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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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14-4-5.青春キャンプ



 キャンプ3日目。バルクが作った男前な朝食…トースト、目玉焼き、フライドポテト(女性陣からは朝からカロリーが高すぎると不評だった)を食べた龍人は元気よく立ち上がる。


「よしっ。火乃花、さっそく朝イチから特訓頼むわ。」

「え?いいけど、特訓って言う程の大袈裟なものじゃないと思うわよ?」

「いいのいいの。その方がやる気でるじゃん。」

「ふふっ。龍人君らしいわね。いいわ。じゃぁいきましょうか。」

「あ!2人とも特訓に行くのはいいけどよ、中央の山と北側の林は昨日言った通り立ち入り禁止だからな!」


 立ち上がって準備を始めようとした2人に声を掛けたのはバルクだ。

 因みに、初日はキャンプで過ごす家づくり、2日目はゆらゆら揺れーる水上バレーとバーベキューときて…3日目は特にイベントが無いとバーベキュー後にバルクが告げていた。3日目どころか5日目まで特に何かのイベントがあるわけでもなく、各々が自由にキャンプを満喫する時間が与えられていた。

 こんな訳で、龍人は昨日のバーベキュー時に火乃花と話していた魔法の形状変化のコツについて教えてもらう約束をしていたのだ。

 朝イチで特訓を開始すると言った龍人に少し戸惑い気味の火乃花だったが、そもそも龍人は上位クラスでもトップレベルの実力者であり、その龍人と特訓が出来るのは火乃花としても大歓迎であり、結果として2人はイキイキとした顔でコテージから出て行ったのであった。


「あの2人ってあんなに仲良かったっけ?」


 首をひねるバルク。確かに龍人と火乃花は比較的仲が良いとは思うが、普段から2人でつるんだりという行動は殆どした事がなかった。

 その2人が朝から2人で出かけていくというのは夏マジック…いや、青春キャンプマジックなのだろうか。

 こんな風に推察するバルクだったりもする。的外れな推察なので大して問題になる事もないのだが、龍人にとっては残念な事に…似たような推察をする人物がいた。それは…レイラだ。


「あらあら。火乃花さんも龍人くんも楽しそうに出て行きましたわね?」

「うん。そうだね。」


 ルーチェに言われ、口をとんがらせて返事をするレイラ。拗ねた顔をしているのに気づいたルーチェは探るように話しかける。


「レイラさん…2人の特訓に参加したらいかがですの?」

「ううん。いいの。魔法の形状変化だと私の属性だとそこまで役に立たないんだ。それよりももっと有効な特訓があると思うし。」

「でも…形状変化の練習をすることで思い掛け無い発見があるかも知れませんわ。」

「…でもいいの。2人の特訓を邪魔しちゃうかも知れないし。」

「そうですの…。それでは私とコテージに飾るお花とかを探しに行きませんか?」

「あ、それすごい素敵だね。行こうかな。」

「うんうんですわ。このコテージ造りは素敵にできたのですが、イマイチ可愛らしさに欠けますの。私達で素敵コーディネートをするのですわ。」

「うん。私、頑張るね!素敵なコーディネートに出来るように色々考えようかな。」


 最初は拗ねていたレイラだが、花の話になったところでようやく表情に笑みが戻ってきていた。


(ふぅ……龍人くんは女心をあまり分かっていないのですわ。いえ、もしかしたら分かっていて火乃花さんとの練習を優先したのでしょうか?どちらにしても、私がレイラさんを元気付けなければですわね。)


 他人の恋沙汰に変な形で巻き込まれるルーチェ。ただ、彼女は迷惑とは一切思っておらず、これが今自分ができる最善の策だと前向きに考えているのだった。


「では、私たちも行きましょうか。色々な種類のお花を出来るだけ沢山集めますわ。」

「うん!」

「もっかい言うけど、中央の山と北側の林は立ち入り禁止だからな!」

「分かっていますわ。」


 そこまで念入りに立ち入り禁止と伝えるということは、恐らく何かしらの工作…というか仕掛けを行うのだろう。3日目〜5日目まで自由行動ということは、その3日間を使って準備をするのだと推測出来るが…。


(それにしても3日間というのは大分時間を掛けていますわ。6日目が楽しみですわね。)


 バルクの仕掛けを楽しみにしつつ、まずはレイラのやきもきを解消する事に注力しようと決めるルーチェであった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 レイラがほんの少しの嫉妬心からプチ拗ねに陥り、そのフォローにルーチェが動いてるとは思いもしない龍人は、島の東に位置する草原で魔法の形状変化を火乃花から教わっていた。


「いいかしら?念の為に言っておくけど…魔法の形状変化って魔法学院の授業でも取り入れてない位の基本事項よ。龍人君が竜巻を発生させたりしてるのも風の形状変化をした結果ね。だから…龍人君も魔法の形状変化の基本は出来てると思うわ。」

「それは分かってるんだけどよ、俺の形状変化は何ていうか…大雑把なとこまでしか出来ないんだよな。火乃花の焔鞭剣みたいに精巧な形状変化が出来ないんだよ。イメージは出来てると思うんだけどさ。」

「まぁ私の焔鞭剣はすぐに具現化できる様にする為に、何度も練習したっていうのはあると思うけど…。魔法陣に形状変化の構成を組み込むのか、ただ単にイメージの問題なのかぎ分からないわね。…少し試してみるのが良いかしら。私と同じ属性で見たいから…そうね、属性【火】で火矢を出せるかしら?」

「火矢だな。オッケー。」


 龍人はすぐに魔法陣を展開発動すると火矢を生み出した。何の問題もない鮮やかな手際である。


「うーん…普通ね。物凄く速いわけでも、遅いわけでもないわ。これだと判別が出来ないかしら。そうしたら、これは出来るかしら?」


 火乃花の右手から火が溢れ出たかと思うと、それらは凝縮していき鞭の形を成した。形成の段階で一切形のブレがない…プロの手際である。


「単純な形だけど、硬い部分と柔らかい部分があるから、そこの形状変化を上手く分ける必要があるわ。」

「成る程ね。多分…これは出来ると思うぞ。」


 再び魔法陣を発動させた龍人は出現した火を凝縮し、鞭の持ち手と柔らかい部分を同時に形成する。

 これも再び鮮やかな手際…の筈だったのだが、何故か火乃花の顔は曇っていた。


「ふぅん。じゃあこれはどうかしら?」


 そう言って火乃花が火で作り上げたのは焔鞭剣の簡易版…刀身の中心だけが分離するタイプ(つまり2分割までしか出来ない)だった。


「刀身の部分、刀身の中心を通っている鞭の部分、柄の部分。この3つを確実に具現化する必要があるわ。」

「いきなり難しくないか?」

「ん〜、私の予想だと龍人君は簡単な構造の形状変化なら何でも出来ると思うわ。問題は複雑な形状変化ね。」

「どーゆー事だ?」

「まぁいいからやってみて。」

「分かった。」


 龍人は先程の2回と全く同じ魔法陣を展開して発動させる。先程と同じように火が現れ、龍人のイメージを具現化すべく形を変えていく。


「あ…。」


 龍人が声を漏らしたのと同時に、剣の形を成し始めていた火は形を歪め…只の火に戻ってしまう。


「おかしいなぁ…結構具体的にイメージはしてんだけど、それに合わせて火を形状変化させようとすると途中で輪郭がボヤケちまう。」

「やっぱりね。もう1つ試してみても良いかしら?」

「おうよ。」


 次に火乃花が火で形成したのは銃だった。


「銃ねぇ…。」

「多分だけど、さっきの焔鞭剣の簡易版より難しいと思うわ。」

「やってみるわ。」


 龍人はまたまた同じ魔法陣を発動させて火を出現させる。そして…今度は銃の形に近付く前に元の火に戻ってしまった。


「げ…。」

「今のはどんな感じだったかしら?」

「えっとだなぁ…銃の外殻はイメージ出来たけど、内側が全然イメージ出来なかったかな。」

「うんうん。龍人君…あなたが難度の高い形状変化が出来ない理由が多分だけど、分かったわ。」

「え、今の4つだけで分かったのか?」

「まぁね。私も今のレベルに到達するまで結構苦労してるから。大体の原因は少し見れば分かるわ。勿論解決策もね。」

「マジか。頼む、教えてくれ!」


 両手を合わせて拝むようにして頭をさげる龍人を見て、火乃花は溜息をついてしまう。


「あのね…こうやって一緒に来てるんだから教えるに決まってるでしょ?」

「おぉ、サンキュー!」


 教えてもらえると知って龍人は子供のように無邪気な笑顔を浮かべる。


「……!と、とにかくこれから教えるわよ?」

「おう!」


 ツイっと視線を逸らした火乃花は手の上に火を出現させる。


「今から火を銃の形に形状変化させるわ。良く見ててね。」

「あぁ。」


 真剣な顔で火乃花の手元を見つめる龍人の前で、火が形を変えていく。まず、銃を構成する部品が現れ…それらが組み合わさっていき、最終的に銃の外殻が形成されて左右からカチリとハマったのだった。


「分かったかしら?」

「……成る程な。今まで俺がやってた形状変化は、完成形をイメージして、完成形から作ってたからか。」

「そういう事。さっき形状変化で鞭を作ってもらった時に、鞭の部分と持ち手の部分を同時に形成してたから…もしかしたらって思ったんだけど、当たりだったみたいね。」

「だから鞭を作った時に表情が優れなかったんね。」

「そういう事。これで解決策は分かったわよね?細かいパーツ1つ1つの形状を頭に叩き込んで、それを1つずつ具現化、そしてそれらを組み合わせて完成形に近づけていくの。一応複雑な形状変化でも回数をこなして慣れれば、パーツ毎の具現化を飛ばすような感じで同時に形成させる事も可能よ。突き詰めれば、いきなり完成形で出現させる事も可能ね。」

「それが火乃花の焔鞭剣か。」

「そう。あれは…気が遠くなるほど何度もやったから、流石に完成形で出現させるのはもう楽勝ね。」

「はぁぁ…。こりゃあ地道な努力を重ねるしかないか。」

「当たり前じゃない。そんな簡単に強くはなれないわ。取り敢えずそうね…細かい形状変化を出来るようにするための練習方法を教えるわね。」

「ほんと助かる!お願いします!」


 こうして、この日は火乃花による龍人の形状変化向上特訓がひたすらに続けられたのだった。因みに、もちろん火乃花が教えるだけではなかった。龍人が得意とする複合魔法をどういうイメージで行っているのかを細かい所まで火乃花が聞いてきたのである。

 極属性【焔】という誰しもが羨む属性の持ち主の火乃花だが、1つの属性というのは下手をすれば大きな弱点にもなりうる。だからこそ、複合魔法の概念を下位属性と上位属性で取り入れられないか模索をしているらしい。全く手ごたえがないらしいが。

 誰しもが壁にぶつかり、それを乗り越えるために努力をしているという事なのだろう。

 因みに…火乃花による特訓はかなりハードな特訓だった。


「はい。じゃあ先ずは立方体から行くわよ。」

「次は角錐形ね。」

「いいじゃない。次は円盤の真ん中に穴を開けた状態で。」

「そしたら…次は螺旋構造で、その次に歯車の形ね。」

「渦巻きの形は?」

「ネジの形と出来るかしら?」

「形状記憶の性質を加えて…。」

「ちょっと真面目にやってるの?」

「はい、今度は複数種類の形を次々に作って行くわよ。」

「次は丸と三角を同時に…。」


「火乃花…ちょっと待ってくれ!そろそろ魔力がキツイぞ。」

「何言ってるのよ。まだまだ序盤じゃない。今は基本のキよ。それにクリスタル持ってるから、これを使って魔力を回復すれば問題ないわよね。」

「そ、それはそうだけど。」

「そうなら文句言わない!龍人君はのんびり強くなる時間は無いでしょ?」

「う…分かったよ。」


 とまぁこんな感じで…休む事なく夕方まで形状変化を行い続けた龍人は、げっそりした顔で共同生活のコテージに戻るのだった。

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