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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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14-3-14.魔獣討伐試験終了



 龍人とカオスウルフが死力を尽くして戦う中、ちなみは支援魔法を龍人に送りながらも魔力の檻を囲んで壊そうと魔法を放つエレメンタルウルフへの攻撃を行っていた。

 魔力の檻によってエレメンタルウルフの攻撃は全て防いでいたが、あくまでも「今は」という限定的なものだ。

 檻の周りにいるエレメンタルウルフの数は視認できるだけで100体をいつの間にかに越えていた。どこから現れてくるのかは分からないが、次から次へと広場に入ってくる為、倒しても倒しても数が減る事がない。

 つまり、龍人がカオスウルフを倒すのが早いか、エレメンタルウルフが魔力の檻を破壊するのが早いか…これが戦いの勝敗を決すると予想される。


(…どうしよう。このままだと厳しいよ。)


 エレメンタルウルフ達の激しい攻撃に晒され続けている影響で、気付けば魔力の檻は所々にヒビが入り始めていた。


(エレメンタルウルフにこのまま攻撃を続けて魔力の檻が壊される時間を少しでも引き延ばすか、魔力の檻を補強するか、カオスウルフを倒す為に今使ってる支援魔法と並行で攻撃魔法を使うか…だよね。……どれを取っても魔力がそんなに保たないよ…。でも、このまま何もしなかったら魔力の檻が壊されちゃうし。)


 上記の通り、ちなみはこの後の行動について何を選択すれば良いのかを悩んでいた。

 どれを選択しても良い結果が待っている保証がなく、だからと言って無為に時間が過ぎるのを待つわけにもいかない。この激戦で数秒の判断の遅れが致命的な結果をもたらすのは自明の理である。


(エレメンタルウルフの数は減らないし…それなら龍人君がカオスウルフを倒す手伝いを………えっ!?)


 何をすべきかを決め、行動に移そうとしたちなみは魔力の檻の外で起きた現象に目を見張る事となる。

 それは…連続した爆発。火球が次々と飛来し、エレメンタルウルフの群れを穿ち始めたのだ。更に別の場所では氷の礫が降り注ぎ、エレメンタルウルフ達を貫き始めていた。


「え、こ、この魔法って…。」


 ここまで広範囲の攻撃魔法で、ここまでの威力を出せる魔法使いはちなみが思い当たる人物の中で2人しかいなかった。


「ちなみ!魔力の檻を保持するのに魔力を使って!外の狼は私達に任せて!」


 力強い声と共に降り立ったのはサラサラの赤いロングヘアを揺らす巨乳の女性…火乃花だ。少し離れた場所には黒髪を後ろで1本に纏め、着流しを身に纏った和風な男…スイも降り立っていた。


「ちなみ、やっと見つけたわ。あの後どうなったのかは後で聞くから、まずはこの状況を切り抜けましょ。」

「火乃花さん…ありがとう!」

「いいのよ。最初に助けてもらったのは私達だもの。じゃあ…数が多いから本気で行くわね。」


 ちなみに話しかけている間に浮かべていた笑みを消した火乃花は目付きを鋭くすると、体の内に秘めた魔力を爆発させる。


「本当は暫く使えるの隠そうと思ってたけど、この状況で出し惜しみは出来ないわね。…真焔【流星】!」


 火乃花の口から発せられたのは固有技名。同時に火乃花の周りに拳大の焔が無数に出現し、流星の如くエレメンタルウルフの群れに襲い掛かった。

 焔の流星群は次々とエレメンタルウルフを吹き飛ばしていき、数秒後には50匹以上のエレメンタルウルフが地面に倒れて動かなくなっていた。

 一気に形勢逆転をしたのだが火乃花の表情は晴れない。


「おかしいわね。エレメンタルウルフを規定数討伐したと思うんだけど、転送魔法が発動しないわ。」

「あ、実は…カオスウルフが転移系魔法を阻害する結界を張ってるの。」

「…そういう事ね。となると、龍人君がカオスウルフを倒さない限り……ここから生還出来ないのね。」


 生還。この重い言葉を火乃花が選んだのには勿論理由がある。それは、広場を囲むビルの隙間からエレメンタルウルフが次々と姿を現していることに起因する。

 途切れることを知らないエレメンタルウルフの増援。これを引き起こしているのは、確証はないにしてもカオスウルフであると予想は出来た。


「火乃花、ちなみ、我はビルの隙間を氷で凍結させる。フレアウルフの攻撃で溶かされる可能性は高いが気休め程度にはなる。」

「分かったわ。私は範囲攻撃で一気に吹き飛ばすのを何回か続けるわ。ちなみは魔力の檻が壊れないように…待って、そもそも2人だから魔力の檻を使ってたのよね?今の状況なら檻が無い方が良いんじゃ無いかしら?」

「あ…そうかもだね。龍人君に聞くのが1番だと思うんだけど…。」


 そう言ったちなみの視線の先では、龍人が一進一退の攻防を続けていた。とてもじゃないが声を掛けられる状況ではない。


(…ん?火乃花じゃん!)


 カオスウルフの闇円盤を最小限の動きで避けた龍人は、ここで漸く火乃花の存在に気付いてた。


(って事は、スイも?………いた!じゃあ今4人1組で動けるって事か。そうなると、魔力の檻が無い方が戦いやすくなるな。)


 魔力の檻を解除するように伝えたいのだが…、生憎その隙をカオスウルフは中々与えてくれない。気を緩めた瞬間に攻撃が直撃するのは確実だった。


(それなら…!)


 両前脚から繰り出される闇爪の連撃を、下から出現させた岩壁でカオスウルフの腹を強打する事で中断させた龍人は2方向に向けて魔法陣を発動する。1つはカオスウルフに向けて、もう1つは檻の外にいる火乃花に向けて。

 魔法陣が輝き顕現させるのは紅蓮の炎。進路上にあるもの全てを焼き尽くさんと猛威を振るう。

 龍人が自分に向けて紅蓮の炎を放ったのを確認した火乃花は、すぐにその意図を理解していた。


「ちなみ!魔力の檻を解除して。それと同時に私に支援魔法をお願い。スイ君!ビルの隙間を凍らせるのはストップ!魔力の檻が消えるのと同時にカオスウルフに攻撃を仕掛けるわよ!」

「…む?…分かった。」

「う、うん!」


 いきなりの方針転換にやや戸惑いを見せるスイとちなみだが、素直に火乃花の指示に従って動き始めた。

 まず魔力の檻が解除され、スイが身を低くした体勢のままカオスウルフへ突っ込んでいく。次に火乃花が龍人の放った紅蓮の炎を右手で受け止めると、そのまま自身の焔として制御して焔の槍に錬成するとカオスウルフへ向けて投擲、続けて焔鞭剣を右手に生成すると一瞬ちなみに顔を寄せると、すぐにカオスウルフへと向かう。

 いきなり攻撃を仕掛けてくる敵の数が3人に増えた事で怒りを露わにするカオスウルフは、それでも冷静に攻撃への対処を行っていた。

 低い位置から冷気を纏った斬撃を放つスイには、その移動先に闇円盤を出現配置し、直線的な攻撃を回避からの攻撃に返させる事でタイミングを強制的にズラす。火乃花が投擲した焔の槍は額の角から闇ビームを放って迎撃。焔鞭剣をしならせて攻撃する火乃花に対しては横のステップ織り交ぜて斬撃を避けつつ、闇爪で反撃を繰り出す。夢幻の周りに付帯させた魔法陣によって様々な属性の斬撃を繰り出す龍人に対しては、その場その場で最適な回避や迎撃行動でギリギリの対処をしていく。

 3人の魔法使い相手に互角と言って差し支えない攻防を繰り広げるカオスウルフ。魔獣の中位種というランクは伊達ではなかった。

 だが、ここでカオスウルフは1つ…重大な見落としをしていた。


「今よ!」


 火乃花が短く叫ぶ。すると、事前に打ち合わせていたかのように全員が動き出した。

 スイは後方に飛び、着地と同時に周囲に氷の礫を出現させ放つ。龍人は数十の魔法陣を並列展開し、数十本の光ビームを射出。火乃花は真焔【流星】によって拳大の焔を大量に放った。

 氷の嵐、光の柱群、焔の流星群が3方向からカオスウルフに襲い掛かる。通常、人間がこの規模の攻撃に晒されて無傷でいる事は高位な魔法使いでもない限り…不可能に等しい。

 だが、カオスウルフは人間の枠組みを外れた魔獣という存在。しかも下位、中位、上位という3つの区分で真ん中に位置する中位種。そして、その名に相応しい実力を発揮する。


「グルルルゥウゥウウウオオォォォオオン!」


 遠吠えのような鳴き声を上げたカオスウルフから闇属性のエネルギーが発せられた。それはカオスウルフの体を中心に球状に広がり、龍人達の魔法攻撃を防ぎ始める。

 魔法の着弾と相殺によって弾かれた余剰エネルギーが辺りを覆い始め、視界を奪っていく。

 そして…攻撃魔法の嵐が止んだ後、無傷のカオスウルフが口からヨダレを垂らしながら佇んでいた。


「チェックメイトだ。」


 攻撃が中々通じないという絶望的にも似た状況にも関わらず、龍人は指先を拳銃のようにしてカオスウルフに向け、勝利の宣告をする。

 すると、地面から網が出現。カオスウルフを包み込み絡め取っていった。


「ガウッ!?グルゥゥアア!!ギャオウン!」


 突然、身動きを封じられたカオスウルフは自身に絡みついた網…ちなみが操る魔力の網を引き千切ろうとジタバタと動くが、魔力の網はビクともしない。

 属性【闇】の魔法で切断も目論むが…魔力の網はカオスウルフに絡みついた時点で硬質化しており、切断も容易に行えなくなっていた。


「よしっ!ちなみナイス!」

「うん…よかったぁ。」

「私の作戦通りね。」

「うむ。我の力があったからこそだ。」


 完全に体の自由を奪われたカオスウルフは血走った目で龍人達を睨み付ける。龍人達を大きく取り囲むように集まったエレメンタルウルフ達も、自分達のボスを解放しろと言わんばかりの勢いで吠えまくっていた。


「よし。とどめは…俺が貰うぞ?」


 龍人の言葉に火乃花、スイ、ちなみは無言で頷く。小さな笑みを返した龍人はゆっくりカオスウルフの鼻先まで近寄ると足を止めた。


「グルルルゥ…。」

「悪いな。そんなにお前に恨みは無いんだけどよ、これも俺達が生きるためだ。」


 スッと夢幻の切っ先が天を貫くように持ち上げられる。


「俺が目標とする魔法の完成系…その1つで終わりにさせて貰うわ。」


 夢幻の隣に1つの魔法陣が展開され、光り輝く。魔法陣から発せられた光は夢幻を包み込み、龍人化【破龍】した影響で漆黒化した刃をより黒く輝かせていく。

 そして、前踏まれもなく夢幻が振り下ろされ…トンっと軽い音を立ててカオスウルフの首を通り過ぎた。


「ガ…ヴ………グ……。」


 目をひんむいたカオスウルフの頭が首からゆっくりズレていき…地面に転がり落ちた。

 魔獣中位種であるカオスウルフの命を奪い、魔獣討伐試験をクリアした瞬間であった。

 周りにいるエレメンタルウルフ達が狂った様に走り始める。全ては復讐のために…だろうか。

 しかし、カオスウルフが倒れた事で転移魔法阻害の結界が消えており、魔獣討伐試験合格の判定を受けた龍人達4人は転移の光に包まれ、禁区最南端の転送塔に向けて転送されていったのだった。

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