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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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14-4-4.青春キャンプ



 パチパチパチッと日に焼かれた木が爆ぜる音が響く中、砂浜では其々が仲の良いメンバーとバーベキューを楽しんでいた。

 本日の食材は、海で獲れた様々な種類の魚、島の各所で獲れた野菜やキノコ類である。自給自足みたいな状況になってはいるが、それでも十分に満足のできるレベルで食材が集まっていた。


「クゥゥ〜!しみるねぇ!」


 ジョッキになみなみと注がれたビールを一気飲みしたバルクが幸せそうな顔をする。何故ビール?と思われるかもしれないが、彼らは成人であるので問題は無い。更に、昨年の夏に配達のバイトをした時に使っていた格納用魔具(基本的に袋状で格納量は使用者の魔力に比例する。)に大量の酒を入れて持ってきていたのだ。しかも全員に大盤振る舞いするという太っ腹加減である。

 因みに、格納用魔具はその用途的に格納用魔道具が正式な名前では無いか?と思うかもしれないが、事の真相は誰も知らないので気にしてはいけない。世の中には何故そういう名前になったのか分からないものは沢山あるのだから。

 さて、2年生上位クラスの面々がバーベキューで盛り上がる中、別行動をする者もいた。その人物の名はクラウン=ボム。入学時は中位クラスに所属していたが、昨年の夏合宿を機に上位クラス入りし、2年生に進学時も上位クラスに在籍をすることになった…ナルシストだ。

 クラウンが居るのはバーベキューを行っている島の南側の反対、北側である。

 皆が飲み食いをしている場所にいるのが好きそうなクラウンが、敢えて1人でこの場所にいるのには勿論理由が存在する。


「…くそっ!俺様がこの程度の技術で龍人に劣るとは。」


 彼が今行っているのは、水面で急に方向転換をするというものだ。水面上に立ったり、水面上を移動するのは出来るのだが…急制動をかけての方向転換に関しては明らかに龍人より劣っていたのだ。

 正直なところ、この魔法技術が同レベルであったのなら…水上ビーチバレーの勝敗は変わっていたかも知れない。…クラウンがお得意のナルシストっぷりを発揮せずに、本気で試合に集中したらという前提が必要にはなるが。

 普段から自分が努力する姿を人には見せないというポリシーを持つクラウンは、このキャンプ中に少しでも龍人に追いつく為に、劣っているとわかった部分を1人で特訓をしているのだ。

 何度もチャレンジしているのだが、急制動をかけた時に水面に生じる波を確実に捉え、その上で次の行動を即座に行う一連の流れは非常に難しいものがあった。


(緻密…そして大胆な魔力制御が必要だな。これが出来れば…さらにモテる事間違いなしだ!)


 何度かの失敗で海に落ちているため、崩れた髪型を直そうと鏡を取り出すクラウン。


「…ふっ。やはり俺様はカッコいい。俺様ほどの美貌と、あともう少しの実力が備われば鬼に金棒だな。」


 鏡に映る自分に向かって微笑みかけるクラウン。それはまるで王子様のようで…なんて事にはならない。行って仕舞えばそれでこそのクラウンである。

 鏡に向かって微笑みかけるクラウンはふと違和感を感じる。


(む?今のは…。)


 パッと振り返ったクラウン。そして、そこに居る何かを確認すると目を細める。


「お前…誰だ?」

「………。」


 だが、そこに居る何者かは言葉を発さない。その者の出で立ちはかなり怪しいものだった。

 全身黒装束の姿はまるで忍者を連想させる。不思議なのは黒装束で隠れている顔の部分にサングラスを掛けている点か。明らかに不審者と断定できる怪しさ。更に奇妙…いや、気味が悪いのはその者の胸に拳大の深紅の結晶が輝いている事だった。

 体型は黒装束が隠していて正確には分からないが、少し太っているのか…余程のマッチョなのかという程にガタイが良い雰囲気を出している。

 黒装束を纏った人物…ここでは忍者と表現しよう…忍者は事も無げに水面に立ったまま動きを見せない。


(むぅ…この俺様が戦う前から気圧されるとは。)


 クラウンの額を汗が伝う。忍者から放たれるプレッシャーは、今まで相対したどんな人物よりも強く、下手に動けば一撃で倒されてしまう事が予想された。

 いや、本気で怒った時のラルフやキャサリンなどの街立魔法学院教師陣もこのレベルのプレッシャーを放つ事が出来るはず。…となると、その教師陣と同じかそれ以上の実力をこの忍者が有しているという事になる。


(これは誰かの悪戯か?それとも、全く外部の者?上位クラスで1番イケメンのこの俺様を倒すために侵入してきたのか?


 様々な憶測が頭の中を飛び交うが…今の段階の情報だけでは全てが推測の域を出ない。となれば、情報を引き出すか、忍者を倒してその顔を拝むか…このどちらかで真相を掴む必要があった。


(ふっ。この俺様が情報を引き出すだけというチンケな手段を選ぶはずが無い。それならば、倒した上で情報も全て引き出す!それこそが本当にモテる男が取る行動だ!)


 この段階で、まだ忍者が敵と確定したわけでは無いのだが、クラウンは忍者を倒すための行動を開始する。


「そこの怪しい忍者!この俺様を襲おうとしたのは失敗だったな!この俺様は上位クラスで1番の実力者!この俺様に倒されて、この俺様を狙った事を後悔するが良い!」


 クラウンの右手が光り、次々と爆弾が生み出される。そして、爆弾は大きく広がったと思うと次の瞬間には忍者に向かって高速で飛翔を始めた。

 方位型の爆弾攻撃。通常の魔法使いであれば全方位型の魔法壁での防御を選択するはずだが…この忍者は違った。クラウンの大袈裟な台詞を聞いて肩を竦めたかと思うと、自分に向かって飛翔する爆弾を一切気にせずにクラウンへ向かって水面を走り出したのだ。

 途中、何個かの爆弾が肉迫するが、忍者が爆弾に触れて爆発すると、その爆発エネルギーは外側にだけ向かって放たれる。


(…なんだ!?爆発のエネルギーを捻じ曲げたのか?俺様の魔法がこんな形で防がれるとは…恐るべし忍者。だが…これならどうだ!)


 相手の忍者が爆弾に対して行った迎撃方法がかなり高難度なものであると分かっても、クラウンは怯むどころか更に強力な攻撃魔法を発動させる。

 ブゥンとクラウンの体が光ると同時に周囲の空間に情報が書き込まれていく。


(よし。これなら…勝てる!)


 彼が発動した魔法は、設置型の爆弾という表現が1番の近しいものである。ただし、爆弾そのものを設置したのではなく…空間自体を設置型爆弾として定義したのだ。

 この爆弾化した空間内に対象が接すると、空間が爆発を引き起こすのだ。この爆弾化した空間は視認する事は出来ず、魔法情報が書き込まれた空間を探知・認識する必要がある。遠距離から対象空間に向けて魔法を放てば一気に無効化出来るという欠点も存在するが、初見でこの魔法の特性を把握し、対処するのはかなり難しい。

 更に、忍者は高速でクラウンに向かって疾走中。どう考えても爆発を受けて吹き飛ぶしか無かった。

 だが、クラウンは油断しない。忍者の実力から、爆発を受けても確実に倒せる可能性は低いのだ。そこに追撃を確実に叩き込むことで勝利をもぎ取ることが出来る…と考えていた。


(俺様の勝利の方程式に狂いはない!……な、なにぃぃぃ!?)


 勝利を確信していたクラウンだが、その方程式は数秒で崩れ去ることとなる。なんと…忍者は爆発情報を書き込んだ空間を避けるようにして水面を右へ左へと移動し始めたのだ。しかも、移動速度は一切落とさずに確実にクラウンへの距離を詰めてきている。

 この事態にクラウンは焦りを覚えてしまう。


(マズイ…!相手はまだ魔法といった魔法を使っていない。このまま距離を詰められたら…殺される?)


 死のイメージがクラウンの頭の中に広がっていく。


「お、おのれぇぇ!!」


 焦ったクラウンは高出力の追跡型爆弾を4つ出現させると忍者に向けて放つ。

 だが、焦って判断力を鈍らせた攻撃が良い結果を生むはずも無かった。忍者が右手をさっと振ると、クラウンが爆発設定した空間の1つが爆破を引き起こし、4つの高出力爆弾を巻き込んでしまったのだ。

 引き起こされる連鎖した爆発。4つの爆弾に反応した周囲の爆発空間が次々と誘爆し、辺り一帯は高熱に晒される事となる。

 高熱によって海面が蒸発し、湯気を立てる中…クラウンは全方位に魔法障壁と物理障壁を張り巡らせて警戒をしていた。


(まずい…マズイ!この状況では忍者がどこに居るか分からない!これでは…!!!???)


 それは突然だった。いきなり目の前に忍者が姿を現したかと思うと腹部を強烈な衝撃が突き抜けていき、クラウンの意識は闇に沈んでいった。

 力を失ったクラウンの体を掴んだ忍者は、周りを見回すと肩を竦める。そして、指をパチンと鳴らすと…そこには誰も居なくなっていたのだった。

 後に残されたのは未だ爆発の余韻で蒸発する海面と湯気のみ。ほんの1分程の戦闘の余韻は次第に薄れていき、海は再び静けさを取り戻す。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ドォォォォン!!


 バーベキューを楽しんでいた龍人達は、突如響いた爆発音にハッと顔を上げた。


「なんだ今の爆発?」

「何かしらね?」


 異常な大きさの爆発音に龍人は隣に座る火乃花と思わず顔を見合わせてしまう。

 爆発が起きるまで魔法の形状変化についてあれこれと話をしていた2人からすると、やや迷惑な爆発音である事に間違いは無かった。


「おーい、皆!怪我したやつは居ないか〜?」


 バルクがバーベキュー会場の砂浜の真ん中で大声を張り上げているが、パッと見た感じでは負傷した者はいなさそうだった。


「バルク!今のも何かの余興とかか?」

「いや違う!俺はこんなんは企画してないぞ!」


 では、何故この様な爆発音が響いたのか。不穏な空気がバーベキュー会場を包み始めた時、遼が声を上げた。


「あ、さっきから誰かいないって思ってたんだけど、クラウンが居ないんだ!多分、今の爆発はクラウンが何処かで練習してるんじゃないかな?」

「あぁ…なるほどな。あいつってコッソリ練習すんの好きだもんな。」


 遼と龍人の会話を聞いて周りの学院生達もうんうんと頷いていた。そして、爆発音がクラウンによるものだと判明した瞬間に不穏な雰囲気は一瞬で消え去り、皆は爆発音を気にすることを止めて再びバーベキューを楽しみ始めたのだった。

 密かに特訓をする事をカッコ良いと信じているクラウンだったが、その事実を皆に知られているという事実。そして、悲しい事に密かに特訓するならこれほど大きな爆発音が出ることは無いのでは…という事実に特に誰も気づかないのだった。これはクラウンという存在の普段の行動が招いた結果とも言えるので、ある意味で自業自得なのであろう。


「でさ、火乃花は属性【焔】を好きな形に変えて魔法を使うけどさ、実際は魔力の燃費と威力とかを考えるとどっちの方が効率的なんだ?」

「ん〜難しい質問ね。そもそも、私が形状変化を多用するのは、他に使える属性が無いからなのよね。燃費の問題でいくと…私の属性【焔】に関しては形状変化の際に焔を圧縮する必要があるから、そこまで良いとは言えないわね。ただ、攻撃力とかは一気に上がるし、形状変化の際に使った魔力が切れない限りその魔法は存在し続けるから一概に言えないのも確かね。燃費で言えば圧縮率の低い水とかの方が良いはずよ。」

「成る程ねぇ。でもさ、形状変化を使わなくなったら戦闘のパターンが減っちまって厳しいよな?」

「それはそうね。焔って元々無形だから…そうすると放射系の魔法がメインになっちゃうしね。だからこそ、形状変化で攻撃の質を変えてるのよ。」

「ん〜だよなぁ。じゃぁさ、もし他の属性を使えたとしたら魔法の形状変化って今ほど多用してないと思うか?」

「それは…微妙な所ね。基本的に人が使える属性って最大で3属性じゃない?それを考えると形状変化が無いと…どっちにしろ戦闘パターンがある程度固定されちゃうと思うわ。ただ、私の感覚だけど…使える属性が多い人ほど形状変化を使う頻度は少ない気がするわね。」

「…やっぱりそうだよね。俺さ、そこまで形状変化を多用した事が無いんだよな。どっちかっていうと使う属性を変える事で形状変化の代わりをしてたっていうか。」

「…確かに龍人君ってそいういう感じね。使える属性が多いからこそね。」

「だろ?あのさ、明日…形状変化の基本を教えてくれないか?」

「いいわよ。但し、ビシバシいくから覚悟してね。」

「おうよ。サンキュ〜!」


 とまぁ、こんな感じでクラウンの身を案じる者は1人とて居なかったのである。

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