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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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14-5-1.新技術



 バルク主催による青春キャンプ。ラルフ、キャサリン、ダルムの教師陣による奇襲劇があったものの、その後は何事もなく楽しい時間を龍人達は満喫した。

 結局2週間程を島で過ごした2年生上位クラスの生徒達は、残り2週間という長いようで短い夏休みを各々で満喫するのだった。

 9月から始まる後期授業に向けて特訓に励む者もいれば、後期授業が始まる前にお金を稼ごうとバイトやギルドの依頼に邁進する者もいた。

 因みに、龍人は青春キャンプから帰るなりジャバックに捕まり、街立魔法学院で鬼特訓を延々と受けていた。課題は魔劔士としての技術向上である。剣術、魔法…この2つを個別で使うのではなく、攻撃の中に2つを同時に存在させる事で流麗な攻撃を実現する。…これがジャバックが言う完成系らしく、その域にまだまだ達していない龍人はジャバックにコテンパンに叩きのめされる日々を過ごす事となる。


 そして、学院生達が思い思いの時間を過ごす中…魔法街では1つの変革が起き始めていた。

 その中心となるのが1つの革新的な技術だ。魔法街で発明したという訳ではなく、機械街から輸入する形で入手した技術…つまり自動車技術である。これに伴い自動車の製造が8月の上旬から始まっていて、現段階では10月に運用開始を見込んでいた。

 自動車が運用されるという事は、それに併せた開発も必要になる訳で…1番大きな開発が道路の整備だった。自動車専用、歩行者専用の整備が少しずつ進められ、交差点には信号機が立てられ始めていた。更には交通整備の為に標識も歩道と車道の境目に立てられ、魔法街は機械街に少し似た感じに変わっていった。

 大きな問題になったのは各区間をどうやって自動車が移動をするかという点。そして中央区の店の配置方法の見直しである。

 まず、各区間の移動に関しては自動車専用の転送魔法陣と、それを管理する建物が建設される事となる。建物の名前は交通転送課。何故転送課という名前になったのかというと、これを管理するのが魔法協会◯区支部であり、支部に併設する形で建設されたからである。別の建物というよりも、各区支部にある〇〇課の1つという意味合いが強いのだろう。

 そして、中央区に関しては碁盤の目状に建物が配置される事が決定する。店舗の大きさも全て同一という制限が掛けられ、店の配置場所も従来の毎日ランダム配置から週に一度ランダム配置に変更された。この中央区のシステム変更は9月から開始となり、店主達から反発もあったが…施行してから1ヶ月程で落ち着きを見せる事となる。店の場所を毎日探すという手間が週に1度に減った事。そしてこれまでよりも往来が多くなるとの予想から中央区に行くための通行許可証の発行が不要になったという事が相まり、各店の売上が増えたというのも反発が落ち着いた大きな理由の1つに挙げられる。一応補足しておくと、中央区に行くための通行許可証は廃止されたが、他区へ行くための通行許可証は勿論必要である。


 9月からは車が走っていない状態での信号機運用が開始となり、魔法街の住人達はこれまでの気ままな移動とは異なる信号機の赤黄青に行動を制限される生活に身を置く事となる。

 これにストレスを覚えて大きい反発が出ると予想されていたのだが、これはテングが8月から2日に1度のハイペースで行った自動車技術導入に伴う改革の公演のお陰で住人達の理解が進んでおり、比較的穏やかに進んでいた

。勿論、警察と交通ルール違反者との衝突が毎日どこかしらで起きていたが。これは機械街でも当たり前の光景ではあるので、大きな問題として取り沙汰される事は無かった。

 この魔法街の在り方を大きく変える自動車技術の導入に伴う改革。魔法街の住人達は多少のストレスを抱えながらも、今後良くなるであろう生活に期待を寄せながら10月を待ち望む日々を過ごしていた。

 そして10月。中央区で盛大な自動車運用スタートイベントが開始され、魔法街を数多くの自動車が走る事となる。

 この光景がテレビで放映されているのを街立魔法学院の食堂で昼食を食べながら見ていた龍人は、辛味噌ラーメンのスープを啜りながら隣の遼と話をしていた。


「なぁ。この自動車って本当に必要なのか?」

「ん〜どうなんだろうね。龍人みたいに転移魔法が使えると…正直必要ない気もするよね。でも、そんな魔法を使える人ばかりじゃないし、長距離の移動とかに魔力とか体力を消費しないっていうのは魅力なんじゃないかな?」

「そんなもんなのかねぇ。動力がクリスタルだっけ?またクリスタルの需要が増えるんだな。」

「そうだね。値上がりしそうだよね。普段から結構高めの値段なのに、これ以上値上がりされたら困るなぁ。」

「なんかさ、中途半端に機械街みたいになって気持ち悪いんだけど。」

「それはそうだね。なんで行政区の人達は自動車の導入を決めたんだろうね。これまででも十分に問題が無かったと思うけど。」

「龍人くん。遼くん。考えがまだまだ甘いのですわ。この自動車技術導入による交通の発展は途轍もなく大きいのですわ。」


 箸でネギトロ巻きを持ち上げながら言うのはルーチェだ。父親が税務庁長官を務めるだけあって、様々な情報を知っていそうである。


「どういう点で途轍もなく大きいんだ?」

「それはですね…。」


 龍人が興味を示した事で、ルーチェはネギトロ巻きを口に放り込むとお得意のウンチクを語り始める。


「まずは輸送業に大きな変革が起きていますの。これまでの主な輸送手段が何かご存知ですか?」

「んー…格納用魔具での輸送だろ?」

「そうですの。格納用魔具は便利なようで実は不便な魔具なのです。」

「あ、そうなんだ。てっきり格納用魔具のお陰で輸送業は楽チンなんだと思ってたぞ。だって使用者の魔力に準じて魔具内の空間の広さが決まるんだろ?それだったら基本的に物の輸送量に制限とかないだろ。」

「あら。龍人くんは格納用魔具を使った事ありませんの?」

「俺は魔法陣で別次元みたいな格納空間を作ってるから、基本的にそこから取り出してるからな。」

「成る程ですわ。それでは説明しますが、格納用魔具が使用者の魔力に準じて格納量が増えるのは中級以上の魔力を持っている事が前提になりますの。下級程度の魔力総量の場合は2m四方程度の空間しか使えませんの。」

「あ、そうなんだ。…でもそれなら沢山持てば良いんじゃないか?」

「それがそうでも無いのですわ。格納用魔具は開閉に魔力を必要とするのと、物を格納している量に応じて持続的に魔力消費をしますの。ここから統計的に下級程度の魔力総量の者は4個が限界とされていますわ。魔法を扱うものが大半の魔法街と言えど、中級以上の魔力総量を誇る魔法使いはそこまで多くはありませんわ。」

「…成る程。でも、それが自動車技術の導入で輸送業に大きな変革が起きる事に繋がるんだ?」


 ルーチェは龍人の質問にうんうんと頷きつつ人差し指をピンっ!と立てた。


「簡単ですの。魔力総量が多い人=優秀な魔法使い。こういう人々は警察や行政区、もしくはギルドメンバーとして活躍していますわ。それ以外の人々が一般業に就いていますの。つまり、輸送業に携わる者は魔力総量の低い人が多いのですわ。つまり、大きな物の輸送に大変な手間が掛かっているのです。そこで今回の自動車技術の導入によって登場したトラックが注目されていますの。」

「トラック??」

「えぇ。機械街に行ったのなら見た事があると思うのですが…。大きな箱を載せたような形の車ですわ。」

「あぁアレか!あーつまり、そのトラックで大きな荷物を運べるってことか。」

「そうですわ。これまでは中級以上の魔力総量を持つ魔法使いに助力を得なければならなかったのですが、自力で運べるようになれば利益率が高くなりますの。」

「成る程なぁ。…それならトラックだけで良いんじゃないか?」

「他にもありますの。これが1番重要ですわ。…実は、中央区に行く為の通行許可証が撤廃されますの。中央区から他の区に行く時以外は許可証が不必要ですの。」

「えっ…それ聞いてないわよ?」


 龍人の隣でオクラとキュウリの塩昆布和えをチビチビ食べていた火乃花が大きい反応を示す。


「勿論ですわ。昨晩の会議で決まったらしいので一般への発表は今日の夕方ですわね。」

「…流石は税務庁長官の娘ね。そういう大きなニュースをシレッと言う辺りが、さり気ない大物感よ。」

「あらあら。火乃花さんのお父様は行政区の執行役員じゃないですか。私と大して変わりませんわ。」

「ん〜そうなんだけど、基本的に仕事の話を家ですることは無いのよねぇ。」

「そうなんですね。私は色々な事情で魔法街の法制度等についてお父様とお話をする事が多いのですわ。とは言っても、通行許可証の撤廃を知っているか何かがっていうのはありませんわ。」

「それもそうね。」


 火乃花との会話に一区切りをつけたルーチェが龍人の方に再び顔を向ける。


「…という訳で、魔法街の状況が大分様変わりするのですわ。」

「お、おう。てか、なんで中央区にいく通行許可証が撤廃されるんだ?」

「それは簡単ですの。これまで中央区に行くのに通行許可証が必要だったのは、中央区には他の星の商人が出店する事、そして半端な実力を持った人が犯罪に巻き込まれないようにする事。こういった点が挙げられますわ。ただ、この前の魔法街統一思想集会で他星の存在が認知されましたし、中央区も碁盤の目状に建物が配置されると決定しましたので、基本的に犯罪が起こりにくいのですわ。この状態で通行許可証がある意味が無くなったというのが実情ですわ。」

「じゃあさ、他区にいく通行許可証が残ってる理由ってなんなんだ?」

「それは前と理由は大して変わってないですの。害意のある者が侵入するのを防ぐのが目的ですわね。特に今は魔法街統一思想が大きく議論されていますわ。勿論この思想に対して異を唱える人達も多いのです。この状況で誰かが他区でテロを起こしたら…それこそ魔法街戦争の再現になってしまうのですわ。」

「魔法街戦争か…。」


 魔法街戦争。それはこの魔法街において忌まわしき記憶の1つである。


「そう言えばですが…魔法街戦争のあらましは皆さんご存知ですか?」


 ルーチェはその場にいる者達…龍人、遼、火乃花、レイラの顔を見回すが、誰も詳細を知らないらしく首を横に振るばかりだ。


「そうですよね。私も詳しくは知りませんの。大人達は魔法街戦争の事になると何故か口を噤みますの。それ程の何かがある…という事なのだと思いますが…。」

「それなぁ…俺も前にラルフに聞いた事があるんだけどさ、苦い顔をして話を逸らされたわ。」

「確かに…。私のお父様も魔法街戦争について何か話してくれた事は無いわね。」


 龍人とレイラ、火乃花はここで少し考え込んでしまう。そもそも今話しているのは自動車技術の導入による変革についてであり、魔法街戦争についてではない。とは言え、魔法街で起きた戦争について大人達が揃って口を閉ざす理由が気にならないわけが無いのだ。

 しかし、ここで考え込んでいても何かが解決するわけでは無い。となれば、関係者に直接聞きに行けば良いのだが…話してくれそうな人が思い当たらない龍人達だった。


「…一先ず話を本題に戻しますわね。」


 話の脱線を元に戻そうという趣旨のルーチェの言葉に全員が首を縦に振る。これを確認したルーチェは仕切り直すためにコホンと咳払いをしてから本題を再び語り始めた。


「ともかくですわ、自動車技術の導入によって魔力が少ない故に、魔法街という魔法が使える事を前提としている星において、その恩恵を受けられなかった人達が活躍出来るようになってきているのですわ。これは、魔法力による格差の解消に繋がるのですわ。」

「ははぁ…そんなんがあるんだな。なんかさ、俺は比較的魔法を使える方だからそこまで意識した事なかったけど、そういう人達にとったら歓迎すべき技術って事か。」

「そうですわね。勿論、自動車技術の導入による負の側面も勿論存在しますの。」


 負の側面。これに心当たりがあるのか火乃花が口を開く。


「それって…密輸の増大かしら?」

「流石は火乃花さんですわ。トラックなどの中が密閉された状態で輸送できる手段が増えたので、物を隠す事が以前よりも簡単になっていますの。」

「確かにね…。格納用魔具に頼っていた時は、中身を全部出してリストと照らし合わせてって方法が出来たけど、これからはその方法だと時間がかかりすぎるものね。そうなると、密輸防止の確認が以前よりも疎かになる可能性があるわね。」

「えぇ。この状況を追い風にしているのが魔法街統一思想ですわ。自動車技術の導入による機械技術の進歩。これを受け入れた上で、導入によって生じる問題を魔法技術の向上で解決しようという論調が出てきていますの。」

「それって…機械技術を向上させた方が早く解決する場合もあるんじゃないか?そもそも1人が使える属性って3つまでだろ?必要とされている属性の適応者が少ないと、意味がなかったりすると思うけど…。」


 龍人の指摘にルーチェはニコッと笑みを浮かべる。


「勿論ですわ。魔法街統一思想が今の論調を取り入れても反発を生まないのは、自動車技術導入によるもう1つの問題が関係していますの。」

「…それって、魔法街というアイデンティティーの崩壊っていうやつかな?今日の朝に見たテレビの討論で言ってたよ。」


 オムライスの上に波状に掛けられたケチャップを伸ばしながら口を開いたのはレイラだ。ちょっと意外な所からの言葉にルーチェは嬉しそうに頷いた。


「レイラさんも中々に博識ですわね。流石は第8魔導師団ですわ。」

「いやぁ…照れちゃうよ。」


 恥ずかしそうに頬に手を当てるレイラ。その姿を見て龍人がホワッとしたのはまた別の話。


「レイラさんの言う通り魔法街には魔法街としてのプライド…つまりアイデンティティーがありますの。」

「ん〜と…どういう事?自動車技術を取り入れて魔法街の生活が豊かになるなら問題が無いと思うんだけど。」

「遼くん、それはそうなのですわ。でも…それを是としない人々もいるのですわ。少しわかりやすいように、これで説明しますわね。」


 ルーチェは光魔法を発現させると、大きな円を描いた。

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