14-4-2.青春キャンプ
魔法によって作られた島。その島の砂浜に作られた木造シェアハウスにある男子寝室。この部屋に龍人、遼、バルク、タム、スイの5人が集まっていた。
部屋には布団が敷かれており、皆は寝転がったり胡坐を掻いたりしながら寛いでいる。
「で、龍人。お前は結局のところ誰が好きなんだ?」
「へ?いきなりどうしたし。」
バルクのドストレートな質問にやや焦る龍人。だが、バルクはそんな龍人に対して一切容赦なく質問を続ける。
「だからよ、あんなに可愛いレイラと両想いみたいになってんのに、シャイン魔法学院のマーガレット=レルハとも良い感じだろ?俺からしたらかなり羨ましい状況なんだよ。その割にはハッキリしないから見てて焦れったいんだよな。」
「あぁ…なるほどね。」
バルクの言いたい事は良く分かる。どっちの女性を選ぶのか…という事なのだろう。以前、レイラにも似たような事を言われていた。いや、というよりも龍人の事が好きという事を言われていた。
その時と同じ答えを口にする。
「まぁな。確かに恋愛とかってのは俺もしたいなって思うんだけどさ、俺って…結構厄介な状況にいるんだよね。だからさ、このままレイラとかマーガレットとかと付き合ったとして、その彼女が巻き込まれて命を落とす…なんて事にはしたく無いんだ。だから…なんともハッキリとさせらんないんだよな。」
「…俺が言いたいのはそうじゃなぁい!」
ガバッと寝転がっていた布団から飛び起きたバルクは龍人に向けてビシィッと指をさす。どことなくクラウンみたいな言動という点に関してはノータッチでいこう。
「俺が言いたいのはな、どっちの女性を選ぶかだ!付き合える付き合えない以前に、2人の女性の気持ちを弄ぶなんて…ズルい!」
「いや…ズルいって言われてもなぁ。だからさ、付き合うってとこまで気持ちが進まないからどっちって選ぶもなにも無いんだって。」
「…この女泣かせ!」
「そう言われても。寧ろバルク…お前はどうなんだよ?リリスの後に好きな人とか出来たのか?」
龍人が言うリリスとは、ラルフの嫁であるリリス=ローゼス。彼女に惚れたバルクは思い切ってデートに誘う事に成功。しかし、デート中に街魔通りの魔力蓄積機が暴走するという事件が起き、その結末でラルフの妻という事を知らされ…あえなく失恋していた。
この失恋のショックはかなり大きかったようで、それから暫くは誰もバルクの近くで恋愛話が出来なかった。近くで話すと怨霊のように睨みつけてきていたのだから当然だ。
「俺か?俺は恋愛は諦めてるぜ!」
さて、そんな経緯があったからなのか…バルクの答えはハツラツとしたものだった。
「マジ?羨ましいとか言ってるんだったら自分で恋愛すりゃ良いじゃん。」
「無理だ!全然誰かを好きになる事が無い!」
「…なんか、完全に割り切ってるんだな。」
「お前に言われるとムカつくぜ!ハッハッハッ!」
半ば自棄気味のバルク。これ以上掘り下げても良い事は無いと判断した龍人は別の人物へと話題を移す事にする。
「遼は恋愛とか無いのか?」
「俺?…無いなぁ。なんかさ、女の人と仲良くする位なら特訓したいかも。」
「だよなぁ!俺と気が合うじゃんかよ。」
遼に同調して喜ぶバルク。恋愛に興味が無いのは良いが…。
「遼ってそんなに戦闘ジャンキーみたいな事言う感じだったっけ?」
「機械街に行ってから考えがちょっと変わってさ。普通の人相手なら、手加減をして倒せる位には強くなりたいんだ。」
「成る程ね。」
タムやバルク、スイは遼のやや濁した返事に首をひねるが…彼が人の命を奪うという重たいテーマに悩み悩み悩み抜いた事を知っている龍人には、遼が言いたい事が伝わっていた。
このまま遼の話を続けても雰囲気が重くなりそうだと判断した龍人は(一応キャンプなので、そういう重たい話は避けようと考慮して)話の矛先をタムへ向ける。
「じゃあ…タムはどうなんよ?」
「ん、俺っすか?…あれ?言ってなかったすか?俺は火乃花さんが好きっす。」
「「……!!??」」
タムのケロッとしたまさかの告白に男4人は硬直する。
「え…マジで?」
「え?マジっすよ。火乃花さんめっちゃ素敵じゃないっすか。」
「まぁ誰を好きになるかってのはその人の自由だから俺は何も言わないけど…。」
「…タム。お主は火乃花のどこに惚れた?」
龍人の言葉を遮ってきたのはスイだ。その目はとても真剣で真っ直ぐだった。この雰囲気に気圧されそうなものだが…タムは更に爆弾を投下する。
「あ、そう言えばスイさんも火乃花さんの事好きっすよね。俺たち恋敵って事になるっすね。ひゃはははっ。」
何故か楽しそうに笑うタム。そして急に自分の事を暴露されたスイは固まってしまう。それは怒り故か…それとも恥じらい故か。
「…わ、我は火乃花の事を好いてなどい、いない!」
顔をやや赤らめてそっぽを向くスイ。しかし、飄々とした態度のタムは悪意無く更に続ける。
「あれ?スイさん…火乃花さんの事を良く目で追ってるっすよね?それに、この前の魔獣討伐試験で火乃花さんとペアになった時、小さくガッツポーズしてたじゃないっすか。」
「そ、それは違う!強い火乃花の動きを観察していただけで…試験の時は強者と組めた事の喜びを表していたに過ぎぬ。」
「え…スイさんそれは無理があるっす。普段はクールなスイさんが、今は動揺してるし、顔も赤いっすよ?ってか、なんで隠すんすかね?別にオープンで良いんじゃないっすか?」
「ぐ…む…。」
ズバズバっとツッコミ続けるタムの口撃に、スイは反撃出来なくなってしまう。下手に口を開けばボロが出ると気付いているのだろう。
「……。」
沈黙を決め込もうとしたスイを見て、タムがニヤっと笑う。
「あ、違うなら良いっす!それなら俺、このキャンプで火乃花さんの心を掴めるように頑張るっすから。」
「なっ…それは許さん!」
慌てて止めようとしたスイはおもわず立ち上がってしまい、すぐにその行動が失態だった事に気づく。
ピタリと動きを止めたスイの顔が少しずつ赤くなり始めた。
「あ!やっぱ火乃花さんの事好きなんじゃないっすか!」
「…ぐ。」
「まあー、スイさんが好きでも好きじゃなくても俺は火乃花さんと仲良くなれるように頑張るっすけどね!」
「…この…ツンツン頭が。」
「ん?これは俺の好きな髪型っすから、そんなん言われても何とも思わないっすよ?」
イジリにプラスした挑発、おとぼけ。このタムの対応に我慢できなくなったのか、遂にスイの頭で何かのストッパーがプンっ!と弾け飛んだ。
「あぁ…そうだ。我は火乃花の事を好いている。だが…スイ!お主に負けるつもりは無い!」
「おっ、挑戦状ってやつっすね。受けて立つっすよ!」
「良いだろう。お主のその自信、我が打ち砕いてやる!」
真剣な表情のスイと、どことなく楽しそうなタム。この2人の言い合いを眺めている龍人は思わず溜息を吐いてしまう。
(なーんでこんなに恋愛話で盛り上がんだかな。まぁ…俺も恋愛に積極的になれる状況なら、こんな感じなのかねぇ。)
どうしても自分が恋愛に関して積極的になれないせいか、やけに冷静な目で見てしまう龍人なのであった。
ちなみに、女子部屋では…。
「やっぱり火乃花さんって凄いよね。」
「…何よ、こんなの関係無いでしょ。」
「えー、私は関係あると思うな。」
「そうですわ。関係ありますの。私も羨ましいですの。…触っちゃいますの!」
「えっ…!?ちょ!ルーチェ!コラ!…あ、ど、どこ触ってるのよ!」
「ふふっ。いい触り心地ですの。サーシャも一緒にいかがですか?」
「……どうせ私は火乃花さんみたいになれない。だから…触ろうかな。」
「へ?な、なんでそうなるのよ!あ、2人がかりはズルいわよ!
「…凄いの。私と全然違う。……そう言えばちなみさんもさり気なく凄いよね。」
「むむっ!ですわ。ちなみさん…触って確かめますわ!」
「え、え、え…!?私は火乃花さんに比べたら…あ、や、やん!あ…!」
「サーシャさん、ちなみさんも中々ですわ!」
「…触る。」
「待って…うぅん…!」
「レイラさんも一緒にいかがですの?」
「わ、わたしも?…うーん、わたしはイイかなぁ…。」
「…キラーンですの!なんだかんだでレイラさんも…と気付きましたの!サーシャさんいきますわよ。」
「…うん。」
「え、今度は私!?私なんかより火乃花さんの方が…。」
「ちょっとレイラ…今私の事売ろうとしたでしょ?…私も触ろうかしら。」
「いいですわね。それにレイラさん、貴女は勘違いしてますの!それを今から教えてあげますわ!」
「え…なんで私の時だけ3人なの!?」
「自業自得よ。いくわよ?」
「や、やぁぁああ!」
と、こんな感じで女子トーク?に大分華が咲いていたのだった。
特に問題も無く終わったキャンプ1日目。しかし、今回の青春キャンプはまだまだ始まったばかりである。




