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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
812/994

14-3-15.魔獣討伐試験終了



 カオスウルフを倒した事で、魔獣討伐試験をクリアしたと見なされた龍人達が転移魔法で転送塔に到着すると、そこにはジャバックとニヤニヤした顔のラルフが待ち構えていた。


「よっ。お疲れさんっ。」

「良い戦いをしていたな。」


 周りを見渡すと、龍人達以外の上位クラス全員が揃っていた。この光景を見て疑問に思った龍人はラルフに話し掛ける。


「あれ。もしかして俺達が1番最後の合格?」

「あぁ。まーしゃーないだろ。他の皆は下位種を倒してのクリアだったからな。」

「え…じゃあ中位種に遭遇したのって俺達だけなのか?」

「そうだ。幸か不幸か分からないけどな。」

「中位種ってそんなに希少な存在なのか?」

「そんな事無いんだけどよ。半数位の奴は中位種と遭遇するって思ってたんだけど、完全に予想が外れたんだよなぁ。」


 難しい顔で腕を組んでいたジャバックが口を開く。


「今回のケースで考えられるのは…上位魔獣が縄張りの外に出て他の魔獣を襲ったといったところだ。だが、その上位種すら見つかっていないのが気にかかる点ではある。」

「そもそも魔獣が縄張りの外に出る可能性ってあんのか?」

「あー。待った。その話は後だ。先ずは南区に戻るぞ。」


 魔獣論議が始まりそうになったのを察知したのか、ラルフが横から打ち切る。


「よーし。じゃあ忘れ物無いように気を付けて、全員転送塔から帰るぞー。その後は街立魔法学院の教室に集合だ。」

「「「はーい。」」」


 急に遠足みたいな雰囲気を呈し始めたラルフだが、誰も反対する者は居なかった。初めての禁区、初めての魔獣、初めての殺生。この魔獣討伐試験で命を掛けた戦いの重みを知った学院生たちは、この試験が伝えたかった事の意味を理解していた。

 だからこそ…と言ってよいのかは分らないが、南区に戻る事を優先したラルフの言葉に異論を唱える者は誰もいなかったのである。

 もしくは、単純に慣れない環境での試験で肉体的にも精神的にも疲労が溜まっていただけなのかも知れないが。


 そして、街立魔法学院2年生上位クラスに戻った龍人達がラルフから言われたのは、8月1日から夏休みだという連絡だけだった。

 魔獣に関する話を一切しなかったのは面倒臭いからなのか、それとも何かしらの事情があったのか…。とにかく、学院生全員は釈然としない気持ちを抱えたまま帰宅する事になるのだった。

 ラルフが出ていった教室で龍人と遼は伸びをしながらとりとめの無い会話をしていた。


「じゃあ帰って寝るかな。」

「あれ?龍人はラルフが上位魔獣の事何も触れなかったの気にならないの?」

「ん?まぁ…気にはなるけどよ、今それを知ったところで害も無いし得もないだろ?それなら無理して聞き出す必要は無いかなって。遼はそんなに気になるのか?」

「んー…なると言えばなるけど、突き詰めれば聞く必要は無いんだけどさ。なんかこう…もやっとするんだよね。」

「…確かになぁ。でも、話すつもりが無いラルフは絶対に話さないだろ。」

「確かに。」

「ってなわけで、難しい事は忘れて飯いかない?禁区に3日いたから、俺は美味いものを食べたい。」

「そだね。じゃあ行こっか。」

「おうよ。」


 今回禁区で体験した事は、色々と疑問点が残るが…一先ず横に置いておくことにしてしまった龍人と遼だった。

 そして、明日は2年生前期最終日の7月31日である。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 街立魔法学院2年生上位クラスの生徒達が南区へと帰っていった頃、禁区のとある場所で4体のカオスウルフがギラついた目を1人の人物に向けていた。

 カオスウルフ達はその人物を取り囲むように立っており、逃げる隙は一切見当たらない。…しかし、その人物に焦った様子は一切見られなかった。

 その人物…白の鎧を身に付け、純白の剣を携えた…白の騎士は徐ろに純白の剣を持ち上げる。


「グルッ…ガァァァアアア!」


 これに反応したのか、カオスウルフ4体が同時に闇円盤と闇ビームを連射する。属性【闇】の魔法が白の騎士に集中し、相乗効果によって押し潰すようにエネルギーを高めていく。防御魔法の効果を半減させる闇魔法にこれだけの圧力で襲われたら…常人であればそれなりのダメージを受けるのは確実である。

 しかし、キィィィンという高音が響いたかと思うと、白の騎士を覆っていた闇魔法のエネルギーが一気に弾けとぶ。

 そこには無傷の白の騎士が佇んでいた。


「こんな事を俺に任せるなっての。」


 ボソッと不満を漏らした白の騎士は純白の剣を握る力を強めると正眼の構えを取る。この瞬間、場を支配する雰囲気が一変する。それまでのカオスウルフ達が作り上げていた混沌とした雰囲気が消え去り、凛としたものへと変わっていた。

 張り詰めた空気。白の騎士が出す存在感にカオスウルフ達も迂闊に動くことが出来ない。


「光の太刀【瞬刃可憐】。」


 白の騎士から発せられた言葉は…固有技名。すると白の騎士から光の線が伸びたかと思うと、白の騎士はカオスウルフの後ろに立っていた。


「ガウ…?」


 首をかしげるカオスウルフ。


「……ギ……。」


 その表情が苦悶に彩られる。すると、カオスウルフの胴体が中心からズレていき…カオスウルフは何も言わずにその命を散らす。

 白の騎士は絶命したカオスウルフに視線を送る事なく、再び姿を消す…否、正確に言えば姿が消えたと誤認する程の速度で移動する。

 キィン、キィン…キィン!斬撃の音が三度響いたかと思うと、白の騎士は再びカオスウルフに囲まれていた位置に戻っていた。


「他愛もない。」


 残り3体のカオスウルフの体がズレていき…地面に崩れ落ちる。

 ここまでで30秒にも満たない時間だった。龍人達が時間をかけ、ギリギリの攻防を繰り広げながらもやっとの思いで倒したカオスウルフ。その4体を同時に相手して、赤子を捻り殺すかのように一瞬で倒す実力は計り知れないものがある。

 と同時に、龍人が全く歯が立たずに勝つ事が出来なかったのも頷けるというもの。

 純白の剣を収めた白の騎士は周りを見回す。そこには今しがた倒したカオスウルフ4代を含め、合計で10体のカオスウルフの亡骸が転がっていた。


「それにしても…カオスウルフが徒党を組んで別の地区に来るというのは…。少し調べてみる必要があるか。」


 そもそも、エレメンタルウルフの頭として君臨する事が多いカオスウルフが徒党を組む事が珍しい。その上、自身の縄張りから離れて他の地区へ来るというのは、どう考えても普通の事態ではない。

 

(俺に与えられた役割を果たす為にも、この事態を軽く見る事は出来ない…か。魔獣の生息地域に変化が無いか調べる必要があるな。)


 白の騎士はカオスウルフの亡骸の間を縫うようにして歩き始める。黒い体のカオスウルフが赤い血を撒き散らして絶命する中を歩くその姿は、違和感を感じさせると共に…どこか神々しさを感じさせるものだった。

 歩き去る白の騎士の鎧が途中で光となって消えていく。その後に現れたのは、金の頭髪を輝かせる男だった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 7月31日。今日この日を終えれば翌日から夏休みとあって、学院生達は大分浮かれた気分であれこれと話していた。

 前日に自分の命を懸けた魔獣討伐をしていたとは到底思えない明るさである。むしろ、解放されたことによる反動で明るくなっているとも言えるかも知れないが。

 浮かれた気分の学院生達が盛り上がる話題は大きく2つに分かれていた。

 1つは魔獣討伐における自分達のカッコ良かった場面の自慢大会。…如何に敵の攻撃を防ぎ、倒したかを話していた。下らない…と思うかも知れないが、これはこれで学院生達の間では「そういう対処法もあったのか」という発見があるという点で、戦闘における選択肢という名の引き出しが増える事になっているので決して無駄では無かった。

 そしてもう1つが明日から始まる夏休みで何をするのかという話題だ。夏といえばバカンス、そして新たな恋が始まる季節、一夏の恋なんて言葉もある通り…夏にはたとえ短い期間だとしても恋心が芽生える季節なのだ。

 龍人を含む遼、バルク、タムの4人も例外なく夏休みの話題でかなり盛り上がっていた。最も、恋話関係ではなく如何に夏を楽しく過ごすのかという論議ではあるが。


「だからよ、何もしないで夏休みを過ごすとか…青春を無駄にしちまってるって!」

「いやいや、青春とか言われてもなぁ。俺は普通に特訓をして強くなりたいかな。」

「…龍人。お前はいつから戦闘狂になっちまったんだ!?お前と恋心について語り合ったあの日が懐かしいぜ!」

「へ?俺…バルクとそんな話した記憶無いぞ?」

「そーゆことじゃない!」

「じゃあどういう事だし…。」

「龍人さん、バルクさん、話が逸れてるっすよ。まずはバルクさんの計画を実行するかどうかっす。」

「いやぁ…そもそも不可能だろ?」

「それは言ってみなきゃ分からないぜ!」

「普通に考えて無理だって。」

「まぁまぁ2人とも。今ここで可能かどうかを話してもわからないし、ラルフ辺りに聞いてみたら良いんじゃないかな?」


 龍人とバルクが出来る出来ない問答を続けているのに見兼ねた遼が、話を前進させようと口を挟む。

 すると、龍人とバルクが同時に遼の方を向く。


「確かにな。じゃあラルフに聞いてきてくんないか?」

「龍人…今日初めて俺と意見が合ったな。そうすっか!そしたら俺と龍人とタムで何をしてエンジョイするか考えておくぜ!」


 1番面倒臭い役を強制的に押し付けられた遼は、目をパチクリさせるとため息をついてしまう。


「えっとさ…俺、別にバルクの案に賛成したつもりはないんだけど…。」

「…!?じゃあ反対なのか?あんなにいい案なのによ!」

「反対ではないけど…。」

「だったら良いじゃん!頼んだ!」


 両手を合わせて勢い良く頼み込むバルク。


「頼んだって言われてもさ…そもそも夏合宿をしたあの島をキャンプで使わせてって言ってOKが出ると思う?」

「ん?だから聞いてみないと分からないってお前が言ってくれたんだろ?」

「あ…。」


 お馬鹿で有名なバルクが本気で不思議そうな顔で遼を見る。そして、完全に自分で自分を追い詰める発言をしてしまった事に気付いた遼は、額に手を当てるともう一度溜息を吐くのだった。


「…一応聞くだけだよ?」


 バルクに自分から論破された形を取ってしまったのが相当ショックなのか、遼は何度も溜息をつきながら教室から出ていく。


「うしっ!そしたらどーゆープランでキャンプを満喫するか考えるぞ!」

「まだ許可出てないけどな。それよりもさ、もしOKだったら誰を呼ぶんだ?俺たち4人だけって事はないだろ?」

「確かに俺もそれ気になるっす!」

「それは…夏とキャンプ、そしてあの島なら海!女を誘いまくるに決まってるだろ!

「…バルクが誘って、女の人が来るイメージがつかないんだけど。」

「あーそれはそうっすね。」

「は?お前たち俺を見くびってんだろ?俺は恋は実らないけど、皆とは仲いいんだぜ?まぁ人を誘うのは俺がやっとくからよ、そこは楽しみにしててくれ!」


 楽しみと言われても、そもそもあの島を使えるはずが無いので…それ以前の問題なのだが。

 その後もバルク発信でキャンプ計画をあれこれと話し続けていた龍人達(ちなに、バルク以外がそこまで乗り気じゃないのは言わずもがな)は、教室のドアが開き遼が中に入ってきたのを見ると会話を中断させる。


「よっ!どうよ?」


 使用許可が出たと信じて疑わないバルクは帰ってきた遼に満面の笑みを向ける。そして、その遼はポカンとした顔をしていた。


「えーっと…なんか、使ってイイって。」

「うっしゃぁぁあ!」


 こうして、2年生の夏休みはキャンプを行う事に決まったのだった。

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