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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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14-6-7.失われる信頼



 魔法街で発生した半獣人による襲撃騒動。

 この騒動は大きな混乱をもたらす結果となってしまう。

 唯一死者が出ているが第7魔導師団と第8魔導師団が居たために被害が比較的少なかった魔法街南区。

 第6魔導師団しかおらず、更に魔造人獣が出現した事で大きな被害を受けた魔法街東区。

 第4魔導師団しかいなく、魔造人獣の出現は無かったが、半獣人が他区よりも多数出現し…そこそこの被害を被った魔法街北区。

 どの区も被害の種類は違うが、同じ程度の打撃を受けた事には間違いがない。そう捉えれば大した問題ではないのだが…物事はそう簡単には進まなかった。

 各区の住人達が半獣人の襲撃が他区による陰謀だと叫び始めてしまったのだ。どの区の被害レベルもほぼ同じな為、どの区が裏で糸を操っている真犯人だとしてもおかしくない状況。この状況が他区を非難できる状況を見事に作り上げたのである。


 東南北区同士による非難合戦の影響は、魔法街統一思想にも大きな影響を与えていた。各区の関係が一気に悪化した事で、この思想に賛同する者達が激減してしまったのだ。

 ただ、思想を唱える中心人物達は今回の半獣人による襲撃が魔法街外部によるものだと主張し、再び各区が手を取り合う道を探って活動を再開していた。

 これは魔法街統一思想集会で外的要因の存在を明らかにしていたからこそ、何とか繋ぐ事が出来た唯一の光明とも言える。


 要約すれば、人々の関心は半獣人を送り込んだ犯人が誰なのか…という一点にほぼ集約されていた。

 この犯人が捕まれば魔法街に再び平和が訪れる。誰が言い出したのかは分からないが、世論の大流はこれであった。


 そんな中、今回の事件の本質に比較的近づきつつある第8魔導師団は第7魔導師団のルフトに呼び出されていた。


「今日は集まってくれてありがとねっ。」


 集合場所は教員校舎訓練室。一般の学院生が入る事ができないので、情報漏洩の心配がないという観点で選ばれていた。

 両手をポケットに入れて立つルフトは相変わらず爽やかである。


「で、どんな用事なんだ?俺達任務でこの後動かなきゃいけないんだよな。手早く頼む。」

「そう焦ってもしょうがないって。まず、君達を読んだ理由は1つ。今回の半獣人事件に関する話だねっ。」


 まさかその話題が出てくると思っていなかった龍人達はピクリと反応を示す。


「なにか良い情報があるのか?」

「そうなんだ。魔法協会南区支部の地下でロジェスが変貌した事件は覚えてる?」

「あぁ。あんな事件は忘れられないしな。」

「うんうん。で、彼が変貌する時に胸にクリスタルを埋め込まれたよね?あのクリスタルが普通のクリスタルじゃないみたいなんだ。」

「その情報なら俺達も掴んでるな。ただ、そのクリスタルがどんな物かってのまでは分かんないだよな。」

「普通はそうだよね。実はとある人物から情報を入手できて、そのクリスタルが…魔瘴っていうエネルギーを含んでいるって事が判明したんだ。」

「…魔瘴!?本当なのルフト!?」


 魔瘴という単語に強い反応を示したのは火乃花だ。ものすごい剣幕にルフトは口元をヒクつかせる。


「え…あ、うん。そうだよ。間違いないもんね。火乃花は魔瘴について知ってるのかな?」


 問われた火乃花は、ゆっくりと深呼吸をして気を落ち着かせていいく。


「…ふぅ。魔瘴については家にある昔の文献に書いてあったのよ。この世界とは別次元の世界にすむ闇の生物。それらが放つエネルギーが魔瘴って言うって書いてあったわ。あとは…魔瘴に触れた人間は耐え切れずに死ぬか、体を侵食されて魔の生物に近くなるって書いてあったわね。」

「火乃花…それってあの若者にしてもそうだし、街魔通りに現れた半獣人の群れにしてもピッタリ当てはまるな。」


 龍人の指摘に火乃花は悔しそうな表情を浮かべる。


「本当よね。文献を読んだ時に、こんな事が実際に起きたらすぐに分かるじゃないって思ってたんだけど…悔しいわね。」

「火乃花っ!そんなに気にしちゃダメだよ?それが分かったんなら、これからしっかりと動いていけば良いんだもんね。」


 ルフトの励ましを受け、火乃花はほんの少しだけ表情を和らげた。


「そうね。話を元に戻しましょう。ルフトはその魔瘴クリスタルについてどこまで情報を掴んでいるのかしら?」

「うん。じゃぁこれから話す事は…絶対に他言無用で頼むよ?」


 真剣な声に龍人、遼、火乃花、レイラは表情を引き締めて頷いた。


「まず、さっきも伝えたけど今回の半獣人による襲撃事件は魔瘴クリスタルが原因だと考えてほぼ間違いないと思ってるんだ。魔瘴を取り込んじゃうと、それを取り除く技術は魔法街には無い。そして、魔瘴が蓄積していく事で…これは俺の予想だけど、きっと中毒症状が出るんじゃ無いかなって思ってる。だから、ここ最近の変死とか意識不明になった人達が、倒れたりする前にいつもと様子が違ったんじゃ無いかな。次に問題になるのが魔瘴クリスタルを魔法街に流入させてるのが誰かって事なんだけど…。」

「それは天地だよね?」


 口を挟んだのは遼だ。核心をポンっと言った遼に対してルフトは思わず目をパチクリさせてしまう。


「あれ?そうだよね?ロジェスが変貌した時にいたサタナスって研究者は天地に所属する人物って聞いてたし。それに…俺達が裏通りで会ったフードの男もサタナスだと思うんだ。なんか見た事ある雰囲気だなって思ってたんだけど、今までの話を聞いていて、多分間違いないと思うよ。」

「遼…そこまで観察してるなんて凄いんだもんね。その通りだよ。魔瘴クリスタルを蔓延させているのは天地だ。そして、蔓延させている方法が…これが問題なんだけど、自動車なんだよね。」

「…!?」


 衝撃の事実。ここ数ヶ月、急ピッチで整備が進められた自動車技術。まさかそれが魔瘴クリスタルの蔓延に関わっているとは…誰も想像していなかった。


「あの…って事は、自動車技術の輸入に関わった行政区の中に天地の工作員みたいなのがいるって事なのかな?」


 控えめな態度ながら、これまたルフトが言おうとしていた事を的確に突いたのはレイラだ。

 第8魔導師団の面々が、自分が思っていた以上にしっかりしている事にルフトは思わず笑みが溢れてしまう。


「その通りだね。正確に言うと…ダブルスパイみたいな人物がいるんだ。その人の名前はテング=イームズって言うんだけどね…。」

「テング=イームズ!?」


 再び大きな声を出したのは火乃花。何故か勘弁してくれと言わんばかりの表情で頭に手を当てている。

 疑問を持った龍人が声をかける。


「火乃花はテングって人の事知ってるのか?」

「…知ってるも何も、有名人物よ。成績優秀で魔法協会中央区支部にすぐ抜擢されて、しかもその後すぐに行政区に抜擢よ。中央区ではモニター関係の技術を機械街との交渉で獲得して、行政区に移動してからは今回の自動車技術輸入に関わる交渉の功労者って言われてるわ。まさかテングが天地の人間だったなんて…ややショックね。」

「そんな凄い人物なのか…。…ん?って事はさ、自動車技術を普及させて、それを利用して魔瘴クリスタルを蔓延させて、更にルフトに情報を流したって事か?やってる事がちっと意味不明じゃないか?」

「はは。まぁそう思うよね。正確に言うと少し違うんだ。彼は元々機械街の人間なんだ。機械街をクレジって悪者から守る為に、彼の情報を天地から貰って、代わりに魔法街の情報を天地に流して工作活動を行なってたらしいよ。でも、そのクレジが天地に所属したらしくて、そうなると何の為に天地に所属してるのか分からないじゃない?だから俺に情報をくれたんだ。あとは、自動車技術の導入までがテングの仕事で、そこから先は別の誰かがメインで動いてるんだって。」

「その別の誰かってのは具体的に分かってるのか?」

「…残念ながら。」

「なるほど。それを見つけ出す為に俺達を呼んだって事か。」

「うん正解。俺達第7魔導師団は南区の流通関係をシラミ潰しに探してるから、君達第8魔導師団には中央区で調査活動をして欲しいんだ。」

「それは良いけど、どうやって魔瘴クリスタルを見つけるのかしら?」


 ルフトはニヤッと笑うと指をシャッと動かしてクリスタルを手の平の上に出現させる。


「このクリスタルを使って判別するんだ。ま、絶対に判別出来るって保証は無いんだけどね。」


 そして、ルフトからクリスタルを使って魔瘴を判別する方法のレクチャーを受けた龍人達は微妙な表情を浮かべていた。


「これって…本当に大丈夫なのか?」

「心配ね。」

「そうだね。魔瘴の逆流の心配は無いかもしれないけど、確実性が無いよね。」

「私も…もう少し確実な方法があった方が良いかなって思うな。」

「う…。」


 結果、全員からダメ出しを受けたルフトは乾いた笑い声を上げてみる。


「はははは…。まぁ、何もやらないよりは可能性にかけてみるのも良いと思うんだもんねっ!」


 沈黙。


「…まぁそれもそうか。やるだけやってみっかね。」


 ルフトが可哀想になった龍人の台詞で、他の3人も頷くのだった。


「あ。」


 ここで何かを思い出したかのようにルフトが声を出す。何事か?…と、全員が注目する中、ルフトは表情をキラキラさせ始めた。


「ルフト…一応聞くけど、何を思い出したんだ?」


 嫌な予感しかしないながらも、龍人が問いかけてみる。


「へへっ。俺さ、みんなと戦ってみたいんだよね!」


 嫌な予感…見事に的中。爽やかで女子から人気が高く、しかも第7魔導師団に抜擢されたルフトは有名人である。ついでに言うと、戦うのが大好きという点においても南区の人々からは有名だった。


「やっぱり…。」

「どぉ!?戦わない?なんだかんだ言って俺達ってちゃんと戦った事ないし、同じ魔導師団としてお互いの実力を把握しておくのは必要だと思うんだ!」


 いきなりテンションマックス。更にキラキラした目で訴えかけるルフト。


「いやぁ…流石に4人と順番に戦ってたら時間が掛かりすぎちまうだろ。それなら中央区に行って調査した方が…。」

「あ、それは大丈夫!俺1人と4人同時にで戦うんで問題無しなんだもんね!そうしないとチームとしての実力が見れないしっ。」

「……良いじゃないの。私達、そこまで弱くはないわよ?」

「勿論分かってるもんね!でも、俺の実力も甘くみて貰っちゃ困るんだもんね!」


 もう戦うことがほぼ決まりの流れに、龍人は遼とレイラと目線を合わせる。…2人共しょうがないという表情をしていた。火乃花は勿論やる気満々だ。


「ルフト…やるなら隠し事無しの全力でいくぞ。後悔しても知んないぞ?」

「おっ!龍人もやる気になって来たみたいだねっ!じゃあやろっか!」

「手加減は一切しないわよ。」


 火乃花の言葉を合図に全員が戦闘体制に入る。

 龍人は龍劔を、火乃花は焔鞭剣を、遼はレヴィアタンとルシファーの双銃を、レイラは耳に付けた金色の星型イヤリングを輝かせる。

 両手をズボンのポケットに入れたままのルフトは楽しそうな表情に獰猛な野獣の気配を織り交ぜた。


「俺が強くなる為の糧になってねっ!」


 次の瞬間、ルフトの姿がブレ、5人が全力を出し尽くす戦闘が開始された。

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