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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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14-6-1.蔓延する悪意



 「おはよー。…なんか教室の雰囲気悪くないか?」


 街立魔法学院2年生上位クラスの教室に入った龍人は、教室内の雰囲気がいつもより沈んでいる事に違和感を感じ、遼に尋ねる。


「龍人…それがさ、3年生中位クラスの男子学院生が昨日の夜に街魔通りの裏道で死んでたらしいんだ。」

「それって…誰かに襲われたのか?」

「そうでも無いらしいんだ。噂だと深夜に1人で狂ったように叫び声を上げてたらしいよ。」

「ふぅん…。可能性としては、その3年生を苦しめていた誰かがいたけど見えなかった。もしくは何かしらの要因で1人で苦しんでいた。って感じだな。」

「だね。あと、もう1つ噂で気になるのがあって…苦しんで叫び声を上げていて、それが突然消えたらしいんだ。その直前に淡く光ったのを見たって人もいるらしいんだよね。」

「噂だけだとよく分からないな…。この話で皆のテンションが低い訳ね。」


 そこまで暗くならなくても…と思う龍人だが、こればかりはどうしようもない。共に学んでいた仲間が不可解な死を遂げたのだ。例え面識がなかったとしてもだ。

 教室内にいる全員が、小声でボソボソと話し合っている。皆、話したい事は一緒だが…大声で話すわけにもいかず、結果的に辛気臭い雰囲気に拍車をかけているのだろう。

 と、ここで教室のドアを開けて入ってきた火乃花が、龍人と遼を見つけるとカツカツと歩み寄ってきた。いつもよりスピード速めで歩いているからか、胸の揺れがヤケに気になるが…そこに言及してはいけないことを龍人達は知っている。


「龍人君、遼君、3年生が変死した事件は知ってるわよね?」


 周りの学院生達が声をひそめる中、同じ話題にも関わらず、火乃花は通常の声量だった。


「お…おう、知ってるぞ。ってか、皆が気にして声を小さくして話す中で、良く堂々と話せるな。」

「はぁ…何言ってるのよ。ヒソヒソ話して何か変わるのかしら?それなら堂々と話して情報交換でもして犯人を見つけるほうがよっぽど有意義だと思うけど。」

「それは…言えてるな。」

「でしょ?…ってそうじゃなくて、今回の事件に関して大きな動きがありそうなの。」

「大きな動き?」

「もしかしてそれって…。」


 龍人にはサッパリ心当たりが無いが、どうやら遼にはピンとくるものがあるようだ。とは言っても、やや表情が曇っているの良い予感はしなのだが…。

 火乃花は遼の言葉に真剣な表情でうなずき返すと、龍人に顔を向ける。そして口を開きかけた瞬間、火乃花の脇の下から手が伸びてきて胸を鷲掴みにした。


「きゃっ!」


 普段の強気な火乃花からは想像出来ない可愛らしい女の子の悲鳴が上がる。余談ではあるが、この女の子らしい側面が火乃花ファンを増加させる要因の1つになっていたりもする。


「ちょっ…!誰よ!」


 突然の堂々としたセクハラに狼狽える火乃花。だが、龍人や遼を含めた周囲の学院生達は何故か冷めた目を火乃花の後ろにいる人物に送るのだった。

 ここでガラッと教室のドアが開いてレイラが入ってくる。


「みんなおはよー。……ラルフ先生、何やってるんですか?」

「おぉレイラか!お前がくんのを待ってたんだよ。その暇つぶしにちょっとな。」

「ラルフ…暇潰しにするのがセクハラっていうのはどういう事かしら?」


 こめかみに青筋を浮き立たせた火乃花から紅蓮の炎が迸る。


「1回くたばれ!」


 紅蓮の炎は火乃花の右手に集約され、高密度エネルギーとなって拳と共にラルフの鳩尾に向かって叩き込まれた。

 ラルフの鳩尾から強力な熱エネルギーが解放され、範囲を限定された爆発がラルフを包み込む。

 …と、こうなるのがいつもの流れなのだが、今回はそうはならなかった。

 火乃花の拳を右手で受け止めたラルフは、平然とした顔でニヤリと笑ったのだ。


「…へ?」


 セクハラをしたら大人しく制裁を受け入れるという、いつもの流れでは無い事に困惑してしまう火乃花。しかも、火乃花が爆発させようとした高密度エネルギーは…突如消え失せてしまっていた。

 火乃花の拳を掴みながらニヤニヤ笑いを続けるラルフは龍人、遼、レイラの顔を見回し、火乃花の胸をもうひと揉みする。


「お前ら、大事な話がある。ちっと顔を貸せ。」

「…オッケー。」


 セクハラをしながらニヤニヤ笑いをしていても、ラルフが出した声のトーンは真剣味を帯びたものだった。それをすぐに察知した龍人は首肯する。

 ラルフがいつも通りのおちゃらけキャラを最後まで演じないということは、それなりの何かがあるという事は覚悟しなければならなかった。


「大事な話があるのは分かったわ。でも、1つだけ言っておくわ。…いつまで揉んでるのよ!」

「ぶひゃっ!」


 油断をしていたのだろうか。火乃花が体を捻りながら繰り出した鉄拳がラルフの顎を下から打ち抜いたのだった。


 それから数分後、第8魔導師団の面々とラルフは街立魔法学院の学院長室に来ていた。部屋の中にいるのは龍人、火乃花、遼、レイラ、ラルフの5人だ。ヘヴィー学院長も来るのかと思ったのだが、どうやら来ないらしい。

 全員がソファーに腰掛けて落ち着いたところで、火乃花に殴られた下顎をさすりながらラルフが口を開いた。


「お前達にはこれから毎日放課後に…魔導師団として任務に当たってもらう事になる。」


 やけに勿体ぶった話し方に遼が首を傾げる。


「魔導師団なので、勿論任務はやるけど…どんな任務なんですか?」


 この質問にすぐに答えずに、ラルフは困ったように頭をポリポリする。何かに迷っているのか、それとも…。


「あぁ…いいや。考えていてもしょうがねぇ。今回お前達に遂行してもらう任務は

、魔法使い変死の真相究明だ。」


 思わず顔を見合わせる龍人と遼。ついさっき話していた内容に関する任務がリアルタイムに来るとは思っていなかったのだ。だが一方で、火乃花は得心したかのように溜息を吐いていた。


「やっぱりそうよね。」

「なんだ、お前は知ってたのか。」

「任務として動く可能性は分かっていたわ。変死事件に関して、警察が本格的に動き出したっていうのと何故か魔法協会ギルドでも解決依頼が多数掲載されているらしいわ。」

「さっすが、火日人の娘なだけあって情報が早いな。その通りだ。今回、街立魔法学院の3年生が1人変死した。だが、周知されていないだけで他にも被害者が出てるんだ。」


 公に公表されていない情報に第8魔導師団の面々は驚きを隠す事が出来ない。

 不安そうに両手を口元に添えるレイラ。


「じゃぁ…他にも変死した人がいるんですか?」

「いや、死亡例は今回が初めてだ。だが、今年の7月辺りから原因不明の意識不明者が発見される事例が増えてんだ。」

「原因不明…。」

「あぁ。体に異常がある訳でもなく、病気でもない。それなのに、ある日突然裏道で倒れている所を発見されてる。」


 腕を組んだ火乃花が何かを考えるようにしながらラルフに問いかける。


「それって…裏道で倒れている以外に共通点は無いのかしら?」

「まぁ…いくつかはあるんだが、関係あるかすっげー微妙だ。」

「それでも解決の糸口になる可能性はあるわ。」

「まぁな。一応俺たちの所に入ってる情報だと、被害者…って言っていいのかは微妙だが、そいつら全員の倒れる前の様子がいつもと違ったらしい。具体的に言うと…挙動不審、不機嫌、寡黙、ハイテンションってトコだな。」

「いつもと違うの幅が広いわね。」

「そうなんだよな。」


 手掛かりが少なすぎるという現実に全員が黙ってしまう。

 そんな中、学院長室に入ってから沈黙を保っていた遼が口を開いた。


「あのさ…全員がいつもと様子が違ったって事は、何かしらの要因によって精神状態が不安定だったって事だよね。そして、倒れた時には何の異常も見つからなかったとなると…大袈裟に言えばマインドコントロールに類似する何かとか…物理的な要因が倒れた後に消し去られたとか…だよね。」


 突拍子も無いと言える意見…かも知れないが、今回のケースを1つのラインで繋げるという前提に立つのであれば、強ち間違いとも言い切れないものだった。


「確かにそれはあり得るか。マインドコントロールってなると…精神を操る魔法って事か?そんなの聞いた事無いぞ。」

「いや…それなら可能性としてあり得るわ。機械街の闇社会に所属していて、今は天地にいるはずのフェラム=ルプシェール…彼女は人を操る属性魔法を使えるわ。」

「マジか…もしかしてそいつが…って事もあり得るか?」

「ん…それは微妙ね。私が操られている時、フェラムが男は私の虜に、女は私のメイドになる…みたいに言ってたのを覚えてるわ。それが本当なら、意識不明の重体にするのとは少し違う気がするわね。」

「そうか…。だが、そういう属性魔法が存在するとなると遼の仮説が現実としてある可能性も出てくるか。」

「そうね。…もうひとつの方はどうかしら?何らかの要因が倒れた後に消え去るっていうのは。」

「それこそ…そんなのがあるのか謎だろ。」

「確かにね。」

「あれ…俺、そんな魔法…どこかで聞いた事があるような気がすんだけど。」


 腕を組んで首を捻る龍人。


「あ、龍人も?俺もそんな気がするんだよね。機械街かな?」

「んー…そんな魔法使うやついたっけ?」

「いたようないなかったような…。」


 曖昧な事しか言わないで首を捻り続ける2人を見て火乃花が溜息をつく。


「あなた達ねぇ…もう少し真面目に思い出そうとしなさいよ。」

「そう言われてもさ…火乃花はどうなんだよ。」

「私?私はそう言うのは聞いた事は無いわ。……あ、でもなんか引っかかるわね。」

「だろ?レイラはどうだ?」

「え、私は…ちょっと思い当たらないかも。」

「んーだよなぁ。」


 ラルフも含めて全員が首を捻る。


(……もしかして……あの人……ううん、そんな事無いよね。)


 この時、レイラにはほんの少しだけ思い当たる事があった。だが、まさかそんな事が再び起きるとは思えなかった。それに同じ事例というよりも、似たような事例であるだけで…。


「よし!取り敢えずだ…今日の放課後から調査に当たってくれ。」


 話が一向に進まない事を悟ったラルフが明るい声で締めくくる。


 「「「「はーい。」」」」


 中々にやる気の無い返事を返す龍人達だったが、これによって魔法街の運命を大きく変える事件に関わる事が確定するのだった。

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