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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
813/994

14-4-1.青春キャンプ



 8月。すでに強い日差しがさらに強くなり、暑さが酷暑へと変わる季節。燦々と降り注ぐ太陽光の下、街立魔法学院のグラウンドにはバルク発案のキャンプに参加するメンバーが集まっていた。

 集合時間である12時ギリギリに到着した龍人は、そこに集まる人達を見て目を丸くする。


「マジ?」


 なんと、グラウンドには上位クラスのメンバー全員が集まっていたのだ。

 そんなに人が集まるはずが無いと思っていた龍人は、どうせいつものメンバーだろうと気を抜いていたのだが…。


「龍人どうだ!俺の実力思い知ったか!」

「おぉバルク。…お前って凄いんだな。」

「普段から皆と話すようにしてるからな。皆、二つ返事で来るって言ってくれたぜ。」

「マジか…。」


 元々そこまで社交的ではない龍人は、いつも仲の良いメンバーとしか話していないのだが、どうやらバルクは違ったらしい。もしかしたら彼のお馬鹿キャラが取っ掛かりやすくなっているのかも知れない。


「ってなワケで、青春キャンプ楽しもうぜ!」


 バンっと龍人の背中を叩いたバルクはテンションマックスのまま別の人達に声を掛けに行ってしまう。


(なんか…無駄に負けた気がすんな。)


 友達数の違いをはっきりと見せつけられてしまった龍人は、出発前から微妙にテンションが下がってしまう。


「ホッホッホッ。みんな集まっているようなのである。」


 ボンッという音と共に姿を現したのは…お尻が裂けてイチゴパンツが見えている熊人形だった。

 久々の登場である。街立魔法学院学院長のヘヴィー=グラムだ。普段は初老のお爺ちゃんといった出で立ちなのだが、時々熊人形で姿を現わす…所謂変人である。とは言え、魔法街でトップの魔導師として知られる4人の魔聖。その一角を担う大物でもある…のだが、今のヘヴィーにその威厳は一切感じられなかった。

 熊人形は周りを見回すと腕をブンブン振り回す。因みに、熊人形は姿を現わす時々によって大きさが違う。何故違うのかは不明だが…それは置いておくとして、今回は人の顔程度の大きさでフワフワと宙に浮いていた。


「さぁてと、皆の者準備は良いかの?問題なければ島に転送するのである。」

「おうよ!ヘヴィー学院長、ありがとな!」

「ほっほっほっ!良いのである。学院生の皆が夏休みをキャンプという形で満喫しようとするのを止める理由は無いのである。」


 腕を上げたり下げたりしながらクルクル回る熊人形。どうやら相当にテンションが高いらしい。


「あ、一応注意事項を伝えておくのである。島は私がラルフが迎えに行くまで出れなくなるのである。とは言ってもじゃ、島には食料も豊富にあるのである。特別に魚も島の周りに泳いでおるよ。そして、お主らが喧嘩をして島を破壊しても一定時間が過ぎれば再生するようになっておる。なんと言っても私とラルフの力作じゃからの。ホッホッホッ!」


 両手を上にあげてバレリーナのように回転する熊人形。もはや何と話をしているのかよく分からなくなってくる。いや…熊人形の姿をしたヘヴィーなのだが。


(要は迎えに来るまで楽しめって事か。)


 周りの皆も同じ結論に至っているようで、最早回る熊人形に注意を払っているものは居なかった。


「ではでは転送するぞい。キャンプは1週間じゃったの。存分に楽しんでくるのである!」


 熊人形はクルクルと縦回転をしながら地面に向かい、ポンっと地面に両手を付ける。すると熊人形の手を中心に魔法陣が広がっていく。それはグラウンドにいる学院生全員の足下にまで届くくらいに大きくなると光り輝き、転送の光を発現させる。

 そして、上位クラス総勢60名は光の中に消えていった。

 1人残された熊人形はきりっと顔を上げると、転送の光が飛んでいった空に向けて敬礼をした。


「青春を謳歌するのである!」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 転送の光が消えると、そこは確かに去年の夏に合宿を行った島だった。龍人達が着地したのは前回と同じ砂浜である。

 ラルフとキャサリンによる鬼特訓と、その時のメンバーを2分割しての模擬戦争など…思い返してみればかなり濃い経験をした思い出の場所でもある。

 もちろん、戦闘の経験だけでは無く…レイラと夕焼けの中で話したのも龍人の記憶には新しい。


「うっしゃぁぁあ!あとは自由に楽しもうぜ!色々な企画を考えてっから、それは後のお楽しみな!」


 顔をキラキラと輝かせたバルクが大声を張り上げる。


「良いわね。1番最初の企画は何を考えてるの?」


 火乃花の質問にバルクはほんの少し考える素振りを見せる。企画の内容は後でサプライズ的に発表するつもりなのだろうか。…と思ったら、すぐに口を開くバルクだった。


「しょうがねぇ。最初の企画だけ教えるぜ。明日の昼に開催するのは、ゆらゆら揺れーる水上ビーチバレーだぜ!」


 この瞬間、全員の頭にハテナマークが浮かんだ。ネーミングセンスがあまりに酷いというのもあるし、砂浜の上でするビーチバレーなのに水上というバルクが本気なのか…それとも勘違いして言っているのかの判断がつかなかったのだ。

 ある意味でお馬鹿キャラのバルクだからこそ起きた現象とも言える。


(まぁ…明日になれば分かるだろうから、深く考えないでいっか。)


 バルクと真面目に向き合っていると身がもたない…というか頭がもたないのを知っている龍人は早々に考えるのを放棄していた。


「おっけー!じゃあ今日の所は寝る場所の確保をして、自由行動で良いんだな?」

「もちろんだぜ!そんなワケで解散だ!」


 話を進めるために口を開いた龍人に向けて満面の笑みを向けて返事をするバルク。このキャンプを相当楽しみにしていたのだろう。顔の輝き方が異常だった。

 このバルクの言葉を合図に全員が同時に動き出す。目的は去年の夏合宿と同じく、寝場所の確保である。


(どうすっかな。去年と同じみたいに穴を掘るのは流石になぁ…。家でも建てられたら快適なんだけど。)


 周りが迷わず動き始めた中、龍人はどうしようかと二の足を踏んでしまう。出来る限り快適な環境を作り上げたいのだが…その方法が思いつかないのである。

 しかし、この問題はすぐに解決する事となる。


「龍人くん。一緒にシェアハウス的なものを作りませんか?」

「お、ルーチェ。そう言えば去年…コテージみたいなの作ってたっけ。一緒に良いのか?」

「勿論ですわ。男女共同生活みたいになりますので、お風呂と寝る部屋は男女別でそれぞれ作りますが、リビングは共同スペースとして確保しようかと思っていますの。」

「…本格的だな。そんなんが作れんのか?」

「勿論ですわ。いざとなった時にサバイバルできる知識と技術はしっかり習得していますの。」


 中々に凄いことをサラッと言うあたり、流石はルーチェである。


「じゃあ…お言葉に甘えて参加させてもらおうかな。流石に今年は快適に過ごしたいし。」

「ありがとうですの。シェアハウスのメンバーはこちらですわ。」


 ルーチェが手を向けた先に立っていたのは、遼、タム、バルク、スイ、火乃花、レイラ、ちなみ、サーシャの8名だった。龍人とルーチェを含めて合計10名の大所帯だ。

 結局の所、クラスで良くつるんだり話したりするメンバーが集まったことになる。


「それでは皆さん。私は設計図を書き上げますので、まずは木材を集めてきてほしいのですわ。建設予定地は…この砂浜のすぐ隣で海の見えるシェアハウスにしますの。なので、この砂浜に木材を積みますわ。」


 こうして、ルーチェ主導によるシェアハウス建設が始まったのだった。

 そこからシェアハウスが完成するまではあっという間であった。魔法による木材の確保。そして魔法による木材の加工、組み立てが行われ、約4時間程度でシェアハウスは完成していた。

 設計図を1時間で書き上げ、その後も的確な指示を出し続けたルーチェは、完成した木造シェアハウスを見上げながら満足そうに微笑むのであった。


 その日の夜。龍人達10人はリビングに集まってテーブルを囲んでいた。


「はい。出来ましたの。今日の夜ご飯はタムくんが精霊魔法で沢山獲ってくれたお魚さん達を色々な調理法で仕上げましたわ。」


 そう言ってルーチェが持ってきた料理は…普段龍人が食べている料理の質を圧倒的に超えていた。

 ムニエル、塩焼きの大根おろし添え、ホイル焼き、香草焼き、味噌煮込み…などなどである。普通に定食屋さんで注文しないと頼まないような料理が次々と出てきたのだ。

 しかも、盛り付けが上手なのかかなり美味しそうである。実際に食べてみるとこれがまた絶品のひと言。魚しか無いのに飽きが来ないという最高の出来だった。


「ルーチェさんって料理が上手なんだね。」


 西京焼きを食べたレイラがあまりの美味しさに目を見開きながら褒める。


「それ程でもありませんわ。小さい頃から料理などの一般的な家事は全部するように言われてますの。料理も自分で作れるようにと教えてもらいましたの。でも、やっぱりプロとかと比べたらまだまだ腕が足りませんわ。」

「それでも凄いよ。私…自分の番が心配だなぁ。」


 今回の共同生活において、ある程度のルールが設けられていた。その一つが…ご飯の交代制である。

 ルーチェの発案により朝、昼、夕とローテーションでご飯を作る事になっていた。今回はルーチェが美味しい魚料理を振る舞ったが、翌日の朝ごはんはレイラが担当する事になっている。


(まぁ、これだけ美味しいご飯を出されると次のレイラはプレッシャーだよな。)


 別に料理ができないわけでは無いはずだが、それでも気後れしてしまうのはしょうがないだろう。それ程までにルーチェの料理がバリエーション豊かで美味しいのだから。


「大丈夫ですわ。料理はそれぞれ作る人の個性が出ますの。レイラさんが作る料理はきっと優しいお味になりますの。」

「そうかなぁ…。」

「そうですわ。それに………。」


 途中からルーチェはレイラの耳に口を近づけ、何かをボソボソと囁く。すると、レイラはハッとした表情を見せた後に顔を赤らめたのだった。


「そっか…そうだよね。…うん。私、明日の朝ごはん頑張るね!」

「うんうん。それが良いですの。」


 ルーチェの囁きはレイラのやる気を引き出すのに効果覿面だったようだ。顔を赤らめた理由がかなり気になるところではあるが、やる気を出したのならそれで良いのだろう。


「あ、バルクさん!そのバジル風味の魚は俺が食べようと思ってたやつっす!譲らないっすよ!」

「は?そんなん知らないな!早い者勝ちだぜ!」

「むむぅ…!それならこの煮付けは俺が食べるっす!」


 パシィン!という音ともに最後の1つの煮付けを取ろうとしたタムの手が掴まれた。


「…!?何をするっすかスイさん!」

「この煮付けは我のものだ。」

「それはズルいっす!早い者勝ちっすよ!」

「ならば…これで我が取れば我のものだろう。」

「横暴っす!俺だって好きなものを食べる権利はあるっす!」

「…2人が食べないなら、私が食べる。」


 腕を掴みあって魚を取り合うタムとスイの下から箸を伸ばしたのはサーシャ。


「む…。」

「あぁ!」

「うん………美味しい。」


 まさかの横取りに2人が絶句する中、魚の煮付けを綺麗に解して口へ運んだサーシャは満足そうに頷くのだった。


「ふふ…賑やかで良いね。」


 このやり取りを見ていたレイラが隣に座っている龍人に呟く。タムとスイに聞こえると厄介なので、本当に龍人に聞こえるくらいの小さな声である。


「そうだな。」


 小声で返事を返した龍人はレイラと目線を合わせると微笑む。

 魔導師団としての任務。機械街に於ける紛争。そして魔獣討伐試験。この数ヶ月間、龍人は非日常と評して良い経験を重ねてきていた。だからこそ、この何気無い今の時間がどれだけ大切で、どれだけかけがえの無いものなのかが分かる。

 同時に、この日常が自分の中で非日常にならない事を切に願うのだった。


「ごちそうさまですの。食器の片付けは男性チームでお願いしますわ。」

「「はーい。」」


 ルーチェの指示に合わせて片付けに入る男性陣。一方の女性陣はレイラが淹れた紅茶を飲みながら女子トークに華を咲かせる。

 そして、片付けが終了した所で男女それぞれの部屋に分かれ…夜のぶっちゃけトークが始まる。

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