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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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14-4-10.グラサン忍者の襲撃



 近距離戦闘のエキスパートであるスイが一瞬で斬撃を潜り抜けられ、グラサン女忍者が突き上げた拳によって顎を下から顎を穿たれた光景に、龍人は思わず目を見張っていた。


(マジかよ。あの距離であのタイミングからスイの斬撃を避けて、しかもカウンターを叩き込むとか…あの女忍者、相当な実力者だ。)


 龍人達の視線の先で宙に浮いたスイは、顎を穿たれた衝撃で吹き飛びそうになった意識を必死に繋ぎ止めていた。


(…この女忍者、我の想像より遥かに強い。だが、負けるわけにはいかぬ…!)


 宙で体を捻ったスイは地面に着地すると同時に、地を強く蹴って愛刀…氷冰刀へ手を伸ばす。澄んだ薄青の刀身が地面に触れる直前でスイの手は氷冰刀の柄を握りしめ、すぐさま魔法を発動した。


「あらあら。今の一撃で沈んでおけば次のチャンスがあったのに、まだ抗うのなら…これでエンドね。」


 グラサン女忍者が訳のわからないことを言って首を振っているが、スイにそんな事は関係なかった。少なくとも、火乃花が後ろで見ているこの状況で逃げ腰になるというのは選択肢的にあり得ないのだ。


「抜かせ!」


 スイは周りに生成した氷の礫を嵐の如くグラサン女忍者目掛けて放つ。逃げ場のない氷の嵐…だが、グラサン女忍者はまたもや予想外の行動に出た。


「この程度の子供騙しな攻撃で私を倒せる訳がないでしょう?」


 余裕綽々の台詞を吐くのと同時にグラサン女忍者の体から雷が迸る。そして、迫り来る氷の礫から自身を守るようにして雷の膜が形成され、氷の礫が触れた瞬間に雷の膜が一気に弾ける。衝撃で吹き飛ばされた氷の嵐。その中心に氷の礫が何もない空間が出来上がる。

 そして、その場所をまるでサーカスのように突き抜けたグラサン女忍者がスイに迫り、目にも留まらぬ高速の連続蹴りを叩き込んだ。


「がはっ…!!」

「これで終わりね。」


 連続蹴りの締めに踵落としがスイの右肩に突き刺さり、衝撃に崩れ落ちたスイが地面に倒れ込んだ。

 これで戦闘終了…だと誰もが思ったのだが、相手はそれ程甘くは無かった。グラサン女忍者は右手雷を集約させると、倒れたスイに向けて雷砲を放ったのだ。

 雷の柱とでも表現するのが妥当な程の密度を誇る雷砲は、スイの体を一瞬で飲み込んでしまう。

 そして…雷砲が直撃した場所に何も残っていなかった。


「…え。マジかよ。」


 目の前で見ていたはずなのに、理解が追い付かない残酷な事実が残されたメンバーの心に深く突き刺さる。


「…なんなのよあんた達!」


 怒りの余り、体の周りに焔を纏い始めた火乃花がグラサン忍者3人衆に向けて叫ぶ。


「だから、あなた達を始末しに来たって言ったでしょう?もしかして只のお遊びとかだと思っていたのかしら?現実を甘く見てるんじゃない?」

「……許さないわ。」

「えぇ、元より許してもらおうだなんて思っていないもの。好きなだけ恨みなさい。その方が明日の戦闘が楽しくなるから、大歓迎よ。」

「明日?…そんなの待てる訳無いじゃない。今すぐあんた達をぶっ飛ばすわよ。」


 ブワッと火乃花から強力な魔力圧が発せられる。ユラッと持ち上げられた右手に纏わりつく焔は手の先で鳥の形へと変化していった。


「燃やし尽くしてやるわ!」


 そして、高密度の焔による鳥が飛翔する。その姿は不死鳥…フェニックスであるかのよう。高熱が辺りを焦がし、グラサン忍者を燃やし尽くさんと猛威をふるう。

 そして、焔の不死鳥がグラサン忍者に直撃した。焔の熱エネルギーが集約し、一気に爆発へと変化していく。解放された熱エネルギーは空高く立ち昇り、中にいる全てのモノを燃やし尽くしていく。


「…逃げられたわね。」


 強力な魔法攻撃で、それが直撃したはずなのだが火乃花の表情は晴れず…逃げられたと言うのだった。


「今の直撃を受けておきながら逃げたってのか?」

「えぇ、手応えが全然無かったわ。寧ろ、直撃する寸前に逃げられたって感じね。」

「…となると、転移魔法を使える奴があの3人の中にいる可能性が高いか。」

「そうね。かなりの強敵よ。」

「こりゃぁ…明日の正午までにしっかりと準備をしないとマズイな。」

「えぇ。もうスイ君みたいな人を出さない為にも…万全の態勢で迎え撃つわよ。」


 火乃花の言葉に全員が力強く頷くのだった。


 青春キャンプでの肝試しをクリアし、グラサン忍者の襲撃に備える主なメンバーは以下の通り。

 高嶺龍人。藤崎遼。レイラ=クリストファー。霧崎火乃花。ルーチェ=ブラウニー。タム=スロットル。バルク=フィレイア。その他23名。

 尚、行方不明で安否不明なのが、サーシャ=メルファ。クラウン=ボム。杉谷ちなみ。その他26名。

 …死亡?と思われる者は、スイ=ヒョウ。


 楽しい筈の青春キャンプが、正体不明のグラサン忍者達によって一変した瞬間であった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 翌日の正午。グラサン忍者がこの時間で襲撃を明言している以上、なんとしてもそれ迄に戦う態勢を整える必要があった。

 まず、グラサン忍者に対して攻め込むか、防衛戦に持ち込むかという選択。これは全員一致で防衛に決定する。

 グラサン忍者達の目的が見えないのと、相手の拠点がわからない以上…無闇矢鱈に攻めこめば返り討ちにあう可能性が高い。しかも、攻め込むのであれば4人1組の複数チームに分かれる必要がある(これが戦闘に於いて最も効率が良いと言われている為)。まぁ、集団戦闘に持ち込んでも良いのだが、先ほども述べた通り…相手の拠点が分からない以上、それは難しいと言わざるを得ない。

 次に防衛場所。これはルーチェが提案した南の砂浜に決定した。防衛戦を行うに当たって、防衛を必要とする場所が少なければ少ないほど効果は高くなる。となれば、林の中や岩山という周囲360度を警戒しなければならない状況はあまり好ましくない。南の砂浜であれば後方180度は海だ。しかもこの空間は魔法によって作られた空間。つまり海の向こうに何かが存在していることもない為、防衛を必要とする場所は砂浜の北側180度がほとんどその全てとなるのだ。

 続いて防衛拠点の整備。これにはバルクが活躍を見せる。属性【地】を操れるバルクが防衛拠点となる砂浜に壁を作り上げていった。壁の内側に関しては建築学を知るルーチェが各施設の建設の指示を出していた。とは言ってもそこまで時間があるわけではないので、物見櫓の様な背が高い建物を建築する程度の時間でギリギリだそうだ。

 各メンバーが黙々と防衛拠点の建設に精を入れる中、龍人はバルクが作り上げた壁の外側に足を運んでいた。目的は壁の補強と、防衛拠点を覆う防御結界展開の為の魔法陣設置だ。

 グラサン忍者が3人だけとは限らない以上

、大勢で攻めてこられた場合に備える必要があるのだ。


「よし…。これで敵が攻めてきた時に魔法陣を発動すれば問題無しだな。」


 バルクが作った壁一面に設置した魔法陣を満足そうに眺めた龍人は、壁を飛び越えると海の方に向かって歩き出した。


「さて…と、ここからが大仕事だな。」


 時刻は既に深夜の11時に差し掛かる頃であり、これ以上の作業を続けるのは翌日に響くので良くないのだが…。それでも今魔力を使用するのと、明日の朝魔力を使用するのでは今使った方が戦闘時に使える魔力量は増える。ここは無理を押し通したとしても今夜中に魔力を使用する対策を終わらせておく必要があるのだ。

 龍人は砂浜を見回し、魔法陣を設置出来そうな場所を探す。これから設置する魔法陣は、砂浜の上空を覆う防御結界と、海からの侵入を防ぐ防御結界である。


(こりゃぁ参ったな。砂の上だと設置してるのが丸見えだし、かといって岩がある訳でもない。岩とかを運んできて置いても不自然だし…。)


 防御に徹するだけならば設置場所はどこでも良いのだが、相手が攻撃してきた時にいきなり防御結界を発動し、これに動揺した相手に攻撃を叩き込みたい…と考えている龍人は魔法陣をカモフラージュ出来る場所がないかを真剣に考察する。


「龍人〜。そんな怖い顔してどうしたの?」


 案外呑気な声を掛けてきたのは遼だ。機械街紛争で命のやり取りという大規模な戦闘を経験したからか、大分余裕があるように見えた。


「遼か。いやぁ…魔法陣をどうやってカモフラージュして設置しようかなって悩んでて。…もうスイみたいな奴は出したくないからな。」

「…うん。でも、魔法陣の設置なら砂浜にすれば良いんじゃない?」

「いやいや、防御結界発動のタイミングで反撃のチャンスが出来るかもしれないから、魔法陣の存在を隠しておきたいんだよ。」

「それならやっぱり砂浜じゃない?」

「いやいや、流石に敵さんに見つかっちゃうだろ。」

「…ん?」

「ん…?」


 どうやらお互いに考えている事が違うのか、イマイチ会話が噛み合わない2人。


「龍人…魔法陣を設置した上に砂を少し厚めにかければ良いと思うんだけど、それじゃダメなのかな?」

「……!」


 遼の言葉に龍人はポンっと手を叩く。


「それだ!」


 分かりやすい龍人の反応に遼は思わず苦笑するが、すぐに真剣な表情になった。


「龍人…多分スイがグラサン女忍者にやられちゃったのとかが関係してるんだと思うけど、頑張り過ぎちゃう駄目だよ。龍人の持ち味は柔軟力と決断力なんだからさ。」

「…はは。」

「…何、その乾いた笑い。」

「いやぁ〜まさか遼にこういう事を言われる日が来るとは思わなくて。どっちかっていうと遼が悩むことの方が多いじゃん?」

「そうだね。でも、龍人…機械街から帰ってきてから少し変だから気になってさ。」


 遼の言葉は龍人にとって驚きでもあり、嬉しくもあった。親友の遼が自分の事を分かってくれていると実感出来たことによる温かい気持ちだ。

 だからこそ龍人は自分の気持ちを素直に話す事にした。


「実はさ、機械街でビストを天地に連れてかれただろ?なんかあの辺りから、仲間が傷付くとか、仲間を失うとか…そういう事に関連すると怒りの感情ってのかな…が俺の中で暴れまわる感じがすんだよな。その感情を上手く制御できないっていうか。」

「それ…大丈夫?」

「あぁ、今のところは。正直、スイがグラサン女忍者に消された時もやばかった。ただ…何ていうか倒され方が殺されたっていうか…そう見せかけている気がしたんだよな。だからそこまで怒りが湧かなかったって感じかな。」

「そっか…。じゃぁここから1人も失わないように頑張らなきゃだね。でも、余裕を持たなきゃ駄目だよ?」

「おうよ。サンキューな。」

「あ、そう言えば…。」

「ん?どした?」


 何かを思い出した風の遼は、周りを気にすると声を小さくする。


「龍人が使う固有技の龍人化【破龍】ってさ、アレ使うと魔法陣が使う属性によって光る色が変わるよね?」

「…お前よく見てるな。」

「まぁね。」


 確かに遼の言う通り、魔法陣が発動する魔法の属性に応じて光の色が変わるという現象が起きている。中二病的な感覚で言えばカッコ良い…のひと言なのだが、これには大きな問題があった。


「龍人…あれって光らないように出来ないの?これから使う魔法の属性が分かっちゃうって、魔法陣魔法を使う上でのメリットが潰れちゃってる気がしてたんだ。」

「…やっぱりそうだよなぁ。相手に気付かれたら対応しやすい属性魔法を使われる可能性が高くなるもんな。」

「うん。そうなんだよね。」

「そうなんだけどさ、アレ…勝手に光るんだよなぁ。」

「となるとだよ。光る事に何かしらの意味があるって事だよね。」

「まぁ確かにそうだわな。…考えた事無かったけど、光る事に意味なんてあんのか?」

「ん〜使う属性の力が強くて、発動前に魔法陣が属性色に発光しちゃってるとも捉えられるけど…そもそも魔法陣が属性に応じた色に輝くって無いもんね。」

「だな。ま、そもそも魔法の属性って使える種類って決まってるじゃん?俺みたいに全員が全属性を操れるなら別だけど、そうでもないから…そこまで深刻な問題でも無いと思うぞ。」

「…う〜ん、まぁ…そうかなぁ。」

「何か気になる事があんのか?」

「いや…使える属性に制限が無いのが龍人の強みで、魔法陣が発動するまで何の属性を使うのかが分からないっていうのがね、戦う相手としてはかなり厄介なんだよね。属性も分からなければ、魔法の形態も分からないと…正直手の打ちようがあまり無いっていうか。見てから判断する以外に方法が無いからさ。」

「なるほどね…。もしかしたらだけどさ、全属性を使えるからこその反応かもしれないよな。更に龍人化【破龍】で更に能力強化をしてるから…その副作用って考えられるかも。」

「やっぱそこに行き着くよね。」

「ま、答えがすぐに出ないしな。」

「だよねぇ。」


 遼はこの答えに行き着く事を分かっていたかの様な笑みを浮かべて空を見上げる。その瞳には何かしらの決心が宿っているのか…力強い光が瞬いていた。


「龍人。俺さ…明日はあの忍者を本気で倒すつもりで戦おうかなって思ってるんだ。命を奪っちゃうかも知れないって考えてたら、仲間の命が奪われちゃうかも知れないしね。」

「そっか。俺も…そのつもりだ。」

「うん。」


 短い会話だが、これでお互いの気持ちを理解した遼と龍人は視線を合わせ、頷き合う。

 龍人は少し意外に感じていた。機械街紛争の際に、あれだけ命の奪い合いという戦闘に対して葛藤を抱き、全力で戦えずに悩んでいた遼が…今ではそれを是とする言葉を自分から発したのだ。人は悩み、成長し、そして次のステップへ進んでいくのをまざまざと見せつけられた気分だった。


(俺も…覚悟を決めないとな。)


 戦いの中に身を置く以上…いや、魔法学院という場で学ぶ以上は命のやり取りを強いられる場面から逃げる事は出来ない。そして、龍人は自分が命を奪うという事から逃げていないフリをしている事に気付いていた。

 全力で戦いはするのだが、最後の最後でほんの少しだけ力を抜いて命を奪わない様に調節する自分を知っていた。勿論、魔獣などの人外の存在相手ならば別なのだが…どうしても人間相手では割り切る事が出来ないのだ。

 この割り切っている様で最後の最後で割り切る事が出来ないのが、龍人の長所でもあるのだが…。


「じゃぁ…俺は狙撃ポイントの設置がまだ終わってないから、そっちに行くね。」

「オッケー。俺はささっと海側からと上空からの攻撃用に防御結界の魔法陣を設置して、そっちを手伝いに行くわ。」

「分かった。じゃ。」


 遼は軽く手を振ると建設中の物見櫓擬きに向けて走って行った。


(うし…。俺が悩んでたら、皆が悩みを抱えちまうもんな。明日は背中を見せるつもりで頑張んないと。)


 魔導師団として任務をこなしている以上、同じクラスの仲間達よりも経験が多いのは当たり前で、だからこそ皆を引っ張っていく存在として前に立つ必要があると龍人は考えていた。

 その為にも早く明日に備えてリフレッシュする時間が必要なのは間違いが無い。

 グンっと伸びをした龍人は両手を広げると大量の魔法陣を展開し始めたのだった。


 そして翌日。

 ピリピリとした空気が流れる中…時は正午を迎える。

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