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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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14-3-10.魔獣討伐試験終了



 視点は龍人とちなみが転移魔法で姿を消した南側地区の広場へ移る。

 龍人とちなみがクリスタルに記憶されていた転移魔法で姿を消した後、その原因を作ったオークを灼熱の炎で葬った火乃花はスイと共に転送塔に向けて走っていた。

 今の龍人とちなみが魔獣に襲われたとしたら…確実に対処しきれずに殺されてしまう可能性が高い。魔力虚脱状態はそれ程までに危険な状態であり、過去に何度か体験したことのある火乃花は…何としてでも龍人とちなみを助けねば…と焦っていた。

 転送塔に到着した火乃花とスイは、ラルフとジャバックの姿を探すが…見つける事が出来ない。


「どうなってるのかしら?ここに居ないって事は、他のどこかに行ってるのかしらね…。」

「それは無いかと。我の予想では…本気で助けるつもりが無いと見ている。あのジャバックという男…言ったことは必ず実行しそうな雰囲気を持っていた。」


 いつになくスイが話すのは、当然の如く火乃花と一緒にいるからなのだが…本人にその自覚が無いのもまた面白い事実でもある。

 腕を組んで周りを見回す火乃花は、少しの間考え込むと踵を返して歩き出した。


「む…?火乃花、どこへ向かうつもりだ?」

「そんなの簡単よ。龍人君とちなみを探すわ。私達がロックゴーレム相手に苦戦しなければまこんな事にはならなかったんだもの。」


 スイが一緒に行くかどうかの確認もせずにスタスタと歩く火乃花。探しに行く事にスイが賛同しようと反対しようと…考えを曲げるつもりは無いという事なのだろう。

 だが、スイとしても龍人とちなみを探しに行く事に異論はなかった。あのまま火乃花と2人で戦い続け、そこにオークの集団が乱入してきたとしたら…ほぼ確実に火乃花とスイは命を失っていたのだから。

 いくら下位魔獣とはいえ、肉体のスペックなどを考えれば一体が中級の魔法使いレベルの戦闘能力を有している。それが集団で襲い掛かってくるのだ。…街立魔法学院2年生上位クラスの2人で対処するのが至難の技であるのは当たり前である。

 そもそも、魔獣狩りや何かしらの任務に当たる時は4人1組が基本である。それを敢えて2人1組で魔獣討伐試験を行う事自体に問題があるのだ。

 現に、龍人とちなみが加わって4人1組で戦った時は4体のロックゴーレム、オークの集団相手に一歩も引けを取らなかった。いや、むしろ余裕で押していたとも言えるり本来ならばそういった形で試験を行うべき…。


(…ん?待て。今回の試験、協力してはいけないとは言われておらぬ。仲間との連携が必要だから、敢えて連携を取りにくい男女で組むとは言っていたが………そういう事か。)


 この試験に隠された意図に気付いたスイは、先を歩く火乃花の横に並び…その内容を伝える。

 無言で話を聞いていた火乃花は、何故か段々と不機嫌な表情になっていった。


(…む?我は何かマズイ事を言ったか?)


 焦り始めるスイ。


「本当に街立魔法学院の教師陣ってロクな教師がいないわよね。手を取り合う事、生き延びるためなら手段を問わない事の大切さを気付かせたいなら…事前に説明すればいいのに。敢えてそうせざるを得ない状況を作り上げて、実践で気付かせるとか…本当に死者が出たらどうするつもりなのかしら。」


 ブスッとした表情で火乃花が零した愚痴は、スイにも共感できるものだった。ただし、ひとつだけ彼女が勘違いしているであろう部分があった。


「火乃花…これは完全に我の予想だが、今回…恐らくは本当にラルフもジャバックも手助けをしないだろう。そこまで非常になり切る必要性があるのだろう。」

「…どういう事よ?」

「うむ…。南区で起きた魔獣事件、この試験中に火乃花から聞いた機械街での紛争、そして魔法街統一思想。…明らかにこの魔法街を取り囲む環境は悪化していると判断せざるを得ない。だからこそ、魔法学院の生徒一人一人が自身で考え、自身で生き延びる為の思考回路を持てるようにしているのでは…と思うわけだ。」

「…スイって案外色々考えてるのね。」

「なっ…!我はいつでも真面目に考えておる!」

「ふふっ。悪い意味で言ったんじゃ無いわよ。スイの言う通りなら、尚更早く龍人君とちなみを見つけなきゃよね。探知結界を目一杯広げて龍人君の魔力を探すわよ。彼の魔力って特殊だから見つけやすいと思うわ。」

「うむ。承知した。」


 横目で頷き合った火乃花とスイは仲間を救う為に駆け出したのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 さて、救出対象となっている龍人とちなみは、休憩する為に入った小さなビルの中で、窓際に座りながら外を眺めていた。

 優雅というか風情がある様な感じに見えるかも知れないが、決してそんな事は無い。


「なぁ…俺達っていろんな意味でハプニングというか戦闘というか…そんなのに恵まれてるよな。」

「う、うん。…私、この状況どうしたらイイのか分からないな…。」

「んー…一先ずは見つからずにやり過ごせれば…。」


 龍人とちなみが視線を送る先…ビルに囲まれ、中央に噴水が設置された広場には続々とエレメンタルウルフが集まり始めていた。

 風を操るウインドウルフ、火を操るフレアウルフ等々。通常であれば1種類のエレメンタルウルフが群れを作るのだが…なぜか広場には複数種類のウルフが集まっている。

 龍人とちなみを狙って集まってきた…という訳でも無さそうなのがまた…運が良いのか悪いのかという思いを増長させている。


「俺達がここにいるの…気付かれてないよな?」

「うん。多分…だけど。」


 広場に集まってきたエレメンタルウルフ達は、噴水の周りに綺麗な放射状に整列を始めていた。欲求のままに動くはずの魔獣が統制された動きを取るのは、不気味さを感じさせていた。

 白い体毛のエレメンタルウルフは扱う属性の種類によって目の色が違う。ウインドウルフなら緑、フレアウルフなら赤…といった具合だ。その為、遠目から観察する龍人達からは何となくでしかエレメンタルウルフの種類を推察する事しか出来なかった。

 まぁ…推察できたところで、このエレメンタルウルフが放射状に整列する目的が分かるのか…といったらそれはまた別の話なのだが。


「なんか嫌な予感しかしないな…。あの数のエレメンタルウルフに襲われたら結構キツイし…一先ず逃げてみるか?」


 見つからないように観察しているうちに、広場に集まるエレメンタルウルフの数は100体をゆうに超えていた。

 このままビルの中でやり過ごせれば、それが1番だが…これだけの数の魔獣相手に見つからずに潜み続けるのは至難の技である。


「んー…逃げようとして動いて見つかりそうな気も…するな。」


 だが、このちなみの意見で案外窮地に立たされている事に気付く。

 人間よりもはるかに感覚が鋭いウルフ100体相手に、今現状存在を察知されていないだけで御の字なのだ。

 つまり…、動かなくても動いてもいずれは見つかる事間違い無しという現実。ならば…どう動くのか。動かずに待ち構えるか、動いて逃げ切るか、はたまた戦うか。

 難しい選択である。どちらを選んでもリスクは高いが…。


「ちなみ…このままこのビルにいるのが見つかって押し寄せられるよりは一気に動いてた方が逃げ切れる可能性が高くないかな?」

「私もそう思う…けど……例えば転移魔法で逃げちゃうとかは難しいの?」

「それね。今いる位置がよく分からないからあんま使いたくないんだけど…やってみるか。」

「うん、やってみよう。……あ、ちょっと待ってね。螺旋蜘蛛の時みたいに結界が張られてると大変だから調べてみるね。」


 エレメンタルウルフに気付かれないように最小限の魔力探知を上空へ伸ばして結界の有無を調べるちなみ。真剣な表情のちなみはアヒル口をチュンと尖らせて集中していて、何故か無性に笑いがこみ上げてきたのは…秘密である。


「………龍人君、多分だけど結界はないと思うよ。」

「よし。そしたら一気に長距離の上空目掛けて転移するか。」

「うん!」


 転移先が不明という状態なので、多少なりとも不安は残るが…それでも今よりはマシな状況になると信じ、龍人は転移魔法陣を展開しようとする。

 …その時だった。放射状に整列していたエレメンタルウルフの群れが一斉に遠吠えを始めたのは。


「「「アォウアォウオンオンアォゥゥゥン!」」」


 いきなり始まった遠吠えの大合唱に驚いた龍人は転移魔法陣の展開を止めてしまう。これが失敗だったと気付くのはこのすぐ後。

 エレメンタルウルフの遠吠えと共に、噴水の向こう側から強力な魔力を持った何かが現れる。エレメンタルウルフの列が割れ、その中心を悠々と噴水に向かって歩み寄るのは…漆黒の狼。赤い眼が爛々と光り、額に円錐状の黒角を生やした狼は噴水の上に飛び乗ると、大声量で遠吠えをする。


「アォォォォォオオオオン!」


 その遠吠え自体に魔力が含まれているのか、ビリビリと龍人とちなみを刺激する。


「おい…これマズイぞ。」

「ど、どうしよう…。」


 いきなりの大物魔獣の登場に龍人とちなみは慌ててしまう。

 漆黒の狼の体長はエレメンタルウルフの倍程度…2Mの巨躯を誇っていた。その体から発せられる威圧感は下位魔獣の域を遥かに超えている。


「り、龍人君…多分なんだけど、あの魔獣…試験の討伐対象の…カオスウルフだと思う。」

「…まじか。だけどさ、この状況で勝てるかな?」

「う…んと、無理じゃないかなぁ。」

「だよな。一刻も早く逃げよう。」


 逃亡に移ろうとした龍人とちなみがいるビルに向けて、カオスウルフがキッと視線を向ける。


「やべ。ここにいるのがバレてる!…さっきの遠吠えが探知魔法の役割をしてたんだ!」

「に、逃げなきゃ!」

「分かってる!」


 すぐさま転移魔法陣を展開した龍人は、可能な限り遠くを指定して発動させる。


「「「オォォォォオン!」」」


 転移魔法陣の発動とほぼ同時か、コンマ数秒早いタイミングでカオスウルフとエレメンタルウルフが遠吠えを行う。だが、転移魔法はすでに発動しており、ほんの少しだけ安心しながらも龍人とちなみは転移の光に包まれたのだった。

 転移が終わり、2人の視界に飛び込んできたのは…同じ景色だった。


「…マジかよ。」

「ど、どうしよう…。」


 転移魔法が発動したのに同じ場所にいる。…つまり、今の遠吠えに転移阻害効果があったという事。…つまり、ウルフの大群を倒さなければ、もしくは転移なしに大群から逃げ切らなければ命の保証はないという事。

 窮地だが、龍人が覚悟を決めるのは早かった。


「やるしかないな。この数相手に俺だけ戦うのは無理だ。2人で建物を背にして防戦主体で戦うか、囲まれないように攻めるか…どっちかだ。」

「龍人君…分かった。もともと魔獣討伐試験に参加した時点でこういう事態になる可能性はあったもんね。私…防戦よりも攻めた方が良いと思うよ。」

「だよな。守ってたら捌ききれないもんな。…狙うのは奴らのリーダーのカオスウルフだ。先ずはあいつらの能力が分からないから、周りを迂回する形で攻撃しつつ様子を見るぞ。」

「…うん!」


 こうして、避けるべくもなく魔獣との戦いに巻き込まれた龍人とちなみ。

 生きるべく…生き残るために死力を尽くす事となる。

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