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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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14-3-12.魔獣討伐試験終了



 討伐対象の魔獣を見事討伐し、転送塔に戻ってきているのは…上位クラスの半数以上に上っていた。レイラ、バルク、遼、タム、サーシャ、クラウン、ルーチェ達は全員転送塔前に戻っている。


「あらあら。不思議ですわね。龍人君と火乃花さんのペアがまだ戻って無いなんて…。」


 不思議そうに首をかしげるルーチェに相槌を打つのは遼。


「確かにね。下位魔獣なら大きな群れと遭遇しなければそこまで苦戦はしないと思うんだけどね。」

「ですわよね。命を奪うのが…というのはあの2人に限って無さそうですし…。」

「くくっ。案外大物でも倒そうと張り切って無駄に中位魔獣を狙っているに違いない!俺様の様に小賢しく、だが確実に下位魔獣を仕留めればこんな試験…楽勝だ!はっはっはっ!!」


 普通に真面目に話している2人のところに、普通に真面目に割り込んできたのは…クラウンである。


「この俺様はエレメンタルウルフの群れを尾行し尾行し…奴らが休もうとしたところに爆弾をこれでもかという位に降り注がせてやったわ!戦いとは常に頭を使うものだからな!」


 仁王立ちで胸を張ってバカ笑いするクラウンだが、その隣に立っているレイラはげんなりした顔でため息をついていた。


「クラウンくん。レイラさんが疲れた顔をしてますが…。」


 声を掛けたルーチェにグルンと顔を向けると、クラウンは不敵な笑みを浮かべる。


「くく…俺様が仕留め損なったカオスウルフの残党共が襲いかかってきたから、それら全ての攻撃を防ぐ大役を任せたのだ!疲れて当然!」

「…本当に大変だったんだよ。もう。」


 クラウンには一切の悪気は無さそうだが…レイラは2度とクラウンとペアは組みたくないという顔をしているのだった。


 さて、こうして討伐試験をクリアした生徒同士が情報共有をしていると…1つの事実が浮かび上がってきた。

 それは、全ての試験参加者が下位魔獣の討伐によって試験をクリアしているという事実だった。更に正確に言うのであれば、中位魔獣と遭遇した者が1人もいなかったのだ。


「やっぱりおかしいですの。南側地区に強い魔獣が棲息していないとは言っても、2年生上位クラスのメンバーが散らばったのに中位魔獣と会った人がいないのは…違和感ですの。」


 顎に手を当てて探偵の様に考え込むルーチェ。その横ではレイラが不安そうな顔で転送塔の周りに張られた隔絶結界の先を見つめている。


「龍人君…火乃花さん…大丈夫かな…。」


 第8魔導師団の仲間の安否が気になるのだろう。そわそわと落ち着かない様子である。

 上位クラスの面々が首をひねる中、口をとんがらせたタムが口を開く。


「あのさ…中位魔獣が何かに引き寄せられて一箇所に集まってるとかないっすかね?」

「それは無いと思いますの。中位魔獣は種族が違えば争いますわ。イレギュラーな事態だと前提にした場合に考えられるのは…私達が試験を開始する前に誰かが中位魔獣を討伐したか…他の魔獣が中位魔獣を倒したか…ですわね。」


 ルーチェのこの予想に全員が口を閉じてしまう。それは、ひとつの可能性に思い至ったからこそ。もし事実だとすれば…絶望的な現実が待っている可能性があり、口にするのを躊躇ってしまったのだ。

 だが、何も言わずに状況が変わるわけでも良くなるわけでもない。ここで嫌な役目を負ったのは遼だった。


「それってさ、下手したら上位魔獣が南側地区に侵入してる可能性があるって事だよね?」

「…その通りですわ。上位魔獣は1チームだけで勝つのは難しいと言われてますの。それこそトップチームでない限り、複数チームが合同で戦いますわ。」

「え…じゃあさ、龍人と火乃花のペアが居ても4人だから……本当に上位魔獣が侵入してきてて龍人達と戦ってるってなるとヤバイよね?」

「はい。上位魔獣は相手が逃げられないように転移魔法阻害結界を張れる個体が多いので…龍人くんの転移魔法陣が逃走に使えるかも微妙ですの。」


 嫌な沈黙が場を支配する。考えられる最悪な状況は本当に最悪で、だからこそ助けに行くとも言えないのだ。上位魔獣と遭遇して倒せる…いや、無事に生還できる魔法使いはごく一部に限られているのだから。

 クラスメイトを助けたい。しかし、自分の命を懸けて助けに行く勇気は無い。しかし、見捨てて良いとも言い切る事ができない。

 全員が葛藤を抱え、口を開く事が出来ない中…あっけらかんと口を開いた人物がいた。


「じゃ、助けに行くっすね。上位魔獣に遭遇してなかったとしても、危険な状況に陥ってる可能性はあるっす。それなら人出は1人でも多い方が確実に良いっすから。」


 両手を頭の後ろで組み、口をとんがらせながら事も無げに言ったのは…タム=スロットルだ。

 当たり前の様に言ったタムに驚き、皆が反応出来ないなか、モヒカンの様に頭の中心線部分を立たせた髪の毛を弄りながら、タムは周りを見回す。


「え?誰も助けに行かないっすか?」


 助けに行くのが当たり前。そのスタンスで話すタムの態度は、当たり前だと思っているからこそ嫌味がなく…だからこそ勇気を出せなかった人々の心を強く打った。


「そうだな。」

「…あぁ、俺達…同じクラスで学ぶ仲間だもんな。」

「そうだね。私も前に助けてもらったことあるし。」

「魔導師団だからって万能じゃないんだよね。なんか…無意識に別格視しちゃってたな。」

「よし。皆で助けに行こう!」

「あー…それは無理だわ。」


 全員が盛り上がりをみせ始めた中、水を差したのは…どこからともなく現れたラルフである。

 いきなりの無理発言に全員が眉を顰めるが、ラルフは困った表情で頭をポリポリと掻いていた。


「どーゆー事っすかラルフさん。」

「助けに行きたい気持ちはよぉーく分かる。だがな、お前達は試験をクリアしちまってる。1度クリアしてこの防撃結界内に戻った奴は出れない様に設定しちまってんだ。」

「では、ラルフ先生が助けに行けば良いと思いますの。」

「ルーチェ、そりゃあそうなんだがよ…助けに行くにはまずぶっ倒さなきゃいけない奴が居るんだよ。」


 そう言ってラルフが親指で指し示す先に居たのは、腕を組んで将棋盤を睨み付けるジャバックだった。


「助けに行くのは認めないの一点張りでよ。今はあーして将棋盤を見てっけど、俺達が助けに行こうとしたら本気で止めに来るぞ。」

「そうなったらクラス全員で相手をするだけっす。」

「いや…お前達じゃ相手になんないな。俺でも本気で戦って勝てるかどうかだ。そんな奴と戦った後に上位魔獣との戦闘は流石に無理だ。」

「…つまり、打てる手は無いって事っすか?自分の生徒が危機に瀕しているかも知れないのに、見て見ぬ振りをするのは教師としてどうかと思うっす。」

「下らん。それは甘えだ。」

「……!?」


 つい今まで将棋盤を睨み付けていた筈のジャバックは、気付けばタムの横に佇んでいた。腕を組み王者の風格を漂わせる存在感に、タム含め学院生達は気圧されてしまう。


「この試験が始まる前にも言ったが、我は誰も助けるつもりは無い。これは試験でありながらも試験として行っているつもりは無い。もし上位魔獣に襲われて命を落とすのなら、それまでという事だ。」

「でも…」

「普通の、ごく一般的な状況では普通にしかならん。お主ら魔法学院で学ぶ学院生達は普通ではいかん。いざという時に戦う者は、戦士としての自覚が必要だ。」

「………分かったっす。」


 多少憮然とした表情を残しつつも、タムは口をとんがらせながらその場に座り込むのだった。


「あら。タムくんは助けに行くのを諦めますの?」


 先陣を切って助けに行こうとしていたタムが早々に諦めたのを疑問に思ったルーチェが首をかしげる。


「そりゃあ助けに行きたいっすよ。でも、もし今…この場所が魔法街南区で、いきなり現れた魔獣達に襲撃を受けていて、この防撃結界みたいに安全な場所がなかったら…俺達は目の前の魔獣と戦っている筈っす。多分ジャバックはそれと同じような状況を前提としてこの試験をやってるっすね。…だから、龍人さん、ちなみさん、火乃花さん、スイさんの4人は自分達で今の状況を切り抜けるしか無いっす。ジャバックさんがそれしか許さない以上、俺にできる事は無いっす。」

「…納得いきませんわ。」

「ルーチェ、お主が納得するかどうかは大した問題ではない。理不尽に感じるかも知れぬが、全てはお主達の未来の為。そして、普通では無い試練を乗り越えてこそ、真の異常事態の時に活躍が出来る。お主らはその精鋭部隊となる必要がある。」


 有無を言わさないジャバックの物言いに、隣で話を聞いていたラルフはため息をつく事しか出来ない。


(まぁ…ジャバックのこの指導が上手くいけば、俺が前々から懸念してた事が多少はクリアになるのもまた事実か。とは言え…その事態になる迄に龍人、火乃花が死ぬのは許容できない。…だが、今できる事もないか。どんなに惨めでもいい…生きてくれよ…!)


 空を見上げながら無事を祈るラルフ。自分の顎をタプタプと触る様は物事を真剣に考えているようには見えなかったが…それでも言っておこう。彼は真面目な生徒想いの教師である。セクハラが多いという点を除けば。


 さて、龍人とちなみがカオスウルフと戦い、火乃花とスイがその2人を探して禁区を走っている中…転送塔はこんな状況になっていたわけで。

 過酷で無慈悲とも言えるが、だからこそ龍人は新たなステージに進むきっかけを掴む事になる。

 それ自体がジャバックの狙い通りの展開なのか。それとも偶然の産物なのかは分からないが。

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