが魔法協会各区支部の倉庫に保管されている映像のせいで…ううん、その前から他区の住民票を持った魔瘴クリスタルの売人が各区で捕まったりして…区同士の不信感が高まってるのに、各区が陸続きになっちゃったら…。」

「……あぁ。間違いなく戦いが起きるな。」

「止めなきゃ。」

「だけど俺達だけでその他大勢の意見を変える説得が出来るか怪しいぞ?」

「それでも…私たちが説得する事で、それが広がるかもしれないよ。私、魔法街が機械街みたいになるのは嫌だよ…。」

「…そうだな。やれるだけやってみるか。」


 龍人の脳裏に機械街で体験した生々しい思い出が蘇った。

 魔導師団の任務で訪れた機械街で、龍人達は都市アパラタスとジャンクヤードによる機械街紛争に巻き込まれたという経験を持つ。そこで体験した命を懸けた戦いの重さ。それが魔法街で起きるかもしれないと考えたら、居ても立っても居られなくなるのは当然の事である。


「南区が中央区に近づいてるってことは、多分転送魔法の近くに来るだろ。」

「うん、行こう。」


 2人は厳しい表情を浮かべながらも目を合わせ、力強く頷きあって南区への転送魔法陣に向けて走り始めた。

 中央区に他区が引き寄せられているという情報が一気に広まったのか、通り過ぎる人々は誰しもが同じ話題について話していた。


(…なんとかして区間での戦闘が起きないように立ち回らないと。もし、このまま他の区が近づくのが止まらずに、区同士が陸続きになった場合…各区の人達はどう動く?すぐに戦闘が起きるか?いや、先ずは何が起きたのかを確認する筈だ。それなら……攻撃が始まる前になんとかすればチャンスはある!)


 走る龍人の手に自然と力がこもる。魔法街は第2の故郷…龍人が生まれ育った星の森林街は、天地という団体に所属するセフ=スロイによって壊滅させられた。その時、幼馴染の藤崎遼と共に立ち向かった龍人は赤子の手を捻るように敗北。何も出来ずに森林街が破壊されていくのを見るしか出来なかった。

 この記憶は、龍人に大切なものを守りたいという気持ちを人一倍強くさせていた。だからこそ、いまの状況をなんとかして戦う事なく収めたい…そう思っていたのだ。

 中央区の街中を走っている内に、ブワッと空に輝く魔法陣の光が強くなる。そして次にドォォォンという低い地響きが中央区を揺さぶった。


「…他区が中央区にくっ付いたか…!?」

「その可能性は高そうだよね…。」


 龍人とレイラは走る速度をさらに上げる。そして、南区への転送魔法陣が設置されている場所が見えた2人は思わず足を止めてしまう。

 そこには中央区からの転送魔法陣と繋がっている転送魔法陣が設置されている魔法協会南区支部が、中央区に隣接する形で並んでいた。その先には南区の中央を通る街魔通りが見える。


「まじか…。本当に実現しちまった。」

「これからどうしよう?それに、火乃花さんと遼君は大丈夫かな…。」


 周りを見ながら心配そうに言うレイラ。龍人とレイラと同じ第8魔導師団に所属する霧崎火乃花と藤崎遼は、魔瘴クリスタル蔓延の首謀者と思われるキール=ビルドという人物を探して、火乃花の兄である霧崎煉火と共に行動をしていた。

 この騒動でキールを探すどころでは無いのだろうが、どちらにせよ安否が気になる事に変わりはない。

 2人を探しに動き出す。…という選択肢もあったが、龍人は心を鬼にして別の選択肢を選ぶ。


「レイラ。火乃花と遼は大丈夫だと信じるしかない。俺たちは、ここから区間の戦闘が始まらないように行動をすべきだ…」


 その為にどう動くのかを話そうとした時である。南区の街魔通り中心部分付近から巨大な炎柱が立ち昇って北と東の方向に飛んでいった。

 これだけでは無い。タイミングを示し合わせたかのように北と東から光のレーザーと氷の礫が南区に向けて飛来し、容赦なく降り注いだ。


「誰だよ早まったのは…!」


 事態がどんどん悪い方向に進んでいく事に苛立ちを隠せない龍人は、飛来する攻撃魔法を防ぐべく魔法陣を展開する。

 因みに、龍人は真極属性【龍】を有する為に魔法陣を描かず展開して発動する事ができる。上位の魔法陣などの複雑なものに関しては、下位や中位の魔法陣を展開、分解という手順で分解した魔法陣のカケラを集めて別の魔法陣を構築する事で、通常よりも大幅に時間を短縮して発動する事が出来る。正確に言えば、この魔法陣展開魔法、魔法陣構築魔法以外で属性魔法を発動する事が出来ないという事なのだが。

 通常の魔法使いは先天的属性、継承属性×2の合計3つの属性を有している。それらの属性魔法を呪文魔法や魔具魔法などを属性魔法発動の媒体とする事で発動が出来る。これが普通であり、それを考えれば龍人の属性魔法発動の方法が異質なものである事がわかるだろう。

 通常なら異質な能力は隠すものだが、龍人は特に隠していない。その為、躊躇無く魔法陣を展開していた。

 だが龍人が展開した魔法を発動しようとした時、ポンっと優しく肩に手が置かれた。


「…!ヘヴィー学院長!」


 龍人の斜め後ろに立っていたのは街立魔法学院の学院長を務め、魔聖の1人であるヘヴィー=グラムだった。

 白い短髪を風に靡かせ、切れ長な伏し目を迫り来る魔法に向けたヘヴィーは普段とはまるで違う厳しい雰囲気を纏っていた。


「これは困ったのである。よもや区が引き寄せられてすぐに攻撃を放ってくるとは…敵の方が一枚上手だったのである。」

「呑気にいってる場合じゃ無いだろ!」

「む?大丈夫なのである。既に重力場を操作したので、ここに攻撃は着弾しないのである。」


 まさかそんな事が…と上空を見上げた龍人の視線の先で、光のレーザーと氷の礫は意志を持ったかのように軌道を変え、彼方へと消え去っていった。

 ヘヴィーの魔法力に龍人が驚いているのを見たヘヴィーが小さく笑い声をもらす。


「ほっほっ。龍人や、お主にもこれくらいの芸当は出来よう。」

「いや、ここまですんなりと出来る自信はないぞ。」

「全ては結論なのである。南区を無傷で守れれば、過程がどうだとしても結果は変わらないのである。」

「まぁ…そーゆーものかねぇ…。」

「そうなのである。さて、今の攻撃があったからには今後も何かしらの攻撃がくると予想せざるを得ないのである。先ずは防御結界の防撃結界を張り、街立魔法学院で今後の対策を練るのである。お主らは先に行くのである。」

「…分かった。」


 色々と言いたい事がある龍人だったが、今の状況であれこれと言っても時間の浪費になる為、素直にヘヴィーの言う通りに街立魔法学院に向かう事にしたのだった。

 レイラと歩き出した龍人の後ろではヘヴィーが防撃結界を中央区と南区の境目に張り始めていた。


「やっぱりヘヴィー学院長って凄いんだね。」

「ん?防撃結界って凄いのか?」

「うん。個人単位では張れる人もいると思うけど、南区を守るように張り巡らすのは相当な技術がいると思うよ。」


 双方向の魔法を防ぐ隔絶結界と、片方向のみの攻撃を防ぐ防撃結界では難度が数段階以上異なる。通常であれば複数の魔法使いが共同で大型の防撃結界を張るのだが、それを1人で淡々とこなすヘヴィーは魔聖という称号が伊達ではない事を示していた。

 因みに、防御結界には物理のみを防ぐ物理壁、非物理のみを防ぐ魔法壁に分かれる。もちろん魔法の中にはどちらにも属するものもあるので、この魔法にはこっちの防御結界という決まりは存在しない。

 他にも遮断壁や反射壁、属性指定の魔法壁【火】などの高等技術を要する防御結界も存在する。

 隔絶結界は薄青、防撃結界は薄赤という色の違いがあるので見極めは至って簡単である。


「今はヘヴィー学院長が南区を守ってくれるから良いけど、今後他区が総力で攻めてきたら…守るだけじゃダメになっちまうよな。」

「そうだね…。私達も頑張らなきゃだよね…!」

「あぁ。出来ることは何でもやらなきゃ…機会街みたいになっちまう。」


 龍人とレイラが街立魔法学院に到着すると、正門で詰め寄る南区の住民を対応するラルフと出会う。


「お!皆さんちょっと待っててくれ!」


 そう叫んだラルフは小走りで龍人とレイラに駆け寄ると小さい声で耳打ちをした。


「学院長室にいってろ。……はいはいはい!皆さん今回の状況に関しては俺たちも調査中なんですよ!詳しくはこの後の………。」


 言うことだけ簡潔に言ったラルフはすぐに住民の対応に戻っていた。

 今回の各区が中央区に引き寄せられた事件は既に南区全体に広まっていて、この詳細を知りたい住民達が押しかけているのだろう。


「…思ったよりも大きな騒ぎになってそうだな。」

「そうだね…。ヘヴィー学院長が防いでくれたけど、南区が中央区にくっ付いた直後に北区と東区から攻撃がきたのも要因の一つだと思うな…。」

「だな。今回の1連の騒動は全てのタイミングが良すぎる。…何とかして止めたいな。……ラルフに言われた通りに学院長室に行っとくか。」

「うん。」


 ラルフの周りに群がる南区住民の物凄い剣幕を横目で見つつ、龍人とレイラは足早にその場を立ち去ったのだった。

 そして、街立魔法学院学院長室のドアを開けると…そこにはそうそうたるメンバーが揃っていた。

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