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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
835/994

14-6-6.消えゆく日常



 魔法街南区、東区、北区で同時に起きた半獣人の襲撃は各区で混乱をもたらしていた。

 この襲撃から住民を守る為に、各区魔法学院の学院生と魔導師団が対処に当たっていた。


〜北区〜


「次行くよぉ?」


 おっとりとした雰囲気を出しながらも、右手の先に特大の闇の塊を発生させて半獣人を殴り飛ばす。


「うわっ!浅野危ないってば!」

「ん?あぁごめんねぇ。気を抜くとこっちがやられそうだからねぇ。」

「それでも飛ばす方向くらいは調整出来るよねっ?」

「まぁそこはご愛嬌ってとでさぁ。」


 売れない芸人のコントみたいなやり取りをしているのは、第4魔導師団の浅野文隆と森博樹だ。文隆が繰り出す魔法攻撃は容赦がなく、博樹が操る巨大な蔦も次々と半獣人を掴んでは地面に叩きつけていく。

 北区に出現した半獣人は優に40人を超えていて、彼らの周りには10人以上が集まっていた。


「文隆さんも博樹さんも容赦なさすぎじゃない?一応…彼らは元々人間なんだし。」


 文隆と博樹の行為に苦言を呈するのは細身で肩くらいまである薄紫の髪を揺らすデイジー=フィリップスだ。


「それは難しいよねぇ。だってさぁ、気を抜いたらおれ達が殺されるよぉ?」


 言いながら後ろから飛びかかってきた半獣人の胸に闇弾を撃ち込む文隆。のんびりした雰囲気は相変わらずだが、その眼は真剣そのものだった。


「それにしてもだよねぇ…なんで普通の人達がこんな姿に変貌したのか。それを解明しなきゃだよねぇ。」

「んな事言ってないで、さっさとコイツらをぶっ倒すぞ!?」


 ヤンキーみたいな言葉遣いをするのはクジャ=パリ。短い黒髪を右に流しながら立て、パッチリとした眼は眼光が鋭く細身ということもあって、どこか暗さを感じさせる雰囲気を持つ男だ。


「コイツらが街にどんだけ被害を出してると思ってんだ!先ずは全員を倒す事が先決だろうが!」


 全身に薄く雷を纏ったクジャは、屋根の上から飛びかかってきた半獣人に向けて右足の爪先を内側にして踏み出し、それを軸とした回転後ろ回し蹴りをこめかみに叩きつけた。


「グギャッ…!」

「うわっ…!パリ……!今の絶対僕の方向を狙ったでしょ!?」


 砲弾のように吹き飛んできた半獣人をすんでの所で避けた博樹が頬っぺたを膨らませながらむくれる。


「うっせぇ。俺の攻撃から吹き飛ばされる軌道くらい予想出来るだろうが。」

「……うっせぇって………!」


 わなわなと震える博樹。緊張感が無さげな彼らだが、状況はかなり緊迫していた。

 第4魔導師団がいる場所に半獣人が10人以上いる事は前述した通りだが、その姿は様々。

 肌が青い者、太い牙が生えた者、長く鋭くなった爪を振り回す者、髪が真っ白な者、体が巨大化した者、目が真黒に染まった者…はたまた複数の特徴を持つ者等々。

 見た目の変化は様々だが、共通する点もある。それは身体能力が一般人のそれを大きく上回っている事。普通の人間であれば出来ないような体の使い方を魔法無しで体現するのだ。

 そして、身体能力が高いという事は耐久力も同じく高い。文隆による闇魔法の攻撃を受けて吹き飛んだのにも関わらず、大したダメージを受けていない様子で立ち上がってきていた。


「うん。やっぱりこいつら相手に殺傷能力の低い攻撃じゃダメだねぇ。」


 博樹とクジャが睨み合う中、闇の矢を大量に出現させて全方位に向けて放った文隆がボヤく。


「文隆さん。この人達って本当に元に戻る方法はないの?」


 氷の壁を生成して半獣人の進撃を防いだデイジーが、面倒臭そうに聞く。


「多分無いと思うんだよねぇ。彼らからは闇魔法に似た…でも根本的には違う何かのエネルギーを感じるんだよねぇ。しかもそれは人間が本来持つべきでは無いエネルギーかなと。」

「そう…。じゃあこれ以上半端な攻撃をしていても時間の無駄ね。」


 デイジーの表情が変わる。普段は人当たりが良いデイジーだが、本当は心の奥底で様々な悪態をついているのを…第4魔導師団の他のメンバーは知っていた。そして、その本音を隠すことをやめた時の恐ろしさも。

 ジュゥウッという音と共にデイジーの周りに溶解液が出現し、氷の壁を乗り越えてきた半獣人に襲い掛かった。


「ぐ…ギャァァぁ…!」


 溶解液に身を包まれた半獣人は断末魔を上げながら体を溶かしていく。皮が溶け、肉が溶け、筋肉が見えて白い骨が現れ…遂には異臭を放ちながら半獣人はその命を終えた。


「フィリップス…躊躇ないね。」

「当たり前よ。助かる見込みがないまま暴れさせておくのは、本人が可哀想じゃない。」

「ははっ。流石はデイジーだぜ!じゃあ俺もやるかねぇ!……このまま街が壊されるのを見てるのは、そろそろ嫌気が差してきたからな!」


 横に広げたクジャの両腕から雷が迸る。


「う…らぁ!!」


 渾身の気合いと共に両手を頭の上で勢いよく合わせるクジャ。衝撃で雷がバチバチィっと明滅する。

 両腕の雷が頭の上で組んだ拳に集中し、高密度の雷エネルギー体を形成。


「っしゃあ!いくぜ!」


 そして、クジャは両手の拳を勢い良く地面に叩きつけた。

 ゴゴゴゴゴ……と地面が鳴動する。


「……っけけえぇ!」


 2度目の気合い。その瞬間に半獣人達の足元が光り輝き…ドォンという音と共に雷柱が天に向けて立ち昇って姿を呑み込んだ。


「ん〜、パリの攻撃魔法は相変わらずぶっ飛んでるよねぇ。」

「へへへ。お褒めの言葉として受け取っておくぜ。」

「まぁ賞賛していることに変わりはないけどねぇ。攻撃の威力が高すぎるから周りの建物も大分壊れちゃってるよぉ?」

「それはそれだぜ。それによ、今の攻撃でこの辺りにいる半獣人共は全員倒したぞ?」


 クジャの言う通り、第4魔導師団に群がっていた半獣人は全て地面に倒れていた。ピクリとも動かず、息もせず、生命の鼓動も失った状態…つまり、死んでいた。

 例え相手がまともな人間でなかったとしても、命を奪うことを躊躇わないのは、命を軽んじているのか…はたまた命の重さを知っているからなのか。


「まぁねぇ。結果オーライ…ではあるかなぁ。」

「だろ?………っと、マジか。」


 クジャは面倒臭そうに頭をガシガシと搔くと、文隆へ視線を送る。魔導師団専用の通信機から北区の中心街が苦戦しているとの情報が入ったのだ。

 死傷者多数。半獣人の数は約30人。


「ってか、第3魔導師団は何やってんだ?あいつらがいたら30人程度の半獣人、速殺だろ。」

「えっとね、第4魔導師団は今…他星の任務についてるんだよね。」

「……タイミングが悪いな。」

「そうね。戦力が落ちている今を狙ったみたいね。」

「まぁまぁ、それを想像したところで答えは分からないよぉ?それよりも中心街に向かった方が良いと思うんだけどなぁ?」


 文隆の言葉に博樹、デイジー、パリはハッとなる。考えていても動かなければ何も変わることはないし、何も変わらなければ…ただ被害が増えるだけ。ならば、余計な詮索は後回しにすべきなのである、


「そうだねっ。浅野の言う通りっ!じゃあ…行こう!」

「オッケェ。」

「勿論よ。」

「はっ。腕がなるぜ!」


 第4魔導師団は次なる敵を倒す為に、北区の中心街に向けて走り出した。


〜東区〜


 一軒家が多く、街路樹が立ち並ぶ光景が特徴的な東区は、閑静な住宅街というイメージが強い区域である。

 そんな東区も半獣人による襲撃を受けていつになく騒がしくなっていた。

 この半獣人達の迎撃に当たっているのが第6魔導師団の面々である。


「ジェイド!そっちに吹き飛ばしますわよ!」

「任せておけ。私にかかればこの程度の奴ら…!」


 マリアが爆風で半獣人を3人吹き飛ばし、宙に浮いたところへジェイドが高速で近寄ってレイピアによる連続付きを見舞う。


「ぐギャァァ!」


 半獣人達は断末魔の声を上げて儚くも命を散らしていった。


「ふん。他愛もない。」


 着地したジェイドは7:3に分けたパーマの掛かった銀髪を搔き上げる。スラリとした長身であることも相まって、どことなくエロい雰囲気が漂うのは彼が持つ生来の性質といったところか。


「相変わらず無駄にカッコいいですわね。」

「お褒めの言葉ありがとう。だが、私を褒める余裕があるのならそこで家を壊そうとしている半獣人を倒した方が良いと思うぞ?」

「…!キリがないですわね!」


 マーガレットの周りに赤い風が巻き起こる。それは一瞬で半獣人の懐に潜り込むと全身を切り裂いて天へ駆け上っていった。


「ギィィ!」


 切り裂かれた部分から発火した半獣人はもがき苦しみながら、次第に動きを緩慢化させていく。


「さすがはマーガレット。融合魔法を発動するまでの溜めが殆どないな。」

「あなたこそ私を褒めるくらいならあそこにいる半獣人共をさっさと倒すべきですわ。」

「むっ?良いだろう。」


 フワッと風を纏ったジェイドは風の如き速度で半獣人に襲いかかった。

 マーガレットとジェイドがいるのは魔法協会東区支部の前だ。半獣人の出現数が1番多いこの場所で魔法協会東区支部の防衛に当たっている。

 同じ第6魔導師団のミータとマリアは第2防衛陣としてマリア達の後方…魔法協会の入り口付近で待機中だ。とは言え、マーガレットとクジャが敵を魔法協会に寄せ付けないので、今の所出番はない。


「もー全然出番が無いよね?もう少しさぁ、戦わせてくれても良いと思うんだよねぇ。」

「ん〜まぁそう言わないで。何かあった時にフォローするのが私達の役目なんだし。この役割は結構理にかなってるのよ。」


 つまらなそうに文句を言うミータに対して、諌めるように声をかけるマリア。彼らの眼の前では華麗な突き技で半獣人を蓮根のようにしたクジャがカッコよく髪をかきあげている。

 因みに、魔法街東区に所属する第5魔導師団は他星へ行っていて、そのせいで彼ら第6魔導師団が魔法協会東区支部前から動けなくなっていた。


「ジェイド!シャイン魔法学院の方がどうなっているか確認できていますか?」

「むぅ…それは出来ていないな。そういうマーガレットはどうなんだ?」

「ほーほっほっほっ!私は確認できていますのよ!」

「…ならば聞くな!」

「ジェイドが拗ねましたわっ!」

「………このぉ。……あぁ!半獣人共!騒がしい!」


 ジェイドのレイピアが赤く発光する。


「くたばれ…!」


 連続突きに合わせてレイピアの先端のようになった赤い風が飛翔する。そして、半獣人に次々と突き刺さり…連続で爆発を引き起こした。

 噴き上がる血飛沫と撒き散らされる肉片。辺りはグロテスクな光景へと変貌していく。


「相変わらずジェイドの融合属性【風爆】は破壊力抜群ですわね。」

「お前がこの私を馬鹿みたいに挑発するからだろうが!」

「ちょっと…馬鹿とはなんですか馬鹿とは!私、馬鹿呼ばわりされるのは嫌いですわよ!?」

「…だったらまずは人を小馬鹿にしたその態度を直せ。」

「ジェイドのクセに生意気ですわね。」

「なんだとぉ?1度その根性を叩き直してやろうか?」


 半獣人が全滅した訳でもないのに口喧嘩を始めるジェイドとマーガレット。ただし、間違っていけないのは、彼らが戦うのを放棄してまで口喧嘩をしていると思ってはいけないという事。

 マーガレットとジェイドの周りには赤い風が吹き荒れ、近寄る半獣人を次々と切り裂き、突き、発火、爆発させていっていた。

 マーガレットはその観察力や知識から第6魔導師団のリーダー的役割を担っているが、対するジェイドは鮮血の爆風という物騒な異名を持つ人物。周囲からは1番戦いたくない相手という栄誉ある評判を得ている。因みに、ジェイドとマーガレットの実力は実際問題として均衡していて…その2人が前線に出て半獣人の撃退にあたっているのだから、そう簡単に防衛戦が破られるわけがなかった。

 2人が同時に3人の半獣人を倒した時である。小さな異変が起こる。それは天から降り注ぐ1ひと筋の光。まるで神が祝福の光を注ぐかのような…。


「…ねぇマリア。あの光、すごい嫌な予感がするんだよね。」

「あら、気が合いますね。ん〜私も嫌な予感がするわ。これまでとは違うとんでもないものが出てきそうな…。」


 ミータとマリアのこの予想は残念な事に的中してしまう。

 降り注ぐひと筋がその光量を弱めていくと…そこには1人、いや、1体の魔獣が佇んでいた。


「グルルルるる…。」


 その魔獣は今まで現れた半獣人が持っていた特徴を全て合わせた姿をして頂いた。

 真黒の瞳、白髪、巨大化した体、鋭く長い爪、太い牙、薄青い肌…。第6魔導師団の彼らには知る由もないが、この姿はかつて龍人達が魔法協会南区支部の地下で遭遇したロジェスが変貌した姿と同じものだった。


「ふむ。お前達の戦闘能力に興味がある。敢えて僕の作品をここに出したのだ。良い戦闘データを残してくれよ。」


 突然現れて、偉そうな言葉を発したのは黒ローブの男。その男は魔法協会東区支部の入り口と、マーガレットとジェイドの中間地点にいつの間にかに立っていた。


「あなた…誰ですの?」

「ふむ。この状況で僕が誰なのかを気にする程度には余裕があるか。まぁアレだ。僕が君達に話す事は何もない。」

「ほぅ。私達の前にノコノコと姿を現しておいて、そう簡単に逃げられるとでも思っているのか?」


 レイピアを構えて狙いを定めるジェイド。


「ふむ。では一応言っておこうか。そこにいるのは魔造人獣。僕の研究のためにもう少しデータが欲しくてね。僕はこの魔法街に雇われた人間だ。素性を明かす事は出来ないけど…この魔法街も一枚岩じゃないって事だな。」


 フードの男がいう事…それは、魔法街の中に魔法街を滅茶苦茶にしようとしている人物がいるという事。…こう考えるのがベターではあるが、違う可能性も十分に残り得る表現だった。彼が言った事全てがブラフである可能性もある。しかし、これが本当であれば…敵は内側にいる事になる。

 マーガレット達はフードの男が言う言葉の真意を掴みきれずに動く事が出来ない。そして、その隙を突いて魔造人獣が動き出していた。


「ぐるぅぅぅあああああ!!!!!」


 体の奥底を響かせるような低く太い雄叫びを上げた魔造人獣の長い爪が振り下ろされる。


「危ないですわ!」

「むっ!?」


 マーガレットとジェイドは同時に物理障壁を張って魔造人獣の攻撃を防ぐが、爪が物理障壁に触れた瞬間に次々と繰り出される猛攻に耐え切れず…魔法協会南区支部の前まで吹き飛ばされてしまう。


「…魔造人獣と言いましたわね。厄介ですわ。」

「あぁそうだな。奴の爪…物理攻撃だけでなく強力な魔力も帯びている。防御だけでは押し切られる。」


 最早フードの男の動きを気にする余裕は無くなっていた。それ程までの強敵。いや、魔造人獣がマーガレット達に攻撃を仕掛けた瞬間にフードの男はクリスタルから転移魔法陣を発動させてその姿を消していた。

 彼自身が言った通りに魔造人獣のデータを取るために近くで観察しているのかも知れないし、そうでないのかも知れない。しかし、魔造人獣が見せた恐るべき戦闘能力のせいで、フードの男を探す余裕は第6魔導師団の面々には無くなっていた。


「ぐるルルル。ギャオぉぉン!」

「…来ますわ!」


 天高く吠えた魔造人獣が力強く地面を蹴り、それを迎え撃つために第6魔導師団は魔法を発動させるのだった。

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