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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
824/994

14-4-12.グラサン忍者集団



 地面に着地するなり攻撃を仕掛けてきたグラサン忍者3人組は、発せられる魔力圧から察するに然程の実力者でもなさそうだった。例えるならば、2年生上位クラスのなかで下のランクに位置する程度の実力だろうか。現に、襲いかかる3人に対して龍人が素早く抜き放った夢幻を用いて一瞬で斬り伏せていた。

 地に伏せる3人のグラサン忍者。すると、胸に輝く拳大の深紅の結晶が割れ…光に包まれたと思うと姿を消していた。


「成る程…。遼、詳しい原理は分からないけど、胸の結晶を割ればどっかに転送されるっぽいな。」

「…仲間が倒される前に無事に帰還させるって感じかな?まぁとにかく、それなら胸の結晶を狙っていけば一気に押し切れそうだね。」

「だな。行くぞ!」

「うん!」


 相手の弱点…とまではいかないが、どんなに体力が残っていたとしても胸の結晶が割れれば姿を消す…という予想が正しいのであれば、これを利用しない手はなかった。

 龍人が夢幻片手に剣技と魔法を組み合わせた攻撃で1人ずつ確実に倒していき、動けなくなった相手の胸に輝く結晶を遼の双銃から放たれた魔弾が貫く。この連携が次々と決まっていき、次第にグラサン忍者の数が減っていく。

 だが、違和感もあった。スイを一瞬で倒してのけたグラサン女忍者や、小太り忍者、巨漢忍者の姿が見えないのだ。あれ程の実力者であれば、正直な話…正面から3人揃って攻めてくれば龍人達を圧倒して倒せた可能性がある。だが、敢えてその選択肢をグラサン忍者側が選ばなかった理由。

 ふと、龍人の頭にグラサン女忍者の言葉が蘇ってくる。


『足掻いて足掻いて足掻くあなた達を、苦しめて苦しめて苦しめて、命乞いをした瞬間に始末する…これ以上の喜びは無いわよねぇ。』


 この言葉を聞いた時は、異常なサディストだなぁ程度にしか思わなかったが…。


(あのグラサン女忍者が言った事が、本気で言ってたとしたら…いまのこの状態は俺達が足掻いている状態だ。となると…この後に俺達が命乞いをしたくなる何かが起きるのか…?」


 問題は命乞いをしたくなる何か…それがどういったものなのかである。単純に思いつくのは圧倒的な力による蹂躙。だが、今現在攻めてきているグラサン忍者達の実力ではそれは難しいと言わざるを得ない。龍人含む第8魔導師団がいる限り、今のままの勝負に負けるという事はなさそうであった。

 龍人は後ろから不意打ちを仕掛けてきたグラサン忍者の斬撃を避け、振り向きざまに展開した魔法陣を発動して相手を吹き飛ばしながら思考を巡らせる。


(考えろ…。今の状況は俺達が勝てるかもって思える状況だ。だけど、この状況が相手の意図的な戦力の調整によって作り上げられているものだとしたら、この状況をひっくり返す何かがそろそろ確実に起きる。今までになにかその鱗片は無かったのか?)


 ここで龍人は1つの…ある予想に行き当たる事となる。


(圧倒的戦力…あのグラサン忍者3人衆。状況をひっくり返す…さっきのレーザービーム。……俺ならどうする?……………!分かったかも。)


 新たに殴りかかってきたグラサン忍者を回し蹴りで吹き飛ばした龍人はキッと上空に視線を送った。


「…ビンゴ。」


 上空にとある物を見つけた龍人はニヤリと笑う。相手の狙いが分かったのなら、それを事前に阻止する迄である。

 龍人は夢幻を天高く突き上げる。そして、切っ先を中心にした魔法陣を1つ展開。その周りに8つの魔法陣を続けて展開した。


「遼!火乃花!レイラ!俺の護衛を頼む!」

「おっけー!」

「えっ?ちょっといきなりそんな事言われても……あぁもう!」

「龍人君…任せて!」


 龍人のいきなりの護衛要請に一瞬戸惑いを見せる3人だったが、上空にあるものを見た瞬間に事の次第を理解し、龍人の護衛を確実に成功させるべく動き出す。だが、これはグラサン忍者側も同じである。真の目的を勘付かれ、それを阻止させられそうになっているのであれば…その阻止しようとしている行動を阻止する必要がある。

 結果として龍人と龍人を護る遼、火乃花、レイラをグラサン忍者が包囲する形となる。更にその周りには龍人の護衛に加わろうとする生徒達がいたが、これはグラサン忍者達が上手く妨害して中々近づく事が出来ないでいる。

 ひとつ間違えれば手痛い攻撃を受けてしまうかも知れないこの状況。だが、その中でも龍人は冷静に魔法陣を更に昇華させる作業へ移っていた。展開した合計9つの魔法陣を魔法陣構築魔法によって分解、構築し構築型魔法陣を完成させていく。


「…よし。」


 構築型魔法陣を完成させた龍人が小さく呟いた時である。龍人の視線の先…上空に異変が現れる。そこに現れたのは…高密度のエネルギー体。全てを圧迫して破壊しそうなそれは、急激に巨大化すると地上に向けて降下を始めた。


「やっぱりな。俺達の陣営のど真ん中に強力な魔法攻撃で穴を開けて、内側と外側から切り崩すってトコか。だけど…気付いたからにはそうはさせないぞ。」


 キィィィィンという音が響いたかと思うと、構築型魔法陣が眩い光を発し始める。そして…バチバチバチという音と共に高密度の雷が大量に出現し、一箇所に集中して球体となり、空から降下する高密度のエネルギー体に向けて雷球から生まれた雷龍の如く喰らい付いた。


(ちょっと…!龍人君ってこんな魔法の使い方出来たかしら?)


 龍人の発動した魔法を隣で見ていた火乃花は驚きを隠す事ができない。これまで、龍人が使う魔法は点、線、面の基本形を中心とした魔法だけだった。しかし、今使った魔法は明らかにこれ迄の基本形から外れたもの。


(…もしかして私がこの前教えた魔法の形状変化のコツを掴んだのかしら?全然出来なくて苦労してたのに、いきなりあのレベルで形状変化が出来るってどういうことよ…。)


 火乃花が驚くのは無理もない。武器に形状変化させるよりも、生物を模した形状変化をする方が難しいのだ。それを、上位魔法陣を発動させながらこなした龍人の技術はかなりのレベルなのである。

 …と、大袈裟に火乃花が驚いているが、実際問題として龍人はそこまで意識をして魔法を使っていなかった。イメージしたのはあくまでも食らいつくという点だけ。それに準じて自然と魔法が形状変化を起こしたのだ。つまり、龍人は自分が魔法の形状変化を行ったという自覚もないのだった。

 上空では2つの巨大な魔法が互いを削り合い、エネルギーの余波が周囲を激しく揺らしていた。


「…!マズイ。追加で何かくる!」


 上空に現れた異変に気付いた龍人が叫んだ瞬間、上空から迫る高密度のエネルギー体の上に1本の槍が出現する。そしてそれは音も無く地面に向かって垂直に降下した。


「…なっ!?」


 ここから繰り広げられた光景は、見る者全員が己自身の目を疑うものだった。降下する槍は巨大な槍…という訳ではなく、通常の大きさ程度の物。それが高エネルギー体をスーッと切り裂き、龍人の雷龍をも切り裂いていったのだ。あたかもそれが必然であるかのような事象。自分の魔法が破られているという感覚すら忘れて龍人は見入ってしまう。

 だが、それは大きな間違いであった。巨大な高密度の魔法を小さな槍が音もなく切り裂く。少し考えればこの現象を引き起こす槍の脅威がわかるはず。

 そして…その槍はスッと地面に突き刺さった。

 次の瞬間、龍人達の視界は白に覆い尽くされた。あまりにも強力すぎる魔法攻撃に、痛みも、攻撃を受けたという実感もなく命を失ったと錯覚してしまう程自然な現象であった。


「よぉ!俺達の実力を思い知ったか?」


 真っ白な世界に包まれ、命を失ったという覚悟を皆がし始めた時である。聞いた事のある声が龍人達の耳に飛び込んでくる。

 すると視界が少しずつ色を取り戻し始め、数秒後には偉そうに立つ3人のグラサン忍者を確認する事が出来ていた。女忍者、小太り忍者、巨漢忍者である。


「お前…。」


 怒りの籠った龍人の声に、グラサン小太り忍者が肩を竦める。


「おおーおー怖いねぇ。そんな目で睨まれても知らないけどな。この結果はお前らが弱いからだろ。」

「…そうかも知れないが、俺は絶対に許さない。」

「いいねぇ…。そういうやる気がある奴、俺は好きだぜ。おいお前ら。こいつの相手は俺がする。絶対に手を出すなよ。」

「はぁ?何言ってるのよ。それじゃぁ当初の計画が大きくズレるじゃない。」

「んなん知るか。俺はこいつと戦いたいんだよ。」


 意見を曲げようとしないグラサン小太り忍者を見て、グラサン女忍者が溜息を吐く。


「まーた始まったわね。それなら、私も戦ってみたい子と戦おうかしら。ねぇ、霧崎火乃花?」

「…私と?」

「えぇ。その勝気な顔…見てるだけでそそられるのよ。貴女の顔が敗北に歪む瞬間を想像するだけで疼くのよ。」

「私はそんな趣味はないわ。でも、やるってなら受けて立つわよ?」

「良いじゃない。決まりね。」

「それなら俺は藤崎遼と戦ってみるか!」


 ずいっと身を乗り出しながら腕を振り回すのは、グラサン巨漢忍者だ。


「え、俺は遠慮したいんだけど…。」

「はっはっはっ!何を言う!俺たちは敵同士。ならば戦わぬ理由はないだろ!」

「…なんか、暑苦しいなぁ。」

「なんとでも言え!俺は俺のままだ!」


 何故かグラサン忍者主導で1対1での戦いを行う事に決定してしまっていた。だが、これは龍人達にとっても都合が良いと言えば都合が良い展開でもあった。

 2年生上位クラスでトップレベルの近接戦闘プレイヤーであるスイを倒したグラサン女忍者や、それと同等の力を持つであろう巨漢忍者と小太り忍者…彼らの相手を務められるのは正直な話、龍人達位なのである。

 もちろん、これには問題も生じてくる。強敵を相手に壁に張り巡らせた防御結界を展開したままというのは厳しいのだ。更に、他のグラサン忍者達の中にも強力な魔法の使い手が混じっていて、これらの相手をルーチェやレイラ、タムが一手に引き受ける必要があった。


(ルーチェとレイラ、タムの3人が組んで戦えば攻守のバランスは良いけど…突破力に欠ける。他のグラサン忍者が集中して攻撃してきたらひとたまりもないぞ。…俺たちの誰かがグラサン忍者3人衆を倒して、可能な限り早く合流する必要があるな。…不安要素が強すぎる。)


 頭の中で何度シミュレーションしても勝利という文字が見えてこない事に、龍人は1人で焦りを覚え始めていた。

 …偶然だろうか。ルーチェが龍人を見つめていて、2人の視線が合うとルーチェは口元に笑みを湛えながら力強く頷いた。

 そして、たったこれだけのルーチェの行動にも関わらず、龍人は自然と覚悟を決める事が出来たのだった。


「…小太り忍者さんよ。お前がどんだけ強いかはちっと想像し難いけど…俺はお前を倒して、クラスメイトを守るぞ。」

「はっ。威勢が良いのは嫌いじゃないぜ。さぁ、かかってきな。」


 何度も言うようだが、小太り忍者の実力は計り知れないものがある。恐らくは女忍者以上の実力を秘めていると龍人は予想していた。攻め方次第では虚をつかれて一撃で沈められてしまう可能性も否めない。


(それなら…最初から一切の隙を見せないつもりでいくしかないか。全力だ。)


 龍人の目付きが、変わる。普段の穏やかなものから、鋭く冷たい目の前の敵を倒す事だけを突き詰めるそれに。


「俺達を襲った事を後悔すんなよ?龍人化【破龍】!」

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