表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
843/994

14-6-14.黒幕、その正体



 焔に縛り上げられて身動きが取れないグラサン達は忌々しそうな表情で煉火を睨み付けていた。


「…なんで警察が、しかも奇焔師がクリスタルの盗人…もしかしたら魔瘴クリスタルの売人かも知れない奴らを庇うんだ。」


 グラサンの1人が言った言葉に煉火は肩を竦め、龍人達は驚きを隠すことが出来ない。


「おいおい。俺たちは魔瘴クリスタルを見つける為に動いてたんだ。売人なわけないだろ。」

「……へ?」


 まさかの事実にグラサン達は動きを止める。その中の1人が龍人達の顔をマジマジと眺め、何かを閃いたのかピコーン!と体を飛び跳ねさせた。


「お前達…第8魔導師団か!」

「あ、あぁそうだけど。」

「おい、俺達騙されたんじゃないか?」

「その話、詳しく聞かせてもらおうかな。」

「は…は、は、はい!」


 ずいっと腕を組んでグラサン達を見下ろす煉火。その迫力に即負けしたグラサン達は事のあらましを話し始めたのだった。


 ギルドのAランクまで上がった彼らは、次なるSランクを目指す為に数多くのギルド依頼をこなしていた。とは言っても、危険な魔獣をチーム単独で討伐するには経験値も浅く、Sランクになる為にはギルドに特別な功績を挙げたと認めてもらう必要がある。

 だが、今の実力では特別な功績と認められるほどの強力な魔獣を倒すことは出来ない。それこそブレイブインパクトのように圧倒的な実力を持ったメンバーがいれば話は別ではあるが…生憎彼らにはそこまでの天賦の才は与えられていなかったのだ。

 ここで彼らが考えたのは、特別な功績を挙げる為になにをすれば良いかという事。その中で出てきたのが、魔具の強化である。今現在使っている魔具よりも強力な魔具を手に入れる。もしくは強力な魔具に強化する事が必要だった。

 しかし、ここでまた1つの問題に直面してしまう。彼らほどの実力を持った魔法使いが求める魔具にしても、そのレベルまで魔具を強化するにしても莫大な金額がかかるのだ。

 つまりである。必要なのは金。

 この結論に至った彼らは、ギルドで報酬の良い依頼を中心に受ける事を決定する。

 こうして受諾する依頼の方針を決めて1ヶ月。大分資金が貯まってはきたがまだまだ足りない中、彼らは1つの不思議な依頼に出会う事となったのだ。

 それが魔法協会各区支部倉庫にあるクリスタル保管庫の護衛だ。クリスタル50庫という高額報酬につられた彼らは、依頼主が直接依頼の詳細を伝えるというやや怪しい内容にも関わらず依頼を受ける事を即決した。


 ここまで話を聞いた煉火は首を傾げる。


「なぁ…普通に考えたらギルドが依頼主をちゃんと把握してない依頼って怪しすぎないか?そもそも、依頼主を把握していない状態で依頼を出せるわけがない。ってなるとだ、ギルドの上層部が何かしらを隠し、権力を使って依頼を出した可能性もある。良くそんな危ない橋を渡ろうとしたな。下手したら依頼完了後に消されるかも知んないぞ。」

「う…。俺たちだってそれくらい考えたさ。ただ、Aランクの俺たちならある程度の便宜を図ってもらえる可能性もあるだろうって思ったんだよ。」

「はぁ…。なんでそんな自身があるかね。Aランクなんてたくさんいるんだぞ?本当にギルドにとって重要なのはSランクからだ。」

「……だからSランクになりたかったんだよ。」

「焦ってギルドランクを上げてもしょうがないだろ。まぁいいか。じゃ、続きを頼む。」

「…分かった。」


 話の続きは以下の通り。

 ギルドで依頼を受けた彼らは、依頼主から連絡が来るといって通信機を渡された。そして、魔法協会中央区支部を出た瞬間に通信が入る。

 こうして呼び出された場所は、中央区のとある場所にあるクリスタル商店だった。そこにいた人物は金髪角刈りでムキムキの体にピッタリ合ったスーツをビシッと着こなし、グラサンをかけたプロレスラーのような男だった。

 男は自分の事をキール=ビルドと名乗る。キールは自身が預けているクリスタル保管庫が何度か泥棒に入られていると伝え、その犯人を捕まえて欲しいと彼らに話した。更に、最近魔法街で頻発している原因不明の意識不明者や突然死の原因が、魔瘴クリスタルなるものが原因である可能性。更にはクリスタル保管庫に泥棒に入った者たちが魔瘴クリスタルを紛れ込ませている可能性があり、魔法街を守る為にも秘密裏に依頼を出した…と説明したらしい。

 高額の報酬が入る上に、上手く犯人を捕まえる事ができれば特別な功績として認められるかもしれない。そう考えた彼らはテンションが上がり、意気揚々と中央区支部の倉庫に行き…龍人達に攻撃を仕掛けた。

 …とまぁ、彼らが話した内容をまとめると以上である。


「なるほどな。キールって奴がいる店の場所は覚えてるか?」

「あぁ…。ただ、俺たちに説明をした後に、この店はたたんで別の場所に移すって言ってたんだ。俺たちが倉庫に忍び込んでる奴らを捕まえたのを確認したら連絡するって言ってた。」

「はぁん。って事は、そのキールって奴か、そいつに繋がってる奴らがここで俺たちのことを見張っている可能性もあり得るな。」

「兄さんの言う通りね。って事は、こいつらを解放して全員で近くに潜んでる奴を見つけた方が良いんじゃないかしら。もうこいつらにクリスタルを守る理由は無いわよね。」

「その前に一応聞いておくけど、お前達は魔法街で魔瘴クリスタルの売人が捕まったのを知ってるか?」

「…何よそれ。」

「やっぱり知らなかったか。」


 煉火は龍人達に各区で魔瘴クリスタルの売人が捕まり、それぞれの売人が別区の住民票をもっていたという報道がされた事。この報道に伴い魔法街統一思想が一気に失速し、区間の非難合戦が加速している事を伝える。

 この話を聞いた龍人達は衝撃の展開に開いた口が塞がらない。煉火は話した内容をもとに結論を伝える。


「いいか。今既に今回の魔瘴クリスタルの犯人が誰なのかが全く分からない状況だ。外的要因、行政区に潜んでいる者、クリスタル販売業者、クリスタル製造業者、自動車技術導入によって活発化している運送業者、魔瘴クリスタルの売人、警察組織、魔導師団、魔法協会ギルド、魔法街統一思想団体…と、可能性の観点で言えば犯人になり得る者達は限りない。」

「でも…それだとどうやって事件解決に向けて動けばいいのか分からないよ…。」


 心細そうに言うレイラを見て煉火は真剣な表情で頷く。


「あぁ。こういう時にどうすれば良いのかは簡単だ。」

「…自分と自分が信ずるに値すると判断する人だけを信じて動く。でしょ?」


 煉火は火乃花を見て目をパチクリさせた後、ニヤッと笑う。


「ふぅん。よく覚えてるな!」

「小さい頃から何度も聞いてるからね。」

「良い事だな。まっ、つまりそういう事だ。こっから先は誰でも彼でも疑った方がいい。今まで信じていた相手でも、一度信じる事を止めるべきだな。因みに、だからこそ俺は警察組織の枠組みから外れて1人で動く事を決めた。」

「…えっ?もしかして兄さん…警察の上層部にまた言ったのかしら。」

「もちろん!一応組織に所属しているからには、ある程度のけじめは必要だからな。まぁ今回は役員もいたし、俺の行動が評価されなかったら警察組織から追放されるかもな。」

「またやったのね。お父様がまた頭を抱えそうね。」

「そんなのは俺には関係ないからな。俺は俺が信じた事のために全力で動く。それを成し遂げるために必要であれば、俺は肉親でも切り捨てる覚悟はあるぞ。」

「ほんっと、昔から変わらないわね。」

「ははっ。お褒めの言葉として受け取っておくよ。…さて、無駄話はこれくらいにして、キールって奴がやってる店ってのに行ってみるか。そこに本人がいなかったとしても…何かしらの痕跡があるかもだしな。」


 煉火がパチンと指を鳴らすとグラサン4人組が焔の拘束から解放される。


「あ、…え?」

「うっし。お前達は自分の区に戻れ。これから何が起きるか分からない。ただ1つ言えるのが、今回の魔瘴クリスタルの売人が捕まった経緯、そして魔法街統一思想が失速した事を考えると目的の1つが魔法街の区同士が手を取り合うのを嫌っている奴が犯人の可能性は高い。だから、お前達はもしもの場合に備えて自分達の区を守る準備をしてくれ。」

「……分かった。お前達、変な依頼に踊らされて攻撃しちまって悪かったな。」


 グラサン4人組は龍人達に頭を下げると足早に倉庫から走り去っていく。


「なぁ煉火、解放しちまって良かったのか?あいつらが魔瘴クリスタルの大元に繋がってる可能性も否定できないだろ。」


 龍人の疑問に煉火は肩を竦める。


「だなよなぁ。でもよ、俺はあいつらが犯人に関連した人物ではないと信じたんだ。だから問題なし!」

「…まじで?」

「マジだ!」

「龍人君、兄さんはこういう感じだから諦めて。」

「龍人、火乃花のお兄さんってなんか色々凄いね。」

「だな…。」


 龍人、遼、レイラが新しい生き物を見るような目で煉火を見るが、本人は慣れっこなのか一切気にした様子を見せない。


「よし。そしたら俺はキールって奴が経営しているっていう店に巡回のフリをして行ってみるつもりだ。お前達はどうする?」

「んー…。」

「どうしたの龍人?」


 煉火と一緒に行くとばかり思っていた遼は、龍人がイマイチな反応を見せた事に意外感を隠すことが出来ない。


「なんていうのかな、ちっと違う気がするんだよな。キールって奴を見つける事で状況が進展する気がしないんだ。」

「どういう事よ。」


 火乃花も遼と同じ考えなのだろう。龍人が難色を示している事が理解できない様子だ。


「今回の事件にキールが関わってるのは間違いがない気が済んだけど、俺はそこが主軸じゃない気がする。だから、全員でキールの所に向かう必要はないと思う。」

「…成る程。つまり、魔瘴クリスタルを発端とする事件。この事件を起こした者達の目的が魔瘴クリスタルの蔓延ではなく、他にあるって事か。」

「あぁ。………ま、それが何かは分からないけどな。」

「そういう考え方もあるか。一応言っとくと俺は魔瘴クリスタルを蔓延させ、各区の協力関係を断ち切る。その上で各区毎に撃破。これが敵の目的だと思っている。」


 煉火の推論を聞いた火乃花と遼は納得したように頷いている。しかし、レイラは何故か違う反応を見せていた。


「失礼だったら申し訳ないんだけど、私…煉火君のはちょっと違う気がするな。」

「あら。まぁそういう事もあるわな。あれだ、俺の考えを押し付けようって気はさらさら無いからよ。自分の信じた考えに沿って動くのが1番だ。そったら俺はキールの店に行くぜ。」

「分かった。遼と火乃花はどうすんだ?」


 2人は龍人と煉火へ視線を動かし、迷いを見せる。この様子を見た龍人は微笑んだ。


「別に俺に気を使わなくて良いぞ?俺は俺の信じた通りに動きたいんだ。普通に考えたら煉火と一緒にキールの店に行くと思うしな。」

「…私は兄さんと一緒にいくわ。もし、店にキールとその仲間が複数で待ち構えてたとしたら…幾ら兄さんとは言え負ける可能性もあるしね。」


 火乃花はすぐに結論を出す。だが、遼は迷いを消せないようだ。腕を組んで考え込んでしまっていた。


「………。俺は、俺も煉火と一緒に行くね。龍人の考えも煉火の考えも分かるんだけど、俺はキールの店の方がヤバい気がするんだ。いや…正確に言うと、キールの店の方が先にヤバい事態になる気がするんだよね。だから…龍人ごめんね。」

「気にすんなって。元々は俺が別行動を取ろうとしてるようなもんだしさ。レイラはどうすんだ?」

「私は龍人君と一緒に行くよ。龍人君を1人にするワケにもいかないしね。」

「ん?それって俺の信用全然無いんじゃないか?」

「うん。」

「そんな…。」


 ガックシと頭を落とす龍人を見て笑いが起きる。この笑いを特に狙いもしていない言動で引き起こすレイラは流石だと評価できるだろう。

 笑いが起きた事で和んだ5人は互いに視線を交わす。

 口を開くのは煉火。


「じゃぁ、行こうか。魔導師団基本の4人行動っていう規範から外れちまうけど、そんなに長期間になるわけでもない。しかしだ、呉々も注意してくれよ。俺たちが相手をしているのは…恐らく天地だからな。」


 全員が真面目な顔で頷く。


「遼、火乃花…煉火の足を引っ張るなよ?」

「よく言うわね。龍人こそレイラと2人だからって変なとこ触らないようにしなさいよ?」

「はぁ!?俺はラルフとは違うし!」

「どうかしらね?前科があるの忘れたのかしら?」

「…いやぁ忘れた。」

「あら、じゃぁここで思い出させてあげましょうか?」

「…すいませんでした!」

「…お前ら、仲が良いんだな。」


 何故か下らないやり取りを始める火乃花と龍人を見て煉火は苦笑いを浮かべる。


「まぁなぁ。あの火乃花がここまで砕ける様になったから良いとするか。」


 イキナリの過去の火乃花暴露?に顔を赤らめた火乃花が抗議をしようとするが、煉火は素早く火乃花の口を押さえると龍人に視線を送り、射抜く様な真剣な眼で頷いた。ほんの一瞬の事だったが、それだけで龍人は煉火が言いたい事を理解し、小さく頷き返したのだった。


「じゃ、俺たちは行くぜ。龍人、レイラ…気をつけろよ?」

「そっちもな。」


 龍人とレイラに向かって手を上げた煉火は倉庫から出るために走り出す。後ろにはややムクれた表情の火乃花と、それを不思議そうな表情でチラ見する遼が追従する。


(火乃花も大分頼り甲斐のある仲間を見つけたな。龍人は気づいてるみたいだが、今回の事件…これだけで終わる筈はない。龍人がレイラとどこに向かおうとしてるのかは分からないが、俺たちの行動であの2人の動きを天地に対して隠すことが出来ればいいか。…頼んだぞ。)


 真っ赤なオレンジに染まった空は、水平線の向こうから濃い青が広がり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ