14-4-6.青春キャンプ〜交流タイム〜
火乃花と魔法の形状変化を特訓をした龍人は、コテージで1つの困難に見舞われていた。それは…レイラの機嫌が悪いのだ。いや、悪いというか、龍人に対してだけどことなく素っ気ないのである。
(俺…何かしたっけ?)
全く身に覚えのない龍人は困り顔で首を傾げるのみ。だが、それで状況が改善される訳でもなく、レイラとの気まずい雰囲気はずっと続いたままである。
因みに龍人と火乃花以外のメンバーはレイラがむくれていた事を知っているのだが、特に龍人へ助言をしようとする者は居なかった。更に、龍人と一緒に訓練をしていた火乃花もレイラの機嫌が悪くなった原因に気付いていたが、火乃花も特に何も言わずに放置するという選択を取っていた。
つまり、少しは自分の行動でレイラを傷つけているという事に自分で気づけという事なのだが…純粋に強くなるために火乃花と特訓をしていただけの龍人がそこに気づく余地は無く…結果として今の状況に落ち着いている訳である。
「なぁ遼…俺ってレイラに何かしたっけ?」
「ん〜直接的に何かをしたって事はないと思うよ。」
「だよなぁ。」
…とまぁ、こんな感じに女性関係というか恋愛関係になるとダメダメな龍人であった。
さて、この気まずい状態のまま日数は過ぎていき、6日目の朝となる。
この日の朝食当番は龍人。彼が作ったのは、健康をイメージしたヘルシー料理だった。白ご飯、ナスの味噌汁、朧豆腐の上に新鮮な野菜を乗せた豆腐サラダ、そして野菜ジュース。男性陣からすると肉や魚がないためボリューム的に不満が出ていたが、味は概ね高評価。そして女性陣からは野菜中心のメニューという事で嬉しい声が上がっていた。
朝食を皆で楽しく食べながら、龍人がチラッとレイラに視線を送ると、彼女は隣に座るルーチェと楽しそうに話しながら食事を取っていた。
(…機嫌は直ってるように見えるんだけど、俺と話す時だけなんか微妙なんだよなぁ。)
未だにレイラの機嫌が直らない原因が分からない龍人は心の中で首を傾げていた。
因みに、コテージの中はレイラとルーチェが集めた花が要所要所にセンス良く飾られており、仮住いにしては中々に良い環境に仕上がっていた。この花の装飾に関してもルーチェがあれやこれやと知識を披露したらしい。
龍人は隣に座るバルクとこの後の日程について話しながら食事を終え、食器の片付けに入る。
「バルク…つまり今日のイベントは夜からって事だよな?」
「おうよ。」
「で、やっぱり内容は教えてくれないか?」
「勿論だぜ!内容を先に教えたら皆が準備出来ちまうだろ?身ひとつで来てもらって、そこから全力で楽しんでもらわないと…俺が3日間掛けて準備した意味が無くなっちまうからな。」
「まぁそうだよなぁ。ってかさ、良く3日間も掛けて準備しようってきになったよな。」
「ははん。この青春キャンプ最大の盛り上がりだからな。俺の全力を味わってもらうぜ。」
自慢気にニカッと笑うバルクは、手際良く食器を洗っていく。こういう家事系は苦手そうなイメージがあったが、日々の生活で家事をしているらしく手慣れたものであった。
そうこうしている間に女性陣は女性部屋へ戻っており、朝食後にレイラに話し掛けてみようと思っていた龍人は…その事実に気づいて肩を落とすのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
その日の昼。龍人と遼、タム、スイの4人は島の南にある砂浜に来ていた。バルクは夜の準備があると言ってどこかに姿を消している。
「夜の6時に島北側の砂浜に集合って…何やるんだろうな?」
「さぁ…バルクが考える事は結構ぶっ飛んでたりするから予想するのが難しいよね。」
「あぶねっ!こんにゃろ!でもさ、夏にやるイベント系なんじゃないか?水上ビーチバレーだっつそうだし。」
「そうかもだけど…うわっ!中々良いコースだね。」
龍人達4人は2チームに分かれて無詠唱魔法による魔力弾合戦を行っていた。
龍人、スイチームと…遼とタムのチームに分かれての魔力弾合戦。ルールは簡単で使って良いのは魔力弾と身体能力強化系のみ。相手の魔力弾は避けるか魔力弾で相殺するかのどちらかのみだ。そして魔力弾の被弾に関わらず転んだら負けという単純なものだ。
この攻防を続けながら龍人達は今日の夜に行われる謎のイベントについて話していたのだ。
「タムはどう思う?」
龍人は魔力弾をタムに向けて5連射しながら問いかけた。
「うわっ!ちょっ!危ないっす!……ふぅ。俺はバルクさんが考える事っすから、肉体を極限まで酷使するスーパーハードなアスレチックとかじゃないかなと思うっす。」
「そんな単純な感じかな?案外肉体系じゃない内容かもよ?」
タムの意見に異議を唱えた遼は前方に魔力弾を10個出現させると、中央の4つを直線に、残りの6つを外側に弧を描くように飛ばした。
「双銃を使わないで飛旋弾かよ…!」
遼の魔弾技術が思ったよりも向上していることに驚く龍人。そもそも魔弾は双銃が無いと出来ないという風に思い込んでいたのが間違いなのだが…。
「ふん。我に任せよ。」
スイは龍人の前に躍り出ると左手で右手首を掴みつつ上にして構えをとる。そして、遼の放った魔力弾があと2mまで迫った時、スイの右手から全方位に向けて散弾のように魔力弾を放った。
ドドドドド…!と魔力弾同士がぶつかる音が響き、相殺し合った魔力弾の残滓が辺りに立ち込める。
「スイ…今の凄えな。」
「氷の礫を全方位に放つのと大して変わらん。」
「なーるほどねぇ。」
こう話す間にも4人の魔力弾による攻防は続いていく。召喚魔法をメインに戦うタムは魔力弾の操作は苦手そうに思えるが、案外そんな事も無かった。
本人曰く「召喚精霊とかが魔法を使う時にある程度同調してるので、感覚は掴んでるっす」という事らしい。実際、タムが扱う魔力弾は直線から曲線、更には不規則な動きをするに至っていて…遼と並ぶレベルの魔力コントロール力を見せ付けていた。
つまり…と言っては何だが、この2対2の試合において魔力弾の操作が1番下手なのは龍人という結果になっていた。使う魔法に制限のない戦闘になれば話は別なのだが…と考えると、龍人が使う魔法陣展開魔法、魔法陣構築魔法の強力さは計り知れないものがあるという事である。更には言ってしまえば、この強力な魔法を使えるからこそ龍人は上位クラスでトップの実力を有していて、だからこそ魔力の基本的なコントロール力に劣るという結果に陥っているとも言える。
(魔法の形状変化も然り…だけど、マジで魔法の基礎をもっと徹底的に鍛え上げないとマズイな…。)
己の基礎能力が周りのメンバーと比べて劣っているという事実を改めて認識し、やや落ち込む龍人だった。
そして、この試合の結果は遼とタムが後半から多彩な魔力弾による攻撃を繰り出す事で、龍人とスイが捌ききれなくなって吹き飛ばされるという結果に落ち着くのだった。
「…スイ、今回の負けは完全に俺のせいだわ。明らかに俺が1番魔力弾の使い方が下手だったもんな。悪い。」
「気にするな。誰にでも得手不得手は存在する。それを知り、補うのが仲間というものだろう。我は街立魔法学院に入ってその事を学んだ。お主もそれ位の事は分かっているだろう?」
「いや、まぁそうなんだけどさ。こういう基本的な魔力のコントロールがものを言う勝負で負けるのって悔しいじゃん。」
「それは当たり前だ。だからこそ、次は負けぬように互いに精進しよう。」
こんな感じで何故か前向きで、そして今までからは想像できないような台詞を言うスイであった。
因みに、遼とタムはというと…。
「やったねタム。」
「やったっすね!遼さんの魔力弾の使い方…かなり勉強になるっす!途中から散弾に変わるあの魔力弾とか…俺の想像の範囲を超えてるっす!やっぱり魔力弾を常日頃使ってるエキスパートは違うっすね!」
「いやいや…そんなに凄くないと思うよ?むしろ、こういう魔力の使い方がほぼ初めてなのに、あんな不規則な動きを魔力弾に反映させたりとかをすぐに出来るタムの即応力の方が何倍も凄いよ。」
「それは違うっす!だって…」
こんな感じで互いの事をひたすら褒め合っていたのだった。聞いていてむず痒くなる様な褒め合いである。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
龍人達が魔力弾による試合をする中、島の各地では様々な動きがあった。
「あ、ルーチェさん!あそこにある果物美味しそうじゃない?」
「いいですわね。そうしたら、あとは柑橘系のフルーツを2種類くらい集めれば…男をイチコロフルーツポンチが完成しますわ。レイラさん…これで龍人くんの心をズッキューンですわ!」
「え、今日作るフルーツポンチってそんな名前なの?っていうか…そんなフルーツポンチって存在するのかな?」
「ふふふ。レイラさん…甘いですわ。私は家庭教師の先生から色々な技術を教わっていますの。それこそ男をメロメロにさせる料理から、1発で気絶させる料理まで網羅してますわ。これから作るフルーツポンチを食べれば、あの恋愛と女心に鈍感な龍人くんでもレイラさんに抱きついてチュッチュする事間違いなしですの。」
「チュッチュ…。」
「あら、照れてますの?愛し合う男女のキスは当たり前ですわよ?」
「え…でも…いきなりキスは…。」
「レイラさん甘いですわ!恋は勢いなのですわ!」
「う…わ、分かった!私…頑張ってみる!」
「うんうん!それでいいのですわ。ちなみに…このフルーツポンチは材料的に作れて一人前ですの。間違って他の人に食べられない様に注意するのですわ。」
「うん!じゃぁ残りの食材を探しに行こう!」
「勿論ですわ!」
…とまぁ、こんな感じに女性2人が恋のために暴走気味になっていたり。
「サーシャ…あなたって魔法を使う時に広げて使うのが得意よね。」
「…うん。…私…魔法を面で使うのが得意なの。」
「私は面、点、線のどのタイプでも結構使えるんだけど、面は他の2つに比べると結構苦手意識があるのよね。どうやって練習して面の魔法を得意にしたの?」
「それは…私…基本的にどうせ私なんか…って考えなの。だから…誰かと戦う時は…相手をね…グシュって潰したくなっちゃって…それで…自然と面で圧し潰す形の魔法が得意になったの…。」
「え…あ…あぁ成る程ね。つまり、特別な練習とかはしてないって事よね?」
「…うん。点と線の魔法も練習した事はあるけど、やっぱり私は圧し潰すのが好みなの。」
「そう…じゃ、じゃあサーシャに面での魔法を上手く使う方法を聞いても…教えてもらうのは難しそうね。」
「………それは大丈夫。私…コツを教えるのは得意なの。ネガティブな思考をエネルギーに変える方法…しっかり教えるね。」
「えっと…あれ?……う、うん。お願いするわ。」
こんな感じで全く性格の違う2人が交流をしていたり。
「ねぇ、準備はどうなの?」
「えっとだな…大体オッケーかな。後はどんだけ罠に引っ掛かってこっちサイドに引き込めるかだな。」
「はははは!こりゃあ楽しみだ!半数は喰らってやるぜ!」
「だから…!大きな声出すなって!」
「あんたも十分に五月蝿いわよ。」
「…これはだなぁ…!あぁもう…調子が狂うんだよな…。」
「普段から自由気ままに動いて調子を狂わせてるのはあんたでしょうが。」
「ここでそういう話を持ち出すか?」
「持ち出すに決まってるでしょう。」
「…くっそ〜。今回のイベントは誰にも縛られずに全力で楽しもうと思ってたのによ。」
「ガハハハ!よく言う!今も十分に楽しんでるだろう!」
「だ〜か〜ら!大きな声出すなって!」
「…だから貴方も声が大きいのよ。」
「だぁぁぁぁ!調子が狂う!」
こんな感じで人目を気にしている割には喧しい3人組がいたりしていた。
そして、待ちに待ったバルク主催イベントの時間がやってくる。




