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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
842/994

14-6-13.奇焔師



 赤髪の警察官は警察庁の幹部と役員に向かって軽く手をあげる。


「よっ。」


 友達な訳がないのだから無礼な行為…のはずだが、そこに非難の声が発せられることはない。


「…何をしにきた?」


 赤髪の警察官は警戒心を隠そうともしない幹部と役員に対して肩をすくめる。


「まぁなんだ。今回の不手際の尻拭いをしようかと思ってさ。」


 細い赤髪動きに合わせて揺れ、男なのに自然とエロさを醸し出す。


「不手際…お前はどこまで知っている?」

「そうだなぁ。新聞で報じられている事は勿論知ってるよ。後は…世間が騒いでいるのになんの対応にも動かない警察組織の対応力の悪さもね。」

「…馬鹿にしているのか!?今この状況でそう簡単に動けるはずがないだろう!下手な対応をすれば直ぐに我々が非難の対象になる。今はまだ各区への不信感が募っているが、その大元の原因が我々だとなれば…それこそ警察の威厳が失墜してしまうだろうが!」

「はぁ。だからそういう自分達の利益しか考えないで、都合の良いことしか言わないから信用されなくなるんだって。」

「ぐぬぬぬ…!!」

「それともあれか?もしかして警察は最高の組織だ!みたいに崇められてるとか思ってんのか?」

「この…ガキぃ!」


 赤髪の警察官と言い合いをしていた幹部の1人が我慢の限界を迎えたのか、体の周りに雷を出現させる。


「お、やるのか?」

「まぁ待ってください。こんな所で内輪揉めみたいな事をして何の得になるのですか。」


 さすがに見兼ねたのか、歳のいった1人の老人が口を挟む。


「しかし…こいつは我らを馬鹿に…!」

「だから、そういう些細な事で怒るでない。」

「………くそっ。」


 老人に逆らう事が出来ないのか、幹部の男は雷を無理やり収めると足を組んで乱暴に椅子に座り込んだ。

 その様子を呆れ顔で眺めていた赤髪の警察官に老人が声を掛ける。


「さて、改めて問おうか。各区で同時に魔瘴クリスタルの売人を私達が捕まえ、その者達が別の区の住民票を持っていた。そして、それが分かったのとほぼ同時に号外が配られる。この状況で、何をどうしようと思ってここに来たのかな。…霧崎煉火よ。」


 名を呼ばれた赤髪の青年はニッと笑う。


「俺みたいな下っ端の名前を覚えていてくれるなんて光栄だね。」

「良く言うよの。行政区執行役員である霧崎火日人の息子であるそなたの事を知らぬ方が珍しい。」


 老人の言葉に笑みを深くした煉火は右手を持ち上げると、指先を揃えて額に添える形で敬礼のポーズを取った。笑みを浮かべていた顔はいつの間にかにキリッとしたものになっていて、仕事のできるイケメン警察官の雰囲気を醸し出す。


「今回の魔瘴クリスタルに関わる黒幕の調査及び確保をお任せ頂きたく馳せ参じました。協力は不要。俺1人にお任せ頂きたい。」


 単独行動宣言に老人の眉がピクリと反応する。


「単独とは奇怪な。何を企んでおる。」

「へっ。簡単だ。組織の一員として動くと色んなしがらみがあるだろ?それじゃあ今回の黒幕を捕まえる事は不可能だと判断した。だから表向きは俺の独断による単独行動という形で動きたい。」

「ふむ。そうなると、何かあった時の責任は全て自分が負う…と認識して良いのかな?」

「あぁ。但し、結果が出るまでは裏でとことん協力して貰うぜ。」

「……良いじゃろう。意義のある者はいるかな?」


 老人が周りを見回すが、反対の意を唱える者は出てこない。数名が憤りの感情を抑えきれず、眉間がピクピク動いていたり、顔が赤く染まっているが…何も言わないのならそれまでである。


「うむ。ではお願いするとしようか。」

「うんうん。じゃあ俺は今から単独行動するぞ。」


 煉火は敬礼を解くと部屋から出ようとドアノブに手を掛けた。


「あっ、言い忘れてたけど、敵だけじゃなくてギルドの動きにも注意した方がいいぜ。無意識に敵に回ってる可能性もあるからな。」


 バタン。と煉火がドアを閉めた後、部屋の中を沈黙が流れる。

 これを破ったのは、この部屋の中で1番発言力を持っていると思われる人物。老人だ。


「皆の者。今回の件に関しては沈黙を貫くのだ。そして、警察は各区の警備を更に強化しよう。あの煉火が動くという事は…それなりの事態である可能性が高い。」

「「「はっ!」」」

「ては、次の議題に移ろうかの。まだまだ決めなければならない事は沢山あるからの。」


 警察庁幹部役員は手元の資料をめくり、次の議題を話し始めるのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 魔法街が魔瘴クリスタルという寝耳に水の話題で騒然とする中、それを知らない者達がいた。何を隠そう…第8魔導師団だ。

 彼らは魔法協会中央区支部の倉庫で朝から今現在…夕方までずーっとクリスタルの鑑定による調査を行なっており、自然と外界で起きている情報から遮断されていた。


「ふぅ…これで半分くらいは鑑定したか?」


 何度目になるかわからない10個同時のクリスタル鑑定をした龍人が大きく伸びをする。


「龍人君…まだ半分どころか4分の1も終わってないよ。」

「マジか。このままいったらこの倉庫を調べ終えるのに1週間以上掛かるんじゃないか?」


 ダラーンと四肢を伸ばして寝転がる龍人を見て火乃花が眉間にシワを寄せる。レイラは微笑んでいる。遼は黙々と鑑定中だ。


「ちょっと。休んでいても何も変わらないわよ。」

「んー?流石に魔力を使い過ぎて結構ダルいぞ?もしここで誰かに襲われたらどうすんだよ。」

「魔法協会の倉庫で襲いかかってくる馬鹿がいる訳ないでしょ。」


 緊張感無しに言い合う龍人と火乃花。その光景を微笑みながら見ていたレイラは、強力な魔力が発生したのを感知すると即座に魔法壁を張り巡らせた。


「龍人君、火乃花さん!誰かがきたかも!」


 ドガァン!と激しい音を立てて魔法壁に炎の塊が降り注ぐ。


「…火乃花。魔法協会の倉庫で襲いかかってくるのがなんだっけ?」

「うるさいわね…。常識的にありえないわよこの襲撃。そもそも誰なのかを掴まないとよ。」

「火乃花も龍人も緊張感無いね…。一応俺たち、結構魔力を消費しちゃってるんだよ?」


 呆れ気味に言うのは遼だ。実際に、龍人達4人は一日中クリスタルの鑑定を行なっているので、残りの魔力は半分を切ってしまっている。


「ま、やるっきゃないしな。……来たぞ。」


 連続した炎の塊による攻撃が落ち着くと、うず高く積まれた荷物の陰から4人の人物が姿を現した。


「…ヤクザかしら?」

「さぁ…。」


 その4人は何故かスーツにグラサンという反社会勢力のような姿をしていた。場違い感が半端ない。いや、ボディーガード系の職に就いているのだろうか。


「お前達…何が目的でここのクリスタルを盗もうとしてる!?」


 グラサンの1人が大きな声を張り上げる。が、言っている意味が分からない。


「俺たちは魔導師団の任務でここのクリスタルを調べてるだけだぞ?」


 龍人が事実をありのままに伝えるが…。


「嘘をつけ!魔瘴クリスタルの売人が捕まったのに乗じて、調査と銘打ってクリスタルを盗もうとする奴が現れるかもしれないからと言われたが…本当にそーゆー奴らがいるとはな!豪華な報酬も貰わなきゃだし、お前らを捕まえる!」

「…へ?何で魔瘴クリスタルを知ってんだよ?」

「しらばっくれやがって!行くぞ!」


 グラサン4人が同時に手を広げると、全員の体が連結されたかのように魔力が4人の体を循環し、1つの魔力として練り上げられていく。


「喰らえ!そして凍り付け!冷気の乱舞!」


 ブワッと冷気が踊り狂いながら、問答無用に龍人達に襲い掛かる。


「…くるぞ!」


 龍人達は同時に魔法障壁を張って攻撃を防ぎにかかるが、ここで予想外の事態に直面する。


「龍人君…この攻撃、強いよ!」


 レイラが叫んだ通り、4つの魔法障壁は冷気を防いではいるが…次第に凍りつき、ヒビが入り始めていた。

 防ぐだけでダメなら、攻撃に転じて…と、龍人は龍人化【破龍】を発動して漆黒化した夢幻の切っ先に高熱を生成。そのまま冷気を切り裂く形で真正面に突っ込んで行く。

 この行動に合わせて動いたのは遼だ。双銃から重力場を発射し、龍人から冷気が離れるように配置していく。重力場によって冷気が薄くなった中心を一気に突き進んだ龍人は、グラサン4人組に肉迫すると爆発を引き起こす回転斬りを容赦なく放った。


「………なっ……!?」


 しかし、グラサン4人組は冷気の乱舞を発動したまま龍人と自分達を隔てるようにして冷気の壁を生成。そこに触れた夢幻と龍人の半身は凍り付いてしまう。


「しまった…!」


 右手右足か凍り付いた龍人はグラサン4人組の前て無防備に立ち尽くすことしか出来ない。


「俺たちをナメるなよ!これでもギルドランクA以上のチームなんだ!」


 グラサンの1人が叫ぶと、踊り狂う冷気の勢いが更に強くなる。

 残魔力が少ないせいで思い切った攻撃が出来ない状況。このまま攻められればほぼ確実に凍結させられて捕まってしまう可能性が高かった。

 だが、火乃花はこの状況下においても今この事態が引き起こされている原因を探っていた。


(龍人君が捕まったのはマズイわね…。それにしてもギルドランクっていう事は、魔法協会ギルドの依頼でここに来てるって事よね。なんでギルドに中央区支部の倉庫に置いてあるクリスタル護衛みたいな依頼が出てるのかしら。それに魔瘴クリスタルって言ってるけど…この情報って私達魔導師団しか知らないはずよね。何がどうなってるのか掴みきれないわ。)


 冷静に分析してはいるが、その間にも魔法障壁はドンドン凍り付きヒビが前面に広がっていく。


「火乃花さんこのままだと…!」

「…マズイわね。」

「龍人を助ける以前の問題だよねこの状況!」


 全方位から冷気が襲いかかってくるため逃げ場は存在しない。そして残魔力の問題で強力な魔法も使えない。…ひと言で今の状況を表すのなら、万事休す。

 そして、魔法障壁が砕け散り、踊り狂う冷気が容赦なく火乃花達3人を凍て付かさんと襲いかかって来た。冷気に揉まれ、体全身を凍りつかせた火乃花達は氷像となり拘束されてしまう。

 …とはならなかった。

 突如、一陣の風と表現しても良い程のに鋭く速い炎が火乃花達を守るように周りを旋回し、冷気を弾き飛ばしたのだ。。


「な、なんだ!?」


 突然の強力な魔法の出現に戸惑うグラサン達。


「ふぅ。任務の最中に襲撃の可能性を忘れて魔力を使い過ぎるとか、お前らしくないんじゃないか?火乃花。」


 トンっとグラサンと火乃花達の間に降り立ったのは、警察官の服装に身を包んだ赤髪の男。この男の姿を認めた火乃花は苦い顔をする。


「…兄さん。」


 火乃花に兄と呼ばれた男はレイラと遼に目線を送ると微笑む。どことなくエロさが出ているのは天性的なものだろう。


「よっ。俺は霧崎煉火。火乃花の兄だ。にしてて、この程度の相手に魔導師団が負けそうになるってのはまずいだろ。ま、魔力の使いすぎが原因だろうけどな。」

「…悪かったわね。」

「え、ちょっとまって。火乃花ってお兄さんがいたの?」

「私も火乃花さんにお兄さんがいるの知らなかった…。」

「…そりゃそうよ。言ってなかったもの。正直、エリートすぎて言うのも気がひけるのよね。」

「エリートすぎて?」

「そうよ。まぁ…見てれば分かるわ。」


 こんな話が展開されている内に、煉火が現れて戸惑っていたグラサン達が戸惑いから立ち直る。


「おい!そこの警察官!ちょっと俺たちの魔法を防いだからって調子にのるなよ!こっちには1人人質がいるんだ!」


 そう叫んだグラサンは凍り漬けにされて動くことが出来ない龍人の首筋に巨大な氷の刃を突きつける。


「龍人…!卑怯だぞ!」


 龍人の危機に焦った遼が叫ぶが、この様子を見ていた煉火は余裕の笑みを浮かべたままグラサン達の方に向き直す。


「さぁてと。君達、俺はそういう非道は嫌いなんだよな。そこまでするからにはそれなりの覚悟はあるんだろうね?」

「はっ!どんな覚悟だってんだ!」


 額に汗を掻きながらも怒鳴り返すグラサン。悪者では無いはずなのに、キャラが悪者寄りになってしまっているのは動転しているからなのだろうか。

 これに対して煉火の態度が変わることが無い。


「俺はこれでも警察官だ。例え何だろうと、人の命を弄ぶ奴は…身内でも許さない。」

「ほざいてろ!皆、あれやるぞ!」


 龍人の首筋に氷の刃を突きつけたグラサンの号令で、グラサン4人組はまた同時に魔法を発動させる。高まる4つの魔力が1つに纏まっていき、属性魔法発動の為の強力な媒体として変化していく。

 通常、異なる魔力を持つもの同士の魔力を1つに融合することは難しいのだが、コレが出来ると言うことは、皆が同じ魔力を有している可能性が高い。これから放たれるであろう魔法を想像しても、それを1人で防ぐと言うのは不可能に近い芸当である。…はずなのだが、煉火は帽子のツバをキュッと直すと体の周りに焔を出現させる。


「…見てて。私以上の焔の使い手だから。」

「火乃花より?」

「えぇ。真極属性【真焔】。今の霧崎家の血筋を持つ者で最強の男よ。」

「最強…。」


 火乃花達が見る中、煉火の周りに出現した焔は細くなっていき線となって周りを漂う。

 煉火に動きが無い中、グラサン達の属性魔法は融合した魔力を媒体として発動に成功していた。生成されたのは何かの液体。白い煙がシュワシュワと上がり続けていて、恐ろしいまでの冷気が火乃花達に押し寄せる。


「ははぁん。やるね。そこまで巨大な液体窒素を出現させるってのは、相当な実力の持ち主だよね君達。ただ1つ残念なのは、俺と敵対したってトコか。」

「うるせぇ!これをくらって粉々に砕け散りやがれ!」


 液体窒素が煉火に襲いかかる。1つの大きな塊から蜘蛛の巣のように広がり、更に各糸の部分が複数の液体窒素の糸が絡み合う形で強度を上げながら迫り来る。


「いいね。こりゃぁ普通の魔法使いだったら即死レベルかな。」


 笑みを浮かたままだが、煉火の目つきが鋭くなる。これに合わせて周りに浮かぶ線の焔に変化が起きる。オレンジの炎が紫になり、青になり、そして透明になったのだ。


「え、透明?」

「そうよ。私がプロメテウスを召喚する事で極属性から真極属性にやっと変えられるのに、兄さんは通常時で真極属性なの。そして、私はプロメテウスの力で炎の熱量を上げて真紅の焔にするけど、兄さんは焔自体の温度を極限まで引き上げられるわ。その最終形があの透明な焔よ。」


 火乃花達が見る中、煉火は透明な焔の糸を4本にすると、蜘蛛の巣のように広がって襲い来る液体窒素に向けて放った。


「……なんだと!!???」


 次の瞬間、繰り広げられた光景を見て漫画のように叫んだのは…グラサン達。

 煉火の焔は目にも留まらぬ速度で縦横無尽に煉火とグラサンの間の空間を駆け巡り、数秒で液体窒素を全て霧散させていた。

 更に、凍結させられた龍人も熱で解放され、首筋に突きつけられていた氷の刃も蒸発して消え去っていた。

 圧倒的な実力の差に、その場にいる煉火以外の8人が絶句する。


「ほいよっと。これで終わりだな。」


 余裕綽々の態度で首をコキコキ鳴らす煉火を見て、グラサンの1人が体をワナワナと震わせながら叫ぶ。


「お、お、お、お、お前!!奇焔師か!」

「ん?あぁ〜…俺の事をそう呼んでる人もいるみたいだな。」

「くそ…!奇焔師が相手で勝てるわけがねぇ。逃げるぞ皆!!」


 勝てない相手だと悟ったグラサン達は速攻で逃亡態勢に移る。…が、10秒後には煉火の焔によって縛り上げられて床に転がる事になるのだった。

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