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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
829/994

14-5-4.とある者達の呟き



 街立魔法学院学院長室。ここに街立魔法学院における主要な教師陣が集められていた。

 メンバーはラルフ、キャサリン、ダルム、キタル、リリスの5人だ。

 この5人を集めたのは他の誰でも無いヘヴィー学院長である。そして、正式な教師ではないがこの場に召集されている人物がいた。その人物の名はジャバック。第8魔導師団が機械街へ任務に赴き、その帰還と共に魔法街に移ってきた強力な魔法使いだ。機械街に於けるジャンクヤードの王として名を馳せていたジャバックは、今では第8魔導師団が所属する街立魔法学院2年生上位クラスを中心に実技の指導を自由気ままに行っている。


「さて、我らを集めた理由をそろそろ聞かせてもらおうかヘヴィーよ。」

「ほっほっほ。忙しい所に呼びつけて申し訳ないのである。ただ、お主らにどうしても確認しておきたい事と、伝えておきたい事があるのでの。」

「ふむ。では確認しておきたい事から聞こうか。」


 腕を組んで偉そうにヘヴィーと会話を続けるジャバックの姿を見て、キャサリンは目付きを鋭くする。


「ジャバック。貴方は一応臨時教師よね?なんでそんな貴方が私達を差し置いて堂々と話をしているのかしら?」

「…キャサリン。それは誤解だ。我は臨時教師と言えど、学院生達の指導に全力で当たっている。それもこれも、今後の魔法街を守る事に繋がると信じている。お主らと我の気持ちというものにそう差はないと認識しているが?」

「…それはそうかも知れないけど、それでもよ。」

「キャサリンや。ここでそういう言い争いをする必要は無いのである。どちらにせよ私は集まってもらった皆から意見を聞くつもりなのである。」

「……分かったわよ。」

「そうか。我も出しゃばりすぎたかも知れぬ。少し大人しくしようか。」

「ふむふむ。2人ともありがとうなのである。」


 ヘヴィーは今一度教師陣の顔を見回すと、ゆっくりと口を開いた。


「まず、お主らに聞きたいのは学院生達の成長具合についてなのである。特に第8魔導師団についてである。今後、この魔法街を守る事が出来る実力を身につけつつあるのか。これは重要事項なのである。それと併せて、魔導師団ではない魔法使いの中で、主要戦力になり得る者達の情報も欲しいのである。」


 ヘヴィーの問いに対して、教師陣達は顔を見合わせる。誰から話すのか…という所なのだが、ここは筆頭魔導師のラルフが最初に報告を始めた。ジャバックがすぐに話したそうにしていたのは、あくまでも余談である。


「そうだな。龍人に関してはジャバックが、遼はキタルが見てるので、俺はレイラと火乃花について報告するわ。まずレイラだが…魔導師団に任命した時よりも大分実力を付けたって印象が強いと思う。それまでは防御魔法を主体に使っていたけど、今では支援魔法や本来の属性である【癒】を効果的に使って仲間のサポートを行ってるかな。レイラがチームに居るだけでそのチームの死亡率が相当低くなると予想できる。次に火乃花だが…こいつは本当に戦闘の天才だわ。流石は霧崎火日人の娘って評価が出来る。極属性【焔】を持ってる上に、2つ目の先天的属性【幻】も操るからな。魔法の形状変化にも長けてるし、最近は固有技も使ってやがる。正直欠点は全く見つからないかな。攻撃がやや直線的な所は、搦め手を使ってくる相手と戦うときにマイナスポイントになるかも知れないから、そこが課題とも言える。」

「なるほどなのである。それではキタル。遼はどうであるかの?」


 ヘヴィーに話を振られたキタルはユラッと頭を動かすと怪しい笑いを響かせ始める。


「ひひひひひひ…。それがですねぇ、凄いのですよ。藤崎遼の双銃…ルシファーとレヴィアタンに刻まれた刻印が解放されているんですよぉ。どうやら機械街のベルーグという職人から教えてもらったらしいんですがねぇ。それで扱える属性が増えるとか…ひひっ。本当に面白い研究対象ですねぇ。まだまだ全ての刻印を解放していないので、その解放方法を現在研究中なのですよぉ。僕の予想では、残りの刻印は元々あの銃に刻まれたものでは無くて、誰かしらの力によって後から刻まれた物だと予想しているんですがねぇ。ただ、その方法も分からないし、だからどうなるのかというのも分からないんですよぉ。それでもあの双銃…そして藤崎遼には本人ですら気付いていない大量の秘密が眠っていると考えているんですねぇ。過去の文献では刻印が無い武器に刻まれたという記述もあるんですよぉ。そして刻印を発動するときの魔力の発動メカニズムも中々に興味深くてですねぇ…。」

「キタル、キタルよ。遼の研究結果では無くて遼自身がどれ位強くなっているかなのである。」

「あれぇ?ひひひ。興奮して話がそれてしまいましたねぇ。藤崎遼の実力はお墨付きですよぉ。若干メンタルが弱いので、そこが克服できれば…最強の狙撃手になれるはずですねぇ。」

「ほぅ…。最強の狙撃手とまで言わせるのであるな。それは期待値が高いのである。」

「ひひひ。まぁ僕にとっては藤崎遼が強くなろうとなんだろうと、双銃の秘密を暴ければそれで満足なんですけどねぇ…だって…」

「それでは我が龍人について報告をしようか。」


 キタルの話が延々と続くであろう事を察知したジャバックが割り込む。とは言っても、キタルは1人で興奮して話続けているのだが。


「龍人に関しては、今現在戦闘スタイルを新しいものに変えている途中だ。これまでは魔法主体で剣術がお飾りだったからな。だが、我が思うに龍人に与えられたあの武器…龍劔があるならば、それを最大限に利用した戦い方をすべきだと考えている。つまり、魔劔士としての戦い方を叩き込んでいる。その甲斐あってか、機械街から戻った直後は我に叩きのめされる事しか出来なかったが、最近は少しは対抗できるようになっているな。」

「それは頼もしいのである。問題点はあるのであるかの?」

「問題点か…。そうだな。戦闘に関しては問題は無いが、龍人の過去に起因しているのだろうと思われるが…怒りに呑み込まれそうな兆候を何度か見たな。」

「怒りに…であるか。」

「あぁ。龍人の中に眠る力は絶大だ。今は龍人化【破龍】によって制御しているが、それまではその力を顕現させようとすると、意識が飛びそうになっていたと言っていた。つまり、怒りによって力が引き出された時、龍人の中に眠る力が暴走する危険性を孕んでいる。」

「ほう…。それはどうにか抑える事は出来ないのであるか?」

「無いな。」


 不可能と言い切ったジャバックに教師陣からややどよめきの声が漏れる。


「して、不可能と言い切る理由を聞かせて欲しいのである。」

「勿論だ。我も龍人と同様に龍の力…轟龍の力を操るが、龍の力は絶大だ。少しでも気を抜けば自我を奪っていきそうなほどの力の奔流が体の内側で渦巻いている。それを制御するのにはある程度の期間が必ず必要となる。そして、例え制御したとしても使役者が激情に呑まれれば…龍の力は際限無く引き出されてしまう。これは龍の力を操る以上避ける事が出来ない現実だ。」

「龍の力が暴走したらどうなるでの?」

「うむ。それは我にも分からぬ。我自身、力に呑まれて自我を失った事が無いからな。だが、我が契約している轟龍よりも龍人が操る龍の力の方が強い事は確かだ。」

「ふむ…。これは要注意なのであるな。外部から龍の力を制御する方法はないのであるか?」

「そればかりは試した事が無いからな出来るとも出来ないとも言えん。」

「…ふむ。分かったのである。では…キャサリン、第7魔導師団の状況を教えて欲しいのである。」

「分かったわ。」


 こうして、各教師陣が受け持っている学院生達の詳細がヘヴィーに伝えられていく。

 ヘヴィーは時に顔を綻ばせながら、時に厳しい表情をしながら教師達からの報告を聞いていくのだった。


 そして2時間後。全ての有力な学院生の報告を聞き終わったヘヴィーは満足したのかニッコリと微笑む。


「うむ。ご報告感謝するのである。お茶でも飲むのである。」


 そう言うとヘヴィーは魔力で湯のみを操って自分を含めた7人分のお茶を注ぎ、各教師の前へと動かしていった。

 簡単なようで緻密な魔力操作が必要な芸当をやってのけるヘヴィーを見て、ジャバックは楽しそうに口元を持ち上げるのだった。


「是非一度手合わせを願いたいものだな。」

「ほほほ。それは私とて大歓迎じゃよ。ただし、今の問題が解決してからじゃ。」

「問題とは?」


 ジャバックの問いに対してヘヴィーは無言でお茶を啜ると、静かにテーブルの上に置く。そして、今日この場に教師陣を集めた本当の目的を話し始めた。


 数分後…。ヘヴィーが話した内容を反芻しながら、教師陣のメンバーは言葉を失っていた。


「以上なのである。私が今話した内容は、殆どが推測に近いものであるが…これが現実となった時、2度と繰り返してはならない悲劇が再び繰り返される可能性が高いのである。」

「うむ。それを未然に防ぐのが我らの仕事という事か。とは言え、元々他の星から来た我が表立って動いては目立ち過ぎる。我は裏方として手伝わせて頂こう。」

「おぉ、ジャバックも手伝ってくれるとは思わなかったのである。これは頼もしいのであるな。」

「大したことは出来ん。我に期待するよりも、各魔法学院で抱えている魔導師団を有効活用する方が余程効率的だろう。」

「うむ。それは私達も分かっているのである。のぉ…ラルフよ?」

「…あぁ。この関しては俺が責任を持って動かせてもらう。」


 ヘヴィーに話を振られたラルフは、いつもの面倒くさそうな態度ではなかった。むしろ機嫌が悪そうで、それでいて力強い意思を瞳の奥で燃やすのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 その日、同時刻。1人の若者が仲間達と街魔通りを歩いていた。総勢10人の彼らは仲が良く、1週間に1回は皆で遊びに行くのが習慣だった。

 その若者は仲間の中でも明るく、ムードメーカーとして皆に親しまれる…所謂人気者である。


「おい…どうしたんだ?」


 仲間の1人が若者へ心配そうに声を掛けた。いつもは明るい若者が、今日に限って機嫌が悪そうにしていたからだ。イライラした様子で辺りをキョロキョロ見回す行動が目立っていた。


「ん、別に。ちょっと周りが気になってさ。」

「いや、そうじゃなくてさ…。なんかメッチャ機嫌が悪くないか?」

「…ほっといてくれ。お前には関係ないだろ。」

「…は?心配して言ってるのに、そういう返し方は無いだろ。」

「余計なお世話だ。俺はお前に心配してもらう義理もない。」

「テメェ…。調子に乗んなよ!?」


 喧嘩腰の若者に怒りを募らせて殴りかかろうとするが、周りのメンバーが慌てて引き止める。


「おいおい!そんな事で喧嘩すんなって!誰にでも機嫌が悪くて話したくない時だってああるだろ?」

「でもよ…!」

「ふん…。俺、先に帰るわ。」


 若者は仲間達に止められている友達へ冷たい視線を送ると、街魔通りから路地裏へ姿を消していった。


「…あいつ、何か辛い時があったらすぐに俺たちに相談してくれてたのによ。どうしたってんだよ。」

「お前の気持ちも分かる。でもよ、人には其々の事情があるだろ?話してくれるのを待とうぜ。あいつの事だから明日になったらケロッと笑ってるだろ。」

「…そうだと良いんだけどよ。」


 若者が姿を消した先を心配そうに見つめる残された9人のメンバー達。彼らはこの時…若者が単純に機嫌が悪いだけだと考えていた。


 その日の夜。暗くなった路地裏をフラフラと歩く人物がいた。…昼間に仲間達と喧嘩をしてその場を去った若者だ。その顔は蒼白で、今にも倒れそうだった。


「…くそ。なんでこうなっちまったんだ。」


 若者はクラクラする頭を押さえながらフラフラと暗い方向へ歩いていく。明るい所にいては、明らかに不審過ぎる動きをしている自分が通報されてしまう可能性が高いからだ。若者は自分がこれから行う事が…一般的に認められる筈がない事を知っていた。


「…あの辺りならいいだろ。」


 認められない行為。普段の自分ならそれを見つけたら全身全霊を込めて糾弾するだろう。それが仲間だったら尚更である。

 だが、止められない。止めようという気すら起きない。それが途轍もなく恐ろしいことだと分かっていても、体の奥底から、体の細胞が求める感情に理性は吹き飛び掛けていた。後に引くことは出来ない。例え望まずに今の状態になったとしても、それはもう過去の出来事。引き返すことは出来なかった。


「これで…楽になれる。」


 苦しみから逃れ、死を選ぶ者が発するような台詞を口にした若者は、路地裏の奥…街灯の明かりもほとんど届かない暗闇が支配する場所に座り込むと…何かをズボンのポケットから取り出すと右手で力強く握り締めた。


「はぁ…はぁ…くそっ、クソッ…!」


 右手に力が込められ…ポタ、ポタ…と血が滴り落ちる。それでも若者は気にしない。気付かない。そうしていると不意に若者の右手がポゥッと光る。指の隙間から漏れる光は温かく、次第に若者の顔に血の気が戻り始めた。


「……ふぅ。危なかった。」


 若者は右手の掌で額に滲み出た汗を拭うと、疲れ切った目で空を見上げた。空に瞬く星はとても綺麗で、若者は自分が苦しんでいた原因となる者が如何にちっぽけなものなのかという事を感じざるを得なかった。


「…俺、元に戻れるのかな。」


 一筋の涙が若者の頬を伝う。


「……ゔ…………あぁぁああ!」


 それは突然起きた。空を見上げていた若者の体がビクンと跳ねたかと思うと、痙攣を始めたのだ。


「うぅぅゔ………ああああ!!」


 苦悶の叫び声を上げ続ける若者。激しく痙攣する体には血管が浮かび上がり、口からは泡が吹き出ていた。

 あまりにも大きな叫び声に、周辺の住人が家の外に顔を出し…もがき苦しむ若者を発見する。そして、尋常ではない様子に気付いた住人達は警察に連絡を取り、若者に駆け寄ろうと家の玄関を飛び出した。

 そして…若者は明滅する意識の中、耳元で囁くようにひとつの声を聞いていた。


「ふむ。……も……いか。」


 家を飛び出した住人達が目にしたのは……苦しみから解放され、亡骸となった若者だった。

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